ワイ卿、Fate世界の円卓の騎士になる。 作:サーッ・タドコロ
がっつりケイ義兄ちゃん回です。オッスお願いします。
ケイ義兄ちゃんも、あんまり表に出さないだけで、ずっともやもやしていたみたいです。
※注意
・すみません、本日3回目の投稿でした。話数確認について、念の為ご注意。
ようお前ら!元気にしとるか?
ワイは(メガッサにょろりん!)元気やで!
遅めの朝食も終え、各々に朝の仕事が終わったワイら子ども3人組は、騎士としての訓練…を、始める前に。3人揃って、ちょっと散歩に出ることになった。
ここで衝撃の事実…でも無いんやけど、実はワイは今まで、村の中を歩き回ることが許されとらんかった。
出歩いて良いのは、エクトル卿の屋敷の近辺。あとは、許可をもらった場合に限りやけど、村とは反対側の森の中やな。
ぶっちゃけ、わざとワイの姿を見せないようにされていたって扱いやね。
でも、そのことに正直不満はない。っちゅうか、ワイの見た目のことを思えばむしろ妥当や。
ただ、その禁止令について、エクトル卿…お義父ちゃんたちが出立する前に解除された。
ワイとお義父ちゃんが領地に帰り着いてからすぐに、お義父ちゃん自身がすぐそこの村の家々を直接回って、ワイについて話をつけた…らしい。
ワイがそのことを知ったのは、村人たちが一箇所に…村の中でも特に開けた広場的な場所に集められ…。
そんで、そこへお義父ちゃんに連れられ、見せられ、紹介された後のことやった。
村人たちの反応は、ワイが思っていたより悪くないと言うか、「へー。」くらいのもんやった。
なんなら、ワイの紹介の後にお義父ちゃんが村のみんなに対して振る舞っとった食料品や布類なんかの方に「わぁーっ♡きゃーっ♡」って大喜びしとっただけやね。あと、エクトル卿にもの凄い熱い視線を送るご婦人方とかもいっぱいおったわ。
………いや、別に傷つかんけどもね。気にしとらんし。自分がイケメンじゃないことくらいわかっとるけども。
まあね、でもちょっとだけ美顔体操でもしようかなって思ったわ。
…いや、ホンマに別に気にしてないんやけどもね。今更自分の顔のことなんて気にしてないし。健康の一環としてやで?まあ、副次効果でイケメンになるかもしれんけど。はあ?いやホンマに気にしとらんし?顔の血行を良くすることで健康に近づきたいだけなんですけど?
ともかくや。
こんな感じで、村人との顔合わせが実は済んどったんやけど…ワイは結局、村の中を歩き回ったりは全然しとらん。
まあ…自分の扱われ方について、正直思うところがないわけじゃないからな、ぶっちゃけあんまり気が乗らんのや。
でも、そんなワイのことを見かねたケイ義兄ちゃん(とアルトリアちゃん)から、「お前もいい加減ついてこい、せめて同年のやつらに顔を覚えてもらうくらいはしろ」って言われてもうてな。こうして引っ張り出されることになったわけやね。
で、とりあえず第1村人を発見したところなんやけども。
「ははは、なるほど、御婦人の話はとても面白いなぁ。どうだろう、よければどこか落ち着けるところで、話の続きを聞かせてほしいんだが…」
「あ、あらぁ…まぁ…♡」
…本気で声をかけたくない。というか、見たくなかった、こんな場面。
なあ、これはスルーして、別の所に行かんか…?
お取り込み中みたいやし、同年の人でもないし…。
「おばさま、どうもこんにちは」
「おや、…あらぁ!どうもこんにちは、お嬢様。それにケイ様も、お元気そうでなによりでございます」
「おう、ありがとう。早速だけど、今日は俺の弟を紹介しに来た。既に父上からも紹介されてるとは思うが、ワイというんだ、よろしくな!」
「そうでしたか!ワイ様もどうも、こんにちは。私など、ただの農婦ではございますが、どうぞよろしくお願いしますね」
おお…は、はい、こんにちは。よろしくお願いします…です。
…こ、コミュ強すぎる。
今まさにちょっとアウト気味なナンパが発生しとる場面だったっちゅうのに、その現場にズバッと入り込んでいきよった…。
いや、むしろ逆に、ワイの腰が引けすぎなんやろうな…。
こういう気弱なところが、大人たちがワイに対して向けている悪感情の要因の一つなのかもしれん。…ワイも、もっとしっかりせんとな。
「やあ、ケイにワイ、そしてアルトリアだね。その様子だと、お散歩かい?」
…ほんで、マーリンはよう平然と声掛けてきよるな…。
ワイにとって一応は養父である人(?)が、おそらく結婚しているであろう御婦人のこと引っ掛けようとしてる場面を見せられて…コッチはコッチで触れられんと言うか、むしろコレこそ触れたくないんやけど…。
「ダメですよ、マーリン。ご主人の許可なく家に上がろうとねだるなど、ちゃんとエクトル卿に言いつけますからね」
「おや、私は別に、家に上がらせてほしいなんて言っていないんだけどねぇ…。ただこちらの御婦人とお話をしたかっただけなのだけど…仕方ない、今日のところは退散としようか」
「なんだ、もう行くのか?…そうだ、そのうち俺にも魔術を教えてくれよ」
「ケイに?魔術をかい?…うーん、教えるのはとても面倒だなぁ。まあ、ワイに教えているんだ、ケイにも教えるかどうか、一応考えておくとするよ」
「おう、頼んだぞ」
…これ、ワイがおかしいんか?
