ワイ卿、Fate世界の円卓の騎士になる。 作:サーッ・タドコロ
平和(?)だった日々が、少し変質します。
感想でも「ずっと平和でいてほしい」と期待していた人を見かけたので、本当にこのまま進めてよいのか悩みましたが、初志貫徹で進めようと思いました。
「やあ、ワイ。突然だが、キミに伝えなきゃならないことがあるんだ」
……ありり?
眼の前には…マーリン?
そんで、ワイはどうしてあの花園におるんや…?
今は、エクトル卿が帰還してから1週間が経過した頃。…の、はずや。
世話を任されとるマイヤさんは、あれから一向に意識を取り戻さんままや。
しかも、夜になると唸り声のようなもんをあげるっちゅう話も出てたから、エクトル卿の許可を得た上で夜中につきっきりで看病することもあった。
まあ、そうすると今度はあの
「話を続けるんだけどね、どうやら王が殺されてしまったようだ」
……。……はあ?
「まあ、今の王よりエクトルの方が人気もあったし、この間の一件でついに周囲の人間たちの箍が外れてしまったというのも、仕方ないという話かもしれないね。エクトルが意気消沈して憔悴したまま帰ったところを狙ったというのも、見事な手際だったものさ。…それでも、とても残念なことだよ。ああ、彼は多くの不義に打たれ苦しみながらも、どうにか善政を敷いた善き王だったとも!」
──そのままマーリンは、ワイにとって縁もゆかりも無い「王」という存在について、少し語った。
アルトリアちゃんは、実は王の実子であり、そのアルトリアちゃんを
そして先日、王の信頼厚き騎士エクター…つまりエクトル卿が、わざわざ王を頼りに訪ねたというのに、その騎士エクターに対して苛烈な処罰を与えてしもうたそうな。はえ~。
マーリンは「まあ、その他にも利権やら陰謀やら何やらの諸々はあったのだけれども、王宮なんていう場所はいつだってそんなものだからね!そこはマルっと省こう!」っちゅうたけど…、そこは本当に省いていい部分なんか?
いや、なんかメチャクチャ長くなりそうやし、別に聞きたいわけでもないけど。
いや、待てよ……王の、実子?
アルトリア。
…どっかで聞いたことがある名前やと、ずっと思っとった。
いいや…こんな天真爛漫な幼女が、そんなまさか。と、疑うことしか出来なかっただけや。
実のところ、その名前はずっと頭のスミで引っかかっとった。
「おや、察しが良いね?その通り、本題としては、そちらの話の方がしたかったところなんだ。キミにとっては見ず知らずの他人でしか無い王の話は、さっさと済ませてしまってね」
+
アルトリアちゃん。
本名を、アルトリア・ペンドラゴンという。
正真正銘、王の血を受け継いだ実子であり、約束された次代の王である。
ウーサー王は、アルトリアちゃんが
…そもそもどうしてエクトル卿に養子として出しとるのかとかはワイにはわからんことやし、王族が下働きってなんや?って思うけど、どうやらせめてもの親心というものである…らしい。
ちなみに、小姓っちゅうのは、いわゆる「騎士見習いの始まり」くらいの扱いで、主君の下で武芸や作法など学ぶ人のことや。
もし7歳になって才能ある者がいたら、これを召し上げて小姓とすることが多い。絶対に7歳ってわけでもなくて、早けりゃ7歳からって感じやね。
ワイとケイ義兄ちゃんもこれと同等の扱いやけど、エクトル卿の領地で言えば「主君の実子」に相当するから、実際にはワイらが小姓扱いされることはない。あくまで、同等の教育を受けるってだけや。
まあ、そんなん関係なく、アルトリアちゃんは毎日のように元気に働いとるけどな。あと、
…せやけど、ウーサー王が暗殺されたことで、事態は変化し事情は大きく変わった。
マーリンが予言?やら何やらで細工を施すらしく、玉座に王が不在となる10年間をなんとか誤魔化すそうやけど、アルトリアちゃんはその10年後からいきなり「最善の王」となる必要に迫られた。
だから、
