ある日の昼、キュアット探偵事務所の扉が開き、一人の初老の男が入ってきた。明智あんなと小林みくるが出迎える。
「失礼する。」
「「いらっしゃいませ…あ、貴方は!?」」
「おや?お嬢ちゃんたちか…久しぶりだな。」
「「座野さん!」」
座野仁……以前、あんなとみくるが訪れた恐竜博物館の館長である。
「よう、仁!急に来てもらって悪いな!」
「…おぉ、ジェット!10年ぶりか?相変わらずお前は若いままだな…羨ましい。」
「安心しろ、仁。お前もまだまだ若いっての。」
「いや、ワシの孫が生まれた時も同じこと言ってなかったか?なんならその孫ももう成人してるのだが?」
「細けぇことは気にするなって!……早速だが見てもらいたいものがある。」
「ワシで力になれるかは分からんが…ほら、お前の好きな飴はこれで合ってるか?最近は記憶力にも自信がなくてな。」
「おぉ、合ってる合ってる!ありがとう、仁!」
「…え?ジェット先輩の知り合いなの?」
「今『10年ぶり』とか言ってなかった?というか呼んだって言ったよね?」
和気あいあいと話す座野とジェットの様子に困惑するあんなとみくる。
「んー、気になるわね…」
キュアエクレールとしての記憶を取り戻した帆羽くれあも疑問をこぼした。
「…くれあさん?」
「ジェットさんがこの探偵事務所に来たのは最近よね?」
「えぇ。」
「ロンドンから来たと聞いてます。そこで知り合ったとか?」
「なら互いに英語を喋ることになると思うけど…」
「プリキットのグミを食べて、お互いの言葉が分かるようになってるとか?」
「みくる、あのグミの効果は食べてから3分だけだよ?」
「そうだった!」
「茶でも淹れてくる!何か分かったら教えてくれ…ん?3人集まってどうしたんだ?」
気がつけば座野とジェットは奥の部屋へ移動していた。しばらくして部屋から出てきたジェットを、あんなたちが呼び止める。
「ジェット先輩、ちょっと聞きたいことがあるの。実は今日ジェット先輩が呼んだ座野さん…以前、わたしとみくると会ったことがあるの。」
「仁と!?そうなのか!?」
「ワタシが気になって入った恐竜博物館の館長さんだよ。そこでマコトジュエルの宿った化石のレプリカが盗まれる事件があって…」
「…待て。その事件についてはボクは初耳だが?」
「まだプリキュアについてよく分からない時にあった事件だったから…」
「とりあえず…今は呼んだ彼との関係を教えてもらってもいい?」
話が脱線しそうになったのでくれあが聞きたいことを一言でまとめる。それに対して、頭をポリポリとかくジェット。
「まっ、何十年も前の話だ。ロンドンにある博物館が改装されてな……植物とかの標本を並べただけの場所から、立派で楽しい博物館になったんだわ。ボクはプリキット開発の研究で、仁は仕事で同じ日に来ていてな…」
ジェットの話をまとめると、こういうことだった。人間態で展示物を細かく見ていたジェットだったが恐竜のコーナーにてその圧倒的な姿に興奮。うっかり妖精態になってしまったらしい。そこを座野に目撃されるも恐竜談義で盛り上がり、すっかり意気投合。手紙を書く仲へと発展し、その後も手紙でのやり取りを続け、時々会う仲になったという。
そう話し終えるとジェットは、淹れた紅茶を持って部屋へと戻っていった。
「ジェット、この鎧についてだが…悪い。何にも分からなかった。レプリカを作ってる孫にも写真を見せてみるが…少なくとも人間が作れるものでは無さそうだ。」
「いや、十分な成果だ。ありがとうな仁。そういえば、お前ってこの町で博物館を開いてたんだな。」
「まっ、展示物はほぼレプリカで、規模も小さい。この前、看板を新調したが客は相変わらず来ん…ただの趣味だ。あの時の博物館と比べたら…」
「ボクはこの目で見たものしか信じない。……このことが解決したら遊びにいくよ。」
「そうかそうか!待っとるぞ!…あのお嬢ちゃんたちにも伝えておいてくれ。」
そういうと座野は探偵事務所を後にした。
───
「「「こんにちは!」」」
