ワナビとレモンティー   作:必須構文

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2 存続のため

 

「うむ、素晴らし出来栄えだな」

 

「全部私が作りましたけどね。………まぁ、我ながらなかなかいい出来だと思います」

 

無事に完成したポスターを前に、文芸部の二人は満足そうな表情だった。

 

文芸部副部長、更田万智にそういったセンスがあったのが幸いであった。

 

もし、更田が文芸部におらず、部長の野田喜美子しかいなかったとすれば、どんなに恐ろしく、クソダサいものが出来上がっていたことだろうか。

 

「それでは、貼りに行くか!」

 

「はい」

 

 

 

 

完成したポスターを貼るため、二人は職員室前の掲示板へと足を運んだ。

 

「あー、やっぱ遅かったですね」

 

職員室前の掲示板には、既に多くの勧誘のポスターが、びっしりと貼られていた。

 

もう掲示板には空きがなく、文芸部のポスターが貼れる余裕はない。

 

「うわ、これ全部運動部のやつですよ。文化部のが一つもない…………」

 

「運動部が活発なのは知っていたが、ここまでくるとちょっと怖いな」

 

目の前の掲示板は、スプ◯トゥーンの如くポスターの上にポスターを貼ったり貼られたり、勧誘を勧誘で塗り替える戦場と化していた。

 

「…………どこか、空いている掲示板を探しましょう」

 

「我々文化部の居場所はないというのか………」

 

「ま、まぁ、明後日は体育館で部活動紹介もありますし。そこで巻き返せばいいですよ。新入生の心を掴んでやりましょう」

 

「巻き返せるかなぁ」

 

すっかりやる気をなくした野田を見て、更田は文芸部の未来はないかもしれないと思った。

 

 

 

 

部活動紹介を終えた日の放課後。

 

野田と更田の二人は、来るかもしれない新入部員を待つため、部室で過ごしていた。

 

「さっきの発表酷かったですねぇ」

 

「言うな。私のハートは豆腐より脆いんだ」

 

先ほどの部活動紹介。

 

体育館で、新入生全員に向けて活動内容を発表するのだが、文芸部のはそれはもう酷い物だった。

 

野田喜美子は文芸部内ではよく喋る女の子だが、その実、彼女は極度の人見知りだった。

 

所謂、内弁慶というやつである。

 

そんな極度の人見知り&内弁慶が、大勢の視線に耐えられるはずがなく、野田の声はマイクが拾わないほど小さい声になっていた。

 

「私の性格は分かっていただろう。君がやればよかったのに」

 

「部活動紹介は部長がするのが決まりですからね」

 

「くっ………、よく分からない規則め………!」

 

そんな他愛もない話をしながら待つこと一時間。

 

一向に誰か来る気配がない。

 

「…………やっぱ、部活動紹介が悪かったのかなぁ」

 

「ポスターも、人の目に付かないような場所に貼りましたからね。場所がそこしかなかったとはいえ良くない手でした。無理やりにでも、職員室前の掲示板にポスターを貼るべきでしたね」

 

「無理に貼ったところで、上から貼られるのは目に見えているけどな」

 

「ですよねぇ」

 

はぁと、溜息をつく二人。

 

外では、新入部員部員を歓迎している、ほかの文化部部員たちの声が聞こえる。

 

「うちの高校の文化部は人気が少ないとはいえ、多少なりとも入部するやつはいるから、一人くらい増えると思ったんだがな」

 

「まぁ、文化系の部活は文芸部だけじゃないですからね。数もそれなりにありますし。それに、文化部にはいる人は、大半が軽音部に行きますしね」

 

「軽音部…………、陽キャぶってる陰キャの部活か。どうせ、け◯おん! とか、ぼ◯ろとか、デト◯イト・メ◯ル・シ◯ィとかに憧れたオタクが入る部活だろ」

 

「酷い偏見ですね。あと、なんで最後だけデスメタルなんですか」

 

そうこうしている内に、更に一時間が経っていた。

 

既に外は赤く染まり、カラスが鳴いている。

 

「………ちなみに聞くが、いつまでに新入部員を確保すればいいんだ?」

 

