ハリー・ポッターの話を終え、落ち着いたマクゴナガル先生は取り乱したことを謝罪した上で、''漏れ鍋からダイアゴン横丁へ通る方法を教える''と言い、店の奥へと歩いていった。
先生に着いていくと、そこは壁に囲まれた中庭だった。
「覚えおいてください。これからは、貴女たちもよくダイアゴン横丁に来ることになるでしょうから。」
そう言って先生は杖を取り出し、壁のレンガを3回叩いた。途端に壁が震え始め、瞬く間に大きなアーチができた。
凄いな……地底でさえこんな隠し通路は無かった。
石畳の道が長くうねって続く街並みが先に見える。
「ようこそ。ダイアゴン横丁へ。」
アーチを通り、ダイアゴン横丁へ足を踏み出す。人形ちゃんが通った後、アーチは閉じていき、先程と同じ壁に戻った。
……なるほど。これはよくできた秘匿のされ方だ。知る人でなければここにはたどり着けない。
「……このように秘匿された場所が、他にもあるのですか?」
人形ちゃんが聞く。
「その通りです。非魔法界のあらゆる所に魔法界へ通じる道がありますが、その全ては巧妙に隠されています。マグルと私達はお互いに関わり合いにならない方が良いのです。」
まあ、マグルが魔法の存在を知ったらろくな事にならないだろう。下手したら魔法界対マグルの全面戦争だ。
まあそんなことはさておき、私は今非常に興奮している。世界の秘密を知った感覚だ。地底や宇宙を見ていただけではこの知識は得られなかっただろう。
……魔法使いになれて良かった!……いや、''なれた''のか、''だった''のかは分からないが……とにかく、ここ最近楽しくて仕方がない。
この街の通りをご覧よ!好奇心をくすぐられるものばっかりだ!
「クリス様。楽しそうですね?」
「最高だよ!何から何までぜーんぶ気になる!全て知らなきゃ気が済まない!……マリアちゃんも楽しい?」
「クリス様の楽しそうな顔を見れて私も嬉しいです。」
顔が赤くなる。
……人形ちゃんってずるいよね。そんな微笑みを向けられて無事なやつなんて居ないよ……
「ふふ、お二人とも、まずはグリンゴッツへ向いますよ。何をするにしてもお金を調達しなければなりません。」
微笑みを浮かべながら先生が先をゆく。
そうだ。
「そういえば、マクゴナガル先生?この前言っていたお金の問題なんですけど、少し心当たりがあって、この間話をしに行ってきたんです。」
先生が少し驚いた顔をしてこちらを振り向く。
「私の……知り合いに、とてもお金を持っている方がいるんです。その方にはとても……その……良くしてもらっていて……それで、少し借りられないかなと。」
「……自分でなんとかできないかと動く行動力は素晴らしいですが……貴方は現在、そう……保護者がいないのです。お金の貸し借りというのはとても大きな問題となりうる話ですよ?」
人形ちゃんが口を挟む。
「マクゴナガル教授。それは私も、クリス様も十分理解しております。そのうえでクリス様は行動されています。」
「……そうですね。ミス・マリア。あなたが付いているのであれば大丈夫かもしれません。」
「ありがとうマリアちゃん。……それで……その、お話に行った方が……その、グリンゴッツの口座を持っていたみたいで。」
先生がとても驚いた表情をしている。
「はい。私もとても驚いたんです。しかもその方が……私にその口座を譲ると。」
「なんですって!?」
わお……いや、やっぱ普通はそうなるよね。
「あの……その方、えっと、アンナリーゼ様というのですが、彼女曰く今まで存在も忘れていたものだから無くなっても問題ない。有意義に使え。と……」
……開いた口が塞がらないを言葉通りに体現している先生が絞り出すように声を出す。
「……アンナリーゼ?……本当に?……アンナリーゼはあなたの知り合いだと言うのですか?」
?
