ワイ卿、Fate世界の円卓の騎士になる。 作:サーッ・タドコロ
ワイくんのストーリーにはなんにも影響しませんが、感想で気になされている方が多そうな裏話の部分になります。
サーヴァント「ライダー・妖精モルガン」の見る夢、とても小さな春の記憶の欠片。
※注意
・騎士エクターのフォークロアなど、捏造いっぱいです。雰囲気でお読みください。
・タグの「FGO」要素が強い話です。未プレイの方には馴染みのない表現がでます。
・追記:すみません、実際はNTRではなくもう少し事情があるのですが、描写的にNTRに見えます。注意が遅くてホンマすみません…。
目覚めると、そこは見知らぬ暗い森の中だった。
礼装のお陰か、それともこの空間がそうであるのか、静かな冷気の気配が漂うのに、寒さは感じない。
「…目覚めたようだな」
声がする方に視線を向ける。
黒い
今発生している特異点の解決に協力してくれている、現地のサーヴァントだ。
「気づいているだろうが、これは私の夢だ。私が
モルガンを名乗るその少女は、自分が知っている女王様よりも、かなり幼く、そして厳しい性格をしている。
言葉の一つ一つが鋭いトゲのようで、拒絶の意思が伝わってくる。
「…チッ、あくまで貴様が
「仕方ない…放っておいても死にはしないだろうが、念の為だ、着いてこい」
「これを解体するための
苛立つ様子を隠さない妖精の少女は、そう言うやいなや、自分を置き去りするようにして先を歩いていってしまう。
慌てて立ち上がり、少女の後をついて行った。
+
『やれやれ、乱暴者のモルガンめ、やはり我慢がきかなかったか』
最初に見つけたのは、お腹にポッカリと大穴が空いた、マーリンの
腰の左右でわずかに
傷口だけはどう見ても致命傷にしか見えないが…よく見ればマーリンはその巨大な傷口を、少しずつなにかの魔術で埋めているように見える。
「フン…この人でなしは、くだらない話術と幻術だけなら私すら凌ぐ」
「これは世界を欺き、自らの死と生を詐称する、この人でなしの奥の手の一つだろう。…そうして世界を騙している間に、少しずつ肉体を繋ぎ合わせていたようだな」
「あの時、ここまで追い詰めていたというのなら、そのまま帰ったりなどせずにトドメを刺しておけばよかったな」
ただただ機嫌が悪そうに、なんでもないことのように、思い出を語るように、少女が独白する。
自らの見る夢だと語りながら、この光景を見たことがなかったと話すその言葉に、奇妙な違和感を覚える。
「こんなどうでもいいものが、一応は欠片の一つのようだな…」
「…いや、いらん。解体するとは言え、
黒衣の少女はそう言って、自分と半死体をその場に残し、さっさと次の目的地らしい方へと向かってしまった。
『キミ、彼女のマスターになったのかい?』
すると、まるで二人きりになったタイミングを見計らったかのように、半死体が話しかけてきた。
こちらがギョッとして固まっているところに、半死体はカラカラと笑いながら続きの言葉を垂れ流す。
『ハハハ、そりゃあ私は夢魔だからね。こういう
『それにしても、そうか。まさか、彼女がこういう形でサーヴァントとして召喚されることになったとはね』
『今の私では知り得ないものなんだろうけど、このときの私が夢に現れたということは…もしかして、彼女は
彼。それは一体誰なのだろう。
モルガンを名乗る黒衣の少女は、何も語らないのだ。
『ああ、名も知らぬキミ。…いや、もしかしていつか縁があるのかもしれないが、そこはそれ。今の私はキミを知らないからね!』
『そんなキミは、彼女が何者かを知っているかい?』
何者か。少女は自らを、妖精モルガンだと名乗った。
霊基パターンも、カルデアのデータバンクに記録されているモルガンのものと概ね一致した。
解析班からの調査の結果、クラスは
…だが、戦闘方法は魔術による支援と魔術攻撃である。
攻撃に用いるために獣を呼び集めることはあっても、獣に騎乗することはない。
『そうじゃない。彼女の来歴、逸話、伝承…つまり、彼女は
