未来視のスタンド使いは幸せな夢を見るか? 作:モリーの評価者様
9月25日、午前9時半。
フォルクヴァンはスターティング・グリッドに並び、昨日の青年を探そうと辺りを見回した。
しかし、視界に映るのは冴えない男ばかり。
「はぁ……今から探し回るのは無謀かな」
ため息をつくフォルクヴァン。フォルクヴァンを乗せたウルトラは同調するように鼻を鳴らした。
気を取り直し、フォルクヴァンは隣に並ぶ参加者に当たらないよう、鞍に取り付けたホルスターからライフル-ハーモニーと名付けた-を取り出す。
「残弾……よし。チャンバーよし……うん、問題ない」
ライフルのサイドゲートを軽く押し、弾倉の中を確認する。
指に触れるバネの重みは軽く、弾は一つも入っていない。続けてライフルのレバーを軽く押し下げ、薬室が空であることを確認した。
「やっぱり、この金属音はいつ聞いても美しい。日頃の手入れの賜物だね」
嬉しそうな顔をして、ライフルをホルスターに戻し、背中に背負ったもう一丁のライフル-こちらにはカノンと名付けた-も同じく確認する。
こちらには弾を込め、ハンマーを指で抑えゆっくりと離しハーフコックの位置で固定した。
レース中、背中でライフルが暴発しないように安全措置を施し、再び背中のホルスターに刺し戻す。
「美しいものを手元に置くのは心地良いね。レースで優勝したら、賞金で世の中の美術品を買い集めて世界一の美術館でも建ててやろうかな〜!……なんて」
明るかったフォルクヴァンの表情が僅かに暗くなる。
「このスタンド……変に使いにくいし、自分の未来は見えないし。それでも……」
ウルトラの手網を握りしめる力が強くなる。
人が増え徐々に大きくなる周囲の声が聞こえなくなる。フォルクヴァンは目を閉じ心を落ち着けていた。
「この力は他人のためには使わない……オレが幸せになるそのためだけだ」
フォルクヴァンは呟いた時、昨日嗅いだ匂いを感じとった。
勢いよく顔をあげると、スターティング・グリッドに向かう参加者の中に昨日の美しい青年がいる。
青年は振り返ることもなく進んでいく。その背中を眺めながら、フォルクヴァンはスタンドを使わずとも確信していた。
彼は間違いなく優勝候補である、と。
『__グリッド内に入る時間はあと3分!3分以内に各自番号のグリッド内にお並びくださいッ!』
聞こえてくる司会者の声が嫌に頭に響く。
フォルクヴァンは青年が視界から消えるまで見つめ続けた。
(世界中探したって、あの子よりも美しい人間はいないだろうな……)
フォルクヴァンは一度深呼吸し、前を見据える。
そして心を落ち着かせた5分後、空に花火が打ち上がった。
『1890年9月25日午前10時00分 北米大陸横断レース 「スティール・ボール・ラン」がついに動き出しました』
フォルクヴァンは無我夢中でウルトラを走らせる。
前方を走る美しい光に導かれるように、ただひたすら前だけを見つめて。
だが、この時のフォルクヴァンはまだ知らなかった。美しい光に近づくことが、同時に『最悪』の未来へ踏み出すことになるとは。
※
チャンバー_薬室。銃身の付け根にある弾薬をセットして発射する場所
サイドゲート_銃の機関部の側面にある弾薬の装填口のこと
ハーフコック_ハンマーを半分だけ起こした状態。引き金を引いてもハンマーが落ちないため暴発を防ぐ