「はい……あの、アンナリーゼ様をご存知なのですか?」
「魔法界でアンナリーゼといえば知らない者はいない程の有名人です!」
……?人違いな気がするけど……?そもそもアンナリーゼ様魔法界には顔だしてないし
「……取り乱しました。ええ、勿論私の思い浮かべている方と同じであれば、ですが……誰も顔を知らず、居場所も知らず、そもそもアンナリーゼという人物が現在存在するかさえ、確証を持てない謎の人物です。……分かっているのは一つだけ、アンナリーゼという名義の口座がグリンゴッツに存在するということ。そして、その口座が……魔法界で随一の金額を眠らせているという事です。」
……え。
「……不定期ながらその口座には大量の金が振り込まれると言うのも話題の種でした。……50年ほど前までは増え続けていたのです。……その金を振り込む魔法使いも自分はアンナリーゼでは無い、と言い、ゴブリンさえアンナリーゼを1回も見たことがないという!まさに実在する都市伝説として……あまりに有名な名です。」
……
「……いやぁ、人違い……なのでは?」
人形ちゃんの方を向くが……固まってる。だよね……ちょっと想定外すぎる……もしその都市伝説の口座だったら……
〜〜~
悪い予感が当たりました。
頭真っ白でグリンゴッツまで来た私達は……銀行員のゴブリン(この時は全く気づかなかった)に一礼する。
「アンナリーゼの金庫を開けたいんですけど。」
「鍵はお持ちで……はい?」
流れ作業が止まる。
「……アンナリーゼの金庫を開けたいんです。」
「……鍵と杖はお持ちですか?」
ゴブリンがその目を鋭く輝かせるが、全く気付けない。気が気でない。
「これですよね?はい。」
奪うように鍵と杖を改めるゴブリン。
「……」
何処かしらかゴブリンが10人以上集まってきた。私たちの後ろにも見物人が集まってきた。
20分はたったかな……永遠にも思えたその時間の後、
「……確認が……取れました。確かにアンナリーゼ様の金庫の鍵と届け杖です。……アンナリーゼ様ご本人様でしょうか?」
後ろからもの凄いざわめきが起きる。
「……あぁ、えっと、私は……」
目の前のゴブリン達の目線が強すぎる。気がする。分からない。
「私は……アンナリーゼ様から……この口座を……譲り受けた……クリスティーナ・ブラウンです……」
ざわめきが叫びに変わった。気がする。
絶句するゴブリン達。
何とか絞り出した声がやっと鼓膜を震わせる。
「……分かりました。ブラウン様……お引出しで。……着いてきてください。」
〜〜~
トロッコに乗り、右へ、左へ、下へ、下へ。滝に打たれたような気もする。
マクゴナガル先生もゴブリンも無口だ。いや、話せないだけか。
「……あっ……クリス様。お身体が、水浸しに」
……ん?あぁ、気のせいじゃなかったか。ほんとに滝に打たれたんだ。
「にんぎ……マリアちゃん。……あー、大丈夫。……ん?あら?ほんとに大丈夫だ。なんか乾いてる。」
「……あ、あぁ、そうでした。お二人とも、ここには初めて来るのでしたね。……今の滝は盗人落としの滝。魔法も呪文も、その一切の効果を洗い流す滝です。」
……やっと頭が働いてきた。
「えっとつまり、魔法で変装しても金庫破りは叶わないってことですか?」
「その通りです。これ以外にも沢山の侵入者対策が施されています。」
……まって?魔法も呪文も流す?
嫌な汗が流れて急いで人形ちゃんを見る。
……セーフ……神秘はやっぱり落とされてない。人形ちゃんの球体関節は隠されている。
人形ちゃんは''なにか私にありましたか?''と聞いてきた。何も無いよと人形ちゃんの手を握る。
やっぱり魔法と神秘は完全な別物……もしくは魔法の上位に神秘が存在する形なのかな?多分、私の上位者パワーで魔法が使えるようになってる……はずだし、一方通行な干渉ができると考えると、神秘のが強度は上っぽいね。
「……着きました。ブラウン様。こちらがアンナリーゼ様……いえ、ブラウン様の口座になります。」
トロッコが止まる。
……んなにこれ……バカみたいにデカイ扉……開けること想定してなくない?
