名探偵プリキュア!vs 大怪盗プリキュア!   作:MOZO

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花嫁のティアラ盗難事件

 

 事件の概要は、本日結婚式を挙げる花嫁・想田まりが式で着ける予定のティアラが紛失したとのこと。

 1時の式に間に合うよう、式場から形も大きさもほぼ同じ代用品を借りられたものの、消えたティアラはまりの母親も結婚式で着用した思い入れのある品であったのだという。

 

「まさか、これが本当の探偵テスト・・・?」

 

 あんなの傍らでディアストーカーとインバネスコートを身に付け、典型的な探偵に扮する小豆色のツーサイドアップの少女・小林みくるがメモを取りながらボソボソと呟いた後、まりに真剣な眼差しを向ける。

 

「絶対に、わたしが見つけてみせます!」

 

 みくるは力強い言葉で早期解決の誓いを結んだ。

 まずは聞き込み調査をするべく、あんなたちは事件発生前後に控え室を出入りした人物を集めるよう、さちよに要請した。

 ふと、とばりが徐にみくるへ近寄っていく。

 

「もしかして、小林みくるさんですわよね?」

 

「えっ、わたしのこと知ってるんですか !?」

 

「もちろん。同級生で名探偵を志している方がいらっしゃるという噂を耳にしたことがありましたので」

 

「えへへ~。とばりさんに知っててもらえてたなんて、なんだか照れちゃうなぁ」

 

 みくるは面映ゆい気持ちになり、表情が緩みきってしまう。

 

「あの、とばりさんのこと知ってるんですか?」

 

「知ってるも何も、とばりさんはわたしの通う学校ですっごく有名な人なんです!」

 

 (たず)ねたゆめに、みくるは食い気味でとばりについて語りだす。

 

「あの大企業『霧生財閥』のお嬢様で、成績は常に学年トップ、運動神経抜群でスポーツ万能、しかも誰にでも分け隔て無く接してくれてみんなが憧れる学校一のマドンナ。とばりさんのことを知らない生徒なんて誰一人いませんよ!」

 

「はなまるすごいね・・・」

 

「びっくらーイズ・・・」

 

 才色兼備にして文武両道。改めてとばりの高スペックに驚かせされるゆめと、ついでにあんなであった。

 

 

 

 その後、控え室を入退室した人物が召集される。

 カメラマンの宇津見将太。

 まりの友人の藤井ともか。

 ウェディングプランナーの幸野さちよ。

 この三人に加え、あんな、みくる、ゆめ、とばり、まり、烏丸の一同が介した。

 

「まりさんが最後にティアラを見てからこの部屋に出入りしたのはあなた方三人。この中に、ティアラを()った犯人がいます!」

 

 名探偵が如く、みくるからの唐突なカミングアウトに全員が呆然する。

 

「まさか、あり得ないですよ!」

 

「えっ・・・。で、ですよねぇ。ちょっと話を聞こうかなぁなんて・・・」

 

 推理小説でもあるまいし、根拠も無くいきなり犯人の有無を示唆するのはあまりに軽率過ぎる。名探偵であるなら、まず容疑者の証言を元に推理し、アリバイを崩していくのが鉄則だ。

 

「これが本物の聞き取り調査ですのね。わたくし、初めてお目にかかりますわ!」

 

「そんなにしょっちゅう聞き取りされる人なんて見ませんよ・・・」

 

 妙なテンションで目を輝かせるとばりに対し、ゆめは冷静なツッコミをした。

 

「僕は、花嫁さんを撮りに来たんだ」

 

 カメラマンの将太は、依頼により結婚式の記念写真を撮るために訪れたと証言。

 

「私はまりに、お願いがあって来たの」

 

 友人のともかは、まりにブーケトスでブーケを自分の方へ投げてほしいと懇願するために早く会場入りしたのだと言う。遅刻癖のある彼女が珍しく遅れずに来てくれたので、まりも快く承諾したらしい。

 

「私は、式の準備で部屋に出入りしていました」

 

