転生したら、超次元技が存在しない世界だった件!   作:スライみゅ

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第7話 チーム

 

 

「「はぁ〜……」」

 

 

夕暮れの帰り道。

僕と円堂は、部員集めの成果に対して特大のため息を吐いていた。

 

 

勧誘――失敗。

声をかけた生徒――30人以上。

入部希望者――ゼロ。

 

 

「全然ダメだったなー!!」

 

 

円堂が両手を頭の後ろで組み、カラ元気な声を出す。

でも、その声には隠しきれない疲労が滲んでいた。

 

 

「……いや、一人だけいたよ。条件付きだけど......」

 

「え! 本当か!?」

 

 

円堂がバネ仕掛けの人形みたいに飛び上がって、僕の肩を掴む。

 

 

「うん。僕たちと同じ2年の目金欠流くん。『あと一人足りない時に誘って来るなら入ってあげるよ!』だってさ」

 

 

重度のオタク特有の、鼻にかけたような話し方。

何故か上から目線の発言と条件の提示に違和感を感じた。

それに、帰宅部の彼が80分間走りきれる程の体力があるとは到底思えない。

 

 

「でも円堂、彼あまり運動が得意そうには見えなかったよ? 戦力になるとは思えないけど......」

 

 

「入ってくれるだけで万々歳さ! 目金が11人目になるってことは、実質あと二人集めればいいってことなんだからな!

よぉーし! 一歩進んだぞ! チーム完成まであとひと息だぜ!」

 

(そのひと息のハードルが高すぎるだけど......)

 

 

円堂は僕の懸念を気にする様子のない発言に僕は思わず心の中でツッコミを入れてしまった。

 

 

「次は特訓だぁ! 葦考、早速鉄塔広場に行こうぜ!」

 

「ま、待ってよ、円堂!」

 

 

がむしゃらに走り出す円堂の背中を、僕は必死に追いかけた。

 

 

✤✤✤

 

 

「へへへっ、俺の勝ち!」

 

 

鉄塔広場へと続く階段を駆け上がり、円堂が汗だくの顔で笑う。

 

 

「はぁ、はぁ……負けた……」

 

 

膝に手をつき、肺を焼くような空気を吸い込む。心臓の音が耳の奥でうるさく鳴っていた。

でも――不思議と気分は爽快だった。

 

 

「よし、じゃあ負けた葦考は〜――」

 

 

円堂が何かを言いかけた、その時。

僕たちの視線は、ある一点で止まった。

 

 

鉄塔広場の稲妻町を一望できるベンチに腰を下ろす一人の人影──雷門高校の制服を着こなした男が立っていた。

その男は、自分と同じ学生なのに、その雰囲気は――とても学生とは思えないほど、存在感に溢れていた。

 

 

(あ、あの人は……!)

 

 

僕の心臓が、ドクンと大きく跳ねた。

彼の、銀白色の逆立った髪、稲妻のような独特な眉と浅い褐色の肌に見覚えがあったからだ。

 

 

それもその筈。

転生する前、神様に「資料」として見せてもらったあの映像の中で、炎を纏ったシュートを放つ少年と瓜二つなのだから。

 

 

(な、なんか......凄い存在感だな......ちょっと怖いし......)

 

 

実際に見て体感する呼吸を忘れそうになるほどの、彼の野性的風格。

だが、遠目で見る彼の横顔は、酷く寂しそうに見えた。

 

 

夕日を見つめる彼の瞳は喪失、後悔、絶望が滲んでいた。

かつて僕が「ダメ葦」と呼ばれ、何もかもを諦めていた時と――色は違えど、根底にある「虚無」は同じだった。

 

 

「豪炎寺!」

 

 

円堂が彼の名前を叫ぶ。

 

 

彼は円堂と一瞬だけ目を合わせたが、あからさまに無視をして立ち去ろうとした。

それは明確な拒絶。

「関わるな」という無言の警告だった。

 

 

(あの人──豪炎寺くん? 今、円堂のこと明らさまに無視したよね??)

