転生したら、超次元技が存在しない世界だった件! 作:スライみゅ
尾刈斗高校の校門前。
「……ひぃぃ!!? なんだよココ、不気味にも程があるだろ!! はぁ〜......お清めの塩持ってくればよかった……」
僕は古びたレンガ造りの校門を見て、生まれたての小鹿のように足をガクガクと震わせていた。
目の前にそびえ立つ校舎からは、ホームページで見た以上の禍々しいオーラが漂っている。
隣の春奈も、いつもの天真爛漫な笑顔は消え、緊張した表情を浮かべていた。
「こ、ここに居ても情報は得られません! い、行きますよ、葦考センパイ!」
「ま、待ってよぉぉ」
意を決して、僕たちは校舎へと足を踏み入れた。
✤✤✤
「ああもう! センパイが門の前で駄々こねたせいでもう始まってるじゃないですか!!」
「そんなこと言ったって......」
春奈が苛立ったように文句を言う。
試合は既に前半が終わっており、今は後半が開始して10分を過ぎたあたりだった。
僕たちは防球ネットの陰に隠れ、息を潜めてグラウンドを覗き込もうとしたその時、グラウンドから悲鳴のような声が聞こえた。
『──な、なんだこれ!!?』
「えっ!?」
僕と春奈が顔を見合わせ、慌ててグラウンドへ視線を向けると、そこでは信じられない光景が起きていた。
尾刈斗と対戦していた相手チームの選手たちが、まるで足を地面に張り付けられたように、ピタッとその場に立ち尽くしていたのだ。
『う、動けねぇ!!』
『ち、違う! 足が……地面に張り付いたみたいに、言うことを聞かないんだ!!』
彼らは必死に動こうと脚に力を入れているが、まるで動かない。
対して尾刈斗の選手達は、不気味な笑みを浮かべながら、誰も邪魔する者がいないピッチをゆっくりと歩いてボールを相手ゴールまで運び、彫像のように動けないGKの真横に、ボールをコロコロと転がして得点を決める。
「あれが......噂の、呪い……」
僕はゴクリと息を呑んだ。
必殺技がないはずのこの普通(?)な世界で、突如として目の前に現れたオカルト現象。
明後日、僕たちが戦わなければならないこの不気味なチームの底知れぬ恐ろしさに、僕はただただ体が震えていた。
✤✤✤
ピーッ、ピーッ、ピーーーッ!!
夕闇が濃くなり始めたグラウンドに、試合終了を告げる長いホイッスルが鳴り響いた。
「……終わっ、た……」
僕は防球ネットの陰から、呆然とその光景を見つめていた。
スコアボードには3-2と書かれており、尾刈斗の勝利に終わった。
点差だけ見れば接戦のように見えるだろうが、実際は違う。
僕と春奈がここに来た時──後半10分の時点では、0-2で尾刈斗が負けていた。
だが、そのビハインドを僅か30分で3点巻き返し、尾刈斗は逆転した。
尾刈斗高校の選手たちは、誰一人として息を切らしておらず、勝者の歓喜すら見せずに幽霊のようにゆらゆらと整列している。
対して、負けた対戦校の選手たちは、疲労ではなく「得体の知れない恐怖」に顔を歪め、グラウンドにへたり込んでいた。
✤✤✤
すっかり日が落ちて、僕と春奈は帰り道をトボトボと歩いていたが、その距離はいつもより少しだけ、近い気がした。
街灯がポツリポツリと点灯し始めた道を歩きながら、僕は頭を抱えていた。
「呪いだ……完全に呪いだよアレ……! なんだよアレ!? 相手の動きを止めるって噂だったけど、まさか本当だったなんて......。あんなの、打つどころかボールに触る前に硬直させられたら……豪炎寺くんの大砲みたいなシュートも、染岡の凄いカーブシュートも、意味無いじゃないか!!?」
内心パニックになってまくし立てる僕の横で、春奈は無言のまま、街灯の明かりを頼りに手元のノートパソコンの画面を見つめていた。
いつもなら「しっかりしてください!」と発破をかけてくる彼女の顔色も、今は暗い。
「……春奈?」
「……撮影は、しました。相手選手たちが急に動かなくなった場面もバッチリと......」
春奈はノートパソコンをパタンと閉じ、ギュッと胸に抱きしめた。
「でも、分かりません。さっきから何度も......スローで録画を見返しても原因が分からない。
尾刈斗の選手は誰一人として、彼らに指一本すら触れていないのに、対戦校の全員が、見えない糸で縛られたみたいに硬直してしまう」
「これは、どう対策すればいいんだろう......? 相手のフィジカルが強いとか、足が速いとかなら作戦を立てられるのに......」
足の速い選手なら、ファーストタッチを狙う。ドリブラーなら、複数人で対応してボールを奪う。
そういう『普通のサッカー』の対策ならいくらでもみんなで考えられる。
だけど、『突然全員が動けなくなる呪い』に対する戦術なんて、どんなサッカーの教本にも載ってない。
試合中に塩でも撒くか?
それともお経でも唱えながらドリブルするか?
なんなら、試合前に全員で占い師のところへ行って、お祓いしてもらうか……?
明後日に迫った尾刈斗高校との練習試合。
この理不尽すぎるオカルト現象を前に、僕たちは一体どうやって戦えばいいんだ……。
「……ま、まぁとにかく──」
僕は顔を上げ、震える声に必死に力を込めた。
「明日、部室で円堂たちに報告しよう! 春奈がバッチリ撮ってくれた映像もあるし、みんなで考えれば何か分かるよ、きっと。
(まぁ明日、円堂にこれを報告したとして……『呪いなんて、気合いとサッカーへの愛で吹き飛ばせばなんとかなるぜ!』とか言い出しそうだけど……)」
「……はい」
春奈は重々しくコクリと頷いた。
明日の円堂の無茶苦茶なリアクションを想像して、早くもキリキリと痛み出した胃を抱えながら、僕たちは重い足取りで帰路に就いた。