「お下がりください。今から開けます。」
ゴブリンが長い指の1本で扉を撫でる。するとドアは消え去った。
「うわぁ……」
広すぎる部屋にまず驚いた。……でもそんなのは些細な事だ。何だこの金貨の山。いやほんとに、金貨の山がデカすぎて部屋の大きさが分からない。地平線が隠れてる……ここにある分だけで地球の金埋蔵量の4分の3ほどは集まってるんじゃないのか?……いや純金貨だったらの話だけど。
「あの……マクゴナガル先生?これって……どれくらいになりますか?」
「……言い表せません。」
……そうだよね……
「そうですね……人生何回遊んで暮らせますか?」
「……逆にどれほどの贅沢をすればこれ程の山を使い切れると思うのです?」
……アンナリーゼ様……この恩は重すぎます……
そうだ、
「金貨と銀貨と銅貨……ですか?お金のこと何も知らないんで教えて貰えますか?」
「金貨から、ガリオン、シックル、クヌート。1ガリオンは17シックル。1シックルは19クヌートです。」
なんて?
「また教えて差し上げます。まずは必要な分だけ引き出して帰りましょう。……一旦帰りませんか?私は……恥ずかしい話ですが1杯飲まないとやってられません。」
「……クリス様。私も戻りたいです。申し訳ありませんが……疲れてしまいました。」
……そうだね……一旦休憩しよう。
〜〜~
グリンゴッツから出て30分。少し休んでやっと調子が戻ってきた。……持ってきてよかったね、杖。武器としてではなく本来の杖の役割を果たしてくれるとは。
……いやぁ。それにしても、アンナリーゼ様にはもう二度と頭が上がんないね。
マクゴナガル先生からは大変なことになったということだけ知っておいてください。と聞いた。
「……杞憂だったとしても……別人の可能性があったとしても……アンナリーゼの口座を開けると聞いた瞬間にもっと隠密に動くべきでした……明日の日刊預言者新聞の1面はこの騒動で決まりです……生徒がゴシップネタになるのを止めれたかもしれないのに……私がいながら……」
「あの……先生?私達、そんなに気にしてませんから、大丈夫ですよ。」
マクゴナガル先生がめっちゃ凹んでる。ほんとにもう申し訳ない。
「マクゴナガル教授。気になさらないでください。私はもとより、クリス様もこう仰っています。……そろそろ本題である学用品を揃えに行きましょう。」
私と人形ちゃんの慰め?を受けマクゴナガル先生も動き始める。
「そうですね……取り乱しました、申し訳ありません。……まずは制服から仕立てに行きましようか。」
……よし!気を入れ直そう!まあ!多すぎて困ることはない!はず!大は小を兼ねる!
「ときに、ミス・ブラウン。あなたのその服装はどういうものなのです?見たところ非常に仕立ての良いものみたいですが。」
「分かりますか?これすごく性能のいい服なんです。思い入れもありますし……欲を言えば学校でもこの服のままでいたいんですよね。」
何があるか分からないからね……とはいえこの服ヤーナムでは優秀だったけど魔法相手にどれだけ耐性があるか分からない。……そもそも魔法耐性なんてのがあるかすら分からないんだけどね……そういう耐性があると考えるなら、多分学校指定の服装の方がいいんだろう。
「残念ですが、学校内では学校指定の服装で過ごしてもらいます。とはいえ休日や授業の無い間は服装の指定はありませんが……」
ふーん?割と自由にしてていいのかな?
