先輩たちが帰った後もバイトを続けて、終わるころには西の空の奥に太陽は沈んでいた。
電灯もあまり灯っていない、人気のない町の道を歩いていた。
「ここもすっかり人気がなくなっちゃったわね。」
もっと昔はこの辺りまで電気がしっかり通っていて、明るい道だったのだ
昔の街並みを思い出し哀愁に浸りながら歩いていると、声を掛けられた。
「んん?セリカじゃねえか。」
「あ、マサト先輩。」
昼間に私のバイト先にちょっかいをかけに来たマサト先輩だ。
その昼間のちょっかいを思い出して苦い顔をする。
「昼間のこと忘れてませんからね。」
「わりぃわりぃ。ちょっと調子乗っちまった。反省してるぜ。」
マサト先輩は反省の色など1ミリも無い様子で、へらへらしながら謝った。
【イラッ】
「もう! ちょっとくらい反省してくださいよ!」
流石にこれはカチンとくる。
本気で怒りだしそうな私の様子を見て、流石にマズイと思ったのか、マサト先輩はやや焦りながら態度を変えた。
「あ~じゃあ、お詫びとして……これをあげよう。」
お詫びという名目で手渡されたのは、黒い●が刻まれた白色の立方体。つまり一つのサイコロだ。
「なんですこれ?」
「サイコロ。」
「そんなことは分かってますよ!」
お詫びとしてサイコロ?
私の【意味が分からない】といったような表情を見たマサト先輩が、このサイコロの説明を始めた。
「このサイコロはミレニアムのエンジニア部に依頼して作ってもらった物なんだが。
サイコロはただのガワだけだ。
実はこのサイコロはだいたい10キロメートルぐらいでも一方通行だけど通信できる簡易通信機なんだぜ。」
とてもサイコロとは思えない機能が盛り込まれたそのサイコロの説明を聞いて驚愕に満ちると同時にドン引きする。
「ええ……なんでそんな機能付けたんですか。」
「付けたってか、勝手に付けられたってか……」
なぜそんな奇妙な機能が盛り込まれた理由を聞くと、エンジニア部によって勝手に付けられたことが想像できる答えが返って来た。思ったより可哀そうな誕生経緯である。
「まあ、実用性も多少はあるし、おもちゃとしてもまあまあ使えるはずだから、詫びとして貰ってくれ。」
「くれるなら貰いますけど……」
使い道は浮かばないが、貰っておいて損はないためポケットの中に入れる。
それから、少し先輩と道を歩いていると……
「………………黒見セリカと……予定にないが烏城マサトだな。」
ヘルメットを被った連中が、私たちの行く手を阻んだ。
恐らくはカタカタヘルメット団の団員たちだろう。
折角の機会だ日頃の鬱憤を晴らしてやろうと、息を巻いた。
「アンタたちまだいたの? 丁度いいわ、日頃の鬱憤をここで晴らしてやるわ!
あと先輩も手伝ってよね!」
「後輩の頼みならしゃあねぇな。」
【ダダダダダダダ】
私のアサルトライフルの銃声が戦いの火蓋を切りヘルメット団員達との戦闘が始まった。
【ダダダダダダ!】
「ふふん、まだまだ楽勝よ!」
【ダンダン!】
「俺より弱い奴を集中的に狙って行こうか。」
セリカの言う通りまだまだ余裕があるが、敵は雨後の竹の子の如く湧いてくる。
カッコつけたこと言ったばかりで、舌の根も乾いてないが、俺は集団戦がすごく苦手だ。例えるならピザの上にパイナップルを置くヤツぐらい苦手だ。つまり、この多数の敵を相手にするこの戦いの勝敗はセリカ頼みだ。
俺はオマケだ。
俺ってよえ~な。
「フンッ、たった二人で大した抵抗だがここで終わりだ!」
決め手に欠けているヘルメット団達の状況を打開するための隠し玉であり、切り札が火を噴く。
「てぇー!!」
【ドーン!】
デカい火薬の爆発する音と共にセリカが悲鳴を上げる暇もなく、スーパーボールみたいにぶっ飛んだ。
「ッマジかよ!」
あのぶっ飛びよう、どう考えてもセリカは戦闘不能だ。
頼みの綱のセリカは戦闘不能……つまり俺の勝ち目は無い。
「じゃあ…………」
後のこと考えないとな。
【ダンダンダンダン!】
【バリンバリンバリン】
建物のガラスや花瓶などに拳銃の照準を向けて発砲する。
窓ガラスや花瓶の破片が道路に散らばる。
【カチッカチッ】
「弾切れか。」
もうすることは無いと、銃と
「降参、降参もうやりあう気はねえよ。」
「…………そうか、丸腰だし問題ないか。それじゃあそいつを車に乗せろ。」
抵抗する武器も捨てた俺は、ヘルメット団員の指示通りにセリカを車に乗せた。セリカはまあまあ軽かった。
明かりが一つも無い殺風景な荷台に俺達二人が詰め込まれた。まるで出荷中の家畜の気分だ。
さて俺達が助かるかどうかは、もうわりと運頼みだな。神にでも祈るか?
