転生したら、超次元技が存在しない世界だった件!   作:スライみゅ

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第5話 廃部の危機!

 

 

昨晩、僕は一つの確信に辿り着いた......と思う。

この世界は『イナズマイレブン』という物語の鼓動が流れており、あのサッカーバカこと円堂こそが、紛れもない「主人公」なのだと。

 

 

この世界は、あの風変わりな神様が言っていた『舞台(アニメ)』とは、多少カタチが違うのかもしれない。

それでも、止まっていたはずの物語の歯車が、今、確かに音を立てて回り始めている。

 

 

期待と不安が()い交ぜになった高揚感が、脈打つ鼓動に乗って全身を駆け巡る。

 

 

視界に色が――増した感覚だった。

円堂のおかげで色付いた視界が、今はより一層鮮やかになり、突き抜けるような空の青、流れる雲の白、瑞々しい木々の緑。

そのすべてが、祝福を浴びたかのように、初めて見る輝きを放っていた。

 

 

✤✤✤

 

 

昼休み。

僕は校舎の屋上で、購買で買ったメロンパンを噛じりながら、フェンス越しにグラウンドを眺めていた。

いつか、あそこで円堂たちとサッカーを。

そんな「ありふれた夢」に浸っていた時、扉が勢いよく蹴破られた。

 

 

「葦考センパーイ!!」

 

「!?」

 

 

飛び出してきたのは、ウェーブ掛かった青い髪を靡かせ、赤いメガネを頭に掛けた女子生徒。驚きのあまり立ち上がると、手に持っていたメロンパンが宙を舞い、僕はそれを必死に掴み直した。

 

 

「春奈!?」

 

 

彼女は音無春奈。中学時代の後輩だ。

当時、顧問に無理やり入れられた新聞部で、僕が教育係を任されたはずなのに、一週間で僕の三倍の仕事をこなして独り立ちする秀才。

あの帝国学園(偏差値75を誇る超難関校らしい)の外部入試で、合格率10%以下と言われる狭き門を模擬試験A判定を叩き出すような彼女が、なぜか偏差値60の雷門高校(選抜クラス)に入学してきたのだ。

 

「大変なんです! 新聞部の先輩から、とんでもない特ダネを教えてもらったんです」

 

「特ダネ?」

 

 

首を傾げた僕の目に、春奈の唇がわずかに震えているのが映った。

その瞬間、嫌な予感が心臓を冷たく撫でる。

 

 

「葦考センパイ――落ち着いて聞いてください」

 

 

その声には、隠しきれない心配と悲しみが滲んでいた。

 

 

「ウチのサッカー部が──廃部になるかもしれません!」

 

 

✤✤✤

 

 

「は......?」

 

 

言葉の意味が、脳を素通りしていった。

春奈は懐から、しわくちゃになったメモを取り出す。

急いで書き留めたのか、几帳面な彼女には珍しく文字が乱れていた。

 

 

「は、廃部って、なんの冗談だよ! また僕を揶揄ってるのか......?」

 

「揶揄ってなんていません! 本当にサッカー部が廃部の危機なんです!!」

 

 

春奈の「本気」の瞳に射すくめられ、僕はメロンパンを握ったまま固まった。

彼女が貰った情報によれば、ちょうど一週間後、帝国学園サッカー部と雷門サッカー部(うち)で練習試合が組まれたのだという。

 

 

「帝国学園って、たしか春奈が最初に行こうとしてたあの学校か? でも、ウチみたいな人数も揃ってない弱小チームと試合がしたいなんて、帝国のサッカー部もよっぽど暇なんだな。

いや、もしかしてあっちも人数が足りない弱小チームなのか……?」

 

「そんな訳ないじゃないですか! 帝国学園と言えば、サッカーの名門中の名門ですよ! 知らないんですか!?」

 

春奈から帝国学園について教えて貰った。

話を聞くと、どうやらとんでもない学校と練習試合することになったと思う。

 

 

【帝国学園】

サッカーを志す者で、その名を知らぬ者はいない。※らしい。

偏差値70を超える国内屈指の進学校でありながら、学園内には一万人収容のスタジアム。プロ顔負けの設備と運営組織。

世界中から集められた怪物(せんしゅ)たち。

そして何より――フットボールフロンティア40年間無敗という、絶対的な実績。

高校サッカー界の頂点。常勝の『絶対王者』。

 

 

「そ、そんな凄いチームと試合を......。で、でも、ただの練習試合とウチの廃部になんの関係があるのさ!?」

 