「さて、ここです。」
[マダムマルキンの洋装店]
〜普段着から式服まで〜
「お二人とも、中に入ってホグワーツの制服を頼みなさい。あとは店員が仕立ててくれます。」
「分かりました!先生は?」
人形ちゃんも頷く。
「私は1度漏れ鍋に戻ります。もう少し、ひとりで休息を取らせてください。」
あぁやっぱり厳しかったのか。
人形ちゃんと顔を見合せ苦笑しながら店内に入る。
店内に入るとマダム・マルキンと思われる魔女がやってきた。
「お嬢さんたちもホグワーツなの?」
肯定しようと口を開く前に声をかけてくる。
「全部うちで揃えられますよ。奥で坊ちゃんが2人採寸しているところなの。」
先客がいるのね?あっ……
人形ちゃんだけ別室に連れてかれた……
私は別に男の子と一緒に採寸されてもいいだろってか?幼児体型だから?まあ、別にいいけど……そのうち見とけよ……
「……僕はスリザリンに決まってるよ。僕の家族は皆そうなんだ。ハッフルパフなんかに入れられてみろよ。僕なら退学するな。そうだろ?おや?」
「お話の邪魔しちゃったかな?はじめまして。」
眼鏡の子は私を見て鬱陶しそうな顔を一転。すごく嬉しそうに笑みを浮かべた。
「君もホグワーツかい?」
「うん!ホグワーツに入学することになったんだ。……1週間前にね。」
「1週間前?随分と遅いね。僕は生まれた瞬間から決まってたよ。」
……ほう?見下すような言い方するね。眼鏡の子はずっとこの調子に付き合わされてたのかな?ならさっきまでの不機嫌そうな顔の理由も理解できる。
「……生まれた瞬間から決まってたなんてすごいじゃん!それじゃ、君の両親は魔法使いなんだ?」
……あら?ミスったかな?気取った話し方をする金髪の青白い顔をした子が顔をしかめる。
「当然だ。僕はマルフォイ家のドラコ・マルフォイだぞ?というか、その言い方だと君の両親は魔法使いじゃないみたいだな。」
……マルフォイ家……多分名家の出身なんだろうな。権力持ってるとこにはいい顔しておかないとね。何かと便利になる。けど、この感じ、マグルから生まれたって言うとあとが面倒くさそうだ。
「ん〜……実はさ、分かんないんだよね。親が魔法使いか分からないうちに亡くなっちゃってね。とはいえ、魔法使いとしては育てたくなかったみたい。11歳になるまで……つまりこの間まで一緒に暮らしてたのに教えてくれなかったんだ。おかげでホグワーツとか魔法界とか……知らないことだらけだよ。」
ふふ、''嘘は''言ってないんだな。
「……少なくとも血の裏切り者の家の生まれってことか。君、こういう奴とはあまりかかわり合いにならない方がいい。」
そうメガネの子にドラコが話しかける。
……へぇ?私、目の前にいるのにそういうこと言っちゃう?眼鏡の子露骨に嫌な顔してるよ。
「……どうかな、マルフォイ。僕も生まれは魔法使いと魔女の息子だけど、両親が亡くなったからマグルに育てられたんだ。つまり、僕も彼女と似てるんだ。誰と付き合うかは自分で決めたいね。」
「おや、君の両親のことは残念だね。でもね、君のは聞いてる限り不可抗力だが、彼女の両親は少なくとも魔法使いであることを隠してマグルのように暮らしてたんだ。ありえないね。魔法族の風上にも置けない。」
「……彼女の両親はそうかもしれない。でも、親が何してるかは子供には関係ないんじゃないか?君の言葉なら不可抗力ってやつだろ。」
ドラコ・マルフォイは不機嫌さを隠そうとしてない。こんなに言い返されると思ってなかったのかな?
「……ふん、まあね。君の言うことも1部わかる。だけどね、実際がどうであろうと周りから見れば、マグル生まれだろうとマグル育ちだろうとなんだろうと、人はその周りにいる人間で人を判断するんだよ。君も付き合う人間は考えなくちゃ。」
そうかい。……本気出して取り入りにいくかな?
「……そう言わないでよ、ドラコ。君とは仲良くしたいんだ。マルフォイ家の評判は魔法界に入ってすぐの私ですら聞いてるよ。とても素晴らしい高貴な血の家だってね。それに……君はとても素晴らしい才能を持っている。……顔だ。」
「なんだって?」
「そう、容姿さ。とってもハンサム。上に立つものにとって容姿っていうのは外せない要素だよ。カリスマ性にも繋がるしね。君の両親は君に素晴らしい贈り物をしてくれたみたい。」
……早口過ぎたかな?それに名前を呼んだのは馴れ馴れしすぎたか。
とはいえ最大限褒め言葉をかけたつもりだ。……勘で話したけどクリティカルしてくれないかな?
