ワイ卿、Fate世界の円卓の騎士になる。   作:サーッ・タドコロ

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いつもお読みいただきありがとうございます。

また、いつも面白い、楽しい感想をありがとうございます。
コメント数が落ち着いてきたので、勝手ですが今話の分から余裕があるときには返信していこうと思います。
アグラヴェインはワイくんの子になりませんが、そうだったらクッソ面白かっただろうな…という妄想が捗りました。可哀想なアッくん…。


※注意
・本作のヘイトタンクこと従騎士マイヤが生きた状態で登場します。死んでなくてすまないマイねぇ…。
・モブなどの命名規則の中にはフランス語やラテン語を元にしたものが入り混じって登場しますが、Fateブリテンではそうなので気にせずお読みください。




14:ワイ、ドゥ・オア・ダイ

 

ようお前ら!元気にしとるか?

ワイは(ア!アエイオウ!)元気やで!

 

 

長いようで短かった子どもばかりでの生活も、当然だが終わりがくるものである。

 

ちょうど春蒔きの真っ盛りという時期に入る直前の頃に、エクトル卿が領地へと帰ってきたんや。

…馬に跨がれている事自体が奇跡としか言いようがないほど痛々しい見た目をした、片腕を失っている従騎士の人と、少しばかり数が減ったように見える、私兵団の人らを伴って。

 

怪我をしとるのは従騎士の人だけで、エクトル卿はもちろん、他の私兵団の人らはみんな無傷で…でも、みんな見た目にはわかりにくいが、かなり憔悴しているように感じた。

 

 

ワイも、ケイ義兄ちゃんも、アルトリアちゃんも。

エクトル卿の帰還に喜ぶ余裕なんてもんはなく、ただ絶句しとった。

 

誰も、「何があったのか」なんて聞くことはできんかった。

…少なくとも、ワイはその光景に対して、言い表せない恐怖のようなものを感じて、口を開く勇気なんて持てなかった。

 

そんなワイらの心情なんか無視して…いや、ここで口を閉ざしてもしゃーないから、あえてそう振る舞ったんやろうと思う。

ともかくエクトル卿は、無事の帰還の口上を述べる際に、私兵団の人らについても語った。

 

 

「我が王の御前にて、全ての罪の所在を神明に問いた」

 

「そして、此度の所業…我が従騎士たるマイヤとその謀略に連なる者たち皆の罪を、王はお許しになられた」

 

「…しかしながら、その罪の清算を持ってしても、王はその者らは騎士に値せずと述べられた」

 

「ゆえに、我が兵団の者は皆、従騎士(みならい)までの身分を許され、それより上の身分か兵団を去ることを望む者たちは、その全てを決闘により処した」

 

「王は此度の決闘の褒美として、一人の勇猛なる騎士を我が領地へしばらく貸し与えるとお約束いただいた。其の者は、夏に入る頃には我が屋敷へと訪ねてくるだろう」

 

「この一連のことは、決して他領の者(よそもの)に語ることを禁ずるとの触れを王より頂いている。…みなも、よく従いなさい」

 

 

…と。要約すると、「私兵団の人たちの罪は、条件付きで裁かれたよ!」「条件に文句のあるやつは、みんなぶっ殺したよ!」「この話は他言無用で、もし破ったらぶっ殺すよ!」っちゅう話らしい。

 

んで、私兵団の人らの中で、ただ一人だけちゃんとエクトル卿の従騎士として認められとったマイヤさんの片腕が無いんは、どういうことなんや?…っちゅう疑問が思い浮かばなかったわけやない。

でも、そんなことを聞ける雰囲気ではなかったんやから、ここで詳細を尋ねんことについてはホンマに許したってや。

 

もし文句があるっちゅうなら、アンタがこの場でエクトル卿に直接聞いてみてくれやで。ワイには無理や。

 

 

そうして、エクトル卿が一通りの話を済ませた後、最後にワイに対して「この通り重症の身ゆえ、しばらくマイヤの世話を頼む」とお願いされた。

 

ホンマ?ホンマのホンマに?絶対人選ミスやでそれ?

…なんて言えるはずもなく、ワイは二つ返事で「ヒャイ…」とだけ応じた。

 

エクトル卿は「安心しろ、今の其奴(そやつ)には赤子すら殺せん」って言ってくれとったけど…いや、その状態で乗馬して帰ってきたんやろ…?

っていうか、ワイに対して殺意がある可能性が残ってるってニュアンスの言い方やないんか、それは…ホ、ホンマに大丈夫なんか…?

