雄英選抜課程:THE SELECTION ―泥と弾丸の三年―   作:鯖缶詰

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この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。


雄英高校入学式:現実の洗礼

「冬の時代」が加速し、個性の輝きよりも弾丸の冷たさが支配する世界。紺色のBDUを勝ち取った40名の精鋭たちを待っていたのは、祝辞ではなく、血生臭い「現実」の共有でした。

 

【雄英高校入学式:現実の洗礼】

入試の地獄を生き残った40名の生徒たちが座る講堂は、静まり返っていた。皆、支給されたばかりの制服に身を包んでいるが、その表情には入試で刻まれた険しさが消えていない。

 

壇上に上がった根津校長は、いつもの愛嬌のある声を封印し、低く、冷徹な響きで語り始めた。

 

「新入生の諸君、改めて歓迎する。だが、一つ訂正しておこう。諸君が今日から学ぶのは、漫画のような『勧善懲悪』ではない。……今、この国の犯罪は、劇的な変化を遂げている」

 

根津が背後の巨大スクリーンに映し出したのは、個性の衝突跡ではなく、無残に撃ち抜かれた壁や、高度なジャミング装置、そして軍用レベルの重火器の残骸だった。

 

「個性の時代は、ある意味で終わりを迎えた。今、我々の前に立ちはだかるのは、個性による暴挙ではない。闇市場で取引される高出力のサポートアイテム、そして、個性の有無を問わず等しく命を奪う『重火器』による犯罪だ。ヴィランはもはや、派手な衣装で現れはしない。数百メートル先から、消音器付きのライフルでヒーローの眉間を狙い撃つ時代だ」

 

会場に戦慄が走る。緑谷はノートを握りしめ、爆豪は忌々しげにスクリーンを睨みつけた。

 

「諸君らの『個性』は、あくまで戦術の一つに過ぎない。弾丸一発で無力化される個性など、この雄英ではガラクタと同じだ。だからこそ、我々のカリキュラムは、銃器の解体から電子戦、戦術行軍にまで及ぶ。……諸君はヒーローである前に、この残酷なシステムの一部を担う『抑止力』になってもらう」

 

根津の瞳が、暗い講堂の中で鋭く光る。

 

「今日、諸君の子供時代は完全に終わった。ここは夢を語る場所ではなく、冷徹な勝利を学ぶ訓練施設だ。……覚悟はできているね?」

 

返事はなかった。しかし、40名の生徒たちの背筋は、誰一人として揺らがなかった。入試で30キロの命を背負い抜いた彼らにとって、校長の言葉は「絶望」ではなく、乗り越えるべき「任務」として刻まれたのだ。

 

 

「冬の時代」の教育は、成功体験からではなく、徹底的な「無力感」から始まります。個性という最強の武器が、ただのプラスチック製の弾丸に屈する現実。相澤消太はその教官として、容赦なく生徒たちの慢心を撃ち抜きました。

 

【戦術実習:都市型屋内演習――「死のペイント」】

「演習開始。五分以内に二階奥の目標を確保しろ。……個性の使用は許可するが、一発でも被弾すれば、その場で『戦死』と見なす」

 

相澤の低い声が無線に響いた直後、緑谷、爆豪、麗日、飯田、轟の五人が建物内へと突入した。彼らは入試を生き抜いた精鋭としての自負があった。だが、その自信はわずか数秒で、乾いたプラスチック音と共に砕け散る。

 

「一、飯田、戦死」

 

突入直後、曲がり角を高速移動で抜けようとした飯田の喉元に、赤いペイントが咲いた。 「なっ……!?」 「次角の確認不足だ。エンジンの音でこちらの位置を知らせ、自ら銃口の前に飛び込んだ。死体は喋るな、戻れ」 物陰から相澤の声が聞こえる。姿は見えない。

 

「クソがっ! 隠れてねぇで出てきやがれ!」 爆豪が怒りに任せ、爆破の熱を掌に溜める。だが、彼が腕を振り上げるより早く、天井の通気口から放たれた数発の弾丸が、爆豪の利き腕の関節と肩を正確に叩いた。

 

「二、爆豪、戦死」

 

「個性の発動にはタメがある。指を引き抜くコンマ数秒に勝てるとでも思ったか。……お前は『火力が高いだけの標的』だ」 「んだとコラぁ!!」 審判の宣告に爆豪が吠えるが、ルールは絶対だ。