「はい、いらっしゃい…ってジェットにお嬢ちゃんたちか。探偵事務所の事件は解決したのかな?」
翌日、あんな、みくる、くれあ、ジェットの4人は座野の博物館へと来ていた。
「…あれ?座野さん、いつも通りのような…」
「ん?ワシがどうかしたか?」
「…仁、今日、郵便ポストは見たか?」
「いや、見とらん。ポストは基本的に寝る前に確認するからな…」
「…怪盗団ファントムが予告状を出してきた。この恐竜博物館にな。お前のところにも同じものが届いているだろう。」
ジェットが1枚のカードを取り出し座野へと見せた。
───
───
時間は少し遡り、キュアット探偵事務所──突然、事務所の中央に1枚のカードが突き刺さったのだ。
「これって……」
あんながカードを回収し内容を読む。
『予告状
今日、昼1時、恐竜博物館『ジラシック』より館長の"思い出の化石"をいただく。
怪盗団ファントム』
「ファントム、まだマコトジュエルを集めるみたいだね!」
「予告状ということは…アルカナシャドウかな?」
「……るるか。」
くれあが静かにつぶやく。
「待って!今って11時じゃん!?あと2時間で予告の時間になっちゃうよ!?」
「でも、展示品はほとんど全部レプリカだったよね?何を盗むんだろ?」
「それに…マコトジュエルは前に出てきたのを回収してるし。同じ人から生まれたりするものなのかな?」
「アルカナシャドウが予告状を出した以上、何かあるはずだ。おそらく仁はまだ予告状を見ていない…全員、早く行くぞ!」
「ポチ♪」
ジェットを筆頭にあんな、みくる、くれあは探偵事務所を後にし、恐竜博物館まで走り出した。
───
───
再び恐竜博物館。座野の手には予告状があった。
「本当に届いていたとはな…」
「館長さん。展示品は全部ここにあるんですか?」
「いや……裏の収蔵庫にも少しある。とはいえ、あれもほとんどが修復待ちのレプリカばかりだ。」
「レプリカばかり…」
あんなは展示物を眺めながら考え込む。
「展示されてる化石も恐竜の骨もほぼレプリカ……だったよね。」
「うん。前に来た時、館長さんがそう説明してくれたもん。」
「本物はサメの歯だけみたいね…」
「「ん?」」
くれあの言葉にあんなとみくるは首を傾げた。
「…サメの歯だけ?」
「確かもう1つあったよね…何だったっけ?」
「あ、そうだ!その時に取ったメモがないか探してみる!」
「待て!答えは分かってる!」
慌てて鞄の中へと手を入れるみくる。しかし、すぐにジェットが制止したかと思えば…悲しげな表情へと変わる。
「仁…お前、本当に忘れてしまったのか?」
「ジェット…」
ジェットは座野を見つめる。
「ボクと仁、2人でジュラシック・コーストで掘り当てただろ!10インチを超える……あの巨大なアンモナイトの化石を!」
「…あっ!?あああっ!!」
座野も思い出したように声を上げた。
「嘘だろ…ワシ、それすら忘れていたというのか?『いつか博物館を開いたら、目玉にする』って決めていたのに…!」
「それはどこに?」
あんながアンモナイトの場所を聞き出そうとした、その瞬間…
「ここよ。」
声のした方には、大きなアンモナイトの化石を抱えた森亜るるかが立っていた。
「マシュタンの占いどおりね。座野仁が思い出した瞬間…この化石にマコトジュエルが生まれたわ。これならウソノワールでも扱える。」
「るるか!」
「…取り返してみなさい。出来るものならね。」
「ほら、出番よ!」
「出でよ!カラクリ迷路!」
パチン
すでにマシュタンとゴウエモンもそばにおり、マシュタンの合図でゴウエモンが扇子を床へ叩きつける。次の瞬間、博物館の内装が大きく変わる。黒い闇で覆われたかと思えば、床が音を立てて組み替わり、壁が次々と姿を変えていく。
「なっ!?ワシの博物館が…!」
動揺する座野。しかし、るるかはそのまま言葉を続けた。
「私たち怪盗団ファントムと貴方たち…どっちが先にゴール出来るか勝負よ。」
「博物館の何処かにゴール地点がセットされているが…安心しろ。俺たちもその場所は分からない。」