「それが......」

 

 

春奈の瞳に、隠しきれない悲痛な色が滲む。

 

 

「もしその試合に負けた場合、サッカー部は廃部にすると校長先生と生徒会長で決まったそうです......」

 

 

頭の中が真っ白になる。

廃部。帝国。一週間。

言葉が鋭い礫となって、頭の中でぐるぐると回り続ける。

 

 

「な、何かの間違いってことは......?」

 

「新聞部の先輩が、偶然校長室の前を通った時に、校長と冬海先生と生徒会長の3人が話しているのを聞いたと言っていたので、間違いないかと……」

 

「……」

 

 

僕は絶句し、思わず「マジか……」と天を仰いだ。

その三人の顔ぶれを聞いて、情報の信憑性は一気に、絶望的なまでのリアリティを帯び始めた。

 

 

日和見主義の校長。

どこか胡散臭い雰囲気を纏ったサッカー部顧問の冬海。

そして、この学校の「絶対的な支配者」として君臨する、あの冷徹な生徒会長。

 

 

「生徒会長が、かなり意欲的になっているようで……『サッカー部に回す予算は無駄。廃部にして、その分を他の有望な部活に回すべきだ』と断言していたらしいんです」

 

「……味方が、一人もいないじゃないか」

 

 

膝から力が抜け、ガクンと折れそうになる。

相手は、フットボールフロンティア40年間無敗の「絶対王者」帝国学園。

対する僕たちは、未経験者の僕を含めて、わずか八人の弱小チーム。

理事会も、顧問も、生徒会も、すべてが僕たちの「死」を望んでいる。

 

 

「無理だよ……勝てるわけないよぉー!」

 

 

風の音が、急に冷たく感じられた。

 

 

「ち、ちなみに11人集まらなかった場合は......?」

 

「──その場合も即刻廃部になるそうです......」

 

「......」

 

 

肺から空気が消え、冷たい水の中に沈んでいくような錯覚。

40年無敗のバケモノに、素人交じりの8人が勝てるわけがない。かといって逃げればその瞬間に部が消える。

 

 

「でも――」

 

 

春奈が、真っ直ぐに僕を見つめる。その瞳には、一切の揺らぎがない。

あまりに強い視線に、僕の思考は一瞬フリーズした。

 

 

「私、葦考センパイなら、何とか出来るって思うんです。」

 

「……は?」

 

 

思わず、間抜けな声が漏れた。

僕が、何とかする?

40年無敗の絶対王者を相手に?

人数すら足りないこの状況を?

サッカーを始めて1年の僕が、この最悪な状況を覆せるわけがない。

僕が周りより優れてるところなんて一つもない、ただの凡人なんだから。

 

 

「だって、葦考センパイは――“諦めない人”ですから」

 

 

――諦めない? 僕が?

 

 

春奈のその言葉に疑問符を浮かべる。

 

 

(僕って......結構諦めの早いタイプだと思うんだけど......)

 

 

僕は前世で「ダメ葦」と蔑まれ、何一つ成し遂げられずに人生を諦めていた人間だ。

転生してからも、去年まで超次元ではない現実(リアル)に絶望して、何もかも諦めて殻に閉じこもっていた。

 

 

(何を言っているんだ、この子は......?)

 

 

円堂と出会って少しはマシになった自覚はある。

でも、根っこの諦め癖なんて、そう簡単に消えるものじゃない。

彼女の瞳は、僕が知らない僕を確信しているように見えた。

 

 

「……よく分からないけど、ありがとう?」

 

 

春奈の言ってることに理解はできない。

正直、納得もいかない。

けれど、気づけば僕は立ち上がっていた。

まだ膝は生まれたての小鹿みたいに震えている。それでも、不思議と力が入った。

無意識にゴミ箱へ投げたメロンパンの袋は、吸い込まれるように中へ落ちる。

 

 

「葦考センパイ、どこへ行くんですか?」

 

「このことを早く円堂に伝えないとだから!」

 

 

僕は屋上の扉へ向かって、全速力で駆け出す。

 

 

キーンコーンカーンコーン……

 

 

昼休みの終わりを告げるチャイムが、無情に屋上を支配した。

 

 

「あっ……」

 

 

どうやら、肝心なところで間が悪いのは、前世から変われていないらしい。

僕は、小さく溜息をついた。

見上げた空には、いつの間にかどんよりとした雲が広がり始めていた。

 

 

第5話fin

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