「これまでもそうではあったのだけど、明日からアルトリアは名実ともに次代の王として育てられるようになる。ワイも、今後はアルトリアのことは、王となる日まではアルトリウスと呼びなさい。村の人達にも、それで通じるようになっているからね」
マーリンは、ウーサー王の暗殺について事前に察知していたらしく、村の中をちょこまかと歩いとったのは、ある細工を施して回るためということもあったらしい。
少女の夢を、夢だったものとして終わらせるための細工。
明日から、村の人達の記憶からは「アルトリア」という少女は居なくなり、「アルトリウス」という少年との触れ合いに置き換わる。…これは、生前のウーサー王との約束でもあったという話や。
「エクトルは全ての事情を知る者だからそのままだし、ケイとアルトリアにも夢の中で事情を説明するよ。その他に、彼の屋敷で暮らす人には、エクトルが事情を説明するだろう。で、ワイには私から警告しておく必要があると思ってね、こうして夢の中にやってきたわけさ」
警告…な。
一応確認なんやけど、どういう警告なんや。
「ワイ。キミはキミなりにこの世界に馴染もうとしたようだし、私もそれを見守ってあげようと決めた。だが、ワイはブリテンにとって明確な異物であり、私の予言にはない
マーリンは、表情を一欠片も変えることなく、ただいつものやたら胡散臭く見える柔和な笑みのまま、そう告げた。
そのまま少し黙り込み、一拍置いて、続く言葉を紡いだ。
「ワイ、キミもアルトリアが善き王になるよう、助けておあげなさい。それが出来るというのなら、私はワイの生涯を祝福すると約束しよう。…さて、急かすようで申し訳ないのだけどね。今この時、この場で、キミがどうしたいのかを決めなさい、ワイ。その答えを聞いて、私もキミを処分するかを決定しよう」
…なんでこう、心臓がキュッとなるっちゅうか、心にも体にも悪い感じのイベントが立て続けにやってくるんやろうなぁ。
まず、マーリンと初対面のときの脅し文句やろ?
それと、白いフワフワに歯茎を剥き出しにされたり、あのブットい角でケツに第二の穴を空けられそうになったりした、思い出すのも恐ろしい花園での日々。
そんで、エクトル卿に預けられた日のこと、そしてなかなか慣れない数日間。
呪いの子だのなんだのと言い捨てられて、そのせいで「もしかしたらマーリンに殺されるんやないか」と思って、眠れずに震えて過ごしたあの日の夜。
バーバ・ヤーガとかいう恐ろしい魔女の話を聞いた時、…さらにその後に、森の中で魔女に出会ったあの時。
まあ、魔女っちゅうか、美女やったんやけどもね。正直、心臓さえ握られんのなら何度でも会いたいわ。
そして先日の、エクトル卿たちが帰ってきて、…みんな憔悴しきっていて、マイヤさんが重症のまま帰ってきた日。
…ワイに人殺しを望んできた連中の、あの目が、今もまだワイの脳裏に恐怖の記憶として焼き付いとる。
で、今。
マーリンは、ワイの答え次第で、ワイを処分するっちゅう話なんやって。あー、一周回って、またマーリンの脅しかぁ。
…ほんのちょっとだけ、なんか息苦しくて面倒くさい人生やなって思った。
もう、処分されてもええんやないやろか?人間、時には諦めも肝心やろ。…って感じで。
でも、ふと、アルトリア・ペンドラゴンという人物についての記憶が脳内で再生されてしまう。
そんなに詳しくはないけれど、どうやら王様になってもあんまりうまくいかんくて、円卓の騎士たちは仲間割れの末に殆ど死んで、アルトリア・ペンドラゴンも非業の死を遂げる。らしい。
ただ美味しそうにむしゃむしゃとご飯を頬張る、あの小さな女の子が。
チャンバラが大好きで、馬の世話が大好きで、日々を穏やかに…とは言いづらいかもなお転婆さんやけど、間違いなく健やかには過ごしとる、アルトリアちゃんが。
王になれば、非業の死を遂げる。
…アルトリアちゃんは、王にならんわけにはイカンのやろか?
