雄英選抜課程:THE SELECTION ―泥と弾丸の三年― 作:鯖缶詰
「『もう一度』だと? ……いいだろう。だが次は、個別に突入することは許さない」
相澤は空のマガジンを拾い上げ、新しいペイント弾を装填しながら告げた。
「今度は全員で入れ。一班から四班まで、計20名だ。個性の相性、射線、死角……それら全てを『管理』して見せろ。一つでも歯車が狂えば、そこから全滅すると思え」
二回目の突入。今度は先ほどのようなバラバラな動きではない。 緑谷が中心となり、各班のリーダーと短く言葉を交わす。 「……八百万さん、防弾シールドを量産して。切島くんと砂藤くん、それを重ねて物理的な『動く壁』になって。耳郎さんはジャックを壁に刺さず、障子くんの触手越しに音を拾って。相澤先生の音響兵器を警戒するんだ」
緑谷の指示は、個性を「最強の矛」としてではなく、お互いの「欠陥を補うパーツ」として組み替えていくものだった。
【演習:再試開始】
建物内に、鉄の規律が満ちる。 一列に並んだシールドの影から、轟の氷結が「壁」ではなく「足止め」として、相澤の逃げ道を塞ぐように薄く、広く展開される。
暗闇から相澤が放ったペイント弾が、八百万の盾に弾かれた。 「右だ! 爆豪くん、威嚇射撃!」 「指示してんじゃねぇ! ……死ねえ!!」 爆豪は相澤を直接狙わない。あえて相澤が隠れる遮蔽物の「周囲」を爆破し、その煙と光で相澤の視界と機動力を奪う。
「……ほう」 相澤の眉が動く。生徒たちが、個性の発動を「攻撃」ではなく「状況操作」のために使い始めた。
「上鳴、今だ! 盾の隙間からワイヤーを通せ!」 瀬呂が放ったテープに、上鳴が微弱な電流を流す。殺傷能力はないが、触れれば確実に動きが止まる罠の網が、通路を埋め尽くしていく。
「連携は良くなった。だが、集中しすぎだ」 相澤は天井の梁(はり)を蹴り、生徒たちの真上へと跳躍した。 空中からの乱射。だが、そこにいたのは「黒影(ダークシャドウ)」を傘のように広げた常闇と、彼を支える蛙吹だった。
「予測済み、ケロ!」 「……光には弱いが、これしきの弾丸、我が深淵で飲み込んでくれるわ!」
【演習終了】
五分後。 相澤の首筋には、緑谷が放った一発のペイントが、かすかに付着していた。 そして、生徒たちの側も、半数以上が「戦死」の赤いシミを付けていた。
「……時間だ。終了」
相澤の声に、全員がその場に崩れ落ちた。 完全勝利ではない。泥臭く、ボロボロになりながら、ようやく一矢報いたに過ぎない。
「いいか、今の感覚を忘れるな。一人で勝とうとするな。個性を『凄い力』だと思うな。それは単なる不便な道具だ。道具の使い道を間違えるな」
相澤は初めて、生徒たちの顔を「受験生」ではなく「教え子」として見た。
「今日の訓練はここまでだ。全員、装備を清掃して戻れ。明日は……『対狙撃戦』の基礎を教える」
「はい……!!」 20人の返声が、演習場に重く響いた。 彼らの瞳に宿っていたのは、入学式の時のような不安ではない。 いつか来るであろう本物の戦場を、生き抜くための「牙」を研ぎ始めた者の眼光だった。
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