転生したら、超次元技が存在しない世界だった件!   作:スライみゅ

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第11話 博打の一手、半田の決死のチャンスメイク!!

 

 

雷門中ベンチ。

汗と泥にまみれた選手たちは、誰もが力なく項垂れ、焼けるような喉と肺を抉る荒い吐息だけが、沈黙の中で重なり合う。

得点板に刻まれた「10-0」という無慈悲な数字は、場の空気を凍てつかせ、彼らのプライドを文字通り粉々に打ち砕いていた。

 

「みんな、後半はあいつらを走らせて、体力を消耗させるんだ!」

 

円堂は拳を握り、立ち上がる。

その声は必死の熱を帯びていたが、静まり返ったベンチの中では、空虚な響きを伴っていた。

 

「無理でやんすよ。もうそんな体力残ってないでやんす」

 

「俺ももう走れません」

 

栗松と宍戸が弱音を漏らす。

 

「お前らな! まだ試合は終わってないんだぞ!」

 

「えー、まだやるでやんすか......?」

 

「どのみち、こんな短期間じゃ到底無理な話だったんですよ……」

 

円堂が声を荒らげる。

少林寺くんや栗松くんから漏れるのは、戦うことを放棄したかのような、乾いた諦めの言葉ばかりだった。

 

「……あのな! 勝利の女神がどちらに微笑むのかなんて、最後までやってみなくちゃわからないじゃないか!!そうだろ?なあ、皆!!」

 

それは鼓舞と言うよりも懇願だった。

仲間の心を繋ぎ止めようとする、切実な叫び。

その悲痛な掛け声が、誰の心にも届かぬまま寂しげに土に溶け込もうとしたその時──

 

「──後半は4-3-3(3トップ)のシステムで行くのはどうかな......?」

 

僕はボソッと口を開く。

みんなの視線が一斉に突き刺さる。

笑いそうになるほどガクガクと笑う膝に無理やり力を込め、ゆっくりと立ち上がった。泥にまみれた仲間たちの顔を、一人ひとり真っ直ぐに見据える。

 

「3トップって......そんなの練習したことないだろ……?」

 

半田が疑念を隠さず、険しい表情で問い返す。

 

攻守に優れ安定感のある、雷門が使い慣れた4-4-2の布陣(フォーメーション)とは真逆。

スペースを晒すリスクを承知で、前に人数を割く攻撃的な布陣(フォーメーション)

今のボロボロの雷門には、あまりにも無謀な策だった。

 

「そうだけど……」

 

葦考はカラカラに乾いた喉で、絞り出すように言葉を繋いだ。

 

「でも、何かを変えなきゃ、この点差は広がるだけだよ。かなり無茶な作戦だとは思うけど……点を取るには、前線を増やすしかないと思うんだ」

 

「ちょっと待てよ!」

 

半田が切羽詰まった様子で立ち上がる。

 

「守備の時はどうするんだよ!3トップは確かに今よりも攻撃力は増すかもしれない。でも、サイドの守備が手薄になって、中盤の脇に致命的な(スペース)が生まれる。守備力は下がるのは目に見えてるぞ!」

 

「守備は4-4-2のまま、攻守で形を変える可変システム*1でやるんだよ」

 

「俺たちにそんな高度な動きが出来るわけないだろ!」

 

半田の声は悲鳴に似ていた。

初心者の多い今の雷門に、可変システムはあまりにも過酷すぎる要求だ。ウイングへの負担、中盤のスペース――半田の指摘はどれも正論だった。

だが、その窮地を救ったのは染岡の一言だった。

 

「……いいじゃねぇか。俺は乗るぜ、司場」

 

染岡が、重い腰をゆっくりと上げた。足元はガクガクと笑っているが、その瞳には闘志が戻っていた。

 

「俺と司場がウイングに入る。俺はまだ走れるぜ」

 

