転生したら、必殺技が存在しない世界だった件!   作:スライみゅ

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原作第4話 ドラゴンが出た!
第20話 2人(ライバル)の衝突とズルい小悪魔(こうはい)の泣き落とし


 

 

【染岡side】

 

尾刈斗(オカルト)高校との練習試合を明後日に控えた、放課後。

 

俺たち雷門高校サッカー部一同は、部室に集まっていた。

 

そして今、全員の視線は円堂の隣に立つ一人の男――豪炎寺修也へ釘付けになっている。

 

つい先日、正式に雷門サッカー部へ加入した豪炎寺。

 

そいつが俺たちと同じユニフォームを着て、当たり前のような顔でそこに立っている。

 

ただそれだけのことが、狭い部室の中に異様な熱気を生み出していた。

 

「すごい……! あの豪炎寺さんが、俺たちと同じユニフォームを着てるなんて!」

 

「これで怖いものなしだね! 豪炎寺さんの加入で、一気に強豪校の仲間入りだ!」

 

「豪炎寺さんが来てくれたなら百人力――いや、一億人力でやんす!」

 

宍戸、少林寺、栗松といった一年生たちが、目を輝かせながら騒いでいる。

 

それも無理はない。

 

少し前まで、部員不足で廃部寸前。

 

帝国学園にはコテンパンに叩きのめされ、どうにか首の皮一枚で部を存続できたような弱小チームだ。

 

そこへ、高校サッカー界でも名の知れた天才ストライカーが加わったのだから。

 

一年の連中が手放しで喜ぶ理由は、俺にだって分かっている。

 

それでも。

 

「ハンッ。たった一人増えたくらいで、お祭り騒ぎしやがって」

 

俺は壁へ背中を預けたまま、腕を組む。

 

口から漏れた声は、自分でも分かるほど低く尖っていた。

 

「雷門には……この俺のシュートがあるじゃねぇか」

 

俺が呟くと、近くにいた円堂が不思議そうに首を傾げた。

 

「どうしたんだよ、染岡。さっきからツンケンして。もっと喜べよ!」

 

俺がなぜ苛立っているのか、本当に分かっていないらしい。

 

円堂はいつもの純粋な笑顔を浮かべ、俺の肩をバンバンと叩いてくる。

 

「豪炎寺に司場、それから染岡! これで雷門のストライカーが三人になるんだぜ?」

 

「……」

 

「帝国から一点をもぎ取った時の三人が、揃ったんだ。こんなに心強いことはないじゃないか!」

 

円堂の言葉に悪気がないことくらい、分かっている。

 

だからこそ、余計に腹が立った。

 

(……確かに、帝国から点を奪ったのはコイツだ)

 

それは認めるしかない。

 

豪炎寺がいなければ、雷門は帝国から一点を奪うことすらできなかっただろう。

 

だが。

 

(だからって、俺が用済みになったわけじゃねぇ)

 

俺は、雷門のエースストライカーだ。

豪炎寺に負けたくなくて必死にボールを蹴り続け、昨日ようやく、俺だけのシュートを掴みかけたんだ。

 

それなのに。

 

豪炎寺が一人入っただけで、全員の目があいつに向いている。

 

(俺のシュートだって、絶対にコイツには負けてねぇ)

 

俺は円堂の手を荒っぽく振り払うと、苛立ちに任せて豪炎寺の前まで歩み寄った。

 

一年生たちの歓声が、ぴたりと止まる。

 

豪炎寺の正面で立ち止まり、俺は顎を突き出すように睨みつけた。

 

「おい、豪炎寺。勘違いするなよ」

 

「……何だ」

 

「雷門のストライカーは、この俺と司場の二人で十分なんだ」

 

部室の空気が張り詰める。

 

「お前の入る隙なんて、これっぽっちもねぇんだよ!!」

 

突然の宣戦布告。

 

しかし豪炎寺は、怒ることも、俺を嘲笑うこともしなかった。

 

ただ、僅かに目を細める。

 

「……そんなことにこだわっているのか」

 