 

 

エクトル卿は、奥さんを連れて屋敷の奥へ向かった。

 

ケイ義兄ちゃんとアルトリアちゃんは、少し思い詰めたような顔色で、その後をこっそりとついていってしもうた。

いや、二人で一言も示し合わさずに動き出すって、その怖いもの見たさはなんやねん。

 

なんて思いつつ、流石に一人でこの場に取り残されるんは心細すぎたから、ワイも一緒についていきたかった。

…けど、その前に片腕の従騎士が、ついに落馬し地に転がった。

 

 

立ち止まり、振り返る。

 

周囲には私兵団の人らもいるのに、困ったような表情を浮かべてただ状況を眺めるだけ。

どうして誰も動いてやらんのや?と思ったけど…多分、何か理由があって、手を出せんっちゅうことなんかもしれん。

 

今この場には、落馬した主人を不安そうに見つめ、その御髪を優しく唇で喰む騎馬の姿だけが動いていた。

 

騎馬は頭を上げて周囲を確認するが、誰も動いてはくれない。

…少しして、ただ悲しそうに一度だけ嘶き、地に転がった従騎士の傍らに寄り添うようにしゃがみ込んだ。

 

従騎士の人は、動かない。

文字通り、力尽きたとしか言いようがない様子であった。

 

 

迷いはした。恐怖もあった。

恨みは…ほんのちょっとだけはあったかもしれん。

 

でも、ワイはそれを、いったん脇に置いておくことにした。

そんなことより、「はやく、誰かが助けてやらんと!」という気持ちが勝った。

 

誰もが手を伸ばさないなら、自分が手を伸ばすしか無い。そう思った。

 

 

すぐに容態を確認せな!そう思い、従騎士の人へ近づく。

 

すると…

 

「ブルルヒヒヒィィィーーーンッ!!」

 

激昂したお馬さんが、ワイに向かって歯茎を剥き出しにして凄まじい嘶きを上げた。

すぐに立ち上がり、ワイに対して身を盾にするように立ちふさがり、行く手を阻んでくる。

 

 

怖がらせてゴメンやで!

 

でも、その人、すぐにでも助けてやらんと、ホンマに死んでまいそうなんや。

絶対に、絶対に助けるから、どうか怒らずにどいてくれや…!

 

アダ、アダダダダ。

噛むな噛むな。蹴ろうとせんでくれや…。

 

 

…そう言って、ワイはお馬さんに必死に懇願してみせた。

 

でも、ダメやった。

ワイはどうにも、あんまりお馬さんには好かれんらしく、ワイがお馬さんのお世話をするときはいつも嫌がられてばっかりやった。

 

ここでもそうやった。

どう頼んでもダメで、なんとか回り込もうと動いても、賢いお馬さんはワイに立ちふさがるように移動する。

 

…いや、そうやな。お馬さんの御主人様には、そもそもワイは嫌われとるんや。

なら、このお馬さんも…ワイの助けなんて、死んでも嫌や!って、そう思っとるっちゅうことなんかもな…。

 

ワイはもう諦めて引き下がるしかないと、そう思い、一歩後退してしまった。

 

 

「やめろ、インプルシオン。そいつは、お前の主人を助けたいだけなんだ…」

 

 

お馬さんとの攻防を繰り広げている間に、いつの間にかワイの傍らには一人の騎兵が近づいとった。

 

エクトル卿の私兵団の一人で、名前を…確かモラールとか言っとった、私兵団の副長みたいな人のはずや。

ワイより年上ではあるけども、それでも15~16歳くらいに見えるくらいの、若い好青年やな。

 

その人は、ワイの傍らで馬を降り、インプルシオンと呼んでみせた従騎士の愛馬にそっと手を差し伸べ、優しく顔を撫でながらあやしてみせた。

 

「コイツは、マイヤの愛馬でな。イカレてるほどに気性が荒く衝動的だが、とても賢く勇敢でもある。…マイヤが、お前を森に捨てた時に乗っていた馬だから、お前に対するマイヤの思いも、よく理解しているのだろう」

 

落ち着きを取り戻したお馬さん…インプルシオンは、モラールさんの手に導かれるままに、ワイの前から立ち退いた。

 

ただ、お馬さんの瞳には、恐怖の色が浮かんで見えた。

それは、ワイの気のせいなのかもしれん。気にし過ぎかもしれん。でも、そんな風に見えた。

 

「…我らの所業を、お前が許すとは思っていない。いいや、我らの中には…それこそマイヤなら、何も間違っていないのだから、許されることなど無いとすら、今でも信じているかもしれん。…それでも、お前は助けるというのか」

 

モラールさんの顔つきは険しく、鷹のように鋭い眼差しがワイの心の奥底まで見切ってみせるとばかりに、鋭く射抜いてくる。

 

そこには、やはり、ワイに対する恐怖の色が浮かび上がって見えた。

きっと、今のワイの目にも同じ色が浮かんでいると思う…他者に脅かされるかもしれんという、恐怖の色や。

 

 

ワイはどうして、この人を助けたいんや?