 さちよは式場のスタッフ故、頻繁に控え室を行き来するのはごくごく自然。もし彼女が犯人だとするなら、ティアラを盗める瞬間はいくらでもあったはず。

 

「わたくしたちが到着した時には、既にティアラは盗まれた後でしたわ」

 

「受け付けの人にも顔を合わせてますしね」

 

「私は、お嬢様たちを会場に送った後、車を駐車場に停めに行っておりました」

 

 一応、ゆめ、とばり、烏丸のアリバイも伝え置くことに。

 

「みんな、ここに来た時も今と同じ服装でしたか?」

 

「えぇ。ティアラを隠せるようなものは何も」

 

 ティアラのような目立つ装飾品を手元に所持していれば即座に見破れるが、一見して彼らはそれらしいものを身に付けていない。

 と、みくるは将太の被るハッチング帽に目が留まる。

 

「・・・帽子。帽子の中に入れたとか?」

 

 確かに、ティアラを帽子の中に隠したまま被ってしまえば、目立つことなく部屋から持ち出すことは可能だ。

 あんなが代用品のティアラと将太のハッチング帽を重ねてみるが、大きさが異なり中に入れて持ち出すのは難しい。

 ともかととばりのポーチも確認するが、ティアラを仕舞うにはサイズが足りず、さちよが腰に下げているタイプは二人のものよりも更に小さい。ゆめと烏丸に至ってはそもそも手荷物を持っていないため除外。

 事件は早くも暗礁に乗り上げてしまった。

 

「ありがとう。もう本当に良いんです」

 

 ティアラは見つからないまま、まりは尽力してくれたあんなとみくるに感謝の言葉を述べる。

 

「やっぱり、ティアラは諦めます・・・」

 

 まりは微笑んではいるが、まったく晴れやかな面持ちではなかった。

 式までもう時間が無く、事件を解決すると息巻いておきながら期待に添えることができず、二人は無力さを痛感する。

 

「・・・本当に、諦めちゃうんですか?」

 

 刹那、ゆめの声が(よど)んだ空気を振り払った。

 

「だって、そのティアラはまりさんにとってお母さんからの想いが詰まった宝物なんでしょ?」

 

「それは・・・」

 

「大切な宝物なら、簡単に諦めるなんて言っちゃダメです!」

 

 部外者である自分が口出しするなんて、差し出がましいのは重々承知だ。そうだとしても、今日というハレの日にまりが笑顔になれないなんて見過ごすことはできなかった。

 

「わたし、他の場所に隠されてないか探してきます!」

 

 ゆめはなりふり構わずに控え室を飛び出して行ってしまった。

 

 * * *

 

 会場内の目ぼしいところを探し回るゆめだが、ティアラはどこにも無い。

 当てずっぽうにも限界があり、刻々と時間だけが過ぎていく。けれど、ゆめは式が始まるギリギリまで粘るつもりだった。例え、どんな手段を講じようとも──。その一心に彼女は突き動かされていた。

 まさかとは思いつつ、ゆめは近くに置いてあった花瓶の口を覗き込んだ瞬間、突然何者かが顔を出した。

 

「ポシェット! やっと見つけたポシェ」

 

「うわっ、どこから出てきてるの !?」

 

 ゆめを巻き込んだ元凶たるポシェタンが花瓶から頭だけを露にさせる。

 

「まったく、ポシェタンがここまで来るまでどれだけ大変な目に遭ったか分かるポシェ?」

 

 再会も早々にポシェタンはこれまでの苦労をゆめにぶつけた。

 一般人に妖精の存在を知られてしまったらそれこそ大事。姿を見られないようこっそり移動するのは相当神経を磨り減らしたことだろう。道中、ぬいぐるみの振りをしてやり過ごすこともあったが、小さい児童に拾われそうになったり、野良犬に追いかけ回されたりと散々な体験をしたのだとか。

 しかし、文句を言いたいのはゆめも同様である。

 

「それはそうと、1999年にタイムスリップしてるなんて聞いてないんだけど !?」

 