続きの言葉が吐き出される前に、半死体は魔術弾の一撃により、ただ景色に溶けていくだけの白い塵となって霧散した。
「チッ、他人の夢の中に入り込み、その当人以外と影でコソコソお喋りとはな」
「隠れての謀略に、覗き見に、
いつの間にか戻ってきていた黒衣の少女は苛立ちのままに、霧散していく光の塵に向かって言い捨てた。
「そんな
「…貴様も、着いてこないつもりなら構わんがな、
「貴様程度の魔力と神秘では、夢の中に取り込まれたまま、抜け出せなくなるかもしれん」
「死にはしないだろうが、それを覚悟したうえで立ち止まることだ。…忠告はしたぞ、これ以上は言わん」
黒衣の少女はまた、さっさと歩き出していく。
今度はさらに慌てて、さっきより少し距離を詰めるようにして、その後ろ姿を追いかけた。
+
『なぜ森の中にあの子を置いてきた』
『申し訳ございません…ですが、エクター様の、この地のためを想ってのことでございます』
次の場面では、岩のように膨らんだ筋肉に覆われ、さらにその上に光が反射しないほど鈍く擦り切れだらけになった鎧を纏う、無骨な騎士。
眼前には、その騎士を敬うように膝をつき頭を垂れる、もう一人の騎士の姿がある。
『彼の言うとおりです、エクター』
そこに、一人の女性の姿が加わる。
目元にほんの少しの皺が見られるが、年齢不詳というべき大人の女性だ。
『夫人…お体を冷やします、どうか中へ…』
『エクター、彼の言うことは間違ってなどおりません、どうかお聞き納めてくださいまし』
『……』
そこで繰り広げられた群像劇は、痴情のもつれと言うにはあまりにも静かで、一方的だった。
群像劇の進行に合わせ、黒衣の少女は懐かしむような様子で独白を零す。
「ああ、愚かしいな、騎士エクターよ、エクトル卿よ」
「お前の守りたいものは、いつもこうして、お前以外の誰かに決められた」
「あの裏切り者も、人でなしも、貴様に面倒事ばかり押し付けて、それを正しいのだと言いくるめ、…しかし、貴様はただ愚直に応えた」
「騎士としてよく働き、この
「…実に愚かであった。だが騎士として、よくも正しい道を歩み抜いたものだと、私だけは認めてやろう」
──。
騎士エクターには、義理の息子が居た。
不屈の歩み。滅びの種。■■の子。黒き■。
いつか、緑の外套の■■とも呼ば■■それは、■■■居■。
否。
予言の子、アーサーの養父。それが、騎士エクターなのだ。
騎士エクターには、
「違う」
黒衣の少女が、苛立ちを隠さず吐き捨てる。
「騎士エクターには義理の息子が居た」
「
黒衣の少女から、怒気と共に、魔力の奔流が迸る。
チリチリと空気を鳴らし、怒りのままに圧を広げる。
眼の前の幻影が、何の反応も示さないのだとわかっていても。
「不愉快だ。不愉快極まる。こんなものは不要だ」
「…だが、騎士エクターの呆れる果てるほどの愚直さに免じ、消し飛ばさずにおいてやる」
「こんなものを、私の夢の解体に用いるなど、不愉快だ」
黒衣の少女は、怒気を撒き散らしながら、次の場面へと勝手に進む。
置いていかれないように、しかしその怒気に巻き込まれ怪我などしないように、今度は適度に距離を空ける。
…ふと、視界の端に、背の高い男と、小さな女の子の姿が映った。
男の方は、なんとも言えないような、苦み走った顔で群像劇を眺めている。
女の子の方は、少し悲しそうな顔で、…しかし、それは諦めるべき光景だとでも言うような様子で、静かに顛末を見届けている。
『…こうなれば、そのうちマーリンが来るだろう。…マーリンが来たなら相談し、それからなるべく早くに、もう一度森に入ろう』
『エクター!!』
黒衣の少女に着いていきながら、背後へと遠のいていく群像劇の声の一部が、わずかに耳に届いてきた。
+
『やあ、乱暴者のモルガン。
「…これも不要だ、次へ行くぞ」
次の場面では、一つの部屋の中。
騎士エクターと呼ばれていた無骨な騎士と、少し前に消し飛ばされたはずのマーリンが、机を一つ挟んで向かい合い座っている。