そうそう、上目遣いも忘れずにね。
……そんな顔をしないでくれよ眼鏡の君。
「……ふん、まあいい。君は血の裏切り者の家系の中では好感が持てる。立場を理解しているしね。……ホグワーツでまた会おう。」
ちょうどドラコの制服の仕立てが終わったみたいだ。彼は足早に去っていった。ちょっと顔が赤かったけど……これは成功か失敗か判断つかないな……多分、最悪ではないかな。
「君……凄いね。あんなに上手なおべっか初めて見た。」
「はは、おべっかってばれた?まあそうだよね。……でもこういうのって受けてる人間はそうとは気づかないもんだよ。」
少し笑いながら彼と話を続ける。
「でも……あんな子と仲良くするの?僕はごめんだね……あんまり合わないや。」
そうだろうね。すごく嫌そうな顔してたよ。でも
「ふふ、分かるけどね。でも、これから同じ学校で過ごす人間なんだ。まだまだ切り捨てるのは早いと思うな。言葉が通じない訳じゃない。話すことが出来るんだ。友達になれる余地は充分にあるよ。彼は……いいとこの生まれっぽいしね。」
彼は感心したように私を見る。
「君もしかして……さっきのおべっかはほんとに何も知らない相手にやったのか……凄いね。君みたいには出来そうにないや。……やっぱり僕はホグワーツではビリになりそうだ。」
「ははっ、そんなことはないって。それこそまだまだ分からないじゃん!」
「さて、終わりましたよ。坊ちゃん。」
「あら、もう終わりか。今度はホグワーツで、だね。私はクリスティーナ。クリスティーナ・ブラウン。」
「うん。また今度。僕は」
「ふふ、知ってるよ。君の額のそれ、マクゴナガル先生に聞いておいてよかった。ハリー・ポッター。でしょ?」
「……君はなんでも知ってるね。」
買いかぶりだね。
「知ってることしか知らないよ。英雄さん。」
ハリーは顔を赤くしながら言う。
「ハリーがいいな。英雄なんて呼び方はやめて。当時何をしたのか覚えてすらいないんだから……」
やっぱり覚えてないんだね。ちょっとガッカリ。まあそりゃそうか。
「わかった。じゃあは私はクリスでいいよ。ハリー。またね。」
「うん、また今度。ホグワーツでね。クリス。」
ハリーもいっちゃった。とはいえ楽しめそうなやつらに会えたな。ハリーもドラコも。これからは退屈しなさそうだ。
〜〜~
「さてお待たせしました。お嬢さん。終わりましたよ。」
「ありがとう。」
店員さんに仕立ててもらった制服を貰って店から出る。
店の入口で待ってくれていた人形ちゃんに声をかける。
「お疲れ様です。クリス様。随分と楽しそうですね?」
「わかる?ふふ、いい子達と知り合えたよ。マリアちゃん。さて、漏れ鍋に行こうか。マクゴナガル先生とほかの学用品揃えなきゃ。」
漏れ鍋ではマクゴナガル先生が冷水をジョッキで飲んでいた。
「マクゴナガル先生!仕立て終わりました!」
「ああ、終わりましたか。……私もやっと落ち着きました。次は教科書ですね。」
よし!次は本屋だ!テンションが上がる!知識欲に火がついて仕方がない。
[フローリシュ・アンド・ブロッツ書店]
最高に好奇心がくすぐられるね。本屋。
欲に身を委ねて片っ端から本を買おうとしたら先生が聞いてきた。
「随分と本が好きなんですね?目が先程から輝いていますよ。」
「はい!大好きです!本は知らないことを教えてくれるし、何を知らないかも教えてくれます。それに、私は魔法界のことを何も知りません。一般常識を手に入れる為にも、本はいくらあってもいいですよ。」
常識の欠けた空気の読めない人間として浮くのはごめんだ。
「ふふ、ええ、実に勤勉ですね。……今年のレイブンクローは良い子を手に入れることでしょう。」
レイブンクロー?……なんだそれ。
聞くに、ホグワーツにはグリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリンの4寮があり、レイブンクローに組み分けされる者は知識を愛するらしい。
実に私向きだ。そこでなら学友もいい人達が出来るだろう。良い人間関係を構築出来れば、得られるメリットも多い。
さて、好き放題買いまくった後、この量は持ち運びができないことに気がついて頭を抱えた。
一旦お店に置かせてもらって急遽トランクを買いに行く。……魔法のトランクだ。夢のようだよほんと。内部空間を広げる魔法がかかっている、文字通り魔法のトランク。
……これ満杯になんてなるのかしら……めっちゃ広い。中に住むことすら出来そう。
無事本を全て詰め込み、トランク改め、''持ち運びができる図書館''を手に入れた私たちは、順調に学用品を揃えて行った。我ながらこのトランクはいい買い物だった。
〜〜~
「さて、必要な学用品は残すところ杖のみですね。」
待ってました!魔法の杖!なんて素晴らしい響だろう。私の、私だけの杖!
「こちらです。オリバンダーの店。杖を買うならオリバンダー以外に有り得ませんね。」
[オリバンダーの店]
紀元前382年創業
高級杖メーカー
……どんだけ前からやってんのさ。凄すぎでしょ。
中に入ると鈴の音が奥から聞こえてきた。
この店だけ雰囲気が違う。
「いらっしゃいませ。」
意外にやわらかい声が響いてきた。そこには老人が立っている。
「こんにちは。オリバンダー。」
マクゴナガル先生が声をかける。
「おお、ミネルバ・マクゴナガル。久しぶりだ。また会えて嬉しい。確か……24センチ、モミの木、ドラゴンの心臓の琴線。固く、しなりやすい。そうでしたね?」
「ええ、その通りです。お久しぶりですね。今日は新入生の杖を買いに来たのです。」
老人がこちらを見たので挨拶する。
「はじめまして。私はクリスティーナ・ブラウンです。」
「はじめまして。私はマリアです。」
「ええ、いらっしゃいませ。お二人とも、はじめまして。ギャリック・オリバンダーと申します。それでは拝見いたしましょう。どちらから始めますか?」
まずは人形ちゃんから始めてもらう。
「それでは、杖腕はどちらですかな?」
「……利き腕のことであれば、私は右利きです。」
オリバンダー老は人形ちゃんの右腕に巻尺を当てようとする。しかし、
「……ですが、そうですね。杖は左手で持ちたいです。」
一瞬怪訝そうな目を人形ちゃんに向けるオリバンダー。しかし、すぐ''分かりました''と言って左腕の寸法を採り始める。
「さて、お二方。オリバンダーの杖は1本1本、強力な魔力を持った物を芯に使っています。ミネルバのようにドラゴンの心臓の琴線や、ユニコーンのたてがみ、不死鳥の尾の羽などです。
そして、それらは個体差があります。ユニコーンのたてがみにしても、違う個体のユニコーンから採取した物は当然として、同じ個体のユニコーンからの物でも違うのです。
つまり、この世に一つとして同じ杖は存在せず、自分の杖より上手く魔法を使える杖も存在しません。」
オリバンダーの目が鋭くなる。
「何が言いたいかと言うと、杖は充分に慎重に、大切に扱って欲しいという事です。先程来た客などは……杖を真っ二つにおられていました。そんなざまを見たくはありませんのでね。」
警告かぁ……めっちゃ真剣というか、怒気すら含んだ言葉だね……
まあ言いたいことは分かる。わたしも狩道具は全て非常に丁寧にメンテナンスしているからね。
分かりましたと人形ちゃんが言うと、頷いたオリバンダー老は、人形ちゃんに杖を差し出す。
「松の木にユニコーンのたてがみ、25センチ、固く、弾力がある。」
人形ちゃんが受け取り、振ろうとするが直ぐにオリバンダーが杖を奪う。
「これではない……そうだ、こちらを。樫の木にドラゴンの心臓の琴線、しなやかでよく曲がる。」
人形ちゃんがまた受け取ろうとするが、今度は握った瞬間に奪われた。
「これはない……ふむ、こちらはどうかな?白樺に不死鳥の尾の羽、29センチ、固く振りごたえがある。試してください。」
これは人形ちゃんが受け取った瞬間、人形ちゃんの顔が変わった。人形ちゃんは素早く小さな所作で杖を振る。瞬間、眠気を誘う冷たい白い霧が杖から吹き出した。
「素晴らしい……この杖ですな。」
オリバンダーは笑顔でそう言う。マクゴナガル先生も拍手をして微笑む。
「……クリス様。これは……凄いです。まるで……今までこれが手の中に無かったのが信じられないくらい……馴染みます。オリバンダーさん、ありがとうございます。」
人形ちゃんが微笑むと、オリバンダーは恭しく礼をする。
