TS転生したら変身ヒーローだったけど、魔法少女がやりたい! 作:魔法少女マジデ☆ドコダ
凛と晴が出ていった後の喫茶店。静かになった店内に残ったのは二人。
別に薄情だとか、そういうわけでもなく。ただ、闇雲に探すわけにもいかないので、こうして残る形になった。
そのうちの一人、蒼崎雪那はスマホでどこかとの連絡を終えて、詩織に向き直る。
「用が終わったけれど、あなたはどうするの?」
「用っていうのは、何?」
「魔法少女協会への連絡」
ぴくり、と詩織の眉が上がる。
「なんで、そんなことを?」
「言わなくちゃわからないかしら。百日紅凛から、ディープバーストに近い反応があったの」
「……そう」
詩織は黙り込んで、それ以上話すつもりはないらしい。それを感じ取っても、雪那は話を続ける。
「……もし、彼女が魔法少女なら、私たちはそれを助けたい」
「見知らぬ他人とあまり変わらないのに?」
「確かに、知り合ってばかりだけど……そうやって後悔したこともあるから」
雪那の言葉は、どこか重くて。それでも、詩織は気になってそれをつい聞いてしまう。
「まるで、前に見知らぬ魔法少女を助けられなかったみたいなこと言うね」
「そう言っているのよ。かつて、私が新人だったときに助けてくれた魔法少女。名前も知らない彼女が気付いたら消えてしまっていた」
「……それって」
失踪した魔法少女なんて、そう多くはない。
その存在に、詩織も心当たりはある。
漆黒、かつてこの地を守っていた最強の魔法少女。
「もし、あの凛って子が魔法少女なら――」
「そういうのは、助け終わってからにしない?たぶん、そのときには話さないといけないから」
詩織は、雪那の言葉を遮ってそう言った。
「それもそうね」
「一応こっちも、アキラに色々と調べてもらってるんだけどね。そっちから何かあれば、わかるとは思うんだけど」
「アキラ?」
雪那が小首を傾げると、詩織は表情を変えないまま話を続けた。
「私たちの仲間……というか、凛の保護者代わりって言えばいいかな。呼んだんだけど、怪人が途中で出てきたから、倒しながら来てるんだって」
「……怪人が?」
この地域に、怪人がよく出没するとは雪那も聞いていた。そのせいで、魔法少女が怪人と戦う時もあったから。
にしても、今日は既に凛が怪人を倒すのを見ていた。さらに、どうやら凛を拐ったのも怪人らしく、その他にも怪人が出てるということになる。
出現の頻度が高すぎて、少しだけ嫌な予感が過る。
「思ったよりも、面倒なことになるかもね。……そろそろ、私たちも探す?」
「当てがあるの?」
「さっきちょっとだけ情報が来てて、たまたま晴くんたちが行った方から、凛の反応を受信したらしいから」
「いつの間にそんなことを。……そうね、困った人を助けるのも魔法少女の役割だし。行くわ」
雪那が立ち上がると、詩織も同じように続く。
二人が去った後は閑散とした喫茶店が残るだけだった。
◇◇◇
痛い、体がずきずきとする。
ああ、そっか。捕まってて、電気かなんか流されてたんだ。
よくわからんけど、俺の封印をこじ開けるとか言ってたっけ。
確かに、思ったことがある。変身ヒーロー、デッドボルトのこと。
あの戦闘スーツは、鎖だとか鍵がついていて。そういうデザインなんだなと思ったけど。
まるで拘束具か何かのようだと思っていたことがあるから。
俺の体内に何かを封じてる、みたいな。
……痛いな、体が。あーあ、こんな空想上みたいな世界に来たのになー。
服もボロボロだし、ずっと痛め付けられてたって感じ?意外と耐えれるけど、ちょっときついなあ。
ぴちょん、と水滴が落ちる音がした。ダクトか何かから漏れてるのかな。
『凛、大丈夫か』
無機質なカントホルツの声も、今はなんだか嬉しいかも。
「うん。ちょっと気絶してた」
『無理もない、怪人からの攻撃を受けていたからな』
「そうだね。なんで殺されてないんだろ」
あはは、と軽く笑って済ませても、カントホルツからは何も聞こえてこない。まあ、返しにくいか。
……でも、少しずつ何かが思い出せそうになってきた気がする。
たぶん、何かを忘れていて。それが原因でこうなっている?
