転生したら、超次元技が存在しない世界だった件!   作:スライみゅ

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第20話 偵察! 尾刈斗の呪い(うわさ)を探れ!!

 

 

「……ひぃぃ!!? なんだよココ、不気味にも程があるだろ!! 」

 

僕たちが今いる場所は尾刈斗高校の校門前。

その校門柵の酸化した鉄の匂いが鼻を突く。

 

僕はツタの絡まる古びたレンガ造りの校門を見上げて、生まれたての小鹿のように両膝をガクガクと震わせていた。

目の前にそびえ立つ薄暗い校舎からは、陽の光さえも吸い込んでしまうような、得体の知れない禍々しい空気がネットリと漂い出ている。

隣に立つ春奈に視線を移すと、彼女の顔からもいつもの天真爛漫な笑顔は完全に消え失せていた。

ゴクリと息を呑む微かな音が聞こえるほど、その横顔は強張っている。

 

 

「こ、ここに居ても情報は得られません! い、行きますよ、葦考センパイ!」

 

「あ、待ってよぉぉ……!」

 

 

声の震えをごまかすように早足で歩き出した彼女の背中を追って、僕たちは校舎へと足を踏み入れた。

 

 

✤✤✤

 

 

「ああもうっ! センパイが駄々こねたせいで、もう始まってるじゃないですか!!」

 

「そんなこと言ったって……」

 

 

春奈が冷たい視線を向けながら文句を言う。

試合は既に前半が終わり、後半開始から十分を過ぎたあたりだった。

僕たちは防球ネットの陰に身を潜め、試合の撮影を始めた。

 

 

グラウンドからは土を蹴るスパイクの音、選手たちの荒い息遣い、ボールを呼ぶ怒号。

試合を見始めて十分ほど経つが、噂に聞くような不可思議な現象は一切起きない。

そこには――拍子抜けするほど『普通』の光景が広がっていた。

 

 

スコアボードは『0ー2』。尾刈斗高校が劣勢だった。

相手チームがフィジカルと走力で一方的に押し込み、尾刈斗は自陣にすっかり釘付けにされている。まさに「防戦一方」という言葉がこれ以上なく似合う展開だ。

 

 

「なんというか──普通ですね……」

 

「う、うん……。噂の『足が動かなくなる』とか『突風が吹く』とかのオカルト要素は全く見られないし、すごく普通のサッカーだ」

 

「ここから尾刈斗高校が逆転できますかね?」

 

 

春奈の問いに、僕はグラウンド全体を視線を巡らせた。

 

「(残り時間もあと二十分くらいかな? 逆転が不可能な時間帯じゃないけど、ここまで防戦一方だとなぁ……)不可能じゃないけど、かなり厳しいと思うよ。相手のプレスが効いてるし、尾刈斗はボールを奪っても前線に繋ぐカタチが作れてない」

 

「そうですか……」

 

 

春奈とそんな戦況分析を交わしていた、まさにその時だった。

空気が、ふっと凍りついた。

 

 

『──な、なんだこれ!!?』

 

 

グラウンドから悲鳴にも似た絶叫が響き、僕と春奈は弾かれたように顔を見合わせた。

 

 

「「えっ!?」」

 

 

慌ててグラウンドへ視線を戻すと、そこでは僕のこれまでのサッカーの常識を粉々に打ち砕く、信じられない光景が広がっていた。

尾刈斗と対戦していた相手チームの選手たちが、まるで透明なコンクリートで足を地面に固められたように、ピタッとその場に立ち尽くしていたのだ。

 

 

『う、動けねぇ!!』

『 足が……地面に張り付いたみたいに、言うことを聞かないんだ!!』

 

 

彼らは顔を恐怖に歪め、首に青筋を立てて必死に動こうとしている。

だが、無情にも身体はピクリとも動かない。

対する尾刈斗の選手たちは、焦点の合わない不気味な笑みを浮かべながら、誰も邪魔する者がいなくなったピッチをゆっくりと歩き出した。

急ぐ素振りすら見せない。まるで散歩でもするかのような狂気じみた足取りでボールを運び、彫像のように硬直したゴールキーパーの真横へ、嘲笑うかのようにボールをコロコロと転がして得点を決めた。

 

 

「あれが……噂の、呪い……」

 

 

背筋に冷たい氷柱を差し込まれたような悪寒が走り、僕はゴクリと息を呑んだ。

必殺技なんて存在しないはずの、この世界で、突如として目の前に現れた怪奇現象。

明後日、僕たちが戦わなければならない不気味なチームの底知れぬ恐ろしさに、僕はただただ、歯の根が合わなくなるほどの震えを止められずにいた。

 

 

✤✤✤

 

 

ピーッ、ピーッ、ピーーーッ!!