「ポシェタンは悪くないポシェ。聞かなかったそっちが悪いポシェ」

 

 説明も無しに過去に飛ばしておいて、相変わらずの上から目線な物言いにゆめの憤りは蓄積されていく。

 

「どうでも良いけど、ちゃんと2027年に帰してよね!」

 

「ポシェタンもそうしたいのは山々ポシェ。だけど・・・」

 

「だけど、何?」

 

 途端にポシェタンは歯切れが悪くなり、視線を明後日の方へ逸らした。不自然な態度にゆめは訝しむ。

 

「その・・・、帰せなくなっちゃったポシェ・・・」

 

「・・・はああああああああぁ!?」

 

 聞き捨てならないポシェタンの自白にゆめの絶叫が場内に響き渡った。

 

「時空を越えるための力が、もうスッカラカンなんだポシェ・・・」

 

「そんなの無責任じゃない! 元の時代に戻して、家に帰して!」

 

「わがままを言わないでほしいポシェ。それに、最初から人に頼っていたらいけないポシェ。自分の運命は自分の手で掴み取るものポシェ」

 

「元はと言えば誰のせいで・・・!」

 

 ゆめの堪忍袋は限界寸前。今にもポシェタンの顔面に怒りの鉄拳をお見舞いし──そうになったところをどうにか思い(とど)め、冷静を取り戻す。

 

「こんなことをしてる場合じゃないんだった。急がなくっちゃ!」

 

 ポシェタンとの無益な口喧嘩を止め、ゆめはティアラ探しを再開する。

 

「さっきから何をしてるポシェ?」

 

「まりさんのティアラを探してるの。早くしないともうすぐ結婚式が始まっちゃう」

 

「自分も余裕じゃないくせに、とんだお人好しポシェ」

 

「偉そうなこと言ってる暇があるなら、あなたも探すの手伝ってよ!」

 

「できたらそうしたいけど・・・、ここからハマっちゃって動けなくなったポシェ。助けてほしいポシェ」

 

「あぁ、もうッ!」

 

 ただでさえ時間が差し迫っているというのに、このダメ妖精は人を苛立たせてばかりだ。

 ゆめは花瓶から身動きが取れなくなったポシェタンの両耳を掴むと、根菜を抜く要領で思い切り引っ張った。

 

「人にあれこれ言っておいて、世話が焼けるんだからッ!」

 

「イタタタタッ! もうちょっと優しく引っ張ってほしいポシェ!」

 

 ポシェタンの体が括れ部分につっかえてなかなか出すことができず、今度は渾身の力で引っ張り抜こうとした矢先。

 

「ゆめさん、何をしていらっしゃるの?」

 

 いつからいたのか、とばりが背後から話し掛けてきた。

 

「──ポシェブ !?」

 

 ゆめは咄嗟にポシェタンを花瓶の奥へと押し込んだ。

 

「ななな、何でもないです!」

 

 ゆめは慌てつつその場を取り繕う。幸い、とばりにポシェタンの姿は見られていなかったようだ。

 

「ティアラは見つかりましたの?」

 

 とばりの問いにゆめは首を横に振るも、探す手を止めるつもりは微塵も無い。

 

「ゆめさんは、優しいですのね」

 

「ふぇ?」

 

 思いがけないとばりからの褒め言葉に意表を突かれ、ゆめは素っ頓狂な声を出す。

 

「まだ会って間もないまりさんのために一生懸命にティアラを探してくださるなんて、感服しますわ」

 

「それを言うなら、見ず知らずのわたしを助けてくれたとばりさんだってすごく優しいですよ」

 

 会った時間は関係無い。想いやりというバトンは、巡り巡ってまた他の誰かへと繋がっていく。ゆめととばりもそうして巡り逢えたのだから。

 

「わたくしもお手伝いしますわ。まりさんの笑顔のために」

 

「ありがとうございます、とばりさん!」

 

 一人で解決できないことも、二人の知恵を合わせれば突破口を見つけられるかもしれない。とばりの協力にゆめは心底感謝した。

 