どっちかというと、俺のスマホがちゃんと狙い通り拾われるか。拾う人がいい人である事を祈ろう。
「いざとなれば先生の権限で俺たちの身柄ぐらいなんとかするだろ。」
あんまし離れねぇうちにやっとくか。
楽観的な思考とは別にできることはやっておく。油断大敵ってな。
~~~~
その朝はアビドス生徒とシャーレの部員たち共に焦燥感に駆られて探し人を探していた。
烏城マサトと黒見セリカ、その二人が朝になっても、学校に来ないのだ。
「セリカちゃんの部屋にも帰った形跡は無かったみたいです……」
「僕も見てきたけどマサト君の部屋もダメだったよ。」
コウセイとアヤネの言葉を聞いて、苦虫を嚙み潰したような顔になる。
あとは、外で二人を探している、スズミとホシノとシロコの三人の成果を期待するしかない。
それでもダメならリンちゃんに怒られる覚悟でアレを使うしかない。
【プルルルル】
覚悟を決めかけた俺を引き留めるようにスマホが鳴った。スズミからだ。
"もしもし、どうし「アビドスからブラックマーケットに向かう道はどこですか!」
"え、どう「どこですか!」
スズミの珍しい鬼気迫る声を聞き、事の重要性を感じ、急いでアロナに調べさせる。
【地図に印を付けました先生!】
"よし、スズミのスマホにそれ送ってくれ!!"
【分かりました!】
頼りになる相棒のおかげで、十秒もかからずに道を割り出せた。
だが、その道には何があるのだろうか?
その道に二人が居るのか、それとも二人の手掛かりがあるのか……
どちらにせよ、俺達もその道に向かうほかは無いだろう。
おもむろに立ち上がり、二人に呼びかける。
"車を出すよ!!"
~~~~
守月スズミは柄にもなく焦っていた。
その原因は、彼女の手の中にある一台のスマホにある。
彼女の幼馴染、烏城マサトの行動は、付き合いの長い彼女でも予期できない。
一晩中、姿を誰にも見せていないかと思えば、翌日の昼にはケロッとした様子で孤児院に帰ってくることもあった。
今回もそうだと思ってた。
「マサト君……」
だが、このスマホが違うと語っている。
昨日の夜から行方知れずの二人を探して、朝のまだ熱さの優しい砂の町を駆けまわっていると、一目見て異常だと分かる道を見つけた。
その道は、目に留まる物が何もない普通の道だった。
ただし、割れた花瓶やガラスが地面に散乱していなかったらの話だが。
その現場で一台のスマホと拳銃を拾った。スズミの目にはよく見覚えのあるスマホと拳銃だった。
いつも幼馴染の烏城マサトの手の中にあったスマホと拳銃で間違いなかった。
スマホと護身用の拳銃が道路に落ちていることに、何があったかは、まだ正確には分からなかったが、嫌な予感を感じていた。
スマホを拾い上げて電源を付けると、パスワードすらかかっていなかった。
不用心なスマホのだと思いながらスマホを操作していると、見慣れぬ番号から留守番電話がかかっていた事が分かった。
もうこの時点で嫌な予感は最高潮に達していたが、放っておくわけにもいかず、再生ボタンをタップした。
【あ~これを拾ったやつ、アビドス生徒かシャーレの部員じゃないなら、そいつらに届けてくれると助かる。】
この留守番電話をかけた男の声は、スズミ自身が最も聞き慣れた、今探している探し人の声だった。
探し人の電話から、その探し人の声が聞こえてくる意外な展開に目を見開いて驚きつつも、留守番電話の続きを聞き続けた。
【えっと、ここからが本番で、今、俺とセリカはヘルメット団員達に誘拐されてんだけど
今はアビドスの南西ぐらいを時速……40キロぐらいで走ってんだけどね……
多分これ、ブラックマーケット方面の道なんよね。】
「ブラックマーケット!?」
録音と知っていても、思わずそう聞き返してしまった。
しれっと誘拐されているのは、まだ耐えられた。だが
ブラックマーケットはダメだった。
あそこは、キヴォトス有数の無法地帯の一つだ。
窃盗、強盗、誘拐、拉致、監禁といった犯罪が当たり前の様に行われている無法地帯だ。
そんなところに、二人が連れていかれかけている。
巨大な権限を持っているシャーレでさえ、そこに二人が連れていかれたら、追跡は難しいだろう。
連邦生徒会の組織のシャーレは学園では大きな力を持つが、反面、学園ではないブラックマーケットではその大きな力は激減するからだ。
【んでよ、このままいけばヤバいじゃん。だけど、こ……ビドスからブラックマーケットに行ける道ってオフロードを除けば一つ……ないから、そこから割り出せ……んかね~……ザザ……そろ…そ……電波……やば…か?……じゃ……むぜ……】
ここで再生は途切れた。
ただの救難信号としてではなく、自身の居所を割り出す手掛かりを残しているのは、流石だ。
そのあとは、先生にブラックマーケットに向かうの道を大急ぎで尋ねると、その道に印がつけられた地図が先生から送られてきた。
今はその地図を頼りに走っていると、車を出した先生たちと合流した。
今は車に乗って二人を追っている所だ。
"相手は時速40キロだし、多分そろそろ追いつくハズ。"
そして運転手は先生が引き受けてくれた。
アクセルをべた踏みして、速度をグングン上げていく先生の運転は昨日のマサト君の運転にも負けない荒さだ。
それほどまでに、焦っているということだろう。
「ホシノさんたちッはどうしまッしたか?」
先生の荒い運転で言葉が途切れ途切れになった私の問いに答えたのはコウセイ君だ。
「自力で追いかけてくるらしいッよ。うわっ」
どうやら自力で追いかけてくるみたいだ。自力で車に?
「う~~目が回ります。」
アヤネさんはもう既に酔いかけているが、先生はアクセルを緩めるつもりはない。
申し訳ないが、我慢してもらおう。
オリ主の戦闘力どんくらいがちょうどいいんだろ。