「――っ!」

 

あまりにも淡々とした言葉だった。

 

俺を煽る意図すらない。

 

本気で、どうでもいいことだと思っている。

 

その態度が、何よりも俺の神経を逆撫でした。

 

「そんなことだと……?」

 

頭の中で、何かが切れた。

 

「この野郎……っ!」

 

獣のような唸り声を上げ、俺は豪炎寺の胸ぐらを力任せに掴み上げた。

 

「ちょ、ちょっと染岡! 落ち着いてってば! 暴力はダメだって!」

 

慌てた司場が俺たちの間へ割って入り、俺の腕へ必死にしがみつく。

 

だが、豪炎寺は胸ぐらを掴まれたままでも、表情一つ変えない。

 

ただ静かに、真っ直ぐ俺を見返していた。

 

その揺るぎない態度が、さらに気に食わない。

 

「放せ、司場! 俺はコイツが気に食わねぇんだ!!」

 

「ひっ……!」

 

俺の血走った目に射すくめられ、司場が情けない声を漏らした。

 

それでも腕を放さず、必死に俺を止めようとする。

 

その時だった。

 

「コラーーーッ!!」

 

木野の怒声が、狭い部室中に響き渡った。

 

「尾刈斗高校との試合は明後日なのよ!」

 

「……」

 

「勝てばフットボールフロンティアへの出場が認められる、大事な試合なんじゃない!! 仲間同士でいがみ合ってる場合じゃないでしょうっ!!」

 

木野の剣幕に、部室中が静まり返る。

 

「……チッ」

 

俺は忌々しげに舌打ちをし、豪炎寺の胸ぐらから手を離した。

 

豪炎寺は乱れた襟元を直すと、何事もなかったように俺から視線を外す。

 

その態度すら腹立たしかったが、これ以上続ければ木野に何を言われるか分からない。

 

「ま、まあまあ! 喧嘩はここまでにしてさ!」

 

険悪な空気を無理やり変えるように、円堂が大きな声を出した。

 

「なぁ豪炎寺! 次の相手の尾刈斗高校なんだけど、なんでも試合をした相手が原因不明の高熱を出したり、金縛りに遭ったりするって噂があるらしいんだ」

 

一年生たちは思い出したくないことを思い出したかのように青ざめ、互いに身を寄せ合う。

 

円堂も少し困ったように頭を掻いてから、豪炎寺へ視線を向けた。

 

「豪炎寺は木戸川清修にいた時、尾刈斗と戦ったことないのか? 何か知ってたら教えてくれよ」

 

「……尾刈斗高校か」

 

豪炎寺の声に、部室の空気が僅かに引き締まる。

 

俺もそっぽを向きながら、耳だけはそちらへ傾けていた。

 

豪炎寺は少し考えた後、静かに首を振った。

 

「すまない。名前を聞くのも初めてだ」

 

「ケッ。使えねぇヤツだ」

 

「染岡!」

 

円堂の鋭い声が飛び、俺は再び舌打ちする。

 

だが、豪炎寺ですら知らないという事実に、部室内の空気は一気に重くなった。

 

相手の実力も、戦い方も分からない。

 

分かっているのは、信じるには馬鹿馬鹿しく、無視するには不気味すぎる噂だけ。

 

そんな重苦しい沈黙が落ちた、まさにその時だった。

 

「お困りのようですね!!」

 

扉の向こうから聞こえた明るい声とともに、部室の引き戸が勢いよく開かれた。

 

ガラガラガラッ!!