 

 

もしかして、円堂って豪炎寺くんに嫌われてる?

 

 

そんなことを考えている間に、

円堂は、豪炎寺くんの前に回り込んで捲し立てる。

 

 

鉄道広場(ここ)、スッゲェーいい所だろ! オレも小さい頃からのお気に入りの場所なんだ!」

 

 

円堂の無邪気な言葉に対し、豪炎寺くんが向けたのは、射抜くような冷たい視線だった。

その眼光は普通の人なら足がすくみ、逃げ出したくなるほどの圧が込もっていた。

でも、円堂は一歩も引かない。

 

 

「あのさ、お前も噂は聞いてるだろ? ウチのサッカー部が、帝国学園と練習試合するのを」

 

 

『帝国学園』

その名が出た瞬間、豪炎寺の瞳に昏い(くら)火が灯った。

ふと視線を落とすと、彼の拳は爪が食い込むほど強く握られている。

 

 

(帝国と、豪炎寺くんには……何か、深い因縁があるのか?)

 

 

「なぁ豪炎寺、頼むよ。サッカー部に入ってくれないかな……?」

 

 

真剣な声で、真剣に頼む円堂。

円堂の頼みを聞くも、豪炎寺は何も言わず、そっぽを向く。

 

 

「に、入部がダメならさ……せめて助っ人、とかは……ダメかな?」

 

 

円堂の熱量に(だんま)りを決め込む豪炎寺に、僕は緊張で裏返りながらも、必死に声を絞り出した。

 

 

いきなり声を掛けてきた僕に、豪炎寺くんが少し驚いたように「お前は......?」と口を零しながら眉を動かした。

 

 

「ぼ、僕は司場葦考。君と同じ2年で、円堂と同じサッカー部なんだ!」

 

 

自己紹介をするだけで、心臓が口から飛び出しそうになる。

豪炎寺の眼光を前にして、平気な顔をしていられる円堂の方が、やっぱりどうかしているんだ。

 

 

「……来週の帝国学園との練習試合に、サッカー部(ぼくたち)は絶対に勝たなくちゃいけないんだ。もし負けたら……せっかく作った部が、廃部になっちゃう」

 

 

僕は震える手を隠すように、ジャージの裾をこれ以上ないほど強く握りしめた。

 

 

「だからお願いだよ、豪炎寺くん! その日だけでいい……。僕たちに、君の力を貸して欲しいんだ!!」

 

 

豪炎寺くんは何も答えない。

ただ、夕日に照らされた彼の瞳が、微かに揺れたように見えた。

その瞳の奥にあるのは、冷たさではなく、触れることすら躊躇(ためら)われるような深い「痛み」だった。

 

 

「......断る。俺はもう......サッカーを辞めたんだ」

 

 

その言葉は、深い、深い悲しみの底から絞り出されたものだった。

彼は再び歩き出す。一歩、また一歩。僕たちの願いを置き去りにして、その背中が遠ざかっていく。

 

 

「待ってよ、豪炎寺く──うわっ......!?」

 

 

咄嗟に追いかけようとした僕は、案の定、自分の足をもつれさせて派手に転んでしまった。冷たい地面に掌を打ち付け、砂の感触が肌に刺さる。

 

 

……辞めただなんて……そんな言いたくもない嘘、つくなよ……

 

 

地面に顔を伏せたまま、掠れた声が漏れた。

なんで、そんなに悲しい目をしてるんだよ。

なんで、そんなに辛そうに「辞めた」なんて言うんだよ。

そんな顔をして言われたら──

まるで、何もかもを諦めて死んだように生きていた前世(かつて)司場葦考(ぼく)を見ているみたいで、たまらなくなる。

 

 

震える拳を、土がつくのも構わず強く握り締め、僕は顔を上げた。

 

 

「──ならなんで、そんな目をしてるんだよっっ!!」

 

 

