未来視のスタンド使いは幸せな夢を見るか? 作:モリーの評価者様
一斉に馬が走り出す。
最初のチェックポイント_1st.STAGEは15,000メートル先のカトリック教会がゴールとなる短距離スプリントレースである。
そのため、誰しも馬を潰さないようスピードを出しすぎないよう調整する。
最終的なゴール地点であるニューヨークまでは総距離約6,000Km。馬の乗り換えが禁止であるこのレースにおいて、最初は誰しもが慎重になるのだ。
そんな中。
『ゼッケン・Bの636 ジャイロ・ツェペリが群れを抜け出たーーーーーッ!』
「……っ、うっそぉ……!?」
フォルクヴァンは思わず声を漏らす。
この最序盤から全速力を出すような人間がいるとは考えてもいなかった。
飛び出した馬にあてられてか、足並み揃えてというように走っていた参加者の並びが荒れ出す。ぶつかり転倒する者も現れ、興奮が高まる中、もう1人、全速力で飛び出す者がいた。
遠目で確認したフォルクヴァンは目を見開く。
その後ろ姿は先程見惚れたあの青年のものだった。
「え……」
圧倒的なスピードで最前を走るジャイロ・ツェペリに迫る青年。
フォルクヴァンはつられてスピードを上げそうになるのを理性で必死に堪えた。
走り方を見るだけでフォルクヴァンにはわかる。青年は素人などでは無い。恐らくプロのジョッキーだろう。
(落ち着け……オレみたいな素人が今どうにか出来ることは無い。焦るなよ……)
自分に言い聞かせるフォルクヴァン。
『また群れから1頭抜け出してきました!』
『ジャイロを追って迫っていきますッ!』
必死にウルトラを走らせるフォルクヴァン。その耳に、待ち望んでいた司会者の言葉が聞こえてきた。
『ディエゴ・ブランドーだーッ!!』
『イギリス競馬界の貴公子が短距離スプリントなら我がもの!と競りかける気だーーーッ!!』
「ディエゴ、ディエゴ・ブランドーか……名前まで美しいだなんて。……あぁ、とても良い響きだ」
知りたかった青年の名が、荒野の風に乗って届けられる。
遥か前方、土煙を切り裂いて走るその姿は、イギリス競馬界の貴公子という肩書きすら生ぬるい。フォルクヴァンの目には、それは地上のあらゆる宝石を凌駕する、生命の輝きそのものに見えていた。
そのすぐ後、また1人ジャイロ・ツェペリに追いつくように走り出す者が現れた。
『巨大な塊は優勝候補 ウルムド・アブドゥルのラクダだあーーーーーッ!!』
フォルクヴァンの遥か前方にて、前に飛び出た3人が争いを繰り広げる。
どこか他人事のように見えるその様子は、すぐさま一変した。
ジャイロ・ツェペリに体当たりを繰り返していたウルムド・アブドゥルが群生サボテンに突っ込み、転倒。そのまま脱落(リタイア)してしまったのだ。
その横を通り過ぎながら、フォルクヴァンはもはやあの青年_ディエゴのこと以外考えられなくなっていた。
本来の目的も忘れてしまいそうになるほど……それほどまでに、フォルクヴァンの目にディエゴ・ブランドーは何よりも美しい芸術品のように映っていたのだ。
そして、海岸から3,000メートル地点。3km地点の涸れた川付近にて、フォルクヴァンは息を呑む光景を目の当たりにした。