TS転生したら変身ヒーローだったけど、魔法少女がやりたい! 作:魔法少女マジデ☆ドコダ
頭がずきずきとする。
体の中で暴れていたものがすこしずつ薄れていく。
無に揺蕩うような感覚。
ああ、そっか。負けたんだっけ。
……助けられてしまったってことか。別にもう、生きていくのも疲れたのに。
別に、この体が改造されて、そのうち死んでしまうからとかだけじゃなくて。
全部うまくいかなくて、クルルも消えちゃって。
このまま生きてても、空虚なままで。別に転生する前にある程度生きたんだからさ、今死んでてもいいんじゃない?って思っちゃったのにさ。
『何、うじうじ考えてるんですか?』
不意に、声がした。ここは、寝てる私の世界で、誰もいないはずなのに。
『どうも!私は、百日紅凛です!』
私と同じ顔の存在が、目の前に出現した。
「何、あんた」
『何って、黒金沙夜の作り出した偽りの人格ですけど』
「……いや、なんでここにいるのか聞いたんだけど」
『そりゃあもう、心の中だからいるでしょ』
当然でしょ?とでも言いたげに、私の近くに近づいてくる。
……なんで、ここにいるんだ。心の中だからって、そんなもん出てくるわけないのに。
『もう、何ボケッとしてるの。魔法少女の私』
「なに、その呼び方」
『だって、俺がなりたい魔法少女になってんだもん。ずるくない?』
ぷくっ、と頬を膨らませて不満そうにしてる。
私にはできない、感情豊かな表現。こいつが、やっぱり私の理想を表してる……にしては、なんかこう。子供っぽいけど。
『つーかさ、逆にそっちが女に馴染みすぎじゃない?俺、結構女っぽい感覚掴むの苦労してるんだけど』
「感覚って何?別に、女に転生しただけなんだから、いけるでしょ」
『とかいいながら、まだ女の子やれてないくせに~』
「それ言うなら、お前はわりと女っぽい感覚やれてるじゃん」
『え、マジ!?』
自分と話してるという感覚が奇妙だ。そもそも、自分にしては変だし、こいつ。
本当に、私に比べるとやたらと女の子っぽいことしてる気がする。……男装とかしてたけど。
よく、あんなに好き勝手やれるね。私は、臆病だから。お前みたいにできなかったのに。
「で、なんで出てきたの?」
『だって、元の俺を見ときたくてさ。死にたいとか思ってたんだなーってさ』
まるで、不思議みたいに言うから。思わず舌打ちが出る。
私の癖に、そこら辺は理解してないのか。
「……なんか文句でもあんの?」
『あるよ。お前、暗すぎでしょ。だって、こんな人格作り出すぐらいに、そういうのに憧れてたってことでしょ?』
見透かしたような視線に耐えられなくて、顔を背けた。実際、その通りだけど。
『で、そのままみんなに負けてさ。自殺もどきを止められたんだけど。どうするの?』
「……わかんない。どうすればいいか、とか」
『アホなん?』
「なっ」
ズバッと、私の言い分を両断して、あいつがこっちを見ている。そのまま、肩を竦めて呆れたように息を吐いた。
『別に、生きればいいでしょ。好きにさ』
「……そりゃ、そうかもだけど。もう、いいかなって」
『よくない!魔法少女したいし!』
じたばたとしてるけど、私の姿でやんないでほしい。……本当に私が憧れた姿がこれになったの?
まあそもそも、記憶を失った結果そうなってただけだから、わかんないけどさ。
「あんた、ぶれないな。だったら代わりにやってよ」
『無理でしょ。なんで自分の偽物にやらせようとしてんの?』
……こいつ、正論も言うの?鬱陶しいな。
「うるさいな、なんなの?私の癖に」
『もう全部受け入れてさ、普通に生きたらいいでしょ。なんなら、沙彩ちゃんの言葉でだいぶ心揺れてたじゃん』
「……うっ」
『かわいい女の子に抱き締められて、心ぐらぐらしてたよね?』
「それはどうでもいいけど」
『嘘、じゃあ少年に抱き締められた方がいいってこと?』
「極端すぎ」
と、軽く息を吐く。
かわいい女の子に抱き締められるとか、そんなん気にしてるんだ、この私。
そう考えると、私は女の子に近い、のかな?