僕の絶叫が、鉄塔広場に響き渡った。

豪炎寺くんの足が、ピタリと止まった。

ゆっくりと振り返る。

その目は、怒りと、憎しみと――そして、引き裂かれそうなほどの深い「喪失」を湛えていた。

 

 

「しつこいな……お前らは」

 

 

低い、けれど震えるような声。

彼は逃げるように、早足で去っていった。

長く伸びたその影は、夕日に照らされて酷く寂しそうに見えた。

 

 

僕と円堂は、何も言えなかった。

ただ、夜の帳が下りてくる広場で、その背中が完全に見えなくなるまで立ち尽くしていた。

 

 

「……行っちゃったな、豪炎寺」

 

 

円堂がポツリと零した。その声は、いつもの元気なトーンとは違い、どこか重い。

僕は握りしめていた拳を解いた。

手のひらには、爪の跡が深く残っていた。

 

 

「あ゙あ゙あ゙......またやっちゃったぁぁ......」

 

 

僕は頭を抱えて屈んで後悔する。

染岡達に怒鳴って後悔したのに、また豪炎寺くんにやってしまった。

豪炎寺くんだって、サッカーを辞めたくて辞めた訳じゃない筈なのに......。

 

 

「葦考」

 

 

円堂が、僕の肩を叩いた。

顔を上げると、そこにはいつもの――いや、それ以上にメラメラと激しく燃えるような瞳があった。

 

 

「クヨクヨしててもしょうがない! 帝国に勝つ為にも特訓だ、葦考!」

 

「……うん。そうだね、円堂」

 

 

言葉はいらなかった。

僕たちは無言で、木陰に隠しておいたタイヤ(それ)を引きずり出した。

 

 

✤✤✤

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……ッ!」

 

 

どれくらい時間が経っただろう。僕と円堂は、縄で括り付けたタイヤを背負ったまま、地面に這いつくばっていた。

全身は泥と汗で重く、肺が焼けるように熱い。

 

 

(……死ぬ。これ、本当に死ぬやつだぁぁ......)

 

 

動けない。指一本動かそうとするだけで、全身の節々が「やめてくれ」と悲鳴を上げる。

「筋肉痛」なんて言葉で片付けられるレベルじゃない。

ジャージはもうボロボロ。母さんに怒られる光景が目に浮かぶけど、今はそれどころじゃなかった。

 

 

空はすっかり暗くなり、街灯がポツポツと点き始める。

僕の意識が遠のきそうになった、その時──

 

 

「……無茶苦茶だな、その特訓」

 

 

不意に届いた呆れ声に、僕は顔を上げた。

そこには、学ランをスマートに着こなした風丸が立っていた。

 

 

「「風丸!」」

 

「満身創痍って感じだな、二人とも」

 

 

風丸は自然な動作で手を差し出す。

僕と円堂はそれに縋るようにして、ガクガクと震える膝を必死に宥めながら立ち上がった。

隣を見ると、円堂はまだピンピンしている。

やっぱり、この世界の人間はどこか「超人」なのだと改めて実感する。

 

 

「いつもこんな変な特訓してるのか?」

 

「変じゃないさ! この特訓、死んだ爺ちゃんが遺したノートに書いてあったやつなんだ!」

 

「……ノート?」

 

 

円堂が誇らしげに取り出した一冊のノート。を黄ばんでボロボロのそれを風丸は覗き込むように広げるが、眉間に皺を寄せて、まるで「未知の暗号」か「子供の落書き」を見ているように首を傾げていた。

 

 

「……お前たち、これ読めるのか?」

 

「うん、読めるよ。シュートの止め方やシュートの打ち方、それと特訓メニューが書かれてるんだ」

 

「いや、読めるのは円堂だけだよ……」

 

 

僕は苦笑いしながら肩をすくめる。

正直、この「特訓」が科学的に正しいのか半信半疑だけど、隣で迷いなくタイヤを引く円堂の瞳を見ていると、理屈抜きで「信じてみたい」と思ってしまうんだから、本当にズルい。