それともみんな慣れとるだけなんか?
いや、まあ、不倫に一歩足を踏み込みそうなナンパの現場を目撃したからって、ワイらのような子どもに出来ることと言えば…アルトリアちゃんが言ったように、頼れる大人に報告するくらいやけども…。
それにエクトル卿も、マーリンの発言なんて一々そんなに気にしないと言うか、今のケイ義兄ちゃんに近い感じだったけども…。
「ははは、ワイはまた、随分と気難しそうな様子だね。それにしても、ケイに連れ回してもらえるというのなら良い機会だろう、この村の人々と触れ合ってみなさい。その方が、きっと面白いだろうしね。…じゃあ、私は行かせてもらうよ、春の陽気に包まれながらのお散歩を楽しみなさい」
お、おう。
…なんや、メッチャまともなこと言われとる気がするな…。
いや、それでもめっちゃアウトラインギリギリな感じの、ナンパシーンのあとのセリフなんやけども…。
「よし、次に行くぞ!それじゃあ御婦人、俺達も失礼する。邪魔したな、また会おう」
「おばさま、お邪魔しました」
あっ、と…!
お邪魔しました、これからよろしくお願いします!…っす。
「うふふ、ええ、ええ。また元気なお顔をお見せになってね」
…な、なんや、相変わらずワイにあんまり関心があるわけではなさそうやけど…随分柔らかい雰囲気やなぁ。
+
「あ!ケイ様!アルトリアちゃんも!」
「だれだぁ、あいつ?」
「あれだろ、エクター様が帰ってきたお祝いの時に紹介された子」
「ああ!そうだった!」
…次に出会ったのは、ワイより少し年下くらいに見えるガキンチョたちやった。
「ワイ、
…そうやったな。
ケイ義兄ちゃんは、こんなに身体が大きいけど、ワイとほとんど歳が違わない、まだ子どもなんやった。
こうして見比べると、凄まじい体格差やな…ちゅうか、みんなワイよりも体格は小さいんやな。
でも、よく見れば痩せ細ってるとかではなく、足なんかバキッっとした筋肉の筋が見えとる。野良仕事で鍛えた身体って感じなんかもな。
ワイがそうやって、黙ってまじまじと観察しとると、ケイ義兄ちゃんは先程の御婦人のときのように、ワイの紹介を進めてくれた。
「よし、お前らいったん横に並べ!俺の弟を紹介してやる!…もう父上から紹介されたと思うが、こいつはワイ、俺の弟だ。大工仕事が得意で、料理が上手い。よーく覚えておけよ」
「「「「はーい!」」」」
「ワイ、こいつらはみんな農夫の子たちだが、見ての通り元気で健康な良い奴らだ。右から…ルース、力仕事がよく出来る、一番早く俺達に追いついてくれるかもな。ダニー、足が速くてお使いで村の中を走り回ってることが多い、見かけたら手くらい振ってやれ。アルス、農夫の子だが勉強が得意でちゃんと文字が読める凄いやつだ、父上も期待してくれている。そしてケイト、アルトリアを除けばこの中で一番年下だが、お前に並ぶくらい器用なやつだ。…そう考えると、ケイトは多分お前と一番相性もいいだろうな、お前が騎士になったら取り立ててやれよ」
「ええ~!ケイ様が取り立ててくれるんじゃないのかよぅ」
「出来るならそうしたいけど、まだ領地だって持ってないし、いつになるかわかんねえよ。それに、俺の弟はこう見えて凄いやつだ。そりゃあ、もちろん俺の方が凄いけど、こいつだって絶対立派な騎士になるぞ!今後は村にも顔を出すだろうから、しっかり覚えとけ、いいな?」
「へぇ~!ケイ様がそういうんなら、間違いないや!」
「よろしくな、ワイ様!」
「なあなあ、大工の腕を見せておくれよ!僕も覚えたい!」
「俺も!もし兵士になれなくても、大工なら絶対食いっぱぐれねえだろうしな!」
お、おう。ど、どうも、ワイって言うんや、よろしく頼むわ…。
「?…なんか、変な喋り方だなぁ」
「おう、気にすんな、俺の弟なのは間違いないんだから」
「…それもそっか!」
「なあなあ、大工仕事はいつ見せてくれるんだ?」
「ケイ様は?チャンバラしてく?」
「ワイ様、器用だと向いてる仕事ってどんなのがあるの?」
う、うおおぉぉぉ…!?