…視界の端には、背の高い男と小さな女の子が、隠れて覗き見しているようで、全然隠れているように見えない姿が確認できる。
『そうかい?キミにだって興味のある話じゃないかな、彼の知られざる過去というやつだよ』
「ほざくな、私に覗き趣味はない。そも、私には私の思い出がある。ここまでに至る全てが、私には不要だ」
『まあまあ、ちょっと落ち着きなさい。これでも私だって、あの子の養父だった
「なおさらこの場にいる価値がないということだろう。貴様のために時間を割くことこそが、この世界で最も不要な徒労だ」
「…これ以上ここに居たところで、この人でなしが口車で転がそうと仕向けるだけだろう。行くぞ、次だ」
黒衣の少女は、そう言って取りつく島もないままに、その場を離れようと移動する。
自分も少女についていかねばと、少し慌てて後を追う。
『あの子はどこに行ったのか、私でも分からなくてね。モルガンは恐らく、
部屋を出ようと、扉を通り抜ける間際。
背中から、マーリンの声が投げられてくる。
『では、どうにもならんということか…』
『相手が悪かった。モルガンがここまで執着を見せるのは、私としても予想外だった。しかしそれを予想できなかった、私の落ち度ではあるだろう』
『…いや、マーリンが居なければ、もっと早くに襲われていただろう。不自然に、獣の群れに襲われたという話も聞いていた』
『だろうね。しかし…こうなってしまえば、どうなるかはモルガンの気まぐれ次第だろう。まったく、どこに連れて行ったのやら。あのモルガンのことだ、どこかに捨ててしまっているかもしれないしなぁ…ほんと、困ったものだよ』
『…そうか……そうか…』
部屋を通り抜けると、背の高い男と小さな女の子が、残念そうに…悲しそうな顔で目を伏せているのが、一瞬だけ視界の端に映り込んだ。
二人の様子が気になったが、その間にも黒衣の少女はずんずんと先へ行ってしまう。
その後ろを、ただ追いかけ続けることしか出来ない。
+
『■の具合は、■■■かいな?』
『────』
次の場面は、暗く深い森の中。
黒い
どちらもそれぞれ、何かの言葉を発しているようだが、上手く聞き取れない。
片方は、所々の音が沈むように消えて歯抜けに聞こえ、もう片方は、言葉のすべてがノイズとなって嵐が吹き荒れているかのようだ。
「…………」
黒衣の少女は立ち止まり、ただその光景をじっと見つめている。
静かに、何かを確かめるように。
『じゃあ、お■は空かんか?…あ、ハイ、■■ますぅ…』
『────』
『うん?…うーん、■■かぁ。ホントのところ、その■■ちゅう在り方が■■にはまだようわからんけど……きっと■かの■に■■■■■ことなん■■■ぁ~って■■■■■』
『────』
『■■■■■■■■■■■■■■■』
深く沈むような、空洞のような無音が響く。
その無音に、悍ましく吹き荒れる嵐のようなノイズが返される。
「…………」
黒衣の少女は、黒い靄に、静かに手を伸ばす。
壊れそうなものを扱うような、
『触れるな。』
瞬間。
嵐が叫んだ。
立っていられないほどの暴威が、全身を殴りつけてくる。
─ BATTLE 1/1 ─
Enemy 残り2体
凄まじい音が。風が。雷光が。礫が。
何もかもが、拒絶の意志を持って打ち付けられる。
「黙れ。これは私の
『煩い。黙れ。触れるな。邪魔だ。消えろ。』
ただその場にうずくまることしか出来ない。それほどに荒れ狂う嵐だ。
そんな中、腕に、脚に、顔に、あらゆる部位に薄く裂傷を走らせていきながらも、黒衣の少女はなおも黒い靄へと手を伸ばしていく。
『要らない。奪うな。黙れ。こんなもの不要だ。陳腐だ。死ね。取るに足らない。興味など無い。やめろ。』
「…その通りだ」
黒い靄を掴んだ少女は、掻き消えていく靄を手放さないようにと、固く、固く、握りしめる。
しかし、少女の望みは叶わない。靄の一欠片すら、その手の内には残らない。
「私には、不要であるべきだった」
少女は握りしめた手を開き、吹き荒れる嵐を手の一振りで掻き消した。