 

 

その「ズルさ」こそが、この物語を動かす円堂の凄さなんだと、僕は肌で感じていた。

 

 

「え、円堂の爺ちゃんって......なんというか、すごいな......」

 

 

風丸くんは苦笑しながらノートを閉じ、ふと真面目な顔で僕たちを見た。

 

 

「……お前ら、本気で帝国学園に勝つつもりなんだな」

 

「ああ!」

 

「も、もちろんだよ!」

 

 

僕の声は少し裏返ってしまったけれど、否定はしなかった。

即答する僕らを見て、風丸くんは小さく息を吐き、笑みを浮かべる。

 

 

「円堂。助っ人の件、1度断ったけど……あの話、まだ生きてるか?」

 

「「え?」」

 

「お前達のその気合い、乗った! 帝国学園との練習試合、俺も出るよ!」

 

 

その一言に、僕と円堂の顔がパッと輝く。

でも、奇跡はそれだけじゃなかった。

 

 

「俺はやるぜ。……お前らはどうなんだ?」

 

 

突然、風丸くんが背後の草むらに声をかける。

ガサガサッ──と揺れる影。

そこから現れたのは、染岡、半田、そして一年生たち……部室で僕が喉を引き裂くような声で怒鳴りつけてしまった、雷門サッカー部の面々だった。

 

 

「こいつら、俺が来るよりも前から二人のことを見てたんだぜ?」

 

 

驚きで立ち尽くす僕たちの前に、染岡と半田が歩み寄ってきた。

 

 

「円堂、司場……悪かった!」

 

「司場。お前の言葉で、目が覚めたよ。ごめん!」

 

 

二人揃って、地面に届きそうなくらい深く頭を下げた。

 

「俺たち、グラウンドが使えないくらいで不貞腐れて……。好きなサッカーから、頑張ることから逃げてた」

 

 

半田の声は震えていた。

罪悪感を噛み締めるようなその響きに、僕の胸の奥も熱くなる。

 

 

「キャプテン、俺たちも一緒に特訓させてください!」

「僕も!」

「俺たちも一緒にやりたいでやんす!」

「お願いするッス!」

 

 

宍戸くん、少林寺くん、栗松くん、壁山くん。一年生たちが、目に涙を浮かべて頭を下げる。

 

 

「円堂、司場、こんなダセぇ俺たちだけどよ……頼む! 最後まで一緒に、足掻かせてくれ!!」

 

 

染岡がみんなを代表して、拳を握りしめて叫んだ。

 

 

染岡の言葉で、冷めきっていた鉄塔広場の空気が、一瞬にして熱い闘志で満たされた。

円堂は鼻水を垂らしながら、ぐちゃぐちゃの顔で涙を流しながら笑っていた。

 

 

「当たり前じゃないか……大歓迎だよぉ……ッ! みんな――一緒に特訓だぁぁぁあああ!!!」

 

「「「「「「「「「おう!!!」」」」」」」」」

 

 

夜の鉄塔広場に、魂の咆哮が響き渡る。

円堂がみんなに囲まれ、次々と拳を合わせている。僕はその輪の少しだけ端っこで、彼らを見つめていた。

 

 

(やっと、チーム(1つ)になれた......)

 

 

夜空を見上げると、昨日見たのと同じ星が輝いている。

必殺技なんてない。

この世界の異常な身体能力に、僕はまだ追いつけていない。

でも、この泥だらけの仲間たちがいるなら、不思議と「戦える」と思えてしまう。

 

 

(みんなと一緒に、足掻くんだ。絶対に負けたくない!)

 

「葦考!」

 

 

円堂が僕を呼び、ぐいっと輪の中に引き入れた。

 

 

「絶対、帝国に勝つぞっ!!」

 

「……うん!」

 

 

9人の手が重なり、拳が合わさる。

ゴン、ゴン、ゴン――。

その鈍い衝撃の音は、僕の心に直接響く号砲だった。

 

 

第7話fin

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