スズミの幼馴染はクソガキ   作:けいあお

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第11話 クソジジイ(養父)

 日の沈んだ暗い夜にも明るく、いや明るすぎる場所があった。

 

「マサトお兄ちゃんも食べないの?」

 

「お兄ちゃんは後で食べるからいいのさ」

 

「うげ~ピーマン……よけとこ。」

 

「好き嫌いはいけませんよ。」

 

 その孤児院では明るい雰囲気の食事が行われていた。

 

 その幼い子供たちに交じって、世話をしている二人の姿があった。

 

「うわーん! 僕のハンバーグ取られた。」

 

「勝手に人のもん取んなよ。」

 

「は~い。」

 

 

「お姉ちゃ~ん、コイツが水零した~。」

 

「ちょっと待って下さいね。今行きますから。」

 

 

 

 …………

 

 

 

「歯磨きイヤ!」

 

「虫歯になってイタイイタイなっちゃうぜ?」

 

「む~」

 

 

「歯磨き粉ってマズーい。」

 

「我慢出来たら、絵本を読みますから我慢してくださいね。」

 

「わかった!」

 

 

「マサトお兄ちゃん! 歯磨き粉とって~」

 

「へいへい」

 

 

 

……

 

 

 

「むかーしむかし、ある所に…………」

 

「「お~!」」

 

 

「トランプしようぜ!」

 

「やるやる!」

 

「お兄ちゃんもする?」

 

「おう!俺の新しく身に着けたシャッフルの仕方見せてやるぜ!」

 

 

 

 

……

 

 

 

「むーおやすみ~」

 

「おう、おやすみ」

 

「お兄ちゃん達も早く寝てよ。」

 

「わーった、わーった」

 

 

 

「うーん……眠い……」

 

「今日はここまでですね。」

 

「うん。」

 

「明日も来れる?」

 

「明日は…………難しいですけど、長くは待たせませんよ。」

 

「絶対だよ。」

 

「はい、絶対です。」

 

 

 

……

 

 

 

 そうして、子供たちが寝静まって、明かりの消えた孤児院の中で唯一明かりのついている部屋で、スズミとマサトと一人の老人が話していた。

 

「だー今日も疲れた。」

 

 とマサトは大きく伸びをする。

 

「久々にしてみると、慣れないものですね。」

 

 スズミも、控えめに体を伸ばす。

 

「おお、助かったよ二人とも。」

 

 老人がゆっくりと優しい口調でそう言った。

 

 マサトが夜食の冷凍枝豆をつまんで、若干の空腹を満たしながら話す。

 

「なあジジイ、そういやさ最近はちょっと調子良さそうじゃん。」

 

「確かに、いつもより顔色が優れていますね。」

 

「ほっほっほ、最近はお前らよくが来てくれるからのう。」

 

 調子の良さそうに朗らかに老人は笑った。

 

「それ関係あるか?」

 

「心が健康になると自然と身体の健康も良くなるものですよ。」

 

「そうか?」

 

「そうじゃよ。」

 

 そう言っている間にも、枝豆を食べる手を止めていない。

 

 

 ふと老人が

 

「にしても、お前ら大きくなったのう……」

 

 と感慨深そうに、そう言った。続けて。

 

「儂がお前と初めて会った時なんてこんなだったのにのう。」

 

 手で幅を取り、その時のマサトの大きさを表す。

 すると、マサトが「いいや」というと。

 

「そんなにチビじゃなかったぜ。」

 

 その老人の手の幅の3倍ぐらいの幅をとって、そう言った。

 

「多分こんくらいだった。」

 

 「ほっほっほ」と笑いながら、心の底から面白いものを見るように目を細めて笑う。

 

「うっそじゃあ。そんなに大きい訳ないじゃろう。昔のお前はその器相当の図体じゃったぞ。」

 

 その言葉にカチンときたマサトが、「なんだと~」と歯をむき出しにして、老人に迫る。

 

「こんのジジイ! デタラメ言ってんじゃねぇぜ。それに器相当とはどういうことだァ!」

 

「第三者の目線の方が信頼できるじゃろう? つまりそういう事じゃよ。

 それに小さな器相当って事は今証明できとるのう。」

 