だって、マーリンには悪いけど、絶対に…いや、恐らくかなり高い可能性の話で、上手くいかんで。
なんというか、未来予知っちゅうか…本当にそうなるかの確証はないけれども、それはとても悲しくて…残酷な結末になると思うで。
「……うーん、なるほど?とても
…。
……。
それは、……。
「ああ、良かった。そこで言い淀むほどの善性が、ワイの中にもちゃんと存在するんだね。それならば、こう考えてはどうかな?おそらく、運命を変えることが出来るかもしれない存在、ワイ。キミこそが、アルトリアを…王を、キミの予知したという悲運の定めから救うべく、傍で支えれば良いのだ!ってね。…おや?うん、良いじゃないか。それもなかなか、面白そうだ」
…マーリン、お前…こんな話の最中に、面白いかどうかもないやろ…。
「いいや、面白いかどうかはとても大事なことだよ。ワイこそ、いつも少し後ろ向きに考えすぎなのさ。もっと前向きに、なんなら前のめりくらいでも良いけど、ワイ自身の楽しみというものも満たすべきだ。これは一応、私なりの親心としての忠告みたいなものと思って、喜んでくれると嬉しいなあ」
…まあ、一理あるとは言わせてもらうけど、でも今じゃないやろ。
もうやめや、その話は…いい加減、流石にイライラするわ…。
「ああ、そうだね。今するべきはこんな話ではなかった、すまないね。…さて、それじゃあそろそろ答えを聞こうか。ワイ、キミはアルトリアが善き王になることを助けてくれるかい?」
…ワイは、……。
返答の直前、数度の瞬き程度の時間。少し、考えてみる。
正直なところ、アルトリアちゃんが王になるのを協力なんてしたくない。
そんなに詳しくないながらも、アルトリア・ペンドラゴンっちゅう人物が、それこそ聖杯に望む程に「自分以外の誰かが王になるべきだった」と後悔していた、ってことだけは知っとる。
でも、それはワイがここで処分されようがされまいが、変わらぬ運命としてそこにあるっちゅうだけの話でもある。
いや、Fateの本家本元にワイのような異物が存在しとるわけがないんやから、すでに運命の歯車的な何かが狂っててぜんぜん違う未来に辿り着く可能性もゼロではないと思うけども。
そして、マーリンはこうも言うとる。
なんや、めっちゃ強い力のある妖精さんのおかげらしくて、ワイは運命を変えることができるかもしれない存在やってな。
…どうしてブリテンが滅びたのか、その道筋やら原因やらはなんもわからん。
でも、もしかしたら、ワイならアルトリアちゃんの運命を変えてあげられるかもしれん。
そう考えてしまったから、クッソ息苦しいワイの人生を捨ててしまうことよりも、もうちょっとだけ生きたいなって思えてしまった。
+
…んむぉ。もぅ…。もはよう…。
よう、ぽまえら。元気にしとるか?