「博打すぎる! それに、染岡(おまえ)がウイングをやるなら、CF(トップ)は誰がやるんだよ!」

 

「半田、お前がやれ。このイレブンの中で、俺の次にキープ力があるお前が適任だ」

 

「……っ!?」

 

「どの道、この点差だ。

博打しか方法がねぇなら――やろうぜ、半田!」

 

長い沈黙。

半田は激しく唇を噛み締め、震える肩を抑え込むように地面を見つめていた。

やがて、彼はゆっくりと顔を上げる。

その瞳には、退路を断った覚悟が宿っていた。

 

「……分かったよ。でも、ウイングは俺がやる」

 

「!?」

 

「ウチのストライカーは染岡(お前)だ。一番得点力のある奴がトップに入る。当然だろ?」

 

「だが、半田――お前、足がもう……」

 

半田の膝は、もはや立っているのが不思議なほどに激しく震えていた。

 

「大丈夫。この試合くらいは、持たせてみせる」

 

半田が浮かべた微笑みは、無理をしているのが一目でわかるほどに痛々しかった。

 

「よぉーし!」

 

円堂が、希望を掴み取るように拳を突き上げる。

 

「3トップになる以上、中盤の負担は増える。でも、そこは気合いでカバーだ!絶対に勝つぞぉぉおおお!!」

 

「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」

 

僕たちの呼応が、グラウンド全体に響き渡った。絶望に支配されていたベンチに、新しい風が吹き込む。

 

✤✤✤

 

「後半を開始します。集まってください」

 

審判の声に従い、僕たちはそれぞれのポジションへと散っていく。

その中でも、半田の足取りは、見ていて胸が痛むほど重いものだった。

 

(半田……歩くのも辛いはずなのに、僕が提案したせいで……)

 

僕自身、自分の脚がもう千切れそうなほどパンパンに張っているのを感じていた。

一歩踏み出すたびに、脳髄にまで響くような激痛が走る。

僕でさえこれだ。前半、ボランチとして広範囲をカバーし続けた半田の疲弊は、想像を絶するはずだった。

 

「……は、半田!」

 

たまらず、僕は半田に声をかけた。

 

「なんだよ?」

 

振り返った彼の顔は、酷いものだった。

汗が滝のように流れ落ち、頬は不気味なほどこけている。

 

「......ごめん、僕の作戦で無理させちゃって」

 

「いや......俺の方こそ、悪かったよ.......」

 

返ってきたのは、予想だにしない謝罪だった。

驚きで言葉を失う僕に、半田はどこか吹っ切れたような、それでいて痛々しいほどの微笑みを向ける。

 

「俺、弱気になってたよ。これ以上点差を離されたくなくて、消極的になってた。でも、染岡の言葉で目が覚めた。リスクを冒さない奴に、逆転のチャンスなんて巡ってこないってさ」

 

「半田……」

 

「勝とうぜ、司場!」

 

「……うん!」

 

突き出された拳と拳が、正面からぶつかり合う。

カツン、と乾いた、けれど重みのある音が響いた。

脱水症状寸前の、熱を持った不格好な拳。けれど、そこからは言葉を重ねるよりも雄弁な、熱い信頼と「死線を共にする」覚悟が流れ込んできた。

 

(ありがとう……半田。僕も、もう迷わない)

 

僕は自分のポジションへと踏み出す。

千切れそうなほど重かった脚に、今は不思議と、鉄のような意志の力が宿っていた。

 

✤✤✤

 

ピーッ!!