「んだとゴラァ!」

 

 そうして、言い合いになっている二人を見てスズミは、まるで親子みたいだと。そう思った。

 

 

 

…………

 

 

 

「チッ!クソが!」

 

「またまた儂の勝ちじゃのう。」

 

 あの後、マサトくんが危うく手を出しそうだったので、一先ずポーカーで勝負をつけることにした。

 双方お金を賭けての勝負でした。

 が、結果はマサト君の惨敗といってもいいと思う。

 

「ああクソ! 今度はどんなイカサマしやがった!」

 

「イカサマ? はて? 何のことか。お前の運が無いだけじゃぞ。」

 

「この腐れジジイがァ~~!」

 

 "院長さん"はイカサマをしていないと口では言っていますが、その顔では勝ち誇った笑みを浮かべていて、

その顔からは、間違いなくイカサマをしたと、そうとしか思えません。

【顔に書いている】とは、このことをいうのだと、そう思いました。

 

 マサト君は必死にイカサマの痕跡を探そうとしていますが、見当たりません。

 私も見ていた限り、イカサマをした様子は無かったように思えます。

 シャッフルだってマサト君がしましたし、院長さんはカードに触れてすらいません。

 

「それに、儂じゃったら同じイカサマを何度も使うことは無いんじゃよ。

 ……じゃから、もしも儂がイカサマをしていてもお前には分からんよ。」

 

「…………」

 

 だから諦めろと言わんばかりの言葉を院長は言うが、マサト君はその言葉を無視してカードの山札を確認している。

 

「全く、頑固じゃのう……」

 

 と院長さんは呆れたように言葉を発した直後。マサト君の動きがふと止まった。

 先ほどまで、あれだけ手をせわしなく動かしていたのに、今はピクリとも動かない。

 

「…………おい……ジジイ」

 

「……何じゃ?」

 

 動きの止まったマサト君が一言、声に威圧感をにじませて院長さんに問いかける。

 

 院長はマサトの言葉に少しだけ冷や汗をかいている。

 

「このカードを見てみろ。」

 

 院長さんは「しまった」と表情を大きく変えた。

 

「テメェ!【イカサマとは何のことか】って言ったよなァ、これはどういうことだァ!」

 

「いやーちょっとのう……」

 

「このハートのエースのカードの端には、小さいがシミがあるはずなんだよ。」

 

 ……そういえばかなり昔、それこそ院長さんがまだ銃撃戦なんかが当然の様にできるぐらい昔に、

私とマサト君がババ抜きをしたときについたジュースのシミがあったはず。

 

「それが、これにはついてねぇんだよなぁ! 一体どういうことだァ!」

 

「いやーシミが気になってのう。実は買い替えていたんじゃよ。」

 

「だったらよぉ!」

 

 院長さんの苦しい言い訳は、勿論通用せず。

 マサト君が、院長の上着をバッと剥ぐと。

 

「ちょ、いきなり何するんじゃ………………あ…………」

 

 【パラり】と一枚のカードが床に落ちた。

 そのカードはハートのエースでカードの隅には、小さい……目を凝らさないと分からない程小さいシミが付いていた。

 

 確か、院長さんの役は【ロイヤルストレートフラッシュ】これは…………

 

 マサト君は【ゴゴゴゴゴ】という擬音が今にも聞こえてきそうな程の威圧感を発していた。

 

「ジジイ……テメェ。」

 

「あ~いや、その~なんじゃあ…………ドッキリ大成功っというやつじゃのう…………」

 

 その院長さんの言葉がマサト君の堪忍袋の緒を切る決定的な一手となってしまいました。

 

「ふざけんなテメェ!! 金賭けてんだぞ!!!」

 

「お前、そら金が賭かってるからこそイカサマをするんじゃよ。」

 

「開き直ってんじゃあねぇぞこのクソジジイ!!」

 

 

 

……

 

 

 

 …………それからは、本気で院長さんに手をあげそうだった、マサト君を何とか止めて、そのポーカーの賭けは無効になった。

 マサト君はそれから家に暫く、機嫌は良くなかったが、ケンカにはならなくてよかったと思う。

 

 今日はトリニティの門限が緩い(私の寮の寮長がお目こぼしをしてくれる)日ですが、もうその伸びた門限のまでの余裕も無くなってきてしまったため、帰ろうということになりました。

 

 いざ帰ろうと、玄関で靴を履いていると、院長がお見送りに来てくれました。

 

「スズミよ……」

 

「?」

 

「今日は助かった。余裕があれば、いつでも来てくれて構わんからのう」

 

 院長からの温かい言葉に、委員会に馴染めていなくて不安だった心が少し晴れた気がした。

 

「私こそ、昔に戻ったようで少し元気が出ました。」

 

 これは、本心からの言葉だった。そう……今日は毎日が楽しかった昔のようでした。

 

「そうかよかったのう。……それと、マサト」

 

「あ?」

 

 院長のイカサマの事を根に持っている、マサト君はイラつきを隠すことも無い態度だった。

 

「お前は、ちゃんと早起きするんじゃぞ……」

 

「チッ、分かった善処するぜ。」

 

 そうぶっきら棒に答えると、挨拶も無しにさっさと戸を開けて、出て行ってしまった。

 

「ちょッ、マサト君…………それでは……」

 

 私も戸を開けて急いでマサト君を追った。

 

 その夜は、高校生になってから最初に心の底から楽しかった夜でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどな」」

 

 烏城を観察し終わった私はそう呟いた。

 

「いきなり遅刻魔になったのはこの所為か。」

 

 結構、夜遅くまで子供の世話という、ハードな仕事をしていたし、それに加えて刑事の仕事もあるのだから、疲れで寝坊をしたのだろう。

 

「全く……相談してくれない訳だ。」

 

 完全な個人の問題だから、相談もしてくれなかった訳だ。

 まあ、心配が杞憂に終わって良かったと、喜ぶべきだろうな。

 

「それじゃあ帰る……「ちょっと待ってくれんかのう?」ッな!」

 

 このまま帰ろうとしたその時、背後から老人に声を掛けられた。

 いきなりの出来事に驚き、咄嗟に後ろを振り向く。

 

「視線を感じると思って探してみれば……誰じゃあ、お主?」

 

「……こういう者だ。」

 

 視線で私のことに気づいただと!

 内心では、そう驚きと警戒を要り混ぜながらも、表面には出さず……自身が怪しい者ではないと証明するために自分の正体を明かす。

 

「警察手帳か……成程、お主はマサトの上司か。」

 

 老人の方は警戒を解いたようで、肩の力を緩めて、雰囲気も柔らかくなった。

 にしても、何故、警察手帳を出してだけで、私が烏城の上司だと分かった?

 

「それじゃあ、まあ、持て成そうかの。ほれ付いて来い。」

 

「あ、ああ」

 

 窓から覗いたときに感じた、優しい老人というイメージ像が崩れ去り、油断ならない老人というイメージに変わった後に、また優しい老人に戻ったことで、あの院長をどう捉えていいのか分からくなった。

 

 

 

 

 孤児院の中に持て成されたが、私の心中は困惑しっぱなしだった。

 ゴトリと音を立てて、煎餅の盛られ皿が私の前に置かれが、緊張と警戒で手を付けるのは憚られた。

 

「なんじゃ、煎餅は嫌いじゃったか?」

 

「先程からの変わりように困惑しているんですよ……」

 

 このままでは埒が明かないと思い、ストレートに疑問をぶつけた。

 

「なんじゃそんなことか。

 ここらの治安の悪さじゃと、要らんちょっかいを掛けてくるヤツがおるからじゃよ。」

 

「そういう奴らに舐められん為にも、儂は先ずは威圧したんじゃよ。」

 

 成程な少し考えれば分かる事だったな、少しパニックになっていたみたいだ。

 

「とはいえ、怖がらせてしまったようじゃ。失礼したのう。」

 

「いえ、お気になさらず。」

 

 一通りの問答を終えたのち、私は重要な事に気づいた。

 

「……そういえばお名前は?」

 

