TS転生したら変身ヒーローだったけど、魔法少女がやりたい! 作:あまぐりムリーパー
こと、と目の前にカップが置かれる。
アキラが私の前に、コーヒーを差し出してきた。……凛の頃と同じことをやらなくていいのに。
今、私はアビスハンターズの基地の中にいる。
あの日暴走した私は、バカみたいに殺してくれとか叫んだり、災厄獣をバカみたいにばらまいたりしたけども、普通に負けて止められてしまって。
そのまま、気絶して運ばれたらしい。
……あの日、魔法少女であることを思い出して暴れたんだけど。強引に全員を転移紛いみたいなことをしたから、ちょっと帰るの大変だったんだろうなって思うけど。
っていうか、あれ咄嗟にやっただけなんだけど。転移みたいなことできるんだ、私。なんて話は今はいいか。
そのまま、この基地の中で私の様子を見る……みたいなことになってる。
カントホルツはいつも通り起動していて、体もなんか改造の異能の影響か知らないけど、暴走もしなくはなってんだけど。
それでも、詩織に調べられながら調整されて
そして――
「凛さん、飲まないんですか?」
ひょこっ、と右隣にいる沙彩が私の様子を覗き込んでくる。
「凛、調子でも悪いの?」
左隣にいる少年……じゃなくて、晴も同じように私のことをじっと見てる。
ある程度、体も無事そうってことで少しだけ解放されてみんなとちゃんと顔を合わせることになったら、なんかこの二人に挟まれる形になった。
……こいつらとは、凛として話したことの方が長いから。どう接していいのかはわからない。凛としての私も、もう出てこないだろうし。
わしゃわしゃ、と急に後ろから撫でられる。
「何、アキラ」
「無事でよかったな」
どんな顔をしているかわからないけど。やけに柔らかい声で少し気恥ずかしいので、何も言えなくなる。
っていうか。
「お前らのせいで飲めないんだけど」
普通に、両隣のこいつらになんか手を掴まれてるせいで、カップを置かれても飲めないし。
「だって、あの後になってようやくちゃんと凛さんに会えるんですから。逃がさないようにしないと」
「抱き締め自爆の次は、手を繋いでくるってか?」
「ダメですか……?」
わざとらしく、下から瞳を揺らせるようにして上目遣いで見てくるので、視線を逸らせた。わざとやってるだろ、これ。
「凛は無茶するから、繋ぎ止めておかないと」
とか思ってたら晴のやつが、真剣な表情でそんなことを言ってくるのもおかしいなことだ。
「へー、女の子の手を繋ぎたいってか。すけべが」
「凛の手なら繋ぎたいかもね」
「――」
急にそんなことを言ってくるから、思わず言葉を失った。なんだこいつら、ぐいぐい来すぎ。
……まあでも、凛の時に私がやらかしてしまったせい、と言えばそうなんだけど。そもそも、凛が私かと言われると微妙だし。
もしかして、あの夢のようなところで凛が最後に意味深に笑ってたのって、これを察していたってこと?
いやなやつ。……あれも私だけど。
「あら、飲めないのなら飲ませましょうか?」
正面に、雪那が座る。
「うざ。っていうか、なんでアビスハンターズの基地に魔法少女がいるんだよ」
「それはあなたが起こした事件が結構な大事だから」
「うぐっ」
耳が痛い。そりゃ、そうだけど。でも、そんなアビスハンターズの基地ってそんな来てもいいのものなんだ。
「そもそも、魔法少女であり変身ヒーローなあなたがいる時点で、もうなんでもいいでしょ」
「そりゃそうだけど」
変身ヒーローデッドボルトであり、魔法少女オブシディアンローズ。そんな私が大事を起こしたから、こうなってるってことか。
思えば、変な立場過ぎるなこれ。
なんなら、なんか向こうに他のやつもいないか?