右から左からわちゃわちゃ喋られて…っていうか、エクトル卿の息子として、どう振る舞えばいいもんなのか、わ、わからん…!
大工仕事を見せるって、トイレはまだエクトル卿の屋敷の関係者だけが使うって言われとるし、ワイは何を見せたらええんや…?
「すまんな、お前ら。今日はワイの顔見せがてら、村の見回りだ。父上がいない間も、村のみんなに安心してもらいたいしな」
「あっ、そうだった、俺の父ちゃんも大丈夫かなぁって言ってたよ」
「そう言えば、うちもだ!ケイ様、みんなに顔を見せてやってくれよな」
「おう、じゃあ俺達は行かせてもらう、邪魔したな」
「ケイ様、またねぇ!」
「今度はチャンバラしようぜ!」
ケイ義兄ちゃんはそう告げて、「次の場所へ案内するぞ、着いてこい」と言って、またワイを連れ歩く。
ワイとアルトリアちゃんは、同年代だという村の子たちに去り際の挨拶を伝えつつ、言われるままにケイ義兄ちゃんのあとをついていった。
村中を3人で揃って歩きながら、会う人に、また会う人に、ケイ義兄ちゃんがワイを紹介する。
エクトル卿の古くからの友人で、村のまとめ役を任されているという、村長のおじさん。
ケイ義兄ちゃんが毎日の荷運びを手伝っているという、寡黙でどっしりとした雰囲気の、木樵のお兄さん。
アルトリアちゃんを大変可愛がってくれている、アルトリアちゃんもよく懐いている、馬飼の老夫婦。
ワイは今まで何に怯えていたんやろうか。そう思えてしまうほど、村人たちは毒気がなかった。
ただ、エクトル卿を、ケイ義兄ちゃんを、心から信じている。
それだけは間違いないだろうというのが、よくわかった。
「良い奴らだろう?」
馬飼の老夫婦に、アルトリアちゃんが愛でられている最中。
そこから少し離れたところで、こっそり耳打ちするように、ケイ義兄ちゃんがワイに語りかけてきた。
「お前は俺の弟だ、誰が、どう思おうが。…父上の兵たちだって、お前のことをちゃんと知ってくれたなら……きっと、あんなことにはならなかったと思ってる」
…ケイ義兄ちゃんは、「ワイが勝手にいなくなった」って言ってたけど…本当のところは、ちゃんと知ってたみたいやね。
「父上が、これなら誰もが認めるだろうという仕事をお前に与えてくれた。ワイはいい奴だって、俺とアルトリアも心から信じてみせた。…こんな言い方してるが、本心からだぞ?…でも、ダメだった。お前に何かを与えるほど、あいつらはお前のことが…多分、怖かった、んだと思う」
ケイ義兄ちゃんは、苦々しそうに目を細めながら、眉尻をさげ…どこか、悲しそうな顔をした。
「……父上たちが帰ってきた時、きっと兵たちにも何かしらの変化はあるんだと思う。まあ、それがどんな変化なのかは、俺にもわからんが。…なあ、ここだけの話だ。父上には絶対に言わない、俺とお前だけの話…だから、本音で言え。…お前は、
ケイ義兄ちゃんが、真剣な眼差しで、ワイの目を真っ直ぐ射抜いてくる。
本音。
ワイは、別に嘘をついていたつもりはないんや。
誰かの役に立ちたいって気持ちに嘘はない、ケイ義兄ちゃんも、エクトル卿もアルトリアちゃんも、ワイがしてみせたことに喜んでくれるのは、ホンマに嬉しいと思っとった。
ワイだって、全部、全部、嘘じゃないんや。ホンマやで?