 

緑谷は冷汗を流しながら、轟の背後で状況を分析しようとした。 「轟くん、氷壁で射線を切って……!」 轟が右手を地面に突き、巨大な氷壁を作ろうとしたその瞬間、足元に放たれたペイント弾が轟の足を赤く染める。

 

「三、轟、戦死」

 

「お前は個性に依存しすぎている、轟。大技を出す際、一瞬だけ意識が個性に集中し、周囲の警戒が疎かになる。広域制圧の個性など、隠れた狙撃手(スナイパー)にとっては『ここを撃て』という合図に過ぎない」

 

残されたのは緑谷と麗日の二人。 「お茶子さん、上だ……!」 緑谷が飛び出す。だが、相澤はすでに移動していた。 暗闇から伸びたタクティカルライトの光が麗日の視界を奪い、パニックを起こして浮かせようとした彼女の腹部に一撃。

 

「四、麗日、戦死。……五、緑谷。お前は慎重すぎて機を逃した。仲間が全滅するのを待ってから動くのは、戦略ではない。ただの敗北だ」

 

相澤が暗闇から悠然と姿を現した。その手にあるのは、最新鋭でも何でもない、どこにでも売っているペイントガン。

 

「これが現実だ。一万ドルの特製ガジェットも、路地裏で買った安物の銃火器も、引き金を引けば等しくお前たちの命を奪う。個性が無敵だという幻想を今すぐ捨てろ」

 

相澤は、赤いシミを付けたまま立ち尽くす五人の生徒を冷徹に見下ろした。

 

「人を救いたいなら、まず自分が殺されない技術を学べ。……もう一度だ。全員、一階へ戻れ」

 

地獄の二周目が始まった。生徒たちの瞳からは、入試を突破した際の高揚感は消え、代わりに現実という名の重く冷たい覚悟が宿り始めていた。

 

 

相澤による「現実」の叩き込みは続きます。次のチームは、索敵や搦め手を得意とするメンバー。しかし、個性に頼った「便利さ」こそが、実戦では最大の隙になることを教官は突きつけます。

 

【戦術実習:二班(耳郎、八百万、上鳴、瀬呂、口田)】

「索敵開始……。ターゲット、十時方向の遮蔽物の裏に心音あり」

 

耳郎響香がイヤホンジャックを壁に差し込み、冷静に指示を飛ばす。八百万が創造した防弾シールドを先頭に、上鳴と瀬呂が左右を固め、口田が偵察の小鳥を飛ばす。一班の失敗を見た彼らの布陣は、慎重かつ理論的に見えた。

 

だが、相澤はその「索敵の信憑性」を逆手に取った。

 

「一、耳郎、戦死」

 

「えっ……!?」 壁越しに放たれたのは、銃弾ではなく強力な**音響閃光弾(スタングレネード)**の衝撃波だった。イヤホンジャックを壁に直結させていた耳郎は、増幅された爆音に聴覚を焼かれ、その場にうずくまる。その隙を逃さず、相澤のペイント弾が彼女の背中を叩いた。

 

「耳郎、お前の個性は『情報源』だが、同時に『脆弱な入り口』でもある。偽の音情報を流されたり、物理的な衝撃を返されれば、真っ先に無力化されるのはお前だ」

 

「耳郎さん! ……上鳴さん、放電で牽制を!」 焦った八百万が指示を出す。上鳴が広範囲に電撃を放とうと腕を突き出した瞬間、暗闇から飛来した一本のワイヤーが彼の足首を払い、体勢を崩した。

 

「二、上鳴、戦死」

 

「放電の予備動作が大きすぎる。狙ってくれと言っているようなものだ。上鳴、お前の電気はライト一つ点けられないガラクタになったな」

 

続けざまに、偵察の小鳥を操ろうとしていた口田の眉間、そして彼を庇おうとした瀬呂の胸元に、正確な連射が吸い込まれる。

 

「三、口田、四、瀬呂、戦死」

 

最後の一人となった八百万は、次々とアイテムを創造しようとするが、焦燥から判断が鈍る。 「盾、いや、煙幕を……!」 「遅い」

 

背後。至近距離。 相澤のペイントガンの銃口が、八百万のうなじに触れていた。

 

「五、八百万、戦死」

 

