転生したら、超次元技が存在しない世界だった件! 作:スライみゅ
運命の日は、皮肉なほどに穏やかな日の光と共にやってきた。
今、雷門サッカー部員達は部室に集まっている。
掘っ建て小屋同然のこの場所が、今はまるで爆発直前の圧力鍋のように、ひりつく緊張感に満ちていた。
「紹介するよ。今日、助っ人で入ってくれる――松野空介だ」
円堂の隣に立っているのは、ストライプ柄のニット帽を深く被った男子生徒だった。
そのどこか飄々とした佇まいは、部室を支配する重苦しい沈黙の中に、不思議なほど自然に溶け込んでいた。
「僕のことは『マックス』って呼んでいいよ〜」
松野空介――マックスくんは、捕らえどころのない薄笑いを浮かべながら、ひょいと軽く右手を挙げて自己紹介をした。
「君たちのキャプテンを見てたらさ、なんだか"退屈しなさそうだな〜"って思ったんだよね〜」
そのあまりに場違いで軽い言葉が、水面に投じられた石のように、張り詰めた空気に波紋を広げた。
案の定、真っ先に噛み付いたのは染岡だった。
染岡は苦々しく眉をひそめ、マックスくんを睨みつける。
「退屈って……遊びじゃないんだぞ、試合は!」
「心配いらないよ〜」
染岡の鋭い声には、剥き出しの苛立ちが混じっていた。
それでもマックスくんは、その殺気を柳に風と受け流して笑った。
「サッカーはまだやったこと無いけど、これまで色んなスポーツをやってきて、だいたい人並み以上に上手くやれてたからね。こう見えて器用なんだよね〜」
「――ってことだ。期待しようぜ!」
円堂は深く考える様子もなく、楽しそうにそう言った。
その明るさが、張り詰めた空気を少しだけ和らげる。
けれど、半田が不安を押し殺すように、確認の言葉を呟いた。
「しかし、これでもまだ十人だぞ? あと一人足りな――」
「――十一人いるけど……」
「うわあああっ!?」
半田は背後から発せられた、背筋がひやりとするような暗く低い声に驚き、情けない声を上げて肩を震わせた。半田だけじゃない。
その場にいた全員が、弾かれたように肩を震わせた。
振り返ると、そこには影野くんが立っていた。
最初からそこに存在していたかのような佇まいで。彼のあまりの存在感のなさは、もはや一種の恐怖を感じた。
「ご、ごめん……気づかなくて。ハハハ......」
半田が額の冷や汗を拭いながら、慌てて謝罪の言葉を口にする。
「いいさ……俺は、もっと存在感を出せる男になりたくて
影野くんは幽霊のような声でそう呟くと、脇に抱えていた一枚のポスターを仰々しく広げて見せた。
【サッカーは存在感を鍛える!】
あまりにも標的を絞りすぎた、身も蓋もないキャッチコピー。
一同は呆気にとられ、かける言葉を失った。
「ポスター? 誰が作ったんだ、これ」
首を傾げる円堂の疑問に答えるように、部室の入り口から弾けるような声が響いた。
「はーい! それ作ったの、私でーす!」
元気よく片手を挙げて答えたのは――春奈だった。
「春奈!? なんでお前が
不意を突かれた僕は、心臓が口から飛び出すかと思うほど跳ね上がり、情けない声を上げて飛び退いた。
いつの間に部室に入ってきたんだ?
「心臓に悪いって……! そもそも、いつからそこに……」
「えー? センパイの後ろにずっといましたよ?」
こともなげに言ってのける春奈は、クスクスと小悪魔のように喉を鳴らして笑っている。
僕の反応を楽しんでいるようなその表情――この揶揄い癖には、中学時代から本当に参ってしまう。
「誰だか知らねぇが、ようやく11人集まって、今から帝国に勝つための作戦会議するところなんだ。部外者は出て行ってくれ」
染岡は春奈に冷徹な一瞥を与える。
その視線には明確な拒絶が込められていたが、春奈は怯むどころか、リスのように頬を膨らませて不満を露わにした。
「むぅ……そんな強く言わなくてもいいじゃないですか!
