ワイ卿、Fate世界の円卓の騎士になる。 作:サーッ・タドコロ
本当に、大変励みになります。
あとすみません、相変わらずちょっと汚いです。
後書きには、作中描写の補足とか入れていこうと思います。
ようお前ら!元気にしとるか?
ワイは(おおむね)元気やで!
エクトル卿の養子になったワイは、ちょっとコスい義兄ちゃんと、お転婆すぎる義妹ちゃんと共に、日々騎士教育を受けとるんや。
そんなワイやけど、今はお義父ちゃん…エクトル卿から「お前も働きなさい」って怒られとるところやで。
ワイは気付かんかった…って言うか見て見ぬ振りしとったけど、ケイ義兄ちゃんも義妹ちゃんも、子供だからって甘えてばかりじゃ無くて、自分にできる仕事を毎日こなしとるようなんやわ。
ケイ義兄ちゃんは身長が高くて力持ちなこともあって、主に薪割りとか敷地内までの荷運びとかやっとる。
義妹ちゃん…アルトリアちゃんは、毎朝の水汲みと馬の世話とかしよる。馬もアルトリアちゃんのこと大好きみたいで適任やね。
で、ワイはとりあえず今日までお目溢しされとったけど、そろそろエクトル卿との生活にも慣れてきたと思ったところで、いい加減に働けって切り出された訳やね。
まあ、働くのは好きやないけど、こんなワイのことを良くしてくれるエクトル卿のためと思えば、ちょっとは頑張ろうかな…って気持ちはあるんよな。
ところで、ワイにできる仕事って何があるんや?
自慢じゃないけど、ワイはホンマに(この世界基準で言えば)カスもいいとこやで。
鉄みたいに意味わからんほど硬い薪を割るとか、一蹴りで10メートルくらいカッ飛ぶバケモノみたいな
かと言って、ちんまいアルトリアちゃんの仕事を奪ってまで水汲みの仕事をするってわけにもなぁ…。
だって、その分アルトリアちゃんが背伸びせんとできん仕事を頑張ったりするわけやろ?可愛いやろなぁ…ああいや、申し訳ないわ。
そんなことをエクトル卿に相談してみたら、ワイでもできそうな仕事を見繕ってもろたで!やったで、工藤!工藤って誰やねん!
ワイでもできそうな仕事、その1。薬草摘み。
この時代のブリテンでは、とにかく眼病と腹痛に悩まされがちらしい。
その治療のために必要な薬草はいくらあっても困らないってことで、探して摘んできて欲しいって話や。
ワイは見本になる薬草をいくつか預かって、そのまま森の中に入って行った。
するとたちまち野犬や野猪や野ゲイザーの群れに囲まれてしまって、死に物狂いで逃げ帰ったわ。
どこがワイにもできる仕事やねん、あんなんケイ義兄ちゃんでもワンチャン死ぬやろ。
いきなりの大失敗でガチ凹みしながらエクトル卿に報告しに行き、無事で良かったと頭を撫でられた。
訓練の時は厳しいのに、こういう時は「もっとしっかりしろ!」とは言わずにただ優しく慰めてくれる。
そんなお義父ちゃんの優しさにちょっとだけ涙がちょちょぎれてもうてな…「男児がそう易々と泣くんじゃない!」ってバケモンみたいなゲンコツ食らったわ。
なんで野犬とかの群れに襲われた時より死にそうな目にあっとんねん。
ワイでもできそうな仕事、その2。料理。
エクトル卿のお宅では、日々の料理は雇いの者が作るか、エクトル卿、もしくはケイ義兄ちゃんが作っとる。
土地と領民を守るために出兵の頻度が多く、野営で料理する機会も自然と発生しやすいので、料理も騎士教育の一環みたいな感じで行っとるようや。
まあ、料理って言っても基本的には茹でるばっかりで、ほとんどなんもすることないんよな。
料理そのものより、火の番がメインって感じで、一定の火力を保ちつつ薪木を消費しすぎないように管理するっちゅう訓練ってことやね。
料理に関して…と言うか、火の番に関して、ぶっちゃけワイはそんなに気を張る必要がない。
だってワイなら火の魔術で常に一定の火力を維持できるし、薪木もほぼ不要やからね。