あの怪人は、何がしたいんだ。今はどこにもいないし。
「いたっ」
少しだけ体が揺れるだけで、酷く痛んだ。やりすぎだっての。乙女の体をこんな風にするなんてさ。
あーあ、これが転生だからとか。男が女になるとかすげーとか。そんな変なことばっか考えてたせいで、本来疑問に思うところをスルーしちゃったんだろうな。我ながらアホというか。
……じくじくと、胸が痛む。ずっと一人でいると、しんどい。
今まで、ずっとアキラとかがいたから。基地から出なくても平気だったんだな。
これから、また痛め付けられるのかな。やだな、痛いの。
ああ、でも。一人でもちょっとぐらいなら抜け出せると思うけど。やっぱり怖い。
あの憧れの魔法少女だとか、アキラが来てくれたらよかったのに。なんて、そんなことを考えるのは都合が良すぎるか。
……そうじゃなくても、誰かいてくれたら心強いのに。
沙彩ちゃんとか、それこそ――
そう考えているときに――がこん、と何かが外れるような音がした。
……いや、そんなもんじゃない。もっと大きくてうるさい音がする。
何かが吹き飛んだ。……また、怪人でも来たのか?
嫌だなあ……と思っていたときに――
「凛!」
聞き覚えのある声がして。思わず……口角が上がってきてしまった。
「少年……」
「助けに来たぞ」
なんだよ、それ。格好よすぎ。
ダクトらしきところから、少年が顔を出した。
すたっ、と着地して。俺の目の前までやってくる。
「凛、大丈夫だから」
「なに、が……」
と言おうとして。つーっ、と何かが頬を伝っていく。……こんなときに泣いてるなんて、ヒロインみたいじゃん。違うだろ、俺は魔法少女になりたい変身ヒーローなんだから。
ああ、でも。正直めっちゃ嬉しい。
「……早く、逃げよう」
「そんなに慌てなくても」
「だって、凛はボロボロで」
そんな人の見た目のこと言わないでほしい。しょうがないじゃん、なんかメンタル弱ってるときに痛め付けられたんだからさ。
でも、ちょっとだけまだ平気なふりをさせて。
「少年、一つだけ言っておきたいんだけど」
「こんなときに何?」
「私に拘束とか、実は意味ないよ。
かちゃり、と鍵が回るような音がした。どこにも鍵穴なんてないのに。
勝手に、手錠が外されて地面に落ちた。ふー、自由だ。
「実は、自分で脱出できたのでした!」
「……アホ、なんでそんなことできるのにここに捕まってたんだよ」
「……こうやって、少年が助けてくれるかなって」
「怒るぞ」
「ごめんってば」
強がりぐらい言わせてよ。
体がふらついて、少年に支えられる。……格好つかないな。
「ふらふらじゃん」
「ごめんね」
にしても、なんでここがわかったんだろ。
「ここにどうやってきたの、少年」
「ああ、それは――」
◇◇◇
……闇雲に走ってるけど、凛らしき存在は見えない。どこに行ったんだよ、あいつ。
って、適当に走ってても見つかるわけがないか。あいつは、捕まったみたいだし。
にしても、怪人は今まで暴れるだけで。そんな人攫いみたいなことをしてるのは聞いたことがない。
やっぱり、あいつって普通じゃないのか?