せっかく皆さんが喜ぶと思って、帝国学園の情報を持ってきてあげたのに!」
「情報!」
「帝国の情報」という言葉に、円堂の瞳がキラリと輝いた。
それを見た春奈は、確信犯的な笑みを浮かべて、僕をジロリと射抜いた。
「そもそも! サッカー部が11人揃ったのだって、私が作ったポスターの
葦考センパイが「春奈、このままじゃサッカー部がなくなっちゃうんだ。助けてよぉ〜』って涙目で泣きついてきたから、後輩の情けで一肌脱いであげたんですよ!」
「(そんな情けない泣きつき方してない、はず......。『人手が足りなくて困ってるんだ』くらいの相談はしたけど……!)」
僕が言葉を飲み込んで硬直していると、春奈はさらに一歩踏み込み、至近距離から「ねえ、葦考センパイ?」と、底知れない笑みを浮かべて覗き込んできた。
「私の言ったことに、なにか間違い、あります?」
「......う、うん。ほ、本当に助かったよ、春奈......」
僕は観念した。
ここで下手に抗えば、さらなる「事実の改ざん」が行われるのは火を見るより明らかだから。
ガックリと項垂れる僕を見守っていた部員たちの心が、今この瞬間、分厚い鉄板のように一つに重なったのが分かった。
(弱ぇ……)
(完全に尻に敷かれてる……)
さっきまでの帝国への恐怖はどこへやら、部室内には僕に対する、生温かく、そして深い同情の混じった沈黙が広がっていた。
✤✤✤
「それで、
円堂が本題に引き戻すと、部室の空気は一気に引き締まった。
春奈は手際よくノートパソコンを起動させ、画面の青白い光が、彼女の顔を厳かに照らし出す。
「これが、私の集めた帝国についてのデータです!」
映し出されているのは、無機質な数字とグラフの羅列――帝国学園の戦力分析表だ。
その場にいた全員が、まるで食い入るように、彼女の言葉を固唾を呑んで聞き入っていた。
「帝国学園の選手は、パワー、スピード、テクニック――そのすべてが全国トップクラス。一人一人が怪物と言っても過言ではありません」
「ハンッ、んなこと、元々分かりきってる事じゃねぇか」
染岡が鼻を鳴らした。
だが、それが強がりであることは誰の目にも明らかだった。
眉間に刻まれた深い皺と、微かに震える拳が、彼の内心にある「帝国学園」への畏怖を雄弁に物語っている。
「……それでは次に――具体的な戦術データについてお話しします」
春奈の指がキーを叩く。画面には、複雑に絡み合う幾何学的なデータと、赤いグラフが躍った。
「帝国学園の基本戦術は、徹底した『
「……はちじゅう、パーセント!?」
帝国学園の脅威的な数値に驚愕し、僕の口から、乾いた声が漏れた。
(それって……試合中のほとんどを、帝国にボールを持たれっぱなしってことじゃん……)
想像しただけで、喉がカラカラに乾いていく。
僕は無意識に唾を飲み込むと、その音が、静まり返った部室にやけに大きく響いた気がした。
「正確かつ細かいパスワークで相手守備を翻弄し、最後は二人の強力なフォワードが確実に仕留める。
それが帝国のスタイルです。ですが、警戒すべきは攻撃だけではありません。
帝国の真の恐ろしさは、守備の『
春奈の指がキーを叩く。
「ボールを失った瞬間、まるで訓練された軍犬のように、最寄りの数人が連動して襲いかかってきます。考える隙も、パスコースを探す暇も与えられない。この守備網により、彼らは昨年のフットボールフロンティアで、大会最少失点記録を更新しました」
部室の空気が、完全に凍りついた。
提示されたのは、攻略不可能な要塞の設計図だった。
誰もが言葉を失い、ただ画面を見つめることしかできない。
「そして、この選手こそが、帝国学園の頭脳であり、心臓。最も警戒すべき要注意人物──」
