第1話 いつもの日常
キヴォトスと呼ばれる都市がある。
そこは、生徒と呼ばれる頭部の上に奇妙な光輪が浮いている人々が住む都市。
そこは、銃撃戦が起ころうとも死人どころか血すら流れない都市。
そこは、大型、小型、問わず様々な店で銃が取引できる都市。
そこは、未成年の生徒のみが所属する学園が、国家の様に
そこは、大人のヒトが存在していない都市。
そんな都市に住まう一人の生徒のお話。
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バンッ!!
キヴォトスのとある路地裏に銃声の乾いた音が響き渡る。
その路地裏には一人の少年と相対する数人の少女たちが居た。
「ギャハハハ、バカだな~お前。【無駄な抵抗だ】ってアタシら始めに言ったよなァ」
少年は力なく壁に倒れていて、少女たちの銃による射撃の的にされていた。
「そうそう、折角マシな選択肢を提示してやったのによぉ。これじゃあ意味ねえじゃんか」
ギャハハハと少女たちの高笑いが路地に響く。少年は何が少女たちが何故面白そうにしているのか理解できないでいた。
「おとなしく、アタシらのストレス発散に付き合ってりゃあ、もうちょっとはマシだったかもしれねえのによォ。」
「まあ、どっちにしてもボロ雑巾みてぇになるんだけどねぇ。」
少年の身体は度重なる銃撃により、血が幾つかの箇所から流れていて、服に赤いシミを形成していた。
「いや~お前には感謝してるぜ、お陰で風紀委員にボコされたイラつきが無くなるからよぉ」
自分よりも弱い無抵抗の者を甚振る。少女たちにとっては当たり前の事だ。
風紀委員の奴らが彼女たちを力で抑え込んで言う事を聞かせているのだ。
それが許されているのだ。自分達が自分達よりも弱い人間を力で好なように扱う事と何ら変わりはない。と彼女たちは思っていた。
「あ~思い出すと余計ムカついてきた」
風紀委員に蹂躙されたことを思い出し、少女は顔を顰める。
彼女からしたら、苦い記憶なのだろう。
「どうしてくれんだよ!」
ダン! ダン! ダン! ダン! ダン! ダン!………
少年はあがっ、うぐっ、と苦悶の表情を浮かべながら、苦痛に満ちた嗚咽をこぼす。
遂には痛みのあまり意識が朦朧とし視界が暗くなっていった。
「あ~あ、こりゃダメだ気絶しやがった」
少女は壊れたおもちゃを見るような瞳で少年を見下す。
「あ~あ……もう行こうぜ」と壊れたおもちゃには用は無いと言わんばかりの様子で少女たちは踵を翻し去ってていった。
少年の視界が完全に暗くなる前に、少女たちが去っていった。
少年は傷だらけの身体に鞭を打ち立ち上がろうとするが、思っているより身体に力が入らず、前に倒れる……………
「だいじょうぶ?」
…………かに思えたが、倒れかかった先には一人の少女が居た。
「おい起きろ!」
「おい起きろ烏城!」
朝を告げる俺の上司の囀りが俺に朝を告げる。
灰色髪の少年は、大きく伸びをした。
「うえ~い、………………今何時っすか?」
ベッドの上で身を起こす。
時計をチラリと見る。
「…………7時45分だ。」
「マジか……………………やっべ早く準備しないと!」
ベッドから飛び起き朝ご飯である食パンを咥えながら、パジャマを床に脱ぎ捨ててハンガーにかけておