シャーレの仕事を終わらせて大体2時間ほど睡眠した後、目に隈を付けながらもヴァルキューレの出勤……登校時間となったため、朝飯をコンビニで先生の奢りで食った後大急ぎで準備を済ませた。
「そいじゃあ、頑張れよー先生。」
「それじゃあね~」
"こっちこそありがとな~"
今日……昨日か?ともかくシャーレの仕事のキツさを思い知った。ワンオペは流石に無理だし、お手伝いさんみたいなのが絶対に必要だろう。まあそこらは、先生がシャーレの権限で何とかすんだろ。
平日の朝で通勤ラッシュの真っただ中の駅前に来た。下手な休日より人の数が多い。ざわざわと人の騒めきを背景に改札に向かって歩く。気を付けないと3歩歩くだけで人にぶつかりそうである。まあ、この駅はDUのどこにでもアクセスしやすい駅だしまあ納得だな。
コウセイとは目的地が違うから此処でお別れだな。
「俺仕事しに行くから、またな!」
手を振りながら徹夜明けの肉体の疲労を誤魔化すようにカラ元気を込めてそう言った。
「大変だねぇマサト君は。僕は家に帰って寝よ~っと」
口元にニンマリと笑みを浮かべながら、仕事をハシゴする俺を見送る。アイツ許さねぇ。
切符を買って改札をくぐると、コウセイへの憤りは収まったがその代わりにこれからの仕事の事を思い足取りが億劫になる。
実際の所は歩く速度が落ちたりはしていないが、心の中では《シャーレで十分仕事したし帰ろうぜ》だったり《休んだって罰は当たらねえよ》という悪魔の囁きが胸を蝕む。
実際、シャーレでは書類仕事を地獄の様にやっていたが、シャーレはあくまで部活なので言い訳としては3流以下だ。それに俺の意思で仕事をしたわけだし、俺の勝手な都合をを仕事に持っていくのは憚られる。
……しかし面倒なものは面倒だ。
階段を上りホームに出ると電車に変わらない足取りで乗り込む。人多ッ入口狭っま。
吊革に手を掛ける。理由は席が空いていないのもそうだが、席に座ると眠ってしまいそうだからだ。
暫くぼーっとしていると、プシューと音がして両開きのドアがゆっくりと閉まった。
二時間しか寝ていない身体は【もう寝ろ!】と警鐘を鳴らす。
立ったままでも眠れそうだ……………………ッハ、あぶねぇ……完全に眠ってしまう所だった。
このまま立っていたらまた、また舟をこいでしまう様な気がする。電車の車窓から覗く街の景色を眺める。何処かを集中して見ていないと、うつらうつらとしてしまう。
そのままボケーッと車窓からの景色を眺めていた。面白いモノも無く目を引くのも無かった。ただ時間だけがゆっくりと過ぎ去っていった。
【次はヴァルキューレ警察学校前。次はヴァルキューレ警察学校前。お忘れ物の無いようご注意ください。】
列車のドアが開くと、俺は眠気のせいで鉛の様に重くなった体を引きずって職場に向かった。
ヴァルキューレ警察学校の刑事課の生徒達は着々と登校してきている。
烏羽ツクミは今日は一人での登校だった。
いつもなら、マサトと一緒に登校しているはずなのだが、今日はマサトの部屋に突撃しても、反応が無くピッキングして入っても無人のままだった。
だから、今日は一人で登校してきた。
「おはようござまいます!」
「ああ、おはよう。」
部下の生徒の挨拶に応える。
にしても今日の烏城は遅刻か……一年前を思い出すな。
その日は、正に1年生を祝う入学式から一夜が明けたの晴れた日だった。
新一年生が入ってきて私も二年生になったため後輩を持つようになり、一年生の面倒を見る役になった。
「…………一人足りないな。」
出席を取ると、一人足りない事が分かる。"烏城マサト"その男だけが今ここに居なかった。
【烏城マサト】……少し関わってみた私の印象としては、目つきが悪くい不良。だが入学式からの昨日までは遅刻は無しで、業務も……書類仕事以外は平均以上にこなせる。一年生の中でも器用万能という印象だ。
何か問題があったのかと思い…………
「……各自、自分の業務を確認後は各々仕事にとりかかってくれ。」
自分のデスクに戻りスマホを取り出し、烏城の携帯に通話をしようとするも【プルルル プルルル プルルル………………】とコール音だけが鳴る。……一向に出る気配が無い。
これは、立派な無断欠席だ。そう私は判断した。
その後、数時間後になってからようやく烏城は登校してきた。
その日はただ私も無断欠席として扱うだけだった。
しかし、次の日もその次の日も一時間越えの大遅刻だ。流石の私もただの偶然には思えなかった。
赤い夕暮れ時の光が差す廊下の窓辺には二人の影が伸びていた。
「おい、烏城……最近どうした?」
その日も、遅刻してきた烏城を放課後に呼び出した。
理由は勿論、最近続いている遅刻の件である。
見た目こそ、その目つきの悪さから近寄りがたいが、業務は真面目にこなす。だからこそ私は
コイツの事を一目置いていた。
「ん? 最近? 最近かー別に何も無いっすよ。」
烏城のいつも通りの見た目不相応な軽い口調に少し陰りが見えた気がした。
言葉にしにくいが、要はカラ元気をしているような気がしてならない。
烏城は、いつも通りにしているつもりだろうが、私も刑事の端くれだ、目に掛けている人間の変化には敏感だという自負はある。
「嘘だな。」
夕日を背にしたツクミの鋭い視線を前に、烏城の目が泳いでいた。
尤も、烏城が目を逸らした理由は他にあるだろうが。
「……だが…………別に言いたくないなら言わなくていい。」
「!?」
烏城が目を見開いて、驚いた表情を浮かべた。
どうやら、深く聞かれるものだという予想が裏切られたのだろう。
一呼吸おいて一言……
「だが……一人で困っているなら、私を頼ってくれて構わない。」
と、言った。
先程の通り、私は烏城を気にかけているのだ。不良っぽいからとか問題を起こさないか心配。とか理由を付けたが結局のところ、私の初めての部下なのだから。気に掛ける理由はそれが全てだ。
「別に困って無いんですけどね…………」
「……そうか。だが、さっき私が言ったっことに、偽りは無いぞ。」
「……それじゃあ……なんか困った事があったら頼らせてもらいますよ。」
私にそう言うと、夕日を背に影の方へそそくさと歩き去っていった。
「収穫は無しか…………」
私も回れ右をして自身の帰る準備をしに戻ろうか。
「まあいいさ。私だって素直に話してくれるとは思ってない。」
そう、私はひとり呟く。
この時、烏城マサトは想定していなかった。
この烏羽ツクミという女は、彼の想像以上に部下に過保護という事を……
空もすっかり藍色に染まり、月が東の空から顔を出してきた。
そんな、夜の始めが告げられた時刻に、烏羽ツクミは業務明けの身体で烏城マサトの部屋を監視できるビルの屋上に陣取っていた。
まだ少し肌寒い春の風がビルの屋上に吹いていた。
私は烏城の含みのある態度が気にかかり、今はこうしてビルの屋上から烏城を監視している。
双眼鏡を片手に所々に、塗装の剥がれと錆の見える柵前に体を預ける。
「……少し寒いな。」
家に一度帰った後に、
だが折角、
「さてと、根競べか。」
しかし、対象に目立った動きが無くとも監視をやめたりはしない。
そもそも、私は監視を始めて数時間ぽっちだ。まだまだこれからだ。
刑事の張り込みは常に相手との、そして自分との根競べである。
壁の一部はひび割れていて、金属製の階段や柵は錆びて茶色になっている。
そんなボロアパートが周囲の綺麗な住宅と並立しているため、どう見ても周囲から浮いている。
そのアパートの一角である烏城の部屋の電気は付いている。
まだ起きているのだろうか?
……もしも電気が消えたら、そこが撤退ラインだろう。
明日も仕事がある。そのためにも大変不本意ながら、ある程度の妥協は必要だろう。
と想いを巡らせていると、烏城の部屋から出ていた明るい光がパッと消えた。
長らく無かった大きい変化が訪れたため、思わず固唾を呑む。
考えられる行動としては、寝るかそれとも……外出か?
そう考えて烏城の部屋の玄関を見守っていると、
……ガチャリと俺は玄関の戸を開ける。春のやや冷たい夜風が頬を過ぎる。
時計をチラリと見ると現在時刻は18時ちょい、まだ人の動きが活発な時間だ。
「さてと……行くか。」
そろそろ家を出るかな。
いつも外に出歩くときは必ず持っていく、財布とスマホとあとは俺の
部屋の電気のスイッチをカチリと切って、靴を履き軽いドアを開け外へ出る。
【ガチャ】という音と共に鍵を閉める。
正直このドアぐらい頑張れば誰でも蹴破れるだろうがな。
そんな、自分の家のセキュリティを内心で自嘲しながら、目的地へと足を進めた。
ふと、藍色の空を見上げると、電柱と送電線が空を彩っていた。
俺の目指す目的地は、このDUのさらに外れの地域にある。
DUとはいえ、外れの地域だ。勿論治安はよろしくない。
だからこそ、このまだ人の流れのあるこの時間を選んだ。
俺は正直言って、あまり強くない。
そりゃあ、刑事をやっていく上で最低限以上の戦闘力は持っているが、どこぞのアビドスだったか? そこにいる、【暁のなんたら】みたいに一対多数で無双は出来ない。
男の癖に情けないが、
スズミを虎とすると、俺は大型犬ぐらいだ。真っ向勝負じゃあ逆立ちしたって勝てない。
そんなわけで、
「あ~超ムカつく誰でもいいから、ぶちのめして~」
「マジで詐欺だろあれ、十回引いて当たりゼロって」
「ほんっと気分悪いわ」
ああいうのは、なるべく無視して行こう。触らぬ神になんとやらだ。
まだ人通りのある道をあの三人組は堂々と道の真ん中を歩いていた。
俺みたいに、アイツらに目を付けられないように道を開けているって事だ。
まあ、危険人物に好んで近づく人間は普通はいないからな。
このまま、適当にやり過ごして、通り過ぎようかと思っていると。
「……え!それ本当!……やったじゃん!!」
「だろー俺って運良いぜ!」
上機嫌な小学生ぐらいの子供が歩いてきた。
なにやら良いことがあったらしいが、此処でそれはマズイッ!
例の三人がその小学生の言葉を聞くと、足を止めて小学生にガンを飛ばす。
「おいガキども、随分と楽しそうじゃあねぇか?ああ!」
「私はよぉ、幸せそな奴をみるとよぉ、マジにムカつくんだよなぁ!」
「気分悪いのに……ムカつくガキが。」
いきなり絡まれた小学生二人組はすくみあがって、声もまともに発せていなかった。
「なっ……なんだよアンタ!」
「ひぃ!」
不良三人組はその小学生二人組の怯えた様子を見て、口をニヤリと歪めて二人組に迫った。
「おいおい、此処は詫びが先じゃあねえのか? ああ?」
「そうだよなあ、詫びが先だよなぁ!」
「気分悪くなったんだし、お詫びがいるよな」
カモと見抜いたからか、より一層と調子付いた様子で小学生にたかる。
「わ……詫びって……なんだよ!」
「ああ! んな事も分かんねえのかよ、教育が足りてねぇな!」
「金に決まってんだろ。」
「さっさとよこせよ。」
三人組のたかりに小学生二人は縮こまっている……が
「い………」
「あ?」
「い……嫌だ!!」
小学生ぐらいの少年二人の内一人は拒絶した。
男として立派だが、ここでは三人組の逆鱗に触れるだけだ。
「馬鹿が!だったら、ぶちのめして奪わせてもらうだけなんだよ!」
「ひぃ!」
「くッ」
銃を抜いてその銃口を少年たちに向ける三人組。
少年たちは咄嗟に屈んで防御態勢を取るが抵抗むなしく…………とはならない。
「させねえ!」
【バンッ】
咄嗟に懐から
「痛ってぇなぁッ!」
【バン!】
反撃のショットガンが来るのは予想済みだ! とっとと失せてもらうぜ!
飛び散った散弾が何発か体に掠りながらも、足を全力で動かし、マサトは一気に肉薄する。
「なんだこい…………」
【バンッバンッ】
一気にショットガン持ちの不良に二発の弾丸を放ち……不良は気絶する。
マサトの攻撃に気づいた他二人が、それぞれの得物をマサトに向ける。
「いきなり何しやがる!」
「へッ、ガキに手を出す大人げない馬鹿は見てて気分が悪いからよ、手を出しちまったってだけだ。」
俺の安い挑発が頭に来たのか、残る二人は顔を真っ赤にして怒り散らしている。
「んだとゴラァ!」
「死ねやクソガキがァ!」
【ババババババ】
二人は一斉に怒りのままに銃をマサトに向けて打ち込み、通りを通っていた市民が一斉に蜘蛛の子を散らす様に逃げ惑う……が
「てめえらは、トリガーを引くまで遅ぇんだよ。狙いも甘ぇ。」
【バンッバンッ】
と二発の乾いた銃声がすると…………不良二人が、倒れ込んだ。
彼女たちの額には弾丸が当たった跡があった。
ふうっと、マサトは一息、戦闘後の緊張をほぐす溜息をついた。
「一丁上がりってとこか……」
…………突如、背中に悪寒が走った。
【ズガンッ!】
その悪寒に従い、咄嗟に回避行動をとる。
回避したとはいっても不意打ちだ。幾つかの散弾が体に命中する。
「ッ!!」
突如として撃たれた銃弾の発射位置に目を向ける。
「ったくいきなり鉛玉で挨拶とは、どういう礼儀だァ」
マサトに向けて散弾を撃ち込んだ張本人は凶暴な笑み浮かべながら、
「大人しくおねんねしとけよ。」
「まだ私が寝るには夜が浅すぎるンでなぁ」
そいつは、俺が始めに気絶させたはずの女だった。
合計3発、うち二発は頭にぶち込んだにも拘らず特段ダメージを受けた様子は無い。
「それじゃあ、今度はテメェがおねんねする番だぜ!」
その女は先程のマサトの様に、一気に肉薄する。
【ズガン ズガン】
思い破裂音と共に高威力の散弾がマサトの元へ発射される。
「クソいてぇ……」
回避行動をとるも、余り広く無い道では
少なくないダメージを受ける。
「オラオラァ!」
「調子に乗るんじゃあねぇぞッ!」
【バンッ!】
マサトの弾丸は彼女には命中せず、彼女の横を通り消えていった。
「苦し紛れかァ!」
そうしているうちにも、彼女の攻撃は更に苛烈なものに変わっていく。
だが、それでもマサトは
手に銃を持っているにも関わらずだ。
少し戦い慣れた者なら、
彼女は突然、攻撃の手を止めた。
「なるほどな」
戦い慣れた彼女もそれを察した。
「テメェ、
「……さあな。」
マサトは虚を突かれた様な顔はしていないが、そこが逆に彼女の確信を強める。
「私の勝ちだな」
口元をニヤリと歪めて、女は勝ちを確信する。
「いや……そうとも限らねぇぜ。」
しかし、マサトの目からは闘志は消えていない。
「コイツの薬室にはあと一発、あと一発だけ弾が入ってる。」
銃の薬室をコンコンと叩き、自信に満ちた笑みを女に向ける。
「たかが一発で私が倒せるっていうのかァ。」
「当たり前だぜ。」
マサトの挑戦的な笑みに応えるように女も笑みを浮かべた。
「面白れぇ、その一発で私を倒してみろよ。」
「私はここから動かねぇからよォ。」
防御態勢すら取らずに、女はその場に立ちはだかった。
「…………」
「来やがれぇ」
緊張の面持ちで両者は向き合っていた。道路の端と端で距離は確実に開いているのにも関わらず、一瞬の隙も見せない。
チャンスは一発だけだ、外したら次は無ぇ…………絶対に当ててやるぜ。
マサトは覚悟を決める。
あの一発……何かあるな。面白れぇ絶対耐えてやるぜ。
女は決意を固める。
互いが気持ちを固めたその時………………
【バンッ!】
沈黙を切り裂く破裂音が、闇夜の空気を突き抜け女には当たら……………ない。
「外しやがったな雑魚が…………今度こそ決まったな。」
女は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「ああ…………そうだな」
マサトは俯いたまま動かない。
女はマサトが自身の負けを悟って、戦意喪失したと考えた。
…………誰だってそう思うだろう。
……だが
マサトは、口にありったけの笑みを浮かべていた。
「確かに決まったぜ…………テメェの負けっていう結果がなぁ!」
「!!」
その言葉に周囲を警戒するも…………もう遅い。
その時、電線が切れて、その切れた黒い電線が振り子の要領で女に向かった。
その電流の流れる黒い線が女に直撃し、彼女の身体には莫大な電流が流れた!
「な…………ぜ。」
先ほどまでの勝ち誇った笑みと一転。女は驚愕と電撃による苦痛に満ちた表情を浮かべた。
「ちょっと考えりゃあ、当たり前じゃあねぇか。」
「あの一発を直接当てたぐらいじゃあ、
そして今度はマサトが勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「だから、俺はテメェじゃあ無くて、テメェの
勝者のマサトは懇切丁寧に自身の狙いを教える。
「切れた電線は支えが無くなって電柱の方に行くだろ。振り子が戻るみてぇによぉ。」
「その振り子の動きの上にテメェは居たんだよ。」
と説明をし終える時には…………
「なんだ……もうおねんねの時間かよ……」
電撃で黒焦げた服と髪をそのままに、意識を失っていた。。
強い不良
…キヴォトスには強い生徒が存在する。
一人で数小隊まで互角に戦える者から、一人で複数の大隊クラスを圧倒できる者まで存在する。
この少女は少しばかり強いようだ。
腕に自信が無いのなら一人で挑むのはおすすめ出来ない。
自分の背の丈以上の事は決してしないのも立派な戦略である。
拙者、格上に頭脳で競り勝つの大好き侍。