春奈が画面を切り替えようとした、その瞬間──
「──ち、ちょっと待ってほしいっス!!」
張り詰めた沈黙を、悲鳴のような叫び声が切り裂いた。
ガタンッ! と激しい音を立てて椅子が倒れる。
壁山が、股間を両手で固く押さえながら立ち上がっていた。
「ど、どうしたでやんす? 壁山」
「お、俺……ちょっとトイレ行ってくるっス!!」
脱兎のごとくーーという言葉がこれほど似合わない体躯でありながら、壁山は凄まじい勢いで部室を飛び出していった。
外では、ドタドタという足音が、遠ざかるにつれて情けなく響く。
「また壁山の悪い癖が出たでやんす……」
栗松くんが、呆れたように、深いため息を漏らした。
極度の緊張や恐怖に直面すると、尿意を抑えられなくなる。
それが壁山の、あまりに頼りない悪癖だった。
「春奈、あまり刺激の強いもの見せないでよ。壁山が完全にビビっちゃったじゃないか……」
葦考が、ジーッと春奈に恨めしげな視線を向けた。
その目には、「勘弁してよ」という非難の色が混じっている。
「あはは……。詳細なデータがあった方が良いかと思ったんですけど、ちょっと刺激が強すぎましたかね」
春奈はバツが悪そうに、視線を泳がせた。
「ところで――聞きそびれてたけど、君は誰なんだ?」
半田の純粋な問いに、春奈は背筋を伸ばして一礼した。
「あっ、申し遅れました! 私、新聞部1年の音無春奈です。葦考センパイの中学時代からの後輩で、皆さんの勝利をお手伝いしたくて勝手ながらサポートに参りました!!」
春奈は先ほどまでの真剣な表情を捨て、ハキハキと、明るい自己紹介をして頭を下げた。
高く快活な彼女の声が、部室の重苦しさをわずかに、けれど確かに和らげる。
「“音無”っていうより……」
「……“やかまし”だな」
半田とマックスの声が、見事なまでに重なっていたその時ーー
ガラガラガラ――ッ!!
部室の木製の扉が、悲鳴を上げるような音を立てて乱暴に開かれた。
「き、君たち……っ!」
そこに立っていたのは、顧問の冬海先生だった。
その様相に、全員が息を呑む。
顔面は土気色を通り越して紙のように白く、額からは脂汗が滝のように滴り落ちている。眼鏡の奥の瞳は焦点が定まらず、小刻みに震えていた。
それは、これから試合に向かう顧問の顔には見えなかった。
「て、帝国学園が、もうすぐ到着します……! は、早くグラウンドに集まりなさい!」
その震える声が投げられた瞬間、部室の温度がさらに数度下がった気がした。
✤✤✤
僕たちは雷門高校の本校舎前のサッカーグラウンドに移動した。
普段はラグビー部の二軍が泥にまみれているその場所は、今日という日のために完璧に整えられていた。真新しく引かれた目も眩むような白いライン。ピンと張られた純白のゴールネット。
その瑞々しい光景こそが、これから始まる「練習試合」の尋常ならざる重大さを無言で語っていた。
まるで、処刑台を綺麗に掃除して待っているかのような、そんな薄気味悪ささえ感じる。
雷門イレブンは、所在なげにボールを蹴りながら相手の到着を待っていた。
だが、誰の目にも彼らの動揺は明らかだった。
繋がるはずの簡単なパスは乱れ、容易いはずのトラップが足元からこぼれる。重苦しい緊張が、目に見えない霧のようにグラウンドを支配していた。
その時──
──ゴゴゴゴゴゴゴッ
突如として、大地が震えた。
低く、重い振動が足の裏から骨を伝って這い上がってくる。
地震というにはあまりに規則的で、暴力的なまでの重量を感じさせる響き。
「な、なんだ……!?」
全員が、弾かれたように顔を上げた。
校門の向こう、道路の先から姿を現したのは──巨大な「黒い影」だった。
「なん、だよ……あれ……??」
宍戸が呆然と呟いた。
その口は半開きのまま、目は極限まで見開かれている。