ワイの扱える魔術は、出力そのものはクソしょっぱいけど、ワイ自身の魔力をほとんど全く消耗しないからかなりの長時間維持できる。
ワイが纏ってる加護っちゅう奴を媒介にして発動するんやけど、その加護を起点にして魔術を発動すると、加護の維持のために魔力が即座に補充される。ワイの体からやなくて、多分空気中とかに漂ってるやつから。
魔術の出力を上げすぎると、発動した魔術の持つ魔力をそのまま加護の力で吸い上げ直してしまうせいで上手く発動せん…という仕組みらしい。
が、出力を上げすぎなければ空気中の魔力だけで十分加護の魔力が補充できるから、魔術は掻き消えたりしない。つまり、料理に使う程度の火力であれば維持し続けられるってわけやな。
本当は薪木を扱う訓練の一環と思った方がええんやろうけど、薪木だってタダやないんやし、ワイが無駄に消費してしまうより、魔術の訓練って事にして火の魔術を使う方がええやろな。
火の扱いはそれでいいとして、じゃあ何を作ろうか?って話なんよなぁ。
使える材料は、基本的には豆と野菜と塩漬け肉。あと小麦粉。調味料は塩とハーブ類。
卵も一応あるけど、高級品なので、あんまり手を出したくない。で、魚は全くない。…なんでやろ?
うーん、塩漬け肉は塩っ辛すぎて、正直あんま得意やないんよなあ…。
でも、エクトル卿はもちろん、ケイ義兄ちゃんもアルトリアちゃんも、お肉大好きなんよな。
塩漬け肉だって割と貴重品なのに、それでも毎日ほんのちょっとだけでも料理に加え入れてて、お肉大好きファミリーやでホンマに。
しゃーない、ワイは得意やないってだけやし、塩漬け肉もちゃんと使うか…と思って手を伸ばそうとしたところで、ふとソレに目が留まった。
それは、昨日にエクトル卿が狩ってきた獣から、肉を剥ぎ取った後に残ったもの、獣骨である。
獣骨。その中にある、骨髄。
臭み抜きに少々手間がかかるが、濃厚でトロリとした旨味の塊。
ええやん、これをスープと骨髄ステーキにでもして食べるのはアリなんちゃうん?
ワイは自分の想像のせいで溢れ出した涎を飲み下しながら、獣骨を使いたい旨をエクトル卿に相談してみた。
すると、あとは捨てるだけだったらしいので、そのまま全部使わせてもらう事にした。
エクトル卿からは、「捨てる時はちゃんと決められた場所があるから、確認しに来るんだぞ」とだけ注意されたわ。
うーん、捨てるだけなら骨粉と油かすを混ぜて肥料にでもすればいいのになぁ…油がそこそこ貴重だから、まあまあ非現実的やけども。
+
そうして出来上がった料理がこれや!!
一つは骨髄を煮出して野菜と一緒に煮込む、獣骨コンソメスープ。
それと、ぶっとい骨を縦真っ二つに割って臭み消しのハーブを刷り込み丸焼きにした、骨髄ステーキや!
あと、付け合わせはラディッシュのサラダやで。
残念ながら、パンとかパスタはない。
卵が高級品だし、パン作りに必要な酵母がこの家にないことを今日初めて知ったわ。
そう言えばほとんど食ったことないわ、パン。ゼロってことはないけど、結構レアやね。
それはともかく…ウッヒョー!うんまそー!早く食おうぜコマツゥ!
パクッ…ウッヒョー!うんめェーぞコマツゥ!!
「「「………」」」
…?なんや、みんな、食わんのかいな?
え?こんなの、犬の餌じゃないかって?
マーリンは一体ワイにどんなもん食わせて育ててきたんだ、やと?
いや、そりゃあ骨やけども…あと、マーリンは主に花の蜜か骨と皮がついたままの生肉とか出してきやがるから、あんまりまともなモンは食わせてもらってないけど。
え、お義父ちゃんもケイ義兄ちゃんもいらんって?スープも?ちょ、それじゃあ腹減ってしゃあないやろ…わ、わかったわ、手ぇつけんかった塩漬け肉があるから、それでなんか作り直すわ。
アルトリアちゃんも、悪いけど一旦それ下げるから…え、食うんか!?