「にしても、本当に犯人がいるんだとしたらティアラをどこに隠したんだろう?」

 

 思い当たる場所は片っ端から探したが、ティアラどころか手掛かりすら見つからない。このトリックを解かない限り、事件は迷宮入りになってしまう。

 

「でしたら、犯人と同じ立場になってみればよろしいのでは?」

 

「犯人と・・・同じ立場?」

 

「もし自分が犯人だったとしたら、ティアラをどうやって盗んで、どこに隠したかをイメージするんですわ」

 

「なるほど。それグッドアイデアです!」

 

 とばりの名案に事件解決の明光が見えた気がした。

 もし自分が犯人なら──、帽子の中やポーチに仕舞えないほどの大きさがあるティアラを肌身離さず持っていたら見つかるリスクが高い。安全、且つ確実にティアラを回収できるところに隠したとなれば場所は自ずと限られてくるはず。

 

「回収、手に入れる、掴む・・・!」

 

 脳のシナプスが弾け、閃いた。

 

『自分の運命は自分の手で掴み取るもの(・・・・・・)ポシェ』

 

 先ほどのポシェタンが口にした言葉がフラッシュバックし、すべての線が繋がった。

 

「とばりさん、わたし分かっちゃったかも。ティアラを盗んだトリックと、それを使った犯人が!」

 

 とばりからの助言と図らずもポシェタンが残したキーワードによって事件の真相を掴んだ。

 

 

 

 ゆめととばりは駆け足で控え室へ向かうと、反対の廊下からあんなとみくるも走って来た。

 

「ゆめちゃん、とばりさん。ティアラを盗んだ犯人が分かったよ!」

 

「わたしたちも、ティアラを隠したトリックが解けたんだ!」

 

 真実へと辿り着いた少女たちは、互いに答えを照らし合わせ、推理ショーの幕を上げるのである。

 

 * * *

 

 再び控え室に集められた一同。そこで、みくるが宣言した。

 

「犯人が分かりました!」

 

 彼女たちの推理から紐解き、ティアラを盗んだ犯人を白日の下に晒す。

 

「「「犯人は──あなたです!」」」

 

 ゆめ、あんな、みくるが指し示した人物は──藤井ともか。

 

「やだなぁ、ティアラはポーチに入らなかったでしょ? 外に持ち出せるはずがないよ」

 

 ともかは自身に犯行は不可能であると否定する。しかし、

 

「そう、ティアラは始めから外に持ち出されてなんていなかった。わたしたちは、『ティアラはもう部屋の中には無いんだ』と犯人に錯覚させられていたんです」

 

 驚愕の事実をゆめが言及し、続いてあんなとみくるが導き出した真相を語り始める。

 

「あなたは、自分にブーケを投げてほしいとまりさんに頼んで、ティアラをブーケの中に入れた」

 

「そして、まりさんからブーケを受け取った後にティアラを抜き取るつもりだったんだ」

 

 あんながブーケの中を探ると、推理通り盗まれたティアラが出てきた。

 

「このトリックを使えるのは、犯人であるともかさん以外にいないんです」

 

 揺るがぬ証拠を突き付けられて沈黙するともかであったが、突然拍手をしながら立ち上がった。

 

「ふふふ・・・。やるじゃない」

 

 不敵に笑みを浮かべ本性を現すともか。その瞳には悪意が宿り、まるで別人のようであった。

 

「でも、一つだけ大きな間違いをしているよ。僕は、ともかではないんだ!」

 

 ともかがドレスを引っ()がすと、淡緑色の長髪に黒いシルクハットを被り、左目に仮面を付け、マントを羽織った男の姿へと変貌した。

 

「僕はニジー。怪盗団ファントムの怪盗さ」

 

 ニジーと名乗る怪盗の登場により、事態は急展開を迎える。

 

「怪盗ですって! ご覧になってゆめさん、本物の怪盗ですわ!」

 

「分かってますから、落ち着いて!」

 

 小説の中だけの存在だと思っていた怪盗を目の当たりにし、幼子のようにはしゃぐとばりをゆめが諌める。

 