 

後半開始のホイッスルが鳴り響く。

帝国ボールから始まり、精密機械のようなパスワークが再び雷門を襲う。

だが、その完璧な歯車に唐突な「綻び」が生じた。

 

「──っ!?」

 

グラウンドの僅かな凹み。

大野が受け損ねたボールが、イレギュラーに跳ねる。

 

「──今だっ!」

 

葦考と少林寺が、同時に反応した。

死に物狂いの連動で、帝国からボールを奪取する。

 

「ほう……まさか雷門に奪い返されるとはな」

 

帝国の鬼道(10番)がゴーグルの奥で不敵な笑みを漏らす。

けれど、その余裕に構っている暇はない。

 

「風丸!」

 

「任せろ!」

 

僕は左サイドを切り裂くように駆け上がっていた風丸へ、パスを送る。

風丸はタッチライン際でパスを受け取り、風を切り裂くようにドリブルで駆け上がる。

 

「......洞面」

 

縦への鋭い急襲に対し、鬼道は洞面に指示をする。

指示を受けた洞面は風丸の前に立ちはだかる。

 

「──くっ......」

 

風丸は小柄ながらに強者の雰囲気を感じる洞面と対面し、足を止めた。

 

「風丸、パスを!」

 

「──っ! 司場、頼む!」

 

風丸の右後方にポジショニングした僕に、ボールが戻る。

僕は足元でボールを受け止めた。

そして、逆サイドに視線を送る。

そこには、敵陣深くに陣取った半田の姿があった。

 

(半田……!)

 

僕が放ったサイドチェンジが、帝国の頭上を鮮やかに越えていく。

 

「なに!?」

 

鬼道は驚愕の声を漏らす。

前半はボランチとして中盤を統率していたはずの半田が、今は最前線――右サイドの「WG(ウィング)」として牙を剥いていたからだ。

 

右サイドへ供給された荒れ狂うボールを、半田は吸い付くようなトラップで収める。

 

(──っ! 今日一番のトラップっ!)

 

半田は心の中で叫ぶ。

前のめりにポジショニングしていた左SBの咲山を置き去りにするように、一気に加速した。

 

「くっ……」

 

必死に追う咲山を尻目に、半田はそのままペナルティエリアまでフリーで駆け上がる。

 

「へへっ、通さねぇぜ!」

 

左CBの寺門が即座にカバーへ入り、咲山と連動してボールを奪取しようと半田を挟み込む。

その刹那――

 

(今だ!)

 

半田の身体が、独楽(コマ)のように鋭く回った。

この試合、彼が一度も見せなかった高等技術――マルセイユ・ルーレット*2

 

「なっ......!?」

「マルセイユ・ルーレットだと!?」

 

寺門と咲山は、虚を突かれて体が硬直する。

そんな2人を気にする余裕のない半田は、疲労困憊な足に鞭を打ってゴール前へ進む。

 

「くらえぇぇえええ!!」

 

半田が渾身の力で右脚を振りかぶる。

源田と佐久間が死に物狂いでシュートコースを潰しにかかる。だが、その瞬間──

 

(──まだ、だ……!)

 

シュートはフェイクだった。

軸足を踏み込み、直前でボールを切り返す。

重心を崩した佐久間の背後に、広大なスペースが生まれた。

 

「染岡!」

 

そこへ、凄い勢いで染岡が飛び込んでくる。

半田の放ったクロスが、美しい放物線を描いてその頭上へ吸い込まれる。

 

(ドンピシャだぜ!)

 

(決まる……!!)

 

――その確信が、現実になる直前だった。

 

「正直、驚いたな。まさか俺たち帝国が、お前たちのような弱小チームに虚を突かれるとは」

 

鼓膜を冷たく撫でたのは、鬼道の冷たい声。

染岡が触れるはずだったボールを、いつの間にか最高到達点にいた鬼道が、磁石のようにインターセプトをして奪い去っていた。

 

「──なにっ!?」

 

時間が凍りつく。

鬼道は悠然と着地し、何事もなかったかのようにボールを足元に収めた。

雷門(僕たち)の「博打」が、王者の圧倒的な個の力の前に、霧散した瞬間だった。

 

✤✤✤

 

「少し、肝が冷えたぞ」

 

鬼道のその呟きは、獲物の意外な抵抗への称賛のようだった。

 

──ピーッ!!

