「デジタル社会ゆえに、関わる人も減っていくからね。貴重な知人の行方を、私も気になっていたんだ」
そう言いながら、ギルドマスターは端末を操作する。
カウンター横の機械が静かに起動音を立て、内部でローラーが回転する。光が一瞬走り、やがて白い紙が吐き出された。
プリンターから引き抜いた1枚を、彼女は2人の前に差し出す。
そこには大きく、アカラヘア捜索記録と記されていた。
「これは……この国の施設名でしょうか?」
ララクは目を走らせる。
整然と並ぶ文字列。すべて、この国ヌーツに存在する施設の名称らしい。
【最終確認地点】
・トレンドタワー研究施設
【関連施設・出入り履歴】
・トレンドビル地下開発区
・トレンドタワー中層データ管理室
・イーストエネルギープラント
・中央魔力変換ステーション
・レアレアメタル精製工場
・ヌーツ技術博覧会場跡地
・サイジョウランド
・ライフミュージアム
・北部実験特区Bブロック
・第7輸送ハブポート
・都市監視管制センター
・旧研究員居住区跡
紙は、冷たい報告書のようだった。
感情の欠片もなく、ただ場所の名前だけが並ぶ。
「サイジョウランド……遊園地……」 ララクが小さくつぶやく。
「ライフミュージアムは、生体研究と歴史展示の複合施設だ」 ギルドマスターが補足する。
トレンドタワーを中心に、技術施設、エネルギー施設、研究区画、娯楽施設まで。
アカラヘアの足取りは、ヌーツの最先端と呼ばれる場所を横断していた。
ララクは紙を静かに握る。
この国のど真ん中を、歩いていた。
そして、どこかで途切れた。
それが、2年前の出来事。
「どうする? ぜーんぶ調べんのきつないか。あ~でも、これ調査済みのところか」
ゼマは紙の一覧を指でなぞる。
羅列された施設名の多さに、思わず肩を落とす。ヌーツの中枢をなぞるような範囲だ。
「……まだ調査していないところを調べるにしても情報がないですからね。やはりまずは、事件現場であるトレンドタワーに訪れるしかないですね」
ララクは冷静に整理する。
足取りが途切れた場所。爆発が起きた場所。記録と現実を照合するなら、そこから始めるのが筋だ。
「だったら、その研究施設からクエストが来てるんだけど、受けてみる? だけど……相当な実力者をご所望だから、追い返されるかも」
ギルドマスターは椅子をくるりと回転させ、再びプリンターを起動させる。
吐き出された紙をララクへ差し出す。
【研究・最新型戦闘ユニットの協力者を要請】
トレンドタワーで完全自立型人型戦闘機を開発しているモドムだ。人型ゆえに人のデータが必要不可欠。それも強者の。できれば多彩な冒険を経験済みの人物が好ましい。みつくろって、くれるかな?
依頼主・プロフェッサー モドム
紙面から漂うのは、どこか自信に満ちた調子。
選ぶ側の立場で語っている文面だ。
「ぴったしだね。ララクの事を言っているようなもんじゃん」
ゼマはにやりと笑う。
「強さも、冒険の記録も、必要十分満たしているとは思います」
ララクは事実を淡々と述べる。
ハンドレッドとしての実績。多国での戦闘経験。地上戦、水中戦、特殊環境戦闘。記録だけなら申し分ない。
「そうか……勘だけど君たちなら、あの研究モンスター・人づかい荒らし男も納得するかもね」
「な、なんですかその仰々しい名前だ」
ララクがわずかに眉を寄せる。
「あ~、ギルドに結構無茶苦茶言うタイプだ」
ゼマが肩をすくめる。
「詳細は、会ってから理解するといいよ」
ギルドマスターは意味ありげに笑う。
トレンドタワーの研究責任者、モドム。人型戦闘ユニットを開発する男。強者を欲し、条件を突きつける側。
流れは自然だった。
事件現場へ向かう理由が、ひとつ増えた。
「受注、でいいね?」
ララクは迷わず頷く。
こうしてハンドレッドは、新たなクエストを受理した。
事件現場でもあるトレンドタワー研究施設。
ララクたちの調査が、確実に一歩、動き出した。