「惚れ惚れする変装だったろ!」

 

 飛躍したニジーがあんなとみくるの間を素早くすり抜ける。

 

「いただくよ」

 

 ニジーは二人の耳元で囁くと、瞬く間に姿を眩ませた。と、あんなが違和感に気づく。

 

「ティアラが !?」

 

「しまった!」

 

 今まで持っていたはずのティアラがまたもや消え失せており、彼女たちの背後の窓が開いていた。ニジーが去り際にティアラを掠め取り、窓から逃走したのは明らかだ。

 

「まだそんなに遠くへは行ってないはずです!」

 

「追いかけよう!」

 

 ニジーからティアラを取り返すべく、あんなとみくるは部屋の外へ駆け出していった。

 

「ゆめさん、わたくしたちも行きますわよ!」

 

「えぇ!? 絶対に危ないですって!」

 

「こんな大事件を見逃す訳にはいきませんわ!」

 

 完全に暴走状態のとばりがあんなたちの後を追おうとした。

 が、ドアが勝手に開くと、煌びやかな黄金に身を包んだ肥満体の男が我が物顔で部屋に侵入してきた。

 

「おんや? 随分と騒がしいナリなぁ」

 

「また出た! もしかして、あなたも怪盗 !?」

 

「怪盗だと? 失敬な、我輩はナリキンド・ゼニゲバーグ。世界一の大金持ちナリ!」

 

 ゆめの問い掛けにナリキンドは否定を投げ返す。その口振りからして、ニジーとかいう怪盗とこの男は無関係のようだ。

 

「お前たち、ティアラをどこへやったナリ?」

 

「ティアラでしたら、先ほど怪盗さんが持ち去って行きましたわ」

 

「何だと? うーむ、どうやら我輩の他にもアレを狙っていた者がいたナリか・・・」

 

 状況を把握して目当てのティアラが既に無いことを悟ったナリキンド。だというのに、引き返す素振りを見せない。

 

「まぁ良い。もう一つは後でゆっくり横取りしてやるナリ。まずは・・・」

 

 何を思ってか、ナリキンドは化粧台に置いてあったリングケースを取り上げ蓋を開けると、ぶっくりと太い指で白銀に輝く指輪を摘み出した。

 

「おぉ、遂に手に入れたナリ!」

 

「返して! それは彼からのプロポーズに貰った大事な指輪なの!」

 

「ええい、やかましい!」

 

 婚約指輪を取り戻そうと腕にすがり付くまりをナリキンドは乱暴に振り払い、転倒させた。

 

「この指輪には、『マコトジュエル』が宿っているナリ。貴様のような庶民風情が気安く触れて良い代物ではないナリ!」

 

 ナリキンドは訳の分からない言葉を喚きながら、さちよに介抱されるまりに威圧感を放った。

 

(もっと)も、高々数十万円ぽっちの指輪なんぞに無価値な想いを籠めるなど下らないナリ。ぬははははは!」

 

 ティアラを盗まれ心が折れかかっていたところに、今度は指輪も奪われた挙げ句嘲笑されたことで、まりの瞳から涙が零れてしまう。

 

 ──ゲシッ!

 

 瞬間、ナリキンドの臀部(でんぶ)をゆめが思い切り蹴飛ばした。

 

「・・・貴様。今、何をしたナリ?」

 

「どいつもこいつも、いい加減にしてよ!」

 

 怒りに血走る眼孔を向けるナリキンドに対し、ゆめも怒髪天に達していた。

 

「今日はまりさんにとって特別な一日になるはずだったのに、それを台無しにするなんて絶対に許さないんだから!」

 

「庶民の小娘の分際で。この身の程知らずが!」

 

 握り潰して来そうなナリキンドの掌をゆめは掻い潜ると、一目散に部屋の外へ脱出。頭に血が上ったナリキンドも体を揺らしてドタドタと追撃する。

 皆が動揺する中、とばりの胸の奥に熱い感情が灯り、衝動に従うがままゆめを追って部屋を出た。

 