「次は……ブラウンさんですね。杖腕はどちらです?」
こちらを向き直ってオリバンダーが言う。
「私もマリアちゃんと同じ、左手です。」
オリバンダーは直ぐに先程と同じく左腕の採寸を採る。
「……それで、オリバンダーさん?あの、杖って、大体みんなあのサイズなんですか?」
「というと?」
オリバンダーは作業をしながら聞き返す。
「私、杖を使っているんです。この杖なんですけど、''杖''といったらこの形状のが慣れていて……」
そう、私の言う''杖''とは皆さんご存知仕込み杖だ。
オリバンダーは少し眉を潜める。
「……つまり、マリアさんやマクゴナガルの様なサイズの……所謂ワンドでは無く、スタッフ……貴女の持つような長い杖が欲しいと。」
「そういう事です。その方が手に馴染む……と思うんですけど。」
後ろからマクゴナガル先生が声を出す。
「オリバンダー。すいません。この子はマグル生まれで、杖に関しても、今はまだ何も知らないのです。」
「……そうですか……ブラウンさん。基本的に魔法使いはワンドを使います。スタッフよりも実用的ですし、性能もそこまで変わりません。……そうですね……しかし……杖に選ばれれば別です。」
ワオ聞いたことない理論だ。
「杖に?……すいません。つまり、人が杖を選ぶのではなく、」
「そう、多くの者が勘違いしているのですが、魔法使いが杖を選ぶのではありません。''杖''が魔法使いを選ぶのです。」
「……であれば、今使用している杖こそが私を選んでくれる杖だと思います。」
「……ほう、私が1から作り上げた、ここにある全ての杖より、あなたが今使用している杖こそが、という事ですか。……その杖、見せていただいてもよろしいですか?」
頷いて仕込み杖を渡す。……''杖が魔法使いを選ぶ''か……
「……これは……ブラウンさん。この杖は……この事をマクゴナガルは知っているのですか?」
小声でマクゴナガル先生には聞こえないよう、オリバンダーは聞いてくる。
静かに首を振ると、オリバンダーは何か言いたげに私を見るが、もう一度杖に視線を落とす。
食い入るように杖を見るオリバンダー。目に杖が入るのではと思うほどに目を近づける。
「……分かりました。この杖は……不思議ですね。魔法の杖としての芯、強い魔力の芯が無いというのに……あなたに使って欲しいと言っています。……というより、私以外を使うな、とね。」
"あなたの言った通りですな''と、苦笑しながらオリバンダーは言う。
「分かりました。私の仕事はお客様の手に合う杖を作ることです。この杖を元に、ブラウン様の手に会う杖をお作りしましょう。」
「仕掛けの機構はそのままに、できますか?」
「その為にこの杖を使うのでしょう?いえ、杖がそう使ってもらいたいと言っているのです。何としても、そうしましょう」
マクゴナガル先生に振り向くと、あんぐりと口を開いている。
「……初めて見ましたよ……合う杖が見つからなかったから作ってもらうのではなく、杖を探しもせず初めから作ってもらう人なんて……」
そう言っているのを聞いて少し笑う。杖と言えばこの手に収まるのはこれしかないのだから。
「とはいえ、何を芯にするのか決めなければ。」
そう言ってオリバンダーは何本もの杖を持ってきて私に握らせ始めた……
〜〜~
やっとの事でオリバンダーが納得したようで、新学期が始まるまでには完成させてふくろう便で届けると言われたのが少し前。
オリバンダーの店から出て一休みする。
「お疲れ様です。お二人とも。バタービールか、かぼちゃジュースでも買ってきてはいかがです?」
「そうですね。クリス様。どちらにしますか?」