なんて、考えてる余裕もない。
「篠森さん」
息を切らして、あの魔法少女の子も追いかけてきた。
「ごめん、ちょっと落ち着かなくて。闇雲に走ったけど……このままだと見つからないに決まってるし」
「ええと、怪人の反応があるって場所。ちょっとだけ確認してて」
「……どうやって?」
「詩織さんの持ってた端末を盗み見ました」
……この人、大胆なことするな。アビスハンターズ用の端末を確認すると、詩織さんからそれらしい連絡が来てる。ああ、これを見たのか。
それに、アキラさんが怪人と戦ってるみたいな情報も。
「……こっちにも来てた」
「あれ、そうでしたか。じゃあそこから探しましょう」
なんか意外と冷静で、俺だけ焦ったせいで空回ってるみたいだ。
とりあえず、その示されてる場所を目指す。
ああ、もう。凛のやつ、人のこと振り回しておいてどっかに行くし。
最初は変なだけのやつだったけど。意外と、この地域をちゃんと守ってるんだなってわかって。少しだけ危なっかしい先輩みたいなものだと思ったら。
今度はぶっ倒れて。かと思えば、女だとわかって、魔法少女ごっこをしてるだとか、そんなことを知ったと思えば。
次は怪人に捕まるとか、ちょっと勘弁してくれよ。助けたら、ちゃんと文句言うから。
ちらり、と横顔を見る。きゅっ、と唇を結んでる。
「凛さんのことは、格好いい人だと思ったら普通に女の子でしたし。このぐちゃぐちゃになった気持ちの責任を取ってもらわないとですよね」
「……確かに、めちゃくちゃだったし」
なんて、話してるうちにその地点についたらしい。端末の場所はこの付近のはずだし。
「あれ、なんですかこれ」
……地面に、何か戦ったような痕がある。なんか、銃か何かで傷ついたような。
それと、何かをぶつけたようなそんな痕跡も。
……それから、地面に落ちた鍵も。
「これ、は……」
変身ヒーロー、デッドボルトの持つ鍵と同じ。
ここに凛がいたなら、なんとか探せるかも。
懐中時計を取り出して、かちりとそれのボタンを押す。
変身しなくても、デバイスを使うことで異能をある程度制御できるから。
「……篠森さん、何を」
「解析するのが俺の異能だから、それで痕跡を辿って場所を探せないかなって」
実際、解析の異能を使用して凛の持ってる鍵や戦闘の痕跡からある程度、どこに向かっていったか少しずつわかりかけてきてる。
……こんな風な使い方は、初めてやったけど。
「そんなことが。……すみません、それどころじゃないかもです?」
急に、張り詰めたような声を出されて、思わずそっちを向くと――空が割れるような歪みが広がっていく。
「災厄獣です」
「こんなときに」
よりにもよって、こんなときに。
「……私がなんとかするので、篠森さんは凛さんを助けてください」
「……わかった、絶対助けるから」
◇◇◇
「――っていうことがあって」
「……そっか」
沙彩ちゃんにも、迷惑かけちゃったな。っていうか、災厄獣まで出てるの?すごい状況。
「っていうか、早く逃げるよ」
「うん」
……敵の本拠地なんだろうけどさ、疲れちゃってさ。ちょっとだけ、少年に甘えてもいいかな。
そうやって、少年に支えられながら歩いていると――何かが落ちた。
独房のようなこの部屋の中で、無造作に置かれている何か。それはよく見るとビデオテープだった。……こんなところにある記録なんてたぶんろくでもないだろうけど。
少し気になって、それを拾った。
「何してるの、逃げるぞ」
「うん」
少年が、俺を見つけるときにそのまま使ってきたダクトを通って逃げられるっぽい。ゲームじゃないんだから。
痛む体をなんとか動かして、少年を追ってその場から離脱した。
……もう死ぬかと思ってたから、よかった。
文字数どれぐらいがいいですか?
-
3000以下
-
3000~5000
-
5000~7000