「お嬢様、どちらへ !?」

 

 とばりは烏丸の声を気にも留めず、走り難いパンプスで懸命に駆けていった。

 

 * * *

 

 ゆめは自身を囮にひた走り、純白のクロスが敷かれたテーブルや石膏の柱が並べられた野外挙式用の庭園へ飛び出した。

 ナリキンドといかほど距離を稼いだであろうかと、ゆめが後方を振り返る。

 

「ヒィ・・・、ホォ・・・、ヘェ・・・、ホォ・・・」

 

「おっそ!」

 

 ナリキンドは死に物狂いで走っているのだろうが、丸々とした体型が祟ってか極めて鈍足。

 この速度を維持したまま逃げていれば、自ずと彼は体力を消耗し、へばった隙に指輪を奪い返す。という目論みである。

 だがしかし、ゆめはナリキンドの恐ろしさを軽んじていた。

 

「ちょこまかと逃げおって・・・。こうなれば、奥の手を使うナリ!」

 

 何故か立ち止まったナリキンドは、持っていた指輪を徐に上空へと放り投げる。

 

「欲にまみれよ! 現れろ、ゴーマンダー!」

 

 ナリキンドがコインを一枚投げ、指輪へ当てる。すると、輝かしくも邪悪な金色のエネルギーが指輪に宿る『マコトジュエル』に注入された。

 金色に染まった『マコトジュエル』が眩く光放つと、巨大な怪物が誕生した。

 

「ゴーマンダー!」

 

 怪物はまりの婚約指輪を象った姿で、金色の王冠を被り、威厳あるカイゼル髭を生やし、マントと一体化した腕と足を持ち、赤く光る鋭い目をした西洋の王を彷彿させる出で立ちとなる。

 

「ウソ・・・、冗談でしょ!?」

 

 非現実的な事象を前に、ゆめは狼狽えることしかできなかった。

 

「我輩を足蹴にした報いを、その身で味わうナリ。やれ、ゴーマンダー!」

 

 ナリキンドの命令に従い、ゴーマンダーは大きな歩幅でゆめ目掛けて突進。瞬く間に距離が縮まってしまう。

 

「ゴーマン──」

 

 右腕を振り上げるゴーマンダーに、ゆめは危機感を感じ取りすぐさま逃走を図る。

 

「ダァー!」

 

 直後、ゴーマンダーの右拳が振り下ろされ、衝撃と共に地面が陥没した。

 あれをまともに食らってしまったら命の保証は皆無。ゆめは息の続く限り走った。その間に、ゴーマンダーは容赦せず攻撃を繰り出してくる。テーブルを蹴散らし、石膏の柱を破壊し、庭園を滅茶苦茶に荒し回りながらゆめを追い詰めていく。

 ゆめも必死で逃げ惑うが、遂に足を(もつ)れさせて転んでしまい、横たわるゆめにゴーマンダーの影が覆い被さる。

 

「さーて、そろそろ年貢の納め時ナリ!」

 

 もはや窮地のゆめを見て、ナリキンドは勝ち誇った気分に浸る。

 

「しかし、我輩も鬼ではないナリ。慰謝料を三億払うなら五体満足にお仕置きする程度で勘弁してやるナリ」

 

 宝くじで当たるかどうかという大金が払える訳もないし、どちらにせよ痛めつけるつもりなら慈悲ですらないだろう。

 

「あなたなんかに払うお金なんて、一円だって無いわよ!」

 

「・・・ほう。であるなら、苦しみを味わわせながらあの世に送ってやるナリ! ゴーマンダー、その小娘を踏み潰せ!」

 

 ゴーマンダーがゆめを潰すべく右足を持ち上げた。万事休すに思われた時、ゴーマンダーの顔面を白煙が遮った。

 

「ゴーマ !?」

 

 不意の視界を奪われ、混乱するゴーマンダー。

 何事かとゆめが目をやると、とばりが消火器を抱え、ゴーマンダー目掛けて消火剤を噴射しているではないか。

 