 

どう聞かれたところで、答えは当然「それでも、ただ助けたい」という、本当にただそれだけのものしかない。

…でも、この人が、お馬さんや他の人らが求めてる答えは、多分そうじゃないんやろうと思い、よく考えてみる。

 

モラールさんの言う通り、ワイを森に捨てた人やで。

それに、最初から嫌な顔してよう口も聞いてくれんかった人や。

…まあ、それについてはワイの方こそ、ただなんとなく怖くて、全然声かけられんかっただけなんやけど。

 

それに、そうや、ワイはこの人を怖いって思っとる。

なんで、ワイが怖いと思っとる人を、わざわざワイが助けるんや?

…いや、きっとこの場にはワイ以外に助けてやれる人がおらんのやとは思う。

 

理由はしらんけど、私兵団の人らは従騎士の人に…マイヤさんに手を出せんのや。

そうじゃなきゃ、わざわざワイにこんなこと聞く余裕もないやろ。そんなこと聞くくらいなら、今すぐにでも助けてやりたいって、顔に出とるし。

…その理由を尋ねてみたいという気持ちが無いわけでもなかったけど、なんだか残酷な答えが返ってきそうで、怖くて聞けんかったわ。

 

じゃあ、エクトル卿に頼まれたから、助けたいんか?

それは、一応理由としては正しいっちゅう話になる。実際、ワイも正直「ワイ以外が助けるべきでは?」と思っとる。

…いいや、でもそれは、ワイが今この場で従騎士の人を助けたいと思った、本当の理由でもない気がする。

 

あえて言うなら、それこそ「衝動」やと思う。

本当に、ただ助けなきゃあかんと、そう思っただけなんや。

 

考えに考えた末、結局ワイが答えたのは、誰を慮ることもない、ワイの本心を話してみることにした。

…ケイ義兄ちゃんを見習って、ちょっとだけ勇気を振り絞って。

 

 

目の前に苦しんでいる人が居るなら、とりあえず助けてやればええやん。

誰が何をどう思っていようが、…いや、それがメッチャヤバい悪人かもしれん人(推定)で、ちゃんと理由があって罰を受けとる状態で苦しんでいるとかだと…まあ、助けるべきか悩むべきなんやとは思う。

 

でも、逆に聞くけどな。

そうやって苦しんでる人がいたとしても、その状況で助けを望んでいる人がいたら、あんたは放っておくんか?

そんで、誰かを助けたいと思った時に、こんなことを細かくグチグチと考えてから動くんか?

 

もしかしたら、そういう細かいことを考えてから動く人もいるかもしれん。ワイにはようわからんことやけど。

でも、ワイは…いや、自分で言うのも悲しくなるけど、ホンマにメッチャアホやから、助けたいと思ったら助けたい。

助けたい理由は…こうして、助けたいと思った後からうんと捻り出して、やっと出てくるくらいの後付けの理由でしかない。

 

 

それだけや。

…それだけじゃあ、ワイがマイヤさんを助けたら、ダメなんか。

 

「…そうか。…そう、だな。…ああ、その通りだ…」

 

…あ、あれ。

いやあ、その…なんか、言わんで良いことも言った気がするわ。

 

と、ともかくや!

お馬さん、移動させてくれてありがとさんやで。

 

すまんけど、とりあえず従騎士の人はこの場で少しだけ容態の確認と出来る治療をやって、その後で安静にできる場所に動かさせてもらいますわ。

ワイとしては、答えるもんは答えたし、別にお馬さんさえどいてくれたなら治療に移れるだけやったし、これ以上は…少なくとも今は、多分お互いに話すこともないやろ。

 

…いやあ、でもまあ、ちょっと落ち着いた頃にでも、もう少し話せたら嬉しいな~…なんては、ちょっとだけ思うけども…へ、へへ…。

 

 