 

彼の声に重なるようにして、無慈悲な笛の音がグラウンドに鳴り響く。

 

「半田!!」

 

僕の叫びが、凍りついた空気を切り裂く。

ピッチに倒れ伏した半田は、激痛に顔を歪めながら必死に足首を押さえていた。

 

「キミ、立てるか?」

 

駆け寄った審判の問いに、半田くんは奥歯が砕けんばかりに歯を食いしばり、枯れた声を振り絞った。

 

「大丈夫……大丈夫です! 少し、捻っただけだから――」

 

強引に立ち上がろうとした半田の身体は、逃げ場のない激痛によって再び地面へと崩れ落ちた。

もはや限界だった。精神が肉体を凌駕(誤魔化)し、無理やり動かしていた魔法のような時間は、唐突に終わりを告げたのだ。

 

「悪い、みんな……っ」

 

半田は自分自身の不甲斐なさを叩きつけるように、何度も、何度も地面を拳で打った。乾いた土が舞い、彼の悔しさを物語る。

 

「オレ、ここまでだ……」

 

その声には、やり場のない無念が滲んでいた。僕が提案した「博打」に、彼は文字通りすべてを賭けて、そして燃え尽きたんだ。

 

「謝るなよ、半田!」

 

円堂さんが膝をつき、その震える肩を強く、けれど壊れ物を扱うように優しく抱き寄せた。

 

「お前は十分頑張った。あとは、オレたちに任せろ!」

 

「円堂……」

 

半田の目から溢れた涙が、渇いた土を濡らす。

円堂はゆっくりと立ち上がると、ベンチで固まっている「彼」を見据えて吠えた。

 

「目金! 出番だ!!」

 

目金欠流は、震える膝を隠すように、重い腰を上げた。

 

✤✤✤

 

──ピィィッ!

 

再開のホイッスルと同時に、角間の熱を帯びた実況がグラウンドを叩く。

 

「フッ......あの半田(6番)は交代か」

 

鬼道は、新しく入った目金を一瞥し、ゴミを掃くような冷たさで切り捨てた。

 

「まあいい。遊びはここまでにして――」

 

パチン――

 

鬼道が指を鳴らした。その乾いた音が、帝国の真の姿を解き放つ合図となる。

 

「──そろそろコチラの目的を、果たさせて貰うとしようか」

 

その宣告と共に、帝国の選手たちが一斉にポジションを崩し、蠢き始めた。

守備陣(バックス)攻撃陣(フォワード)、中盤の選手たちが入れ替わり、チーム構成が瞬く間に塗り替えられていく。

それはまるで、巨大なルービックキューブが意志を持って組み替わるような、不気味な光景だった。

 

《NEWフォーメーション 4-3-1-2》

 

【挿絵表示】

 

 

「オマエら……これは、なんの真似だァッ!」

 

 

異様な光景を前に、染岡の眉間に深い皺が刻まれる。

 

「フンッ。言われなければ分からないか」

 

鬼道は鼻で笑い、冷然と見下ろした。

 

「俺たちは、本来のポジションに戻っただけだ。俺たちはこれまで、ポジションを『コンバート』していた」

 

「コンバート……?」

 

葦考の脳裏に絶望的な疑問符が浮かぶ。

 

「お前らのような雑魚にも分かりやすく言ってやろう」

 

鬼道の声が、容赦なく雷門の自尊心を切り裂いていく。

 

「俺たち帝国は、GK以外、一度もやったことのない、あるいはほとんど経験ないポジションでプレーしていた。……お前たちのような弱小相手に、本気で勝負をするとでも思っていたのか?」

 

鬼道の嘲笑が風に乗って響く。

 

「俺たちは絶対王者だ。ただ雷門(弱小校)と試合をするだけではメリットがない。

俺たちは、『課題』を持って、この試合に取り組んでいた。多少慣れるのに時間は掛かったが、それがお前たちにとってはハンデになっていた――ということだ」

 

鬼道の嘲笑が風に乗って響く。

 

(なんだよ、それ......)