 

「そういうことなら、この私にお任せください!」

 

扉の前に立っていたのは、自信満々な笑みを浮かべ、胸を張るマネージャー――音無春奈だった。

 

その手には、一冊のメモ帳が握られている。

 

「元新聞部の伝手を使って調べたところ、尾刈斗高校が今日、近隣の高校と非公開の練習試合を行うという情報を掴みました!」

 

「本当か!?」

 

「はい! 今から向かえば、試合開始には十分間に合います!」

 

春奈がメモ帳を掲げ、得意げに笑う。

 

「私が直接尾刈斗高校へ行って、戦い方も選手の特徴も、全部バッチリ偵察してきますよ!」

 

その頼もしい宣言に、円堂や一年生たちの顔が一斉に明るくなった。

 

✤✤✤

 

【葦考side】

 

突如として現れた救世主(春奈)の頼もしい宣言に、部室内へ安堵の空気が広がった。

 

「本当か!? 助かるぜ、音無!」

 

「さすが元新聞部でやんす!」

 

「尾刈斗の秘密を丸裸にしてやるんだね!」

 

「任せてください!」

 

春奈は胸を張り、自信満々に答える。

 

「よーし! 音無が情報を集めてきてくれる間に、俺たちはグラウンドで特訓だ! 行くぞ!!」

 

「「「おおーーっ!!」」」

 

円堂の号令とともに、部員たちはドタドタと嵐のように部室から飛び出していく。

 

染岡も豪炎寺を睨みながら、その後を追っていった。

 

豪炎寺は何も気にした様子を見せず、静かに部室を出ていく。

 

「よし、僕も練習を――」

 

僕も円堂たちに続いて部室を出ようとした、その瞬間。

 

バタンッ!

 

鼻先すれすれのところで、扉が勢いよく閉められた。

 

「うわっ!?」

 

扉を閉めたのは、満面の笑みを浮かべる春奈だった。

 

彼女はそのまま背中で扉を塞ぎ、僕の退路を完全に封鎖する。

 

逃げ道を潰す、見事な守備陣形だった。

 

「な、何……?」

 

「というわけで、葦考センパイ」

 

春奈は両手を背中へ回し、可愛らしく首を傾げる。

 

「偵察、一緒に行きましょう♡」

 

「……はい?」

 

唐突な指名に、間の抜けた声が口から漏れた。

 

「なんで僕!?」

 

思わず裏返った声を上げる。

 

「偵察なら春奈一人で行けばいいだろ! 君、元新聞部でしょ!? 取材はお手の物じゃないか!」

 

「もちろん、情報収集には自信があります」

 

春奈は得意げに腰へ両手を当てる。

 

「でも、サッカーの細かい戦術や選手の動きは、直接試合をする選手が見た方がいいに決まってます!」

 

「うっ……」

 

正論だ。

 

正論すぎて、反論できない。

 

春奈は僕の動揺を見逃さず、ずいいっと顔を近づけてきた。

 

「相手がどこから攻めてくるのか。誰を中心にボールを動かすのか。守備の時にどこへ隙ができるのか」

 

「そ、それは確かに……」

 

「センパイなら、私には気づけないことまで見つけられますよね?」

 

「いや、そんな期待されても……」

 

僕は思わず後ずさる。

 

だが、すぐに背中がロッカーへぶつかった。

 

完全に追い詰められた。

 

「で、でも相手はあの尾刈斗だろ!?」

 

僕は必死に話題を変えるように、震える指を春奈へ向けた。

 

「試合をした相手が高熱を出したり、金縛りに遭ったりする、ヤバいオカルト学校じゃないか!」

 

「噂ですけどね」

 

「噂でも怖いものは怖いんだよぉぉ!!」

 

僕はロッカーへ背中を押しつけながら、生まれたての子鹿のように膝を震わせた。

 

もし本当に、呪いとか幽霊とか、そういう何かで攻撃されたらどうするんだ。

 

僕にはオカルト現象を気合いで吹き飛ばすような根性なんてない。

 

「僕は幽霊とか呪いとか大嫌いなんだ! 無理! 絶対無理だから!」

 

「……へぇ」

 

春奈の声が、すっと一オクターブ低くなった。

 

嫌な予感がする。

 

彼女は部室の机に置かれていたノートパソコンを開くと、慣れた手つきでキーボードを叩き始めた。

 

カチャカチャカチャ――。

 

そして画面を、勢いよく僕の方へ向ける。

 

バンッ!