「八百万。お前の『万能』は、戦術的選択肢の多さに溺れる弱点でもある。一秒を争う銃撃戦の中で、カタログを開いている暇などない。必要なのは『何を作るか』ではなく、『今あるものでどう生き残るか』だ」

 

八百万は悔しさに唇を噛み、耳鳴りに耐える耳郎を支えながら立ち上がった。

 

「……個性に頼った索敵も、連携も、道具一つでこれほど容易く瓦解するなんて……」

 

「わかったなら、次は個性に頼らずに動け。耳ではなく目を使え。万能ではなく、生存の一点に絞れ」

 

相澤は冷たく言い放ち、再び暗闇の中へと姿を消した。生徒たちの顔からは、個性を「ギフト(才能)」だと信じていた甘えが、着実に削ぎ落とされていった。

 

 

「冬の時代」の訓練は、学習さえも「予測の範疇」として利用する相澤の老獪さが光ります。前のチームが「情報の入り口」を叩かれたのを見た三班は、より物理的な防御と視覚外からの奇襲に賭けましたが、それすらも重火器の論理によって否定されます。

 

【戦術実習:三班(切島、砂藤、障子、常闇、蛙吹)】

「一班は個性の慢心、二班は情報の過信でやられた。……俺たちは、肉壁と奇襲に徹するぞ!」

 

切島の号令とともに、三班が突入する。 先頭は「硬化」した切島と、筋肉を膨張させた砂藤。二人の肉体は並の打撃を寄せ付けない。その後ろで障子が触手を伸ばして全方位を警戒し、天井には蛙吹と常闇の「黒影(ダークシャドウ)」が潜む。

 

まさに、物理制圧に特化した布陣。しかし、相澤は彼らを「的」としてしか見ていなかった。

 

「一、切島。二、砂藤。……戦死」

 

突如、通路に白煙が立ち込める。煙幕ではない。強力な催涙ガスだ。 「ガッ……、目が、鼻が……っ!!」 硬化しても、肺や粘膜までは守れない。呼吸を乱した二人の隙を、相澤のペイントガンが逃さなかった。防弾仕様のペイント弾が、切島の硬化した肌の「継ぎ目」と、砂藤の開いた口内に吸い込まれる。

 

「切島、砂藤。硬ければいいというものではない。化学兵器やガスに対して、その筋肉は無力だ。お前たちはただの『動けない障害物』に成り下がった」

 

煙の中で視覚を失った障子が、複数の耳を広げて相澤の機先を制しようとする。 「……そこだ!」 だが、彼が指差した方向にいたのは、相澤が設置した小型スピーカーだった。偽の足音に誘い出された障子の触手へ、容赦ない連射が浴びせられる。

 

「三、障子、戦死」

 

「障子。複数の感覚器官は、それだけ狙われるマトが多いということだ。デカい図体で立ち尽くすな」

 

天井から奇襲を仕掛けようとした常闇と蛙吹だったが、相澤はすでにフラッシュライトを上空へ向けていた。 「っ!? ケロ……っ!」 光に怯んだ「黒影」が霧散し、バランスを崩した二人が落下する。

 

「四、蛙吹。五、常闇。戦死」

 

無慈悲な宣告。40人全員が、一度も相澤に触れることさえできず、真っ赤なペイントで染め上げられた。

 

「……クソ、……結局、何もできなかった……」 砂藤が膝をつき、悔しさに床を叩く。

 

「当たり前だ。お前たちはまだ『ヒーローごっこ』の延長線上で、自分の個性が通用する土俵を探している」 相澤は空になったマガジンを捨て、冷徹に言い放った。

 

「敵は、お前の個性が効かない場所から撃ってくる。お前の個性が弱点になる武器を選んでくる。……今日、お前たちが学んだのは『敗北』ではない。『無知』だ。自分がどれほど殺されやすい存在か、その無知を骨の髄まで自覚しろ」

 

演習場に、重苦しい沈黙が流れる。 だが、その沈黙は入試の時とは違った。 打ちのめされた生徒たちの目には、「個性という才能」への期待ではなく、「技術という生存戦略」への渇望が宿り始めていた。

 

「……先生。もう一度、お願いします」

 

緑谷が、真っ赤に染まったBDUのまま、震える声で言った。 その言葉に、他の39人も無言で立ち上がる。 平和な時代なら、この光景は熱血青春の一幕だっただろう。だが、重火器と暗殺が支配するこの世界では、それは「兵士」としての産声に他ならなかった。




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