人形ちゃんにかぼちゃジュースが良いと伝えると、スタスタと買いに行った。……一緒に行きたかったけど、ちょっと限界。眠気も襲ってきたし何より疲れた。さっきから少し脚が笑ってきてる。
……ちょっと体力なさすぎじゃないかな?鈍ったとか?これは地下に潜りなおさないと……
「ミス・ブラウン。疲れているところ悪いのですが、これで最後です。後からミス・マリアにも言いますが、ホグワーツにはペットを連れてきて良いこととなっています。欲しいですか?基本的には、ふくろうか猫ですが。」
鍛え直しを考えていると先生からそう言われた。
……あれ?ヒキガエルが無くなってる。
「ヒキガエルでも良いですよ。しかし……あれはもう流行を過ぎたものです。個人的にはオススメしません。」
ちょっと笑っちゃった。なんだよ、やっぱりヒキガエルはおかしいって気づいたのかな?……いや流行してた時があったってだけでもやっぱり魔法界って変だ。
「……そうですねぇ……ペット……飼ったことが無いんですよねぇ……ふくろう便って自分が飼ってないと使えないとかあるんですか?」
「いいえ、そんな事はありませんよ。ただ、自分で飼っている方が便利ではありますね。」
……うーん。正直手紙出したりするのは使者たちに任せてもイケると思うんだけど……変に神秘で魔法界のシステムに干渉することは避けた方がいいかな。
「分かりました。ふくろう、飼いたいです。」
かぼちゃジュースを買ってきてくれた人形ちゃんにありがとうと言い、それを受け取る。
ひんやりしてて美味しい。
同じことを人形ちゃんにもマクゴナガル先生が聞くが、''私は動物を飼うことは出来ないです。クリス様に専念したいので。''と断った。……それ言外に私のことペットって言ってない?それとも手がかかるって意味?考えすぎ?……少しモヤモヤしてしまったが、かぼちゃジュースと一緒に飲み込む。
人形ちゃんと分けあったかぼちゃジュースを飲みきった私たちは、ふくろうを買いに行った。
〜〜~
さて、[イーロップふくろう百貨店]にて、真っ黒なふくろうを買った私たちは、トランクを持ってマクゴナガル先生の手を握っている。
「ポートキーの時と同じです。決して離してはいけませんよ。」
頷いた私達は''ポン''という音を最後に、また窮屈なゴム管の中を押し通る感覚を経て実家の前に立つ。
「お疲れ様でした。色々とありましたが……とりあえず学用品を一通り揃えることはできましたね。これで安心してホグワーツの入学を迎えられます。」
本当に長かった。めちゃくちゃ楽しかったけど超疲れた。もう眠気も限界だ。人形ちゃんに捕まってないと立ってらんない。
「マクゴナガル教授。送りまで、ありがとうございました。クリス様はもうお眠りの時間ですので、必要なことは私が聞いておきます。入学の日はどうすれば良いのですか?」
人形ちゃんに抱っこされ、背中をさすられる。先生が帰るまで待って欲しかった……恥ずかしい。けど抗う気力もない。
「……そうですね。こちらがホグワーツ行きのチケットです。キングス・クロス駅の9と4分の3番線から、当日の11時に発車します。乗り方は……」
なんだかすごいことを聞いた気がするがもう無理。人形ちゃんに体を預けて意識の糸を手放す……
「おやすみなさい。狩人様。良い夢を。」
大体準備が整いました。やっとホグワーツ行きです。
評価ありがとうございます。とても励みになります。
書き溜めの分はまだあるのである程度トントンと出せると思いますが、そのうち必ず牛歩になります。
早く出せるよう頑張りますので、応援していただけるとありがたいです。