 

「ひぃっ!?」

 

画面には、薄暗い背景に血のような赤い文字。

 

飛び交うコウモリと、古びた洋館を思わせる校舎の写真。

 

おどろおどろしい雰囲気をこれでもかと詰め込んだ、尾刈斗高校の公式ホームページが映し出されていた。

 

(これのどこが高校の公式ホームページなんだよ!? 新入生を入れる気あるのか!?)

 

「セ・ン・パ・イ……?」

 

「は、はひぃ!!」

 

春奈はジトッとした目で僕を見つめる。

 

「こんな、いかにも呪われそうな不気味な学校へ」

 

「……」

 

「本当に、女の子を、一人で行かせるんですか?」

 

「うっ……」

 

春奈は一言ずつ区切り、僕の良心を正確に突き刺してくる。

 

「で、でも、僕だって怖いものは怖いわけで……」

 

目を泳がせながら、どうにか反論しようとする。

 

その時だった。

 

「……そう、ですか」

 

春奈が、ふっと寂しそうに目を伏せた。

 

先ほどまで僕を追い詰めていた勢いが、嘘のように消える。

 

「センパイ、私と約束してくれましたよね」

 

「え?」

 

「絶対に尾刈斗に勝って、フットボールフロンティアへ出て……私を、お兄ちゃんの前まで連れて行くって」

 

その言葉に、僕は息を呑んだ。

 

「勝つために必要な偵察を嫌がるってことは……」

 

春奈がゆっくりと顔を上げる。

 

「河川敷で言ってくれた言葉は、全部嘘だったんですか……?」

 

「あっ……」

 

「信じてたのに」

 

春奈は唇を僅かに震わせ、僕を見つめた。

 

「ひどいですよ、センパイ……」

 

その瞳には、今にも涙がこぼれそうな薄い膜が張っている。

 

演技かもしれない。

 

いや、たぶん演技だ。

 

この子なら、それくらいやる。

 

それでも。

 

お兄さんの前まで連れて行くという約束を、春奈が本気で信じてくれていることだけは分かってしまった。

 

僕は幽霊も怖い。

 

呪いも嫌だ。

 

今すぐ扉を開けて、円堂たちの後を追いかけたい。

 

だけど。

 

春奈を一人で、あんな不気味な場所へ行かせるなんて。

 

そんなこと、できるはずがなかった。

 

「わぁぁぁぁ、分かった!!」

 

僕は半ば泣きながら、両手を上げた。

 

「行く! 行きますから!! 僕が悪かったから、その捨てられた子犬みたいな目で見るのはやめてくれぇぇぇ!!」

 

僕が完全降伏した、その瞬間。

 

「言質、取りました!」

 

春奈の顔が、一瞬でパァァッと明るくなった。

 

先ほどまでの潤んだ瞳はどこへやら。

 

花が咲いたような満面の笑みを浮かべ、力強くガッツポーズを決める。

 

「さすがセンパイ! 頼りになります! そうと決まれば、さっそく出発しましょう!」

 

「う、嘘泣き……!?」

 

「何のことでしょう?」

 

春奈は悪びれる様子もなく、にっこりと笑う。

 

「さあ、早く行かないと試合が始まっちゃいますよ!」

 

「最初から僕を連れていくつもりだっただろ!?」

 

「もちろんです!」

 

「即答!?」

 

春奈は鼻歌でも歌い出しそうな足取りで、部室の扉を開ける。

 

その小さな背中を見つめながら、僕は深く、深いため息を吐いた。

 

この変わりよう。

 

どうやら僕は、最初から最後まで春奈の手のひらの上だったらしい。

 

それでも。

 

どこか楽しそうに歩く春奈の後ろ姿を見ていると、不思議と本気で断ろうという気持ちは湧いてこなかった。

 

「センパイ、置いていきますよ!」

 

「わ、分かったよ! 今行く!」

 

僕は慌てて鞄を掴み、春奈の後を追いかける。

 

こうして僕たちは、不気味な噂の絶えない尾刈斗高校へ、偵察に向かうことになったのだった。

 

第20話fin

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