なんて、考えてるのも。もう、生きるのを受け入れようとしてるのかもしれない。
というか、実際になんとなくそういう気分になってきてしまったし。
……そろそろ、覚悟を決めるか。
『もういけそう?』
私が、確認するように顔を覗き込んできた。
「たぶん」
『そこは、いけるって言ってよ』
けらけら、と私が笑う。本当にムカつく。
私なんだから、そういう気持ちはわかってほしいけど。
「うるさい」
と、誤魔化すように呟くと、私は笑ったままだ。
『素直じゃないね、私』
「……うざ」
『私の分までさ、みんなに謝ってて』
「何を?男装して、バカみたいに情緒破壊したこと?」
『え、あれダメなの?』
「ダメだろ、バカ」
気が抜けて、フッと頬が緩む。すると、その様子を見た私の口角がスッと上がった。
『笑えるじゃん、私』
「人をなんだと思ってんの」
『あはは』
私自身に、背中を押されてるのもなんか気持ち悪い。さっさと起きよう。
と、そう思ったときに思い出したように私が口を開く。
『そういえばさ、君は結局。完全に女の子になったの?』
「……何が?」
『性自認的に、どっちなのかなって。ちなみに俺は』
「言わなくてもわかるけど。私は……どうだろ」
さっきも少し考えたけど。そう思うと私はきっと女の子……だと考えて、少し躓く。
それっぽく振る舞ってるつもりだったけど、思えば男っぽい部分が残ってたから、同世代の女の子と仲良くなれてなかったのかもしれない。
『へえ、そうなんだ?』
「……なんで楽しそうなんだよ」
『なんとなくね』
……こいつ、本当に何がしたいの。よくわかんないな。
まあいいや。
「さよなら、私」
『またね、俺』
そんな言葉を交わしながら、私は再び目を閉じた。
◇◇◇
漆黒――魔法少女オブシディアンローズ。
自分を殺してくれ、と頼んだ彼女を全員の協力によりなんとかその暴走を止めることができた。
その結果、周囲にずっと発生していた災厄獣たちは姿を消して。
今はただ、黒金沙夜が眠りについている。
「……ねえ、晴さん。なんかやりすぎたとかはないですよね?」
沙彩は寝ている沙夜の様子を眺めた。
「ないけど。そんな威力あったら、こんなすやすやしてないでしょ」
晴は悪態をつきながら、寝ている沙夜の方を見る。
倒れたまま、沙夜は動かない。
元々、暴走状態だった沙夜にカントホルツの制御と共に、晴の改造する異能によって強引にその体の状態を変化させた。
でも、急だからこそ沙夜はその変化についていく前に、気を失ってしまった。
無事だろうけど、本当に無事かもわからずに、晴は沙夜の様子をじっと見ている。
その周囲からは、さっきまで災厄獣と戦っていたアキラと真白、それから雪那がやってくる。
「一件落着ってことでいいのよね?」
「そうじゃないか?」
「カントホルツも起動しているし、そうだと思いたいが」
と、三人が駆け寄ってきた時に。
「たぶん大丈夫だよ。見ている限りは、わりと安静にしてるというか。寝てるだけだね」
こっそりと、陰から詩織が姿を見せる。
沙夜が、強引に自分を殺すために移動させたものたちが、彼女の周囲を取り囲んだ。
そんなときに、沙夜の目蓋が開く。
「凛!」
「凛さん!」
真っ先に、近くにいた晴と沙彩が駆け寄ると。
「……暑苦しい」
と、沙夜は吐き捨てて。
その様子を見て、全員が安堵の息を溢した。
こうして、魔法少女オブシディアンローズの起こした、暴走事件は終幕を迎えた。