 

経験がないポジションで、あの実力差。

同じ高校生のはずなのに。

 

円堂の夢──フットボールフロンティア優勝。

これまで必死に練習して、その夢を叶える為に努力してきた。

 

でも、無理だ。

あと数ヶ月で、この帝国学園を倒す実力を身につけるなんて、絶対に無理だ。

 

葦考の心が、音を立てて折れそうになる。膝が震え、視界が歪んだ。

 

「お喋りはここまでだ。行け――佐久間、寺門。そして──」

 

鬼道がボールを無造作に蹴り上げる。

 

鬼道のゴーグルの奥の視線が、遠く離れた木陰で腕を組む豪炎寺修也を射抜いた。

「──豪炎寺修也(ヤツ)を、引き摺りだせっ!!」

 

それは、サッカーの形をした「狩り」の始まりだった。

 

落下地点に走り込んだ佐久間は、磁石のようにボールを足元に吸い付かせ、一寸の乱れもない完璧なトラップを見せる。

 

その驚異的な技術(スキル)を目の当たりにした瞬間、雷門イレブンは骨の髄まで理解させられた。

鬼道の言葉が、紛れもない事実であることを。

ボールタッチの精度、緩急だけで抜き去るドリブルの質――

本職に戻った彼らは、もはや別の生き物だった。

 

ペナルティエリア外。

寺門と佐久間が同時に踏み込み、ゴールを見据え、ボールをツインシュート*3の要領で同時に足を振り抜く。

 

──ドゴォォオオオ!!

 

大気を切り裂く、聞いたこともないような咆哮のような風切り音と不規則な回転がボールに宿り、衝撃波と共にグラウンドを走る。

そのボールは、寸分の狂いもなく円堂の顔面を直撃した。

 

「!!」

 

円堂は全身の筋肉を硬直させ、必死に踏ん張ろうとする。

だが――

 

「どわっ!?」

 

耐えきれるはずもなかった。

円堂はボールの威力に負けて、そのままゴールネットへと突き刺さった。

 

ドォォン!!

 

激しく揺れるネットの中で、円堂が動かなくなる。

 

「円堂!!」

 

僕の叫びに、心臓が痛いほど跳ねた。

 

「く……うぅ……」

 

円堂のかすかな呻き声に、ようやく胸を撫で下ろす。

だが、地獄はここからだった。

 

「続けろ。......豪炎寺修也(ヤツ)を炙り出すまで続けるんだ」

 

鬼道の合図と共に、帝国の攻撃はスポーツの域を超えた凄惨なラフプレーへと変貌した。

 

「ぐあっ!?」

 

宍戸が腹部にボールを受け、言葉を失って倒れる。

 

「ごはっ!?」

 

マックスの顔面にボールがめり込み、そのまま崩れ落ちる。

 

帝国の選手たちは一歩も引かず、雷門イレブン一人一人を狙い澄まし、ボールという名の凶器で叩き伏せていった。

少林寺が吹き飛ばされ、風丸が地に伏す。壁

山が膝をつき、影野が苦痛に悶える。

後半開始から15分が経過する頃、点差は18対0。

 

✤✤✤

 

(これが……これが、サッカーなのかよ……)

 

僕は、視界を塞ぐ泥と滲む涙を拭うことさえ忘れていた。

目の前には、仲間たちが地面に這い蹲るように倒れている。

 

「……出てこいよ。さもなければ、あの最後の1人を――叩き潰すぞ!」

 

鬼道は、木影で隠れて試合を見ている豪炎寺に向けてか、まるで死刑宣告と違いの無い脅しを、グラウンド内外で聞こえるように言い放つ。

 

鬼道(10番)の矛先は、もはや円堂のみに向いていた。

ゴールを奪うことなど、帝国にとっては呼吸をするより簡単だ。だからこそ、彼らは最悪の「見せ物(ショー)」を始めた。

わざと枠を外し、ふらつきながらも立ち上がろうとする円堂さんの顔面へ、まるでサンドバッグをなぶるように「弾丸」を浴びせ続ける。

 

ドゴォン!