「それはそうと随分と楽しそうな建物ね…普通にゆっくり見たいわ。」
「残念だが今回は諦めてくれ。…アルカナシャドウ、これでいいのか?」
「えぇ、行きましょう。」
るるか、マシュタン、ゴウエモンは、そのまま通路の奥へ走り去った。
………
「ジェット、ここって…」
「あぁ。絶対そうだよな…」
「「ロンドン自然博物館だ!」」
カラクリ迷路の光景に感動するジェットと座野。
「あぁ!これって見たことあるかも!」
「えぇ!?あんなもなの!?」
「うん、小学生の時にクラスの子が写真を見せてくれたのだけど…確か中央に凄いのが飾られていたよね!」
「その通りだよお嬢ちゃん!ここはライフ・ギャラリーズだから…あっちだな!」
「よし、早速行くぞ!!」
「おー!」
「ポチ!」
「あ、待って!ファントムより先に脱出しないといけないのに…くれあさん、早くみんなを止めますよ!」
「そうね…シュシュタン、私のそばに。」
「はいでシュ♪」くるっ
テンションの上がるあんなとジェットと座野。そのまま走り出したのでみくるとくれあも追いかけた。
………
「これがメインの展示物?」
「そうだぞ、あんな!これ20mくらいあるんだぞ!」
「ディプロドクスというアメリカで見つかった巨大恐竜だ!『ディッピー』とも呼ばれているな。」
ダイナソー・ギャラリーへと着いた3人。あんなは唖然と口を開けたままである。
「巨大クジラの骨格じゃないんだ…」
「クジラ?そんなのあったか?」
「ワシらグリーンゾーンはあんまり行かんからな…」
*シロナガスクジラ『ホープ』が飾られたのは2017年からである。『ディッピー』の現在は不明。
「や、やっと追い付いた…もう!ファントムたちより先に脱出しないといけないのに勝手に動かないでよ!」
「…そうでもないみたいね。」
「くれあさん?」
恐竜に夢中になってる3人をよそに、くれあはあるところへと目を向けていた。その視線の先には、ヒラヤマで発見された1メートル級の巨大アンモナイト……そして、そのすぐ横には明らかに場違いなゴールテープがあった。みくるとくれあはそこへと移動し、ゴールテープを切った次の瞬間、息を切らしたゴウエモンが姿を見せた。
「ぜぇ…ぜぇ…!やっと着いた!これで俺たちの勝ち…なっ!?先にいたのか!?」
「……完全に向こうの得意な場所だったようね。どんまいよ、ゴウエモン。」
次の瞬間、世界が元の博物館の風景へと戻った。
「…」ぎろっ
「俺を睨むなよアルカナシャドウ。はぁ…分かった分かった。確かにこの勝負は向こうの勝ちだ…だが、これで終わりなわけないだろ?」
「…やるなら早く。」
「嘘よ覆え…来やがれ!ハンニンダー!」
ゴウエモンが扇子を振るうと…化石に宿ったマコトジュエルが黒く染まる。すると…
『ハンニンダー!!』
アンモナイト型のハンニンダーが姿を見せた。
「…あれ?ジェット?お嬢ちゃんたち…どこに行った?」
そして、座野以外の全員がその場から姿を消していた。
────
「みんな…頼む!早く仁の…あの化石を取り返してくれ!」
「ジェット先輩…」
「行くよみくる、くれあさん!」
「「うん!」」
「「オープン!ジュエルキュアウォッチ!」」
「オープン!トップリリーフレグランス!」
「どんな謎でもはなまる解決…名探偵、キュアアンサー!わたしの答え、見せてあげる!」
「重ねた推理で笑顔にジャンプ…名探偵、キュアミスティック!ワタシの答え、見せてあげます!」
「解き放て、内なる真実の香り…名探偵、キュアエクレール!私の答え、示しましょう!」
「「「名探偵プリキュア!!」」」
あんな、みくる、くれあがプリキュアへと変身する。
「オープン。ティアアルカナロッド。」
「神秘と秘密で包み込む…キュアアルカナ・シャドウ。さぁ、迷宮へ誘いましょう。」
るるかもプリキュアへと変身する。
『ハンニンダー!』しゅるっ
「本当にタコとかイカみたい!」
「アンサー、殻の方を狙うよ!」
「うん!」
「私も…」