 

 

夕闇がグラウンドの影を長く引き伸ばす頃、試合終了を告げる無機質なホイッスルが鳴り響いた。

 

 

「……終わっ、た……」

 

 

僕は呆然とその光景を見つめていた。

スコアボードに刻まれた数字は『3ー2』。尾刈斗高校の逆転勝利。

点差だけ見れば接戦の末の勝利だが、中身は異常そのものだった。

後半開始20分の時点では、0ー2で尾刈斗が負けていたのだ。

だが、ビハインドを、彼らは僅か20分の間に「歩いて」3点をもぎ取り、ひっくり返した。

 

 

試合を終えた尾刈斗高校の選手たちは、誰一人として息を切らしていない。

汗すらかいておらず、まるで勝って当たり前と表現する様に毅然としていた。

対して、負けた対戦校の選手たちは、肉体的な疲労ではなく「得体の知れない恐怖」に完全に心を折られ、グラウンドに力なくへたり込んでいた。

 

 

✤✤✤

 

 

すっかり日が落ち、辺りは重苦しい夜の闇に包まれていた。

僕と春奈は、ポツリポツリと冷たい光を灯し始めた街灯の下を、トボトボと歩いている。

あまりの衝撃に言葉を交わす余裕すらなく、不気味なほどの静寂が二人の間を支配していた。

 

 

「ハァ…… (相手の動きを止めるって噂だったけど、まさか本当だったなんて……! あんなの、シュートを打つどころかボールに触る前に硬直させられたら、豪炎寺くんや染岡の凄いシュートも、全部意味無いじゃん!!?)」

 

 

重いため息が、夜の空気に白く溶けていく。

頭の中では早口でパニックになりながら、僕は無意識のうちに頭を抱えていた。

普通のサッカーの範疇なら、みんなでならいくらでも対策できる。

だけど、教本にも載っていない『呪い』なんて理不尽に、一体どう立ち向かえばいいんだ。

 

 

僕の横では、春奈が無言のまま歩いている。

手元のビデオカメラの小さなモニターから漏れる青白い光が、彼女の顔を微かに照らし出していた。先程の尾刈斗高校の試合映像を、穴が開くほど食い入るように見つめているのだ。

いつもなら「しっかりしてください、センパイ!」と強気な発破をかけてくる彼女の顔色は、紙のように青ざめ、ギュッと結ばれた唇は微かに震えていた。

 

 

「……春奈?」

 

「……撮影は、しました。相手選手たちが急に動かなくなった場面も、バッチリと……」

 

 

カチッ、と冷たい音を立ててカメラのモニターを閉じると、春奈はそれを両腕でギュッと、壊れ物を守るように強く胸に抱きしめた。

 

 

「でも、分かりません。尾刈斗の選手は誰一人として、相手選手に指一本触れていないのに……対戦校の全員が、見えない糸で縛られたみたいに硬直してしまう……。さっきから何度も……スローで録画を見返しても、なんで動きが止まるのかが、さっぱり分からないんです」

 

 

彼女の瞳の奥にあるのは、単なる怪奇現象への恐怖だけではなかった。

もっと切実で、痛いほどの焦燥感だった。

雷門サッカー部がフットボールフロンティアに出場し、勝ち上がること。

それは彼女にとって、生き別れの兄である鬼道有人と再び向き合うための、絶対に譲れない唯一の切符なのだ。

もし、明後日の練習試合で尾刈斗高校に屈し、フットボールフロンティアへの道をここで閉ざされてしまったら、彼女は二度と兄と真っ直ぐに向き合って話すことができなくなるかもしれない。

 

 

春奈の指先は小さく震えていた。

その震えを見た瞬間、僕の脳裏に、あの日の記憶が鮮烈に蘇った。

彼女に『必ずフットボールフロンティアに出場する』と、『お前を鬼道の目の前まで連れて行く』と、大口を叩いて誓ったあの日の約束。

 

 

(……そうだ。僕は、ビビってていい立場じゃない。この尾刈斗との試合は、あくまで通過点なんだ。これから勝って、勝って、帝国にも勝って、春奈との約束を果たすんだ!)

 

 

彼女に前を向く勇気をあげるって、あいつの目の前まで連れて行くって決めたのは、他でもない僕だ。

ここで僕まで絶望してどうする。

 

 

「……ぜ、絶対、大丈夫だよ──!!」

 

 

少しだけ声が裏返ってしまったけれど、僕は足の震えを気合いでねじ伏せた。

 

 

「明日、部室で円堂たちに報告しよう! 春奈がバッチリ撮ってくれた映像もあるし、みんなで考えれば、絶対に何か分かるよ。絶対大丈夫、僕たちを信じてくれ!」

 

 

僕が力強く胸を張って見せると、春奈はハッとしたように目を見張り、それから強張っていた肩から少しだけ力を抜いて、「……はい!」と小さく、けれど確かに芯のある声で頷き返してくれた。

 

 

(まぁ明日、円堂にこれを報告したとして……『呪いなんて、気合いで吹き飛ばせばるさ! なんとかなるぜ!』とか言い出しそうだけど……)

 

 

どんな絶望的な状況でも絶対に下を向かない、あの熱すぎる親友の顔が脳裏に浮かぶ。

彼の無茶苦茶すぎる、けれど不思議と背中を押されるリアクションを想像して、早くもキリキリと痛み出した胃をさすりながら、僕たちは重い足取りで帰路に就いた。

 

 

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