「うむ、素晴らし出来栄えだな」
「全部私が作りましたけどね。………まぁ、我ながらなかなかいい出来だと思います」
無事に完成したポスターを前に、文芸部の二人は満足そうな表情だった。
文芸部副部長、更田万智にそういったセンスがあったのが幸いであった。
もし、更田が文芸部におらず、部長の野田喜美子しかいなかったとすれば、どんなに恐ろしく、クソダサいものが出来上がっていたことだろうか。
「それでは、貼りに行くか!」
「はい」
◇
完成したポスターを貼るため、二人は職員室前の掲示板へと足を運んだ。
「あー、やっぱ遅かったですね」
職員室前の掲示板には、既に多くの勧誘のポスターが、びっしりと貼られていた。
もう掲示板には空きがなく、文芸部のポスターが貼れる余裕はない。
「うわ、これ全部運動部のやつですよ。文化部のが一つもない…………」
「運動部が活発なのは知っていたが、ここまでくるとちょっと怖いな」
目の前の掲示板は、スプ◯トゥーンの如くポスターの上にポスターを貼ったり貼られたり、勧誘を勧誘で塗り替える戦場と化していた。
「…………どこか、空いている掲示板を探しましょう」
「我々文化部の居場所はないというのか………」
「ま、まぁ、明後日は体育館で部活動紹介もありますし。そこで巻き返せばいいですよ。新入生の心を掴んでやりましょう」
「巻き返せるかなぁ」
すっかりやる気をなくした野田を見て、更田は文芸部の未来はないかもしれないと思った。
◇
部活動紹介を終えた日の放課後。
野田と更田の二人は、来るかもしれない新入部員を待つため、部室で過ごしていた。
「さっきの発表酷かったですねぇ」
「言うな。私のハートは豆腐より脆いんだ」
先ほどの部活動紹介。
体育館で、新入生全員に向けて活動内容を発表するのだが、文芸部のはそれはもう酷い物だった。
野田喜美子は文芸部内ではよく喋る女の子だが、その実、彼女は極度の人見知りだった。
所謂、内弁慶というやつである。
そんな極度の人見知り&内弁慶が、大勢の視線に耐えられるはずがなく、野田の声はマイクが拾わないほど小さい声になっていた。
「私の性格は分かっていただろう。君がやればよかったのに」
「部活動紹介は部長がするのが決まりですからね」
「くっ………、よく分からない規則め………!」
そんな他愛もない話をしながら待つこと一時間。
一向に誰か来る気配がない。
「…………やっぱ、部活動紹介が悪かったのかなぁ」
「ポスターも、人の目に付かないような場所に貼りましたからね。場所がそこしかなかったとはいえ良くない手でした。無理やりにでも、職員室前の掲示板にポスターを貼るべきでしたね」
「無理に貼ったところで、上から貼られるのは目に見えているけどな」
「ですよねぇ」
はぁと、溜息をつく二人。
外では、新入部員部員を歓迎している、ほかの文化部部員たちの声が聞こえる。
「うちの高校の文化部は人気が少ないとはいえ、多少なりとも入部するやつはいるから、一人くらい増えると思ったんだがな」
「まぁ、文化系の部活は文芸部だけじゃないですからね。数もそれなりにありますし。それに、文化部にはいる人は、大半が軽音部に行きますしね」
「軽音部…………、陽キャぶってる陰キャの部活か。どうせ、け◯おん! とか、ぼ◯ろとか、デト◯イト・メ◯ル・シ◯ィとかに憧れたオタクが入る部活だろ」
「酷い偏見ですね。あと、なんで最後だけデスメタルなんですか」
そうこうしている内に、更に一時間が経っていた。
既に外は赤く染まり、カラスが鳴いている。
「………ちなみに聞くが、いつまでに新入部員を確保すればいいんだ?」
「生徒会からの通告が来るまでですね」
「なるほど。…………これワンチャンバレないんじゃないか?」
「いやいや、どれだけ文芸部の影が薄くても、流石にバレますよ」
「流石に無理かぁ…………」
「はい。見積もって、今週中には通告が来ると考えていいでしょう」
「今週中…………期限は二日か。…………いけるんじゃないか?」
「いや、あくまで見積もっての話ですからね。もしかしたら、明日にはくるかもしれませんよ」
「だとしたら厳しいなぁ…………」
と、部の存続を諦めかけている二人。
色々と準備を怠ったとはいえ、ここまで文芸部の人気がないのは予想外だった。
新入生はおよそ三百人。その中の誰か一人は、文芸部に入る人が出てくるだろうと思っていた。
誰でもいい。
新入部員を、たった一人確保すればいいだけの話。
「はぁ………。外に出て、積極的に勧誘するべきでしたね。一人だけでいいと、楽観視していました」
気づいた時にはもう遅く、最終下校の時間が迫っている。
今更頑張ったところで、新入部員を確保するのは非常に厳しい。
学校に残っている新入生の大半は、もう既にどこかしらの部活動への入部を決めただろう。
入部を決めていないほんの少数の生徒はいるにはいるだろうが、文芸部に入部するとは限らない。
「もう、遅いですね…………」
「……………でも、何もしないよりかはマシじゃないか?」
俯く更田に、野田はそう口にした。
「タイムリミットは僅かだが、何もしなければ我々文芸部に明日はない。微かな希望に縋ろう」
野田は席から立ち上がり、部室の扉へと歩き出した。
扉の前で止まり、振り返って更田に手を差し伸べる。
「ほら、行こう」
手を差し伸べる野田の姿を見て、更田はハッとした。
行動に移さなければ未来はない。
それは少し前、更田が野田に言った言葉だった。
「そう………ですね。少し、弱気になってました」
「うむ、『行動なくして文芸部なし』。…………我ながらいい言葉だ」
「はいはい」
自分の迷言に酔っている野田を尻目に、更田は扉を開けようとドアノブに手をかけたその時だった。
コンコンと、誰かが文芸部の扉をノックした。
「…………おい、今の聞いたか?」
「えぇ、聞きました。間違いなく、この扉の奥にいます」
ドアをノックしたのは新入部員か、はたまた生徒会役員か。
前者であれば、文芸部の存続は守られる。
後者であれば、文芸部はこの学校から名を消す。
二人に緊張が走る。
「…………早く開けろよ」
「いや、ちょっと心の準備が」
ドアノブを握る更田の手は、汗で濡れていた。
それに、よく見ると少し震えている。
「だあっ! もどかしい! こういうのは一気に開けるべきなんだよ!」
野田がドアノブを握る更田の手を引き剥がそうと、更田の腕を掴む。
「あっ、ちょっ! やめてください部長! 私はポ◯モンカードをパックからゆっくり引き抜くタイプの人間なんです! 一気にシャッとはいかないんです!」
「そんなん知らんわ!」
そう扉の前でワチャワチャとしていると、扉の奥から声が聞こえた。
「あの………、ここは文芸部で合っているでしょうか?」
か細い、高い声だ。
どうやら、扉の奥にいる人物は女子生徒のようだ。
「あ、はい、文芸部です。すいません、今すぐ開けますね~」
優しい声で返事をする野田。
「こういうのは、一気にガッ! と」
「ああっ!」
野田は思い切り扉を開けた。
ブオンと扉が風を切り、その勢いのまま扉は本棚にぶつかった。
ガツン! と音が部室に響く。
そして、本棚に並べてあった本が、雪崩のように崩れ落ちてきた。
「あっ……………」
声を出したのは、金髪の女子生徒だった。