「おおそういえばそうじゃったのう。

 儂は烏城……烏城リョウスケじゃ。」

 

 その院長の苗字は私も聞き馴染みのある苗字だ。

 まさしく雷でも落ちたような衝撃だった、確かに親子の様に気が置けない様子だったが、まさかそうだとは思っていなかった。

 

「驚いたかのう?」

 

「はい……本当に。」

 

 院長……烏城リョウスケは悪戯っぽく髭を蓄えた口を歪めて笑った。

 

 

「そうじゃ、ちょっとお主に聞いてもらいたい事があっての。」

 

「なんです?」

 

 院長は、湯呑のお茶を飲みながら、話を切り出した。

 

「まさしくそのマサトの事じゃよ。」

 

「と、いうと?」

 

 院長の語り口調からは特に深刻なモノは感じない。

 むしろ少し笑みがこぼれているが、彼に何があるのだろうか?

 

 私もお茶を飲みながら、話に耳を傾けた。

 

「あの子はここで育った孤児なんじゃよ。」

 

「あれ、実子じゃないんですか?」

 

「そうなんじゃよ~」

 

 烏城は基本的に礼儀正しいし、所謂コミュ力が高いだけの普通の部下だったのだが、随分と大変そうな出で立ちだった。

 だが院長を義父をジジイ呼ばわりしたり、孤児院の子供と顔見知りだったりと、この孤児院と気安い関係なのは分かった。

 

「でも、本人は気にしていなさそうでしたね。」

 

「まあ、そうじゃのう、マサトは細かいことは気にせん主義じゃからのう。」

 

「細かい……?え?ええ……」

 

 またしても受けた余りの衝撃に敬語が自然と外れそうになる。

 

「そうじゃそうじゃ、あいつはマサトはしっかりやれ取るかのう。」

 

 露骨な話題変更だったが、私も実子ではない事が細かい事という新たな衝撃を吸収するためにその話題変更に応じた。

 

「まあ、ちょっと……結構遅刻をしてますが、まあいたって普通の生徒ですよ。」

 

「なんじゃあいつ、やっぱり遅刻しとるんじゃのう。」 

 

 烏城の遅刻魔ぶりを少し濁そうという気遣いが頭によぎったが、真実を言っても減るのは烏城の名誉だけだと思い、そのまま院長に伝えた。

 が、どうやら院長は烏城が遅刻しまくるのも見越していたらしい。

 

「あいつは朝に弱いからのう。」

 

「…………良ければ、私が起こしに行きましょうか?」

 

 ……ふとそう言っていた。

 普段の私なら、そうは言わないだろう。賭けてもいい。

 そんな私が何故進んで面倒な事を引き受けようとしているのかというと、私は烏城を気に入った……のだろう。

 

 市民の為に不良に立ち向かって、打ち勝った。

 それも1マガジンで3人を仕留めて。

 

 私が同じ状況に遭遇したなら見捨てはしないが、あの子供たちへの鉛玉を防ぐことはしなかったし、出来なかったと思う。

 

 私はそこまで強くないうえ、1マガジンだけで3人を仕留められる自信は無い。

 あそこで市民のために賭けに出れる烏城は心の底から、尊敬できると思う。

 まあ、ほんの出来心というヤツだ。

 

 院長は私の申し出に驚きつつも嬉しさを浮かべていた。

 

「そりゃあ嬉しいのう……でもお前さんはいいのか?」

 

「いいんですよ…………それに、遅刻される方が面倒くさいので。」

 

 烏城の寝起きの面倒を見るのは、私としては別に良いのは事実なので、理由は適当に付けた。

 

「そうか、そう言ってくれるとありがたい。」

 

 ということで、烏城の部屋に毎朝凸撃する私が今誕生したのだった。

 




 【烏城リョウスケ】

…今はとても戦闘は出来るとは言えないが、その老辣な頭脳は生きている。
息子のマサトとは賭け事をする仲。全く健全ではない。
が、二人にとっては心の繋がりを深める儀式なのだという。

一流のイカサマ師と手品師は同じネタを二度としない。
そのネタは常に最初で最後なのである。







ハートフルな親子関係だぁ(白目)
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