「あむっ、あむっ!はふはふ!んむ、んむ…ごくん」
ひぃーっ!?完食してもうた!
え、ええんか…?ほら、周り見てみい、エクトル卿もケイ義兄ちゃんも、ドン引きしすぎて開いた口が塞がっとらんで…。
「…ふぉぉぉぉ…なんと、吐く息まで…!…なんという、なんという…!」
あかん、アルトリアちゃんの目がバチバチにキマって宙を漂っとる。
あとケイ義兄ちゃんは、「え?美味いの?こんな犬の餌が?」って、変なもん出したワイが悪かったから食わんのは構わんけど、その言い方はやめてや。ワイの心は硝子なんやで?
「ふぅ……ええ、ワイ兄さんの言うとおりです。エクトル卿も、ケイ兄さんも、何となく食べたくない気持ちはわかりますが、これも獣の肉だと思えば普通に美味しいですよ?っていうか、食べないというなら私がもらっていいですか?もらいますねありがとうございますあむぅ、んむ、んむ…」
「あ!おい俺のっ…このバカ!勝手に取るんじゃない!」
ちょっ、おおーいっ!?ケイ義兄ちゃんのはともかく、ワイは食わんなんて言っとらんやろ!!
……っていうか、その、どうや。食ってもうたんはしゃーないとして、お味の方は。一応味見はしたんやけどな、ちゃんとお口に合ったやろか?
「んむ、んむ。…ぷは、ふぅ!とても、とても美味しいです!口の中でお肉がとろとろに溶けて、お肉なのに飲み物みたいです!口に含んでいる間はもちろん、飲み込んだ後にお腹の中から立ち上る香りまで美味しくて…口の中いっぱいに幸せが広がります!こんなに美味しいものを食べたのは初めてです!さあエクトル卿、食べないならそれも私が食べてあげますので!お渡しください!」
ああ、流石にお義父ちゃんのは勝手に取ったりしないんやな。
あ、隣でケイ義兄ちゃんが「お前、まだ食う気かよ…」ってちょっとドン引きしとる。
確かに、もう3人前も食っとるやん。食い過ぎやこのわんぱくガキがよぉ…。
でも、美味しそうに食べてくれたことへの嬉しい気持ちに嘘はつけんわ。でへへ…おかわりでも作ったろかな。
「……どれ、あむ…」
「ああ!何をしているのですエクトル卿!?それは私のですよ!」
って、お、お義父ちゃん!?無理に食べんでええて!ちゃんと作り直すから!
あんまり考えとらんかったけど、確かにソレが犬の餌だと思って今の絵面を見たら、なんかもうめっちゃヤバいから!
「…あむ…あむ…あむ…」
「ああ!何をしているのですエクトル卿!私のが!どんどんなくなっています!」
いや、アルトリアちゃんのではないんやけどね。
食い意地張りすぎやろ、ケイ義兄ちゃんがずっとドン引きしとるやん。
「…んむ、んむ…。ふう……いや、美味いな、本当に…ワイ、お前にこんな才能があったとは、驚かされたぞ」
「ああ、私のが…!」
「そ、そんなに?美味しいのか…?」
ケイ義兄ちゃんが、髄が空っぽになった半身の獣骨を凝視しながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。
そのまま視線をゆっくりとワイの方に流して、言いづらそうな表情でボソボソと言葉を零してきた。
「…ワイ、俺の分は?」
「ケイ兄さんは遠慮すると言っていたので私が食べてあげたではないですか?…ふぎゃっ!」
ケイ義兄ちゃんが、無言でアルトリアちゃんの脳天にゲンコツをカマしよった。
アルトリアちゃんも不意打ち気味で食らったせいでモロに受けてしまったみたいで、「ぐあああ!」と呻きながら床に転がりよる。
ちょ…この部屋、土間やから転がったりしたら服が砂だらけになるで…。
「…ワイ、俺の分はまだ作れるか?」
え?
まあ、材料は一応まだ残っとるけど、骨を割らなイカンのと、じっくり火を通す料理やから、ちょい時間かかるで。
それから、作れてあと2食やね。他のはもうすっかりとスープに溶かしてもうたわ。
「ぐうう…っ!ワイ兄さん!ケイ兄さんは遠慮するとハッキリ言っていました!なので私にもう2つ作ってください!」
「言ってねえよ!ふざけんな!ワイ、俺にも作れ!」
「…ワイ、すまんが私にももう一つ頼む」
「なっ、エクトル卿はもう食べたでしょう!今度こそ私に譲るべきです!」
「いい加減にしろこのハラペコ猪!俺からぶんどった挙句、父上にまでたかるな!っていうかお前こそ食いまくってるだろ、食い過ぎだバカ!」
「何を言う!お二人が要らなそうにしているから私が食べると言っているまでです!」
「俺も父上も食うって言ってるだろうが!ワイ、もういいから俺と父上の分を作ってくれ、こいつは食い過ぎだ!ダメ!」
「なっ、なっ!横暴だ!エクトル卿、ケイ兄さんのこのような横暴を許してはなりません!私とエクトル卿でもう1つずつ食べましょう!」
「……2人とも、食事中に騒々しいぞ。静かにしろ。ワイ、とりあえず2食作り始めてもらえるか?どう分けるかは出来上がるまでに私が決めておく」
お義父ちゃんからの指示を受けたワイは、ピリリとした重圧を感じる食卓から逃げるように…しかしソロリソロリと静かに離れ、厨房に立つ。
おーこわ…ケイ義兄ちゃんもアルトリアちゃんも、今頃コンコンと説教されとるんやろな…クワバラ、クワバラ…。
…そういや、言い忘れとったけどな、お義父ちゃん。
お義父ちゃんが残りの分の分け方を決めとくって言ってたけども、実はワイもまだまともに食ってへんことを、ちゃんと忘れないでおいてくれや…。
そんな儚い願いはもちろん届かず、エクトル卿が1つ、ケイ義兄ちゃんとアルトリアちゃんで1つを半分に分けて食べることに決まったらしい。
エクトル卿?ワイの分は?…エクトル卿?なあ、エクトル卿?
…え、とても美味しいって?へ、へへ…ありがとさんやで…。
…なあ、ケイ義兄ちゃん、それワイにも半分だけ…あ、食べるのはや…ハハ…よく味わってや。
あの、アルトリアちゃん…あっ…も、もうない…。
+
ワイが初めて厨房に立った日の、その日の夜。
エクトル卿…お義父ちゃんから内緒話として、二人には…特にアルトリアちゃんには内緒にするようにと釘を刺されたうえで、我が家の台所事情をこっそり教えてもらうことになった。
ケイ義兄ちゃんは薄々感づいていることだとは思うということらしいが、どうやら今のブリテンは徐々に農作物の凶作傾向が進んでいて、今はまだ十分食べていられるけど、数年後にはどうなるかわからん状況らしい。
麦がうまく育たんようになってきてて、代わりに育てることができる野菜を…ブリテン中で半ば協力体制を築いて探しているような状態で、でもそれもあんまり上手くいっとらんようや。
ブリテン全土の凶作の傾向は、野の獣たちも影響を受けていて、飢えた野獣の凶暴化、それに伴って田畑を荒らすという被害も増えて、それらの討伐のために兵や騎士が日夜酷使され続けとる…実は、ずっとずっと、悪循環が続いとったらしい。
飢えた野獣。その話を聞いて、ワイは薬草摘みに出た時のことを…野獣の群れに襲われた時のことを思い出した。
アレも、もしかして今の話に関わっとるんやろか?って。
それについても、エクトル卿はワイの勉強を助けるような丁寧さで、わかりやすい言葉遣いで説明してくれる。
…要約すると、獣っちゅうのは本来はもっと警戒心が強いもんやし、狩人や騎士や兵に追い回された恐怖だって覚えるから、人間を見ても我を忘れて襲いかかるような真似は普通はせんらしい。
…そんなエクトル卿の話を聞いたワイの素直な感想は、不安や。ただただ、不安や。
未来への不安、身近に潜んでいた危険への不安、そんな危険に対してずっと対処してきたっていうお義父ちゃんたちが、いつか大変な目に遭ってしまうのかも…という、漠然とした不安。
不安や。
けど、こうして不安に思うようなことを知って初めて、エクトル卿の…このブリテンに生きる騎士の、本物の優しさを感じ取ったわ。
だから、最初に二人に内緒にするようにと言ったのは、こういう不安を抱かせないためなんやろうなって…言われんでもなんとなくわかる。やっぱお義父ちゃんは、すっごい優しい人なんやなあ。
その上で、敢えてワイにはこうして伝えたのも、苦渋の決断だったんやと思う。
エクトル卿は、厳しくても優しくて、鉄面皮で感情がわかりにくいけど冷徹な人ではない。
こうして涼しげに見える顔を作っていても、その表情の裏に苦悩を覆い隠してるんやろうなっていうのが、言葉の端から…ほんのちょっとだけ言い淀むような仕草から、薄っすらと伝わってくる。
だから…ワイなんて心魂は普通の小市民でしか無いし、こんな話を聞かされたってただただ不安に思うことしかできん小心者やけど。
でも、そんなワイにできることがあると思ったから、この話をしてくれたってことくらい、アホのワイにだって流石にわかる。
だから、ワイも不安を押し殺して、お義父ちゃんの目を真っ直ぐ見つめ返して、ワイにできる仕事がないかって、改めて尋ねた。
…ここで、ワイが胸を張って「自分もお義父ちゃんの助けになる!」ってハッキリ言えんっちゅうね…あくまで自分に何ができそうなのかを聞くことしかできない、そんな小心者のワイを許してや…。
だって、野獣の群れに襲われた記憶が…その時の恐怖がまだ真新しいんやで?
コレでも精一杯やねん、今出せる100パーセントの勇気りんりんでコレやねん。ホンマ堪忍やで…。
で、や。
エクトル卿に、ワイにできる仕事を(当社比で、割と真剣目に)尋ねてみたわけやが、予想通りというか、ワイには食材として活用できるモノがもっと増やせないかを…できれば毎日、色々と試してほしいそうな。
ぶっちゃけ、将来の食糧難がすぐ間近まで迫ってきとるっちゅう状況で、まともに食べられるもんが増えるのはありがたい。
だから、今回みたいに普通なら捨てるようなモノでも、どうにか食べられるもんにできる方法があるなら、そういうのをもっと増やしたいってところまで、既に今のエクトル卿は考えとる。
いきなり獣骨を皿に盛られて出された時は、本当に犬の餌を出されたんだと思って本気で困惑したようやけど、あんなに美味しく食べられるならその見方や考え方を変えるべきだ。って。
…割と会ってすぐくらいの頃から思っとったけど、エクトル卿は騎士としては固い印象がある人やけど、やっぱり人としては柔軟で、でも優柔不断というわけやない。すっごい優秀な人なんやな…。
よっしゃ!そんな凄い人の…そしてワイのお義父ちゃんが、ワイにその仕事が向いてそうだって言ってくれとるんや!
別に前世が料理人だったってわけじゃない…よな?そうだと思うんやけど、それでもワイにできる範囲で頑張ってみるわ!
まあ、とりあえず作ってみたいんは、酵母やな。パン酵母。
普通中世くらいの頃ってパン食文化や無いんか?なんでパン酵母くらい置いて無いねん。
…ちゅう疑問を、一応エクトル卿に尋ねてみたら、なんやパン酵母…というかパンの製法そのものが、その領地や貴族の資産というか秘匿技術らしい。
エクトル卿の領地では、残念ながらパン酵母の生成法は確保できておらず、他領からパン種かパン自体を購入せなあかんらしい。
パン酵母を購入しないのは、酵母があってもパンを作るための製法がわからんから、パン種を買って焼くくらいしかできんってことらしいな。
……アホか!?!?食糧難が間近に迫ってるって言うとるのに、ソレをまだ秘密にしとる奴がおるってことか!?未来の食糧難のためにブリテン中が協力体制を築いていたんやないん!?
領地運営のために、パンの製法を守り抜いている領地もあるから、そこまで無理強いはできない…ちゅうのは、わからんでもないけどな…。
待てよ、じゃあ仮にワイがパン酵母を作ったり、パンが作れるって言って、その製法やらをブリテン中に知らしめたりしちゃったら、そういう領地のことはどうなるんや?
…報復を受けるのは間違いない?領内だけで消費するなら問題ないけど、一般公開はするべきじゃない?…そ、そんなアホな…いや、言わんとしてることは理解できなくないけど、国の危機やろ…?
え?その通りで、ブリテン全土の問題とは言え、自領こそが守るべき国だから、自国を守れなくなるからこそパン製法を秘匿してる…って?
…そ、そうか。そう言われてみればワイのにわか知識やけど、こういう中世の貴族社会みたいなのって、大きな国として一つでまとまってるんや無くて、小さな国が一つの共栄圏として纏まってるだけって感じだったような…。
大きな国を活かすための小国やなくて、小国が生きるための大きな国という集まりなんや。自国の利益が、生存圏が脅かされるなら、大きな国としてのトップにも反逆するようになるのが、いわゆる中世の裏切り仕草…って感じやしな。
う~ん。あかん、現代の…今から1500年は先の価値観が頭ん中に焼き付いとるワイには、食糧難の危機に対して本当に手をつなぎあって協力しよう!…ってのができないのは、正直違和感しか無いわ。
でも、だからってワイの一存で勝手なことしたらエクトル卿にすんごい迷惑をかけるだけやろうし、そもそもエクトル卿が協力してくれへんのならワイがブリテン中にパンの製法を広める方法なんて無いし、杞憂やったな。
ともかくや、自領で消費するだけなら問題ないっちゅうなら、ワイはパンを作るで!パン・パ・パン♡
ちなみにパンが作れんのになんで小麦粉はあるんや?と思ってソレについて聞いてみたら、
え?ところでなんでワイはパン酵母の作り方もパンの製法も知ってるんだ。って?
…あれ、なんでやろ?作ったことがあるんやと思うんやけど…よく考えたら普通はパン酵母なんて自作せん…よな?
ま、まあ、多分大丈夫や、作れるはず。うん。
…でも大丈夫やろか、パン酵母って下手したらめっちゃカビるんやないっけ?しかも、初心者だとソレが酵母の発酵臭なのかカビ臭なのかわからんから、使えるもんができるかもわからん…みたいな…。
……うっ、エクトル卿の眼差しから、期待しているって感じの輝きみたいなもんを感じる…。が、頑張るで!
──そんなエクトル卿の期待の眼差しを受けて、新たにもう一つの不安を背負うことになったワイやけど…ネタバレすると、これから作ることになるパン酵母もパンもちゃんと上手くいくんや。まずは一つ安心やね。
+
後日。
…ワイが初めて厨房に立った、その次の日。とも言う。
「ワイ兄さん!あなたの仕事は私が代わりますから!兄さんは厨房へ!」
「やめろバカ猪!…ワイ、必要な食材があれば俺が運ぶから遠慮なく呼ぶんだ、小麦とか、小麦とか。あと味見も手伝うぞ」
「あ!ずるいですよケイ兄さん!私も、私も荷運びをします!」
「フッ…アルトリア、お前は馬の世話があるだろう?さ、早く行きなさい。シッシッ」
「なっ、なっ…!いくらケイ兄さんと言えど、そのような横暴は断じて許せるものではありません!剣を取りなさい!勝者がワイ兄さんの作るパンの味見を、そして荷運びをするのです!」
「フハハハハ!その必要はない!いつも通りの仕事をしようじゃないかアルトリア、フハハハハ!」
「なあああ!?け、剣を取りなさい!ほら!…ぬうう、むあああああ!」
…味見が必要になったら二人共呼ぶから、チャンバラするなら他所でやってや。
ここ、トイレの前やで。そんでワイはトイレ掃除の真っ最中やぞ。
っていうか、ワイを今すぐ厨房送りにしたいなら、どっちかトイレ掃除代わ
「ワイ、俺は仕事に戻る。味見の時は呼ぶんだぞぉーっ!」
「ワイ兄さん、美味しいパンを!美味しいパンを焼いてくださいねぇーっ!」
ってや。
…いや、セリフも足もはっやいなお前ら!
ギリギリ聞き取れるかどうかの速さで喋るのがお上手やね、ワイが普段から早口で会話するタイプのオタクやなかったら多分聞き取れんかったわ。…オタクってなんや?
っていうか、アルトリアちゃんはともかく、ケイ義兄ちゃんは手のひら返しすぎやん。
…ん?っていうか勢いに流されてスルーしちゃったけど、アルトリアちゃんもワイの仕事を代わってくれるとか最初に言ってたような?…おーい、なんで逃げとんねーん。
…フッ、ほんま、調子の良い奴らやで。
どっから聞きつけたんか…いや、ワイはまだパンのことをお義父ちゃんにしか話とらんから、お義父ちゃんがポロッとパンのことを話したんやろうけど。
でも、まあ…マーリンと暮らしてた時よりは、賑やかで楽しいからええけどな。あの白い珍獣に威嚇される心配もないし…。
(──フォヴヴヴヴヴヴヴヴヴルルゥッ──)
…!?
な、なんや、今一瞬強烈な悪寒が…。
あと獣の唸り声みたいなのが聞こえた気がしたんやが…。
こ、こわぁ…ここがトイレで良かったわ…掃除のついでにおしっこ出しとこ…。
──こうして、一悶着ありつつ、ワイは一芸を発揮してエクトル卿のお宅で料理番として厨房を取り仕切るようになったって訳や。
▼子どもたちの仕事
・ケイ
主には、「薪割り」「荷運び」「エクトル卿に着いていって狩猟の手伝い」など。
この時代のブリタニアの木材というと、主流はオーク(ヨーロッパナラ、または樫)であり、基本的な材質としては木目が綺麗かつ程よい硬さで加工しやすい…つまり、作中描写にあるように「鉄のように硬い」ということは、本来ありえない。
ただし、この時代はまだ自然の中に多くの神秘の色が残っているため、神話の時代に語られるオーク木としての性質が強くでている。
…通称「雷神の木」、強さの象徴であり、雷を引き寄せやすい。
転じて、鉄のような性質を帯びている。
凄まじい馬鹿力か、魔力操作で木材の神秘を剥がすなど、コツが分かればあまり苦労せずにパカパカ割れる。
・アルトリア
主には、「水汲み」「馬の世話」「薬草摘み」など。
作中ではワイが薬草摘みをしに行って大失敗したが、普通はそこまで大失敗するような仕事ではない。
アルトリアは剣術に優れワイより自衛できるとは言え、あんなに大量の獣に襲われることは普通ではない。
なので、薬草摘みは今後も主にアルトリアが行うようだ。
恐慌の兆候が強まっているという背景もあるが、ワイの不運…のような何かが、異常だっただけである。
・ワイ
主には、「料理番」「トイレ掃除」「大工」など。
作中で描写したように、料理番とトイレ掃除に加え、大工…個人レベルの木工仕事を請け負うことになった。
今回は描写しなかったが、そもそも掃除していたトイレを作ったのがワイである。
現代の価値観を持つワイには、排泄用のスペースに野糞同然に糞尿を垂れ流して、そんな場所に放置された枯れ藁をケツ拭きにする…ということに耐えられなかったので、すぐに便座式トイレを作った。
また、ワイ自身はケツ拭きの際に水の魔術をウォシュレット代わりにしている。
他の人は、最初は枯れ藁を持ち込んでいたが、ワイが水の魔術でケツを洗っていたことがバレて、それも便利だからなんとか魔術無しでできるようにしなさい…という無茶振りを受けている。
この頃はまだ魔術なしウォシュレットは実用化できていない。
なお、マーリンの花園での生活では、排泄後の糞尿をマーリンが魔術で綺麗な花に変えてくれたり、そこら中に綺麗な葉っぱがあったのでまだ我慢できていただけ。
作ったトイレは概ね好評で、掃除の際にかなりの手間はかかる(糞尿を貯めた瓶を運び出してから中身を掻き出し、臭いに耐えながら洗う必要がある)が、排便中はかなり衛生的で不快感が少ないことから、エクトル卿の目線で言うところの「ワイ式・排泄用個室」は自領の特産品として流通させるかもしれないと、既に話が進んでいる。
…できれば、ウォシュレットが開発できる前に一度流通させ、ウォシュレット開発成功後に新型としてもう一度流通させることができたら…と、ひっそり目論んでいたり。
遠い未来でワイが錬金術師(発明家)として名を知られることになる、その最初期で最も有名な発明品が「便座式トイレ」になってしまった瞬間でもある。
ちなみに、現代型の水洗トイレ(フラッシュトイレ)を発明した人もイギリス人だったりします。トイレに縁深い国ですね。