 

「ぐえっ!?」

 

ドゴォン!

 

「ぐはっ!?」

 

跳ね返るボール。それを無造作にトラップし、さらに重い回転をかけて、再び円堂へと叩き込む。

 

「あ、あいつら……点を取ることが目的じゃない……円堂を潰すことが目的……!」

 

地面に伏したマックスくんの声が、震える吐息となって漏れる。

 

「……ふざけるな」

 

僕の喉の奥から、地を這うような低い声が漏れた。

 

「こんなの……こんなの、サッカーじゃないっ!!」

 

僕の叫びが、重苦しく淀んだピッチの空気を真っ二つに切り裂いた。

ボロボロの身体に鞭で打ち据えて、無理やり起こす。

 

「司場!?」

「司場先輩!?」

「司場さん!?」

 

仲間たちの声が鼓膜を打つ。

けれど、僕は止まらなかった。

帝国の弾丸(シュート)が放たれる。

その弾道へ、僕は円堂を守るように自ら飛び込む。

 

「──っ!?」

 

鬼道のゴーグルの奥の瞳と、一瞬だけ視線が重なった気がした。

 

──ドゴォォオン!!

 

顔面を焼くような激痛。視界が真っ白に爆ぜ、平衡感覚が消失して世界が激しく反転する。

 

決死の覚悟で防いだボールは、残酷にも、鬼道の元へと跳ね返る。

 

(めちゃくちゃだ……人間が出していい威力じゃないだろっ……!)

 

地面に叩きつけられながら、僕は超次元的なシュートの威力に、内心で舌打ちをした。

 

「けほっ、げほっ……ごめん、円堂......ボール、取れなかった......」

 

口の中に広がる鉄の味。

口の中が切れても、僕は力なく、けれど確かに笑ってみせた。

 

「無理をするな、葦考!!」

 

円堂の、怒りにも似た心配の声が響く。

 

「フッ、諦めろ。お前たちでは、俺たちから一点を取ることだって出来はしない」

 

帝国の面々が冷笑を浮かべて見下ろしている。

彼らにとって、僕たちの必死な足掻きは滑稽な喜劇に過ぎないのだろう。

 

膝が笑い、意識が遠のきそうになるのを、口の中に広がる鉄の味で繋ぎ止める。

 

(諦める……? 何をだよ……?)

 

冷たい笑い声が、耳の奥で反響する。

 

(やっと......、やっとの思いで、サッカー部を作れたって言うのに……それを、守ることを、戦うことを"諦めろ"っていうのか......?)

 

ふざけるな。

 

僕は濁った視界をこじ開け、真っ直ぐに鬼道(帝国10番)のゴーグルを睨むように見据える。

 

「ふざけるな……っ」

 

絞り出した声は小さかった。

けれど、僕は拳を、爪が手のひらに食い込み血が滲むほどに強く握りしめる。

 

「──だれが、諦めるかぁっっ!!」

 

その叫びは、グラウンドを支配していた絶望的な静寂を、完膚なきまでに切り裂いた。

喉が裂け、魂が剥き出しになるような咆哮。

 

泥と血にまみれ、立っているのが不思議なほど葦考の身体はボロボロだった。

けれど、その瞳には、決して諦めない不屈の炎が宿っていた。

 

第11話fin

*1
攻撃時と守備時で意図的に異なる陣形(システム)を使い分ける戦術のこと

*2
ボールを足裏でコントロールしながら体を360度回転させることで、相手ディフェンダーのマークを振り切る

*3
2人の選手が同時に1つのボールを蹴り、不規則な回転をかけてシュートする技術

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