それはバスという概念をとうに超えていた。装甲車、いや、移動要塞と呼ぶべき威容。
漆黒に塗り固められた車体の先端は、あらゆる障害物を粉砕せんと言わんばかりの鋭利な衝角となっている。
照らされた黒鉄の装甲が、鈍い光を放ちながら迫りくる。
その巨体が、校門前でゆっくりと制動した。
──プシュゥゥゥゥゥ
鼓膜を圧迫するようなエアブレーキの排気音。その音だけで、周囲の空気ごと雷門の選手たちを押し潰そうとするかのような威圧感。
──ガシャン、ウィィィィン……
重厚な金属が激しく擦れ合う音を立てて、メインハッチが開かれた。
まず降りてきたのは、帝国の制服を纏った大勢の生徒たちだった。
彼らは一糸乱れぬ動きで整列すると、手際よく深紅のレッドカーペットを地面に敷き詰めていく。
その訓練された軍隊を思わせる機能美に、僕の思考は停止した。
(……いや、軍隊かよ。これ、本当にたかが一高校生のやること……!?)
現実感が、砂のように指の間からこぼれ落ちていく。
そして――ついに「選手」たちが姿を現した。
深い緑を基調とし、鮮烈な赤のラインを配した帝国学園のユニフォーム。
一人、また一人とハッチから降りてくる選手たちの存在感は、
同じ高校生とは思えないほど引き締まった肉体。鋼のように鍛え上げられた筋肉。
彼らが纏う
レッドカーペットの上を歩み進めるごとに、研ぎ澄まされた眼光が、獲物を定めるようにこちらを射抜いてくる。
「…………っ」
雷門の誰もが、息を呑んだ。
言葉は出ない。恐怖で喉が凍りついたように、唾を飲み込むことさえ忘れている。
そして、その「鉄の軍勢」の先頭に立つ一人の男。
ドレッドの髪を無造作に束ね、奇妙なゴーグルを装着し、真紅のマントを翻す異形の男。
その姿は、近代的な学校の風景の中で浮き上がるほどに異質で、滑稽さすら感じるはずの格好なのに──誰一人として笑う者はいない。
彼がそこに立つだけで、空間そのものが彼を中心に回り始めたかのような、すべてを平伏させる覇王の風格が備わっていたからだ。
(……アイツだ……なんとなくだけど、感覚で分かる......。アイツが、春奈の言ってた……帝国の要注意人物だ......!)
僕は直感的に理解した。
あの男こそが春奈の言っていた帝国の要注意人物であると。
彼ーー鬼道有人から放たれる圧倒的な
僕の膝が、笑う。
ガタガクと震え、立っているのが精一杯だった。
冷たい汗が背中を滑り落ち、心臓が耳の奥で早鐘を打つ。
僕の本能が、最大級の警報を鳴らしていた。
✤✤✤
「雷門高校サッカー部キャプテン、円堂守です! 練習試合の申し込み、ありがとうございま──」
円堂はいつもの笑顔を浮かべ、帝国イレブンの先頭に立つ赤いマントの彼──鬼道有人へと駆け寄り、敬意と歓迎の意を込め、右手を差し出す。
だが、その手は虚しく空を切った。
「──初めてのグラウンドなんでね。ウォーミングアップをさせてもらってもいいかな......?」
鬼道は円堂の言葉を被せるように遮り、その手を見ることさえしなかった。
「え……ああ、どうぞ......」
拍子抜けした円堂を置き去りにして、帝国イレブンはグラウンドの半分を占拠し、淡々とウォーミングアップを始めた。
彼らの姿に、僕は……いや、雷門の全員が釘付けになっていた。というより、動けなかった。まるで金縛りに遭ったように。
一人の選手がリフティングを始める。
ポン、ポン、ポン、と刻まれるリズム。
だが、その精度が異常だった。
ボールがまるで強力な磁石で引き寄せられているかのように、足の甲に吸い付いて離れない。寸分の狂いもない、機械仕掛けのような精密な動きだった。
別の場所では、ヘディングの練習を行っていた。
――ドゴォン!!
