TS転生したら変身ヒーローだったけど、魔法少女がやりたい! 作:魔法少女マジデ☆ドコダ
何が起きているのか、いまいちわからなかった。
さっきまで凛さんは眠っていて、私たちはビデオを見ていたはずだ。それなのに、凛さんがいつもの調子で起き上がった直後、一瞬だけ視界が暗転した。
そして今、私たちは見覚えのない開けた場所に立っている。
移動させられた?だとしたら、誰に?
ちらり、と凛さんの方へと視線を向ける。気付けば凛さんは、黒いドレスに身を包んでいる。
その姿はどう見ても魔法少女で――どこか見覚えがあるような姿に見える。
でも、こんな異様な状況でも、誰も何も言えずにいた。
――だって、悲しげに凛さんが笑っているから。
「漆黒……」
ぽつり、と言葉が漏れた。そう、凛さんが言ってたから。
それと同時に、全身にピリピリと圧のようなものを感じる。これは、魔力?
凛さんの全身から漲る魔力に、押されてるみたい。
……やっぱり、凛さんが魔法少女で。本当に、漆黒?
凛さんの身に纏う、魔法少女の衣装は黒いドレスで。確かに、昔見た漆黒らしき人の衣装と似てる。
魔法少女オブシディアンローズ、それが本当に漆黒で凛さん、なんだ。
……でもやっぱり、そんなにすんなりと受け入れられなくて、そのまま凛さんの顔を見る。
すると、向こうもこちらを一瞥した。
「なんだよ、ルビーブロッサム」
「いやその……本当に凛さんが、漆黒?」
「そうだけど。ってか、いい加減そういうノリじゃないだろ」
いつもとは違う、ぶっきらぼうな物言い。……やっぱり、今までの凛さんとは違う。
まだ、よくわかってないけど。あのビデオに映っていた女の子がきっと凛さんで。私の知ってた凛さんは、本当の凛さんじゃなかった、とか?
「魔法少女同士なら、普通に名前で呼ぶなよ。魔法少女名で呼ぶのがマナーだろ」
呆れる、とばかりに肩をすくめる。……真剣なときに、ふざけたようなことを言うのは少し凛さんっぽいけど。
でも、凛さんが漆黒なんだ。
「なに、その顔」
凛さんが、私の顔をじっと見て眉を下げた。変な評定してたかな。
ああ、でも。自然と口が変な形に歪んでいたかもしれない。
だって、私は魔法少女になってからずっと漆黒のことが気になっていて。それが、ずっと気になってた凛さんだったんだから。
「……凛さん」
「人の話を聞いてる?だから、魔法少女名で――」
「私、魔法少女になってから漆黒のこと探してたんです」
「えっ、急に何?」
「昔、あなたに助けられたから。同じ魔法少女になったなら、今度は私が助けられるんじゃないかって」
「……ああ、そういうやつね」
ゆっくりと、凛さんがこちらに歩き出した。
「確かに、夜中に怪人に襲われてるガキを助けた気がするな。そこのお前もだ」
スッと指差した先には、雪那さんがいる。
もしかして。
「……気付いてたの?」
雪那さんが、ぴくりと体を震わせた。
「あんま、同業者を助けた記憶もないし。青い魔法少女だったし」
そうか、漆黒について何か知ってそうだと思ってたけど。雪那さんも私と同じだったんだ。
「でもさ、お前らあれ見たんだろ?」
少しずつ、凛さんが近づいてきた。
「ビデオの話だよ。よくもまあ、人が捕まってひどいことされてんのを、みんなで見てられるな。まっ、冗談だけど。アキラとかまで予想ついてなかったみたいだしさ」
そうだ、女の子が捕まって何か実験をされてる映像を見てたんだった。……きっと、これを行ってるのが凛さんを捕まえた怪人だろうからって。
でも、そこに映ってたのは凛さんらしき人で。あれは、過去に凛さんが何かの実験になった記録ってこと……なんだと思う。
アビスハンターズに拾われてたのなら、きっとそこら辺の事情はあらかじめ知ってたんだろうけど。さすがにその内容がビデオにあるとは思わないよね。
「昔さ、災厄獣と怪人が多発的に発生したのを一人でなんとかしてたことがあるんだよ。だけど、その時に頑張りすぎてさ」
気だるげに、凛さんが話し始める。
「ディープバーストして、それから捕まったってことぐらいはなんとなく想像ついてるだろうけどさ」
かつかつ、と凛さんが目の前までやってきた。
……そっか、そうなんだ。雪那さんが言ってた、ディープバーストに近い魔力だとか、記憶を失ってる魔法少女だとか。
ああいう推測って正しかったんだ。
でも、あまり現実感がなくて、うまく飲み込めない。
「捕まった私は、ちょうどいい実験対象だったみたいで。バカみたいにこの体をいじられて、その結果異能を埋め込まれたってわけ。よくわかんないだろ?」
目の前でけらけら、と笑う凛さんに何も言えなくて、ただ見つめるだけになってしまう。
ビデオの中の凛さんと重なって、悲鳴を上げてる凛さんが頭の中に浮かんでしまう。
不意に、凛さんが、ドレスの腹部をわずかに持ち上げる。そこに何かの痕が残っている。……あそこは、ビデオで注射のようなものを刺されていた箇所だったはず。
「怪人ってさ、人に異能を埋め込んで作るとかもできるんだよ。まっ、今までの怪人どもは全員、人造のもんでそういうんじゃないけど」
さらっと語る凛さんが、少しだけ痛々しく見えてしまう。
あれは、怪人にするために異能を埋め込んでたってこと?