「…ワイ様のご意思は、このモラールが、そしてこの場にいる耳目ある者たち全てが、確かに聞き届けました。…なれば、私からワイ様に一つ…身の程知らずとは存じておりますが、どうか、お願いがございます」

 

モラールさんは急に態度を改めて、腰に佩いていた剣を抜いて、その剣をワイに恭しく差し出すように姿勢を正した。

 

「マイヤは、ワイ様の処遇について、最後まで自らの正しさを証明すべくエクター様へ挑み、そして片腕を失いながらも生きて罪を許された身です。…ですので、もしかすると、たとえここでワイ様に助けられようとも、いつかワイ様に刃を向けるやもしれません」

 

…………えっ。

こ、このタイミングで、そないな怖いこと言うの、や、や、やめてや……流石にちょっと、助けるの躊躇いたくなったわ…いや、本当にちょっぴりとやで?

 

「ですが、マイヤは我らが兵団の中でも抜きん出た才を持つ者。たとえ片腕を失おうとも、必ずやエクター様の助けになれるものと、我ら一同確信しております。ゆえに、ワイ様がマイヤをお救いいただけるというのであれば…我が命を持って、ワイ様をマイヤの凶行から守るための、絶対の守護としたく存じます。マイヤも、私がワイ様のために命を捧げたと聞いたならば、その刃を見事収めてくれることでしょう。…どうか、こちらをお使いください」

 

モラールさんはワイに向かって、首の真後ろが見えるほどに頭を下げながら、恭しい態度で両手で抜き身の剣を掲げる。

その刃は、おそらく斬撃には向いているのだろうけれども、質量攻撃による殴り合い(じっせん)には不向きに見えるほどに鋭く、あまりにもよく研がれているように見えた。

 

 

ドッ。と、全身から嫌な汗が吹き出した。

 

誰も。

ワイは、ここに居る、誰の…命が、失われるようなことを、望んじゃいない。

 

従騎士の人が、ワイを殺すかもしれんと、そう聞いたとしても。

ワイは、それでも…ワイが殺されるかもしれんということを回避するために、誰かに死んでほしいなんて、欠片ほども思うことができんかった。

 

 

…それでも、ワイは剣を手に、…取ってみる。

ワイらの様子を伺う周囲の目が、不意の驚愕によってワイの呼吸と動きがピタリと止まった瞬間から、不安や恐怖の色を濃くしたから。

 

…そうして剣を手に取ってみると、彼らの色は少し和らぎ…そして、ほんの少しだけ喜びの色すら垣間見えた。

少なくはない程度に悲哀や諦念が見られるが、それよりも強く見えているのは…期待。希望。幸福。…そんな色が、見える気がした。

 

望んでいる。

望まれている。

 

人の死が。

誰かを救うための死が、そのための…殺人が。

 

 

……。

 

剣を、振り上げてみる。

 

その行為を、まるでとても美しい光景でも眺めているのだというような目で、そこに救いがあるのだと信じるような眼差しで、見つめてくる視線が、いくつも、ある。

 

 

……。

 

そうと望まれたことを、望まれたように。

 

そうすれば、…それができたなら、きっと、…ワイは、()()()()()()()()()()()()なんや。

 

 

……。

 

 

 

 

同日。兵舎の一室より。

 

 

騎士エクターの従騎士たるマイヤは、瀕死の重傷を負いながらも、仲間たちの助けをただの一度も借りること無く、エクター様の預かる領地へと帰り着いた。

 

…語弊がある。

道中で意識が絶えては戻りを繰り返し、これが現実なのか、死の間際に見る幻覚なのか、死してなお見続けている狂妄なのか、もはや判断がつかなかった。

 

帰り着いた瞬間の光景は、わずかに記憶にある。

だが、すでに音は遠く、光景の殆どが眩しく朧げで、果たして本当に帰り着いたのかという確信は得られていなかった。

 

…志半ばにして、エクター様のために命を捧げることすら出来ず、…やはり、私は終生を迎えたのだろうか。

 

 

……。

 

白む意識の端で、遠く彼方から、誰かの会話が聞こえてきた気がした。

 

 

「アダ、アダダダダ。傷口に薬を塗っとるだけやて、ホンマに勘弁して…アダダダダ」

 

「どう、どう。落ち着け、インプルシオン。…すまない、貴方がマイヤの部屋に入ろうとすると、どうしても暴れてしまって…」

 

「アダダ…いや、そりゃあ、心配なんやろ…アギャぁっ?!髪はやめい、髪は!ハゲたらどないすんねん!んもーっ…はあ、もう、部屋に入ってくるんはええから…うおっ、この噛みグセをなんとかしてくれや!ホンマにっ、仕事にならん!」