「生徒会からの通告が来るまでですね」

 

「なるほど。…………これワンチャンバレないんじゃないか?」

 

「いやいや、どれだけ文芸部の影が薄くても、流石にバレますよ」

 

「流石に無理かぁ…………」

 

「はい。見積もって、今週中には通告が来ると考えていいでしょう」

 

「今週中…………期限は二日か。…………いけるんじゃないか?」

 

「いや、あくまで見積もっての話ですからね。もしかしたら、明日にはくるかもしれませんよ」

 

「だとしたら厳しいなぁ…………」

 

と、部の存続を諦めかけている二人。

 

色々と準備を怠ったとはいえ、ここまで文芸部の人気がないのは予想外だった。

 

新入生はおよそ三百人。その中の誰か一人は、文芸部に入る人が出てくるだろうと思っていた。

 

誰でもいい。

新入部員を、たった一人確保すればいいだけの話。

 

「はぁ………。外に出て、積極的に勧誘するべきでしたね。一人だけでいいと、楽観視していました」

 

気づいた時にはもう遅く、最終下校の時間が迫っている。

 

今更頑張ったところで、新入部員を確保するのは非常に厳しい。

 

学校に残っている新入生の大半は、もう既にどこかしらの部活動への入部を決めただろう。

入部を決めていないほんの少数の生徒はいるにはいるだろうが、文芸部に入部するとは限らない。

 

「もう、遅いですね…………」

 

「……………でも、何もしないよりかはマシじゃないか?」

 

俯く更田に、野田はそう口にした。

 

「タイムリミットは僅かだが、何もしなければ我々文芸部に明日はない。微かな希望に縋ろう」

 

野田は席から立ち上がり、部室の扉へと歩き出した。

 

扉の前で止まり、振り返って更田に手を差し伸べる。

 

「ほら、行こう」

 

手を差し伸べる野田の姿を見て、更田はハッとした。

 

行動に移さなければ未来はない。

それは少し前、更田が野田に言った言葉だった。

 

「そう………ですね。少し、弱気になってました」

 

「うむ、『行動なくして文芸部なし』。…………我ながらいい言葉だ」

 

「はいはい」

 

自分の迷言に酔っている野田を尻目に、更田は扉を開けようとドアノブに手をかけたその時だった。

 

コンコンと、誰かが文芸部の扉をノックした。

 

「…………おい、今の聞いたか?」

 

「えぇ、聞きました。間違いなく、この扉の奥にいます」

 

ドアをノックしたのは新入部員か、はたまた生徒会役員か。

 

前者であれば、文芸部の存続は守られる。

 

後者であれば、文芸部はこの学校から名を消す。

 

二人に緊張が走る。

 

「…………早く開けろよ」

 

「いや、ちょっと心の準備が」

 

ドアノブを握る更田の手は、汗で濡れていた。

 

それに、よく見ると少し震えている。

 

「だあっ! もどかしい! こういうのは一気に開けるべきなんだよ!」

 

野田がドアノブを握る更田の手を引き剥がそうと、更田の腕を掴む。

 

「あっ、ちょっ! やめてください部長! 私はポ◯モンカードをパックからゆっくり引き抜くタイプの人間なんです! 一気にシャッとはいかないんです!」

 

「そんなん知らんわ!」

 

そう扉の前でワチャワチャとしていると、扉の奥から声が聞こえた。

 

「あの………、ここは文芸部で合っているでしょうか?」

 

か細い、高い声だ。

 

どうやら、扉の奥にいる人物は女子生徒のようだ。

 

「あ、はい、文芸部です。すいません、今すぐ開けますね~」

 

優しい声で返事をする野田。

 

「こういうのは、一気にガッ! と」

 

「ああっ!」

 

野田は思い切り扉を開けた。

ブオンと扉が風を切り、その勢いのまま扉は本棚にぶつかった。

 

ガツン! と音が部室に響く。

そして、本棚に並べてあった本が、雪崩のように崩れ落ちてきた。

 

「あっ……………」

 

声を出したのは、金髪の女子生徒だった。

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