「ゆめさん、今のうちに!」

 

 我に返ったゆめは、ゴーマンダーが怯んでいる内に起き上がり植え込みの影へと隠れた。

 とばりも応戦するが、消火剤が切れてしまい、破れかぶれに空の消火器をゴーマンダーへ投げつけた後、彼女も植え込みに逃げ込んだ。

 

「何をぼやぼやしている。早く奴らを探すナリ!」

 

 ナリキンドの檄が飛ぶも、ゴーマンダーは顔面に吹き掛けられた消火剤を拭っている最中で、直ちに行動を起こすことは不可能だった。

 一方、植え込みに隠れたゆめととばりは乱れた息を整えていた。

 

「もう、あんな無茶なことして!」

 

「無茶なのはゆめさんも同じでしょうに!」

 

 誰かの危機を見過ごすことはできない二人は、どんな状況においても気が合うのだろう。

 ゆめととばりはしばらく睨めっこし合うと、絶体絶命の場面だというのにクスクスと笑いが込み上げてきた。

 

「それで、これからどうするおつもりですの?」

 

「もちろん、まりさんの笑顔を取り戻すに決まってます!」

 

 隠れていても事態は解決しない。決意を胸に二人は植え込みから出てくると、勇敢にもゴーマンダーの前へ踊り出た。

 

「自分たちの方から姿を現すとは、やっと諦めたナリか?」

 

「わたしたちは、諦めたりなんかしない!」

 

「誰かの大切な想いを守るためなら、どんなことだってしますわ!」

 

 人の想いを嘲笑い踏みにじる悪党は、決して許してはおけぬ。正義の乙女心が熱く高鳴る。

 

「「まりさんの笑顔は、絶対に奪い返す!」」

 

 そして、二人の勇気が奇跡を呼び起こした。

 彼女たちの想いに呼応するかのように、ゆめのスカートのポケットから、とばりのポーチの中から、輝きを帯びたペンダントが飛び出し、二人の目の前を浮遊する。

 

「そのペンダントは・・・」

 

「わたくしのと同じ・・・」

 

 まったく同型のペンダントが二つ。二人は不思議そうに顔を見合わせる。そこへ──。

 

「コラー! ポシェタンを置いていくなんて酷いポシェ!」

 

 いつの間にやら、花瓶から脱出に成功したポシェタンが怒鳴りながら飛来する。

 

「何なんですの。この可愛らしい生き物は?」

 

「これは、その・・・。話すと色々長くなるというか・・・」

 

 とばりにどう釈明すればいいのやら悩むゆめを他所にポシェタンは二つのペンダントに気付き、驚き凝視する。

 

「まさか、この二人が・・・」

 

 ゆめととばりがペンダントを所有している意味に確信を抱いたポシェタンが二人へ叫んだ。

 

「二人共、早くプリキュアに変身するポシェ!」

 

「だから、ちゃんと説明してってば! プリキュアって何ィ!?」

 

 ゆめが戸惑っていると、ペンダントの輝きが更に強くなり二人を光の中へ誘った。





登場キャラクター➂

ナリキンド・ゼニゲバーグ
イメージCV:楠見尚己
ブルジョワルズのメンバー。肥満体型の中年男性。一人称は「我輩」。金髪のオールバックにちょび髭を生やし、金歯の総入れ歯、純金の指輪、金色の衣服など全身を金で着飾っている。語尾に「~ナリ」と付ける。
金銭欲が強く、財力を笠に着て強引な手段を取る。また、貧しいものや無価値なものを極端に嫌う。『マコトジュエル』の力で全世界の富を独占しようとする。攻撃する際は大型のガトリングガンで硬貨を撃ち出す。

ゴーマンダー
ブルジョワルズが『マコトジュエル』に黄金に輝く悪のエネルギーを注入することによって召還する怪物。『マコトジュエル』が宿っていた物品の形を取っており、王冠、カイゼル髭、マントと同化した手足を持った西洋の王に似た容姿となり、赤くつり上がった目をしている。常時「ゴーマンダー!」と発声する。
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