 

「ああ、わかった。…だが、私でもインプルシオン号に本気で暴れられたら、数分とは耐えられん、できれば早めに済ませていただけるとありがたい」

 

「ホンマに気性難やな…うおおっ!?ちゃうちゃう!!あれや、ちょっと心配性なだけで、ご主人思いのめっちゃ賢い美人さん~って言いたかったんやん!なっ?へへへっ、へへっ…」

 

「あ、あの…申し訳ないのだが、は、はやく…ぐっ」

 

 

誰と誰の会話なのかは、判別がつかない。

 

そも、これは夢なのかもしれない。

 

それも、ありもしない夢だ。

 

実際は、我が身はとうに終いえており、どこともしれぬ野にあって、ただ朽ちるのを待つだけである。

 

 

そして、これは悲劇でもなんでもない。

 

我が主人たるエクター様が王の御前にて罪を問い、王が神明の下にその罪を裁くと定められた者の、…きっと、よくある末路の一つであろう。

 

我が身は生きることを許されたが、しかしそれならばともう一つの罰を与えられた。

 

追放刑ではなかったが、追放刑と変わらない。そんな罰を受けた。それだけだ。

 

ただ一人で道を往き、いつか朽ちて果てるだけ。そういう罰だ。

 

 

……。

 

どうしてだろうか。

 

意識を失おうとも、いつでも肉の内側から鐘を鳴らされるかのような痛みが走り響いていたはずの、肩口から失ったはずの左腕が…今だけは、なぜだか、静かで暖かく感じた。

 

…死というのは、もっと冷たいものだと思っていたが、どうやら違うらしい。

 

 





▼不死身のエクター

過去に、荒れ狂う嵐に等しい魔女モルガンを、生死の境をさまようほどの重症を負いながらも撃退した事がある。
…という、この時期の純人間では最強の一角に上げられる剛強なる騎士。

実際には、同世代に「ラモラット卿」という、ウーサー王にとって最強の切り札といえる武勇を誇る騎士も居たが、このラモラット卿の血筋の多くは血気盛んで気性が荒く、武勇だけは最高ではあるが人間性に…主には協調性の部分に問題を抱えている者が多かったため、強くて信頼厚い騎士となるとやはりエクトル卿を挙げた。

(※ラモラット卿の甥御となる「ラモラック卿」は、後に円卓の騎士の一人に選ばれ、ランスロットとトリスタンに次ぐ第3位の実力者と称されるほどの武勇の騎士として名を残すが、やはり人間性に結構な問題があってトラブルを引き起こしまくったりする。ちなみにラモラック卿の兄弟に「パーシヴァル卿」もおり、こちらはかなりの人格者なのだが…やはり少しばかり、衝動的でプロレスラー風味の凶暴な一面がある。この血筋はどいつもこいつも、超が付くほどの体育会系という点は共通している。)


ともかく、エクトル卿はこの時期では指折りの実力者だったのだが、さらに「老齢を迎える間際にしてなお、モルガンへ挑み、生きて帰ってきた」という話が王宮に伝わり、ついには『不死身のエクター』という渾名が、ほんの一時だけだが付けられた。

しかし、エクトル卿がこの時に王宮を訪ねた事情に問題があった。
エクトル卿にとってはもちろんだが、運命の王となる子を預けた身であるウーサー王にとっても、それはあってはならない致命的なまでの醜聞であった。

そのため、その事実を隠蔽するためにウーサー王がお触れを出し、この話は『騎士エクターの伝記』にも残らず、どこかで欠片でも残っては不味いと判断したウーサー王が、以後もエクトル卿に関する伝記を残すことを禁じた。

それは、そのために密偵など走らせ、徹底的に致命的な部分の情報を殺すことに腐心し、そしてウーサー王の死後も秘密の事業として継続され続けることになったほどである。
この事業を継続し続けた一族は、現代までイギリスを拠点とする貴族家として、その家名と事業を残し続けている。

なお、「流石にその情報を殺すのは不可能だった」などの理由で殺しきれなかったいくつかの情報を元にして執筆・編纂されたものが『騎士エクターの伝承』という形となり、現代にまで残っている。


こうして、「不死身のエクター」の渾名は汎人類史には正しく残らなかったようだが、どこかの世界では経緯は違えども、その渾名がもう一度あてがわれたようだ。

奇しくも、若き日(?)のモルガンに関わってなお生き残った…というところは同じである。
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