グラウンドに響いたのは、およそ肉体とボールが接触したとは思えない砲音だった。
それは、古い大砲が火を噴いた時の衝撃音に近い。
放たれたボールは、空気を切り裂く鋭い音を残し、視認できないほどの速度で飛んでいく。
「嘘、だろ……」
染岡が震える声で漏らした。
「あんなの、人間業じゃないでやんすよ……」
隣で栗松が真っ青な顔をして立ち尽くしている。
(レベルが……違いすぎる......)
自覚できるほどに、僕の手が震え始めた。
抱えていたボールが指先からこぼれそうになり、慌てて掴み直す。
春奈から貰ったデータは頭に入っていた。
「帝国の選手はすべての能力が全国トップクラス」。
分かっていたはずなのに、目の前の現実は、文字で知るのとは比較にならないほどの暴力的な「差」を突きつけてくる。
その時だった。
赤いマントをなびかせ、帝国のキャプテン鬼道有人が動いた。
――パチンッ。
静寂を裂くような、乾いた指鳴らし。
それは、帝国の「挨拶」の合図だった。
一人の選手がボールを高く蹴り上げ、ボールが青空に吸い込まれていく。
それに応じるように、鬼道が跳躍した。
(飛んでる.......)
僕の視界の中で、一瞬だけ時間が凍りついた。
重力を嘲笑うかのような、あまりに長く、あまりに高い滞空時間。
マントを翼のように広げた鬼道有人は、確かに、空中で「静止」していた。
「はああああ!」
――ドゴォォォォォォン!!!
次の瞬間、空気が爆発した。
鼓膜を突き刺す衝撃音と共に、ボールが弾丸へと変貌する。
空気が悲鳴を上げ、超高速回転するボールが唸りを上げる。
まるで本能が「逃げろ」と警鐘を鳴らすほどの威力。
その軌道は、ゴール前に立つ円堂に目掛けて、一直線に伸びた。
「っ!!」
円堂は反射的に両手を突き出した。
──ガシッ!!
衝突音がグラウンドを震わせる。
──ギュルルルルルル!!
グローブとボールの間で、耳を劈くような激しい摩擦音が鳴り響く。
鼻をついたのは、焼け付くようなゴムの焦げた匂い。
円堂の体がボールの勢いに抗えず、後ろへと押し込まれる。
スパイクが芝生を深く削り取り、土が派手に舞い上がった。
「くっ……う、おおおおおおっ!!」
円堂が歯を食いしばり、全身の筋肉を軋ませて踏みとどまる。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
円堂の呼吸は激しく乱れ、その手は痺れで小刻みに震えている。
厚手のキーパーグローブの表面は、摩擦熱で黒く焦げ、白煙を上げていた。
(い、いきなり、こっちに向けてシュートを撃ってきた……!? こ、恐ぇ……っ!!)
僕は全身の毛穴が総毛立つ感覚に襲われた。
背筋を冷たい汗が走り、膝が笑う。
雷門の他の面々も同じだった。
「本当に、あんな化け物たちと戦うのか」という絶望が、誰が口にするまでもなくグラウンドを支配する。
だが、ただ一人。
「──面白くなってきたァァァ!!!」
円堂が叫んだ。
その顔に張り付いていたのは、恐怖ではなく、底知れない興奮だった。
ギラギラと輝く瞳で拳を握りしめ、獲物を見つけた猛獣のような笑みを浮かべていた。
絶望と狂気。
その二つが入り混じる中、ついに伝説の試合の幕が上がろうとしていた。
第8話fin