「アナタの相手は私よ、キュアエクレール。」
「…アンサー、ミスティック!そっちは任せたわ!」
「うん!」
キュアアンサーとキュアミスティックはハンニンダーへ、キュアエクレールはキュアアルカナ・シャドウへと対峙する。
『ハンニンダー!』しゅるっ
「きゃっ!?」
「アンサー!」
先制したのはハンニンダー。触手でキュアアンサーを捕まえ、自身の元へと引き寄せる。しかし、キュアアンサーは冷静にジュエルキュアウォッチを回し…
「アンサーアタック!」ばきっ
『ハンニンダー!?』
引き込まれる勢いに乗り、ハンニンダーへと拳を叩き込んだ。
「やぁ!…固い!」げしっ
追撃にキュアミスティックも蹴りを決めるも…その殻の頑丈さにやや怯む。
「アルカナスターレイン!」
「きらめきタイム!」
一方でキュアアルカナ・シャドウはキュアエクレールへ大量のビームを放つも、キュアエクレールの光速移動により回避される。そのままグルグルと空中を飛ぶキュアエクレールにキュアアルカナ・シャドウは追加のビームを飛ばす。
「…速い、でもこれな…らっ!?」
「やぁ!!」ずんっ
そのままキュアエクレールは青い閃光となり、勢いを止められないまま、キュアアルカナ・シャドウへ突っ込んだ。
「何て威力…」
「ヤバいヤバいヤバい!この後のこと考えてなかった…!」
「…嘘でしょ?」
キュアエクレールの凄まじい勢いに後退させられるキュアアルカナ・シャドウ…そして、2人はその勢いのままハンニンダーへとぶつかった。
『ハンニンダッー!?』
「「「エクレール!?」」」
「ポチ!?」
「「アルカナシャドウ!?」」
「あぁ…目が回る…」
「くっ…!」
砂煙が晴れると…目を回したキュアエクレール、地面に膝をついたキュアアルカナ・シャドウの姿があり…
『ハ、ハンニン…ダ…!』
頑丈な殻にヒビが入り、ボロボロになったハンニンダーの姿もあった。
「今だプリキュア!」
「「うん!」」
「キュアアンサーと…」
「キュアミスティックが…」
「「2人で解決!」」
「ポォーチッ♪」
ポチタンから受け取ったマコトジュエルをそれぞれのミラールーペへとセットする。キュアアンサーがロングソードを、キュアミスティックがレイピアを生成して構えた。
「「プリキュア…」」
「アンサーはなまるソード!」
「ミスティックストライク!」
キュアアンサーの斬撃とキュアミスティックの刺突が交差し、ハンニンダーの身体を貫いた。
『ハン…ニン…ダ…』
ドカーン!
「「キュアっと解決♪」」
ハンニンダーは浄化され…マコトジュエルはポチタンに回収された。
「ここは引き際だ。」
「ま、まだ…」
「マコトジュエルが取れない以上、ここにいる意味は無い。」
「今回はゴウエモンに同意するわ…行くわよ、アルカナシャドウ。」
「…そう。」
ゴウエモンとキュアアルカナ・シャドウとマシュタンはその場を去っていった。
───
「仁!盗まれた化石を取り返して来たぞ!」
「ジェット…それにお嬢ちゃんたちも!心配したぞ。」
「ごめんなさい…」
「…いや、ワシのためだとは分かってる。まずは取り返してくれてありがとう。」
「はい!」
「それとジェット…アンモナイトのこと、思い出させてくれてありがとう。」
「…ここに来た時、また聞くぞ?次は無いからな?」
「分かっとる分かっとる…他にも鎧の件とか、ロンドンに帰る時とか手紙で教えてくれ。」
「いや、電話でいいだろ!」
「……あ!今はそれがあったな!!」
「ったく、しっかりしてくれよ仁。」
ジェットと座野のやり取りに、あんなとみくる、くれあの顔にも笑みが浮かぶ。
「そういえば、えーと…」
「あんなです!明智あんな!」
「そうか。ではあんなちゃん、先ほど言っていた巨大クジラの件について詳しく…」
「わわわっ!?こ、これはちょっと話したらダメなことでして…!」
「「あはははっ!!」」
座野の追及にあたふたするあんなを見て、皆が声を上げて笑った。結局、事情を知らない座野には、ジェットがどうにか話を誤魔化したのだった。