…本音。
私兵団の人たちは、エクトル卿のことをホンマに尊敬しとるのがよくわかる。
エクトル卿の前に立つだけで、覇気とでも言えば良いんやろか?なんや、漲って見えるんよな。
エクトル卿だって、そんな私兵団の人らを心から信用しとる。…だから、凄い、良い人たちやで。
………。
エクトル卿の奥様は。
………。
エクトル卿が教えてくれたんや、領地のために辣腕を振るう、とても立派な細君なんやって。
「違うぞ、ワイ」
………。
「誰かが言った、誰かの話じゃない。お前が、あいつらをどう思うかなんだ」
……ワ、
ワイは、
………。
………ワイは、怖い。
森に投げ捨てられて…それでも、殺されていないだけ、マシやと思った。
あの時、帰り道がわからないっちゅうことに…ほんの少しだけ、安心してもうた。
せめて、エクトル卿の迷惑にならんようにだけしたい…だから、ホンマは、村の中にだって出ていきたくなかった。
ワイが居なくなっても、困る人が一人でも少なかったら良いと、そう思って。
………。
どんな答えを期待して、こんなこと聞いてるんかは知らんけどな、本音で答えろって言ったんはそっちやからな。言うわ。
ワイは、多分…あの人たちのこと、心からは嫌いになれん。
そりゃあ、ワイかていっつも怖い思いしとるけど…でもわかってまうんや、あの人らが考えるような、あの人たちがワイを見て感じとるらしいもの…そういう怖さがあるってことも。
…どっちが悪いって話じゃない気がするんや。
上手く言えんけど…ワイもケイ義兄ちゃんみたいに振る舞えたなら、怖気づくこと無く声をかけられたなら。
あんなことにはならんかったんかもなぁって………今日、ちょっと思っとったわ。
…そんだけや。
「……そうか」
ケイ義兄ちゃんは一言だけ零して、ワイから視線を外し、アルトリアちゃんの方へ向き直る。
「……お前は、絶対に立派な騎士になれる。だから、絶対に折れたりするな、迷った時は俺を見習え。…俺ももう、戸惑ったりしない。お前がまた森の中で迷ったりしないように、立派な騎士の背中ってやつを、お前に見せてやるよ」
そんなん言われんでも、ワイはいつでも、ケイ義兄ちゃんは凄い人やと思っとるけどな。
……いや、まあ、なんかちょいちょいコスいけど…。
「んぐぁっ……おい、今言うことじゃないだろ」
アホ言うなや。
こうでも言わんと、ちょっと泣きそうや。
「はあ?……相変わらず、泣き虫だなぁ、お前は…」
うるせいやい。これでも頑張って、治す努力はしとるんや。
………ワイ、生まれて初めて、ちゃんと本音で喋った気がするなあ。
嘘ではないんや、いつだって。
でも…嘘ではないことは、本当のことってわけでもないんやな。
…こう思うと、確かになんか、ワイの振る舞いって、ちょっとマーリンみたいやなって思ってしもうたわ。
なんや…マーリンの悪口なんか、言える立場じゃなかったんやなぁ、ワイって。
──この日、ワイとケイ義兄ちゃんは、やっと本当の兄弟になれた気がした。…別に、これまでだってずっと、仲良かったけどな!
▼身を立てる者たち
古い時代、貴族または騎士というのは、俗に言えば金持ちのことであり、職人を雇ったり私兵団を抱えることが出来る人たちのことでもあった。
天候や気象にその年…もしくは数年先までの生活を左右される農家よりも、騎士に取り立ててもらってなにか一つ仕事を貰うことの方が…と、多くの農家・村民たちは「ああ、その機会や一芸さえあれば…」と憧れた。
この時代は詳細で明確な役職の区別というのはあまりなく(農家や大工など、わかりやすい区別はある)、何か一芸さえあれば雇ってもらえることも多かった。
例えば、「料理が上手(焦がしたりしない、盗んだりしない…程度でも良い)」「大工の腕が立つ(ちゃんと倒れない納屋や柵を建てられる)」「文字の読み書きができる(詐欺に遭いにくい、村長や文官など任せられる)」など、他にも色々…。
何かの一芸、どれか一つでも人並み以上に得意なら、ぜひ雇いたいという貴族は多い。
そのくらい、技能の伝達や発達というのは、この時代にはとにかく困難で得難いもので…賢い貴族なら、それが在野に居るというなら拾い上げて技術を残したいと望むほど、とても価値あるものだった。
だから、一芸を学べる…身を立てることが出来るかもしれない機会には、とてつもない価値があった。
…その機会を与えることが出来るような存在は、そのさらに上である。
反面、この時代では未だに誇り高い文化として受け継がれている「より強いものが正しい」という考え方も根強い人気で、本来は技術者として身を立てられたであろう人も騎士や兵を目指してしまった。
これは価値のあるなしという話ではなく、その方が、正しく立派だったからだ。
…そういう視点で言うならば、この時代のブリテンというのは、技術の発展に失敗してしまった「技術的暗黒期」だったと言っても良いのかもしれない。