……おぞましい。
「んで、ディープバーストした私の体は特別だったらしくてさ、異能を何個か埋め込んでも、まだ耐えれてたんだって。だから、限界ギリギリまで詰め込まれた。そうやって、最強の怪人でも作ろうとしたのかもしれんけど」
そっと、私の手を掴んで。
そのまま、凛さんの首もとに添えられる。
「まあ、怪人化とかはしてないけど。もうこの体はとっくに限界が来てるようなもんなんだよ。今まで、なんやかんやで制御してたんだけど」
そのまま、私に首を掴ませてきた。手のひらに温もりが伝わって、どくんと脈打つのを感じた。
凛さんが、私に命を握らせようとしている。
「だからさ。限界が本当に来る前にさ、さっさと殺してくんない?」
ふざけてるような言い方で、でも真剣なその言葉に、私は手を振り払って首を横に振る。
なにそれ、限界が近いって。急に言われても、わけわかんないよ。
「なんで、そんなことを……」
「だから、限界が来るからって言ってんじゃん。だからさあ――さっさと殺してくれよ」
一際低い声に思わず凛さんの顔を覗き込んだ。深い闇を宿した瞳が、じっとこちらを見ている。
真剣ってことはわかる。それでも、何もわからないまま、そんなこと言われても。
何もわからない、わけじゃないけど。
「いや、お前に頼むのは酷か。急に悪かったな」
そして、私の横をスッと通り抜けていく。
「アキラ、そろそろだろ」
「……凛」
「約束したよな?」
……約束?
凛さんの話だと、今なんでこうなったのかまでは、わからない。
でもきっと、実験された後にこうなるまでの間があって。その事を、アビスハンターズの人たちなら知ってるってこと?
だめだ、頭がよく回らない。凛さんが限界が来る?だから、殺してほしい?
どういうこと?なんで、凛さんが。
「お前らに拾われて、生かされるってことになったとき。暴走しそうだったら、する前に殺してくれって」
「だが、今のお前もまだ――」
「……うざ、もうこうやって別人としてじゃなきゃ生きていけないなら意味ないだろ」
びり、と何かが肌をなぞるような感覚がした。
思わず凛さんを見る。右手に何かが集まっていくのが見える。あれは、魔力?やけに緩やかに動いているような。
ああ、そういえば私がうまく魔力を使えてなかったとき。マギア☆リンリンをしてた凛さんから、アドバイスをもらったっけ。
そんなことをぼんやりと考える。
手に集まったそれが、フッと上がった手と共に放たれた。
「じゃあ、やる気にさせればいいか?」
それは、明確に私を狙っていて。
急なことに対応できなくて、ああそういえば変身すればいいかなって思ったけど。
まだ体が動かなくて。
そのはずなのに――目の前に迫ってくるそれを、銀色の閃光が切り裂いた。
「……沙夜」
「緊急時の短縮変身は魔法少女の特権だな」
急に、真白さんが間に割り込んできた。目の前で変身した状態で、剣を凛さんに突きつけていた。
にしても、いつの間に変身を?
それに、さっきからずっと沙夜って呼んでるけど。もしかして、それが凛さんの本当の名前、とか?
……いや、私を狙われてた?
なんで、そんなことを……なんて聞かなくてもわかる。
凛さんは本当に、何かの限界が来ていて。倒してほしいってことなんだと思う。
……でも、それは嫌だ。
ぎゅっ、と手を握りしめた。
かつて、私を助けてくれた黒い魔法少女。
その正体が、凛さんなら。今度は私が助ける。
「マジカルジュエリーアップ」
指輪をなぞる。赤い光に包まれていて、魔法少女へと変身する。
「おっ、やる気になったか?」
「いいえ――」
ダイアモンドカメリアへと変身した、真白さんの隣に立つ、
「私があなたを助けます」
「……なんだ、そっちかよ」
失望したように、凛さんは顔を伏せた。
でも、傷ついた人を放っておくはきっと、私の目指す魔法少女じゃないから。
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