とか思ってたら、こっちにくるし。
「おっ、あの時の店員さんが漆黒だったんですねー。意外です」
橙野ひまり、あの時にはいなかったけど。ここには来たのか。
「あんたも暇なの?」
「なんか口悪くなってないですか?」
「大人しく配信だけしとけばいいじゃん」
「えっ、私の配信見てくれてるんですか?」
「うるさいよ、トパーズガーベラ」
……ちょっと、面倒くさい。
「沙夜、無事でよかった」
「……ダイアモンドカメリア」
「今度こそ、友達になってくれるか?」
「勝手にしろよ」
どいつもこいつも、なんか私に踏み込んでくる。なんなんだよ。
いつの間にか、正面には魔法少女が三人座っているし。両隣は相変わらず、沙彩と晴がいる。
なんで、変にこいつらは優しいというか。私なんかを気にしてるんだ。
「……私さ、暴走してお前らと戦ったんだけど」
そんなことを思っているせいか、ポツリと言葉が漏れる。
「下手すると殺しかねなかったし、勝手に暴れただけだったのに。なんで、こんなわざわざみんなで関わってくんの?」
別に、そんなみんなと仲良くなかったのに。
そう思っていると、ぎゅっと手を握る力が強くなった。
「そんなの、これから仲良くなりたいからじゃないですか」
「……ルビーブロッサム」
「あはは、まだそれやってるんですか?そろそろ、名前呼びになってくださいよ。凛さん」
「凛じゃないし」
「じゃあ――沙夜さん」
真剣な瞳に、思わず息を飲んだ。
そのまま、みんなの方を見る。全員がこっちを見ていて、軽く頷いた。なんだ、そりゃ。
「あっそ」
だから、なんて答えていいかわからなくて。そうとだけ、軽く答えた。
「凛……じゃなかった。沙夜ってめんどくさいね」
「悪いかよ、晴」
「えっ、名前で呼んだ?」
「……少年」
「言い直すんだ、わざわざ」
沙彩も、晴も。私に対してちょっと変で面倒だな。
「はいはい、みんな。ちょっといい?」
しんみりした空気の中に、詩織が割り込んできた。
ずっと私に引っ付いていた晴と沙彩も、少し離れる。
「凛じゃなくて。沙夜の状況なんだけどね」
みんな、その言い直しするの?
「晴の異能の改造によって、暴走の危険はほぼなくなったよ。カントホルツによっても調整されてるからね。でも、結構あやふやな状態だからね。まだ安静にしてないといけないよ」
そっか。
……私は、完全に助けられてしまったんだな。今、そう強く実感した。
でも、どうせなら。
「……クルルともう一度会いたかったな」
私の契約精霊。一人でいた私が、もう少しだけ何かやりたいと思ったきっかけ。
「――沙夜は、相変わらずクルね」
「……え」
不意に、声が聞こえた気がした。
「久しぶりクル!いやー、なかなか戻ってくるのが遅れたクルよ!」
奇妙な口調と、この黒いもふもふは。間違いない。
急に現れたそれに、みんな唖然としている。
「クル、ル……?」
「そうクル」
「生きて、たんだ」
「ディープバーストしても、別に消えないクル」
「……クルル」
目の奥が、熱くなる。……そっか、私は別に何も失ってなかったんだ。
「ちなみなんだがな、沙夜」
「……何?」
ぐるぐる、と私の周囲を回るクルルにみんなは何も言えなさそうにしてるのにアキラだけは平然としてる。
もしかして、知ってた?
「体がもう無事になったなら、その時は家に帰るつもりはあるか?」
「家……」
それは、黒金沙夜の住んでいた家?
ああ、そっか。別にこの世界に転生したけど、ずっと一人だったわけじゃない。魔法少女だとか色々やってたけど、私には家族がいて。
でもあの日以降、会えてなかったから。そりゃそうだ、ディープバーストして怪人にいじられた存在を会わせるのも危険かもだし。
……でも、無事になったなら会えるってこと?
「だから、お前が気が向いたなら。その時は帰ればいい」
「うん……」
なら、その時は。家に帰ってもいいかな。
失踪するような親不孝ものでごめんだけど。
「なんだか楽しそうクルね!」
空気の読めないクルルの軽快な声が響く。
そんな風にして、私を取り巻く問題は一先ず解決したらしい。
ただ、それだけの話だ。
◇◇◇
家の前で、立ち止まる。
黒金という名前の表札を確認した。懐かしい外観の家。
「ほら、早く行きましょう沙夜さん」
「もしかして、緊張してるの?」
なぜか私の様子を見に来てる二人に背中を押されて、インターホンを押した。
返事が来て、少しだけ無言になってしまう。
深く息を吸い込んだ。
「誰かわかんないと思うけどさ、その……ただいま」
がちゃり、と扉が開いた。
おおよそ話としては終わりです。
もうちょっとキャラの関係性とか詰めてもいいかなと思いつつ
そんなわけでハメ匿3から追いかけてくれた人はありがとうございました。
仕事が忙しいなどでうまく更新頻度を保てませんでしたが……
また、男装バレ後の内容が急だったりとか最後の戦いがだれたりしたので、また別サイトでちょっと整理してだしたりするかも
そんなわけでまた機会があれば
主人公との絡みが見たい人
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沙彩
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晴(少年)
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アキラ
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真白(ダイアモンドカメリア)
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雪那(サファイアネモフィラ)
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その他