ワイは寝起きや。しかも、最悪な夢を見た直後の。
…くらっ。全然、まだ朝ですら無いやん。
でも、もう一回寝る気にはなれん。
…今また寝たら、あの花園の中に居そうで嫌や。
…あんまり良くないことやけど、仕方ないからちょっと厨房に入ることにした。
寒いし、温かいもんでも飲もうかなって思ってな。
「…ああ、ワイ兄さん。…おはようございます」
…アルトリア、ちゃん。
暗い厨房の中で…そこに設けられた簡素な椅子に腰掛け、一人静かに水を飲む少女の姿が、そこにはあった。
「あまり良くないことだとは思ったのですが…少し、喉が渇いてしまって。…後でお腹を壊しでもしたら、きっと
…マーリンは、
マーリンが村をうろついて細工を施していた事実も、実はアルトリアちゃんと対面していた(それも全部偽物だったらしいが)という事実も、すべて夢のまま消えて無くなった。
すべての真相を知るエクトル卿と、その細工が全く通用しないらしかったワイだけは、その夢のすべてを覚えて…抱えて、生きていくことになる。
今のアルトリアちゃんは、自らが『理想の王を作る』という目的でつくられた存在だということを知ってしまった、次代の王そのもの。
いいや、始めから知っていたということの方が事実で、むしろこれまでの全ての方が夢だった。
…それが真実であると、そういう事になった。
「…少し早すぎましたが、厨房に足を運んで良かったです。実は、…変な夢を見てしまって、それで少し眠れなくなってしまって…。…でも、ワイ兄さんが来てくれたおかげで、心細さが少し和らぎました。…ありがとうございます」
…そっか。
……そっかぁ…。
ワイは、まだ汲み換えられていない貯め水を鍋で掬い、弱っちぃ魔術の火で静かに火に掛ける。
腹痛にはそれなりによく効くだろうという、ちょっとしたハーブも突っ込んで、それをじっくり煮出すように。
アルトリアちゃんが腹を壊したところなんて見たことはないけれど…朝日が昇って水汲みを始める頃合いになるまで、一緒に居てあげるにはちょうどよい理由になるだろうと思ったから。
アルトリアちゃんの運命に対して、ワイに何が出来るかなんてわからない。
いつか王になるアルトリアちゃんの傍にいるために、今のワイに何が必要なのかなんて、まだほとんど考えてすらいない。
でも、今この瞬間は、こうして傍に居てあげられるのだから。できることから、始めれば良い。
──その日の朝日が昇ってしまえば、そこにはもう、ただの女の子は居なくなる。…夢の終わりを、その最後の瞬間まで、一緒に過ごしてあげることしかできんかった…頼りない兄ちゃんで、すまんやで。
▼花の魔術師マーリン(アーサー王・幼少期編)
ただそこに居るだけで、無意識に周囲に花を咲かせてしまうという、その二つ名は伊達ではないという様子を見せる最高位の魔術師。
本作では、花園以外ではただの一度も、花を咲かせ歩いた描写はない。
最初から、全てが夢幻だったからだ。
(その幻を貫通してマーリン殺害の一歩手前まで成し遂げたモルガンは、さらに異常な存在というだけである)
今回の話でマーリンの語った仕掛けというのは、「夢から目覚めさせるため」のものであり、その前の仕込みはワイが花園に生まれ落ちるよりもずっと前には済んでいたものである。
マーリンはウーサー王の死に際し、『後継者である「赤き竜の化身」が現れ、「白き竜の化身(ヴォーティガーン)」は敗れるだろう(要約)』と予言した。
この予言を元に、各地域の諸王・部族の長や騎士などが、自らが後継者と認められるために力を蓄え、または後継者となれるものを排出するべく人材育成に励むようになる。
…この後継者の出現というやつが「実は最初から出来レースである」ということを知っていたらそんな事するはずはない。
つまり、これがマーリンの言っていた、ちょっとした細工のうちの一つだったりする。
本当に、口先が異常に達者な半夢魔である。予言そのものは本物なので、なおたちが悪い。
これ以降、選定の日が来るその日まで、マーリンは夢の中でのみ現れるようになる。
…というより、始めからずっと、花園以外では夢の中でしか本物は現れたことがない。
選定の日に初めてマーリンはアルトリアと対面することになる。
それ以前に出会っていた記憶は、全て「夢の中でのみ出会っていた」という認識になっている。
これは、マーリンなりに「人間に関わりすぎない」という信条を守るためのセーフティのような仕掛けであり、普通に(人間的な思考で)考えれば行う意味がまったくない。
…マーリン自身がそうしなければならないと考えて実行しただけの、無駄に超高度で無意味極まる大仕掛けである。
それを、「どうせ夢として消える(少女の夢はいつか必ず終わらせる)というのなら、その間くらいは人間に交じったっていいだろう」と考えてしまったがゆえの、そんなマーリンの人間的な部分の夢でもあったようだ。
人間の輪に交じりたかったのなら、マーリンの方こそ素直にそう言えば良いのだ。