─ BATTLE FINISH ─
さきほどまで暴れ狂っていた暴威は一瞬で消え去り、代わりに少女の手の上に、か細く光る魔力塊が浮いている。
「ああ、ひたすらに不愉快な夢だったな」
黒衣の少女は、手のひらに浮く魔力塊に力を込める。
すぐに、その魔力塊を中心にして、空間に水面の波紋のような歪みが走り、広がっていった。
「すぐにこの夢から抜け出すだろう」
「目覚めたら、バイタルチェックとやらを受けておけ」
「あの人でなしのことだ、余計な干渉をしていても不思議はない…、………」
意識が、波紋の動きに合わせて、歪み、伸びていく。
最後の方は、なんて言っているか、よく聞こえなかった。
▼騎士エクターと従騎士のお話
ワイ卿についてわずかに触れられていると思われる、騎士エクターのフォークロア。
ケイ卿の口述が、誰かに書き残されたもののようだ
これも、ワイ卿の手記の一つである可能性が高いとして、研究が進められている。
+
内容は、現存するアーサー王伝説からは意図的に削ぎ落とされた、アーサー王やケイ卿の幼少期の記録のようである。
騎士エクターの息子の一人が、深い森に取り残され、魔女に攫われたようだ。
しかしそれは、実は騎士エクターの従騎士の仕業であり、騎士エクターのためを想い、呪いの子を捨てたのだという。
騎士エクターは従騎士を叱責したが、その従騎士をエクターの妻が庇い立てしてしまう。
エクターの妻は、その従騎士に騎士の愛を許していた。
騎士エクターもそれを知っていたので、それ以上の叱責をやめた。
後日、魔術師マーリンが騎士エクターを尋ねにやってきて、実はその捨て子はモルガンが攫ってしまったのだという。
それでは待っていても帰ってこないだろうと理解した騎士エクターは、単身でモルガンを探す旅に出る。
一方、自らの忠義が原因で騎士エクターを一人旅立たせてしまった従騎士は、せめて悲しみに暮れる夫人のためとして、騎士エクターの代わりに閨を伴にしてしまう。
その後日、なんと騎士エクターは生きて帰ってきた。
従騎士は正直に、主人が不在の間に夫人と閨を伴にしてしまったことを告白した。
その告白を受けた騎士エクターは、不貞を成したその従騎士を許した。
騎士エクターの息子と娘は、その始めから終わりまでの全てを見て、二度と忘れられなくなったという。
+
これは攫われたのがワイ卿であるという説もあるが、その場合はアーサー王伝説との致命的な矛盾が発生することになる。
矛盾を解消するため、息子がケイ卿であり、攫われたのがアーサー王だったと考えた場合、アーサー王は無事に連れ帰ってこれたことになる。
また、「妹」と記されている存在があるが、これがワイ卿だったのでは?とも考えられている。
ワイ卿の手記には、古英語や崩したルーン文字や魔術的暗号など、とにかくそのままでは読めないような混沌とした文章が並び解読が困難であるため、誤訳になってしまっている可能性が最も高いとされている。
また、それらの考察通りであれば、アーサー王が幼少の頃に魔女モルガンに攫われたこと、さらには呪いの子として捨てられたという明らかに異質な一文があることなど、この話を残すことそのものがアーサー王伝説の瑕疵になることを考えた過去の著者・編纂者・翻訳者の誰かが、意図的にこのシーンを削ったのではないかと考察されている。
アーサー王伝説の幼少期については空白期間が多すぎて不明な部分が多く、そのため「アーサー王は実在しなかった」と言われる原因になったこと考えると、誰かの都合で事実を捻じ曲げて書き残すという行為にはやはり、まことに遺憾の意を示すものである。
なお、この出来事は「ランスロットの不貞騒動」の話にも似ており、アーサー王やモルガンとも関係があるなどの要因もあって、こちらが原本でランスロットのお話はオマージュなのではないか?…という考察もあるが、似たような不貞の物語はこれ以外にも存在するし、ランスロットの物語はこれより状況が複雑だ。
似ている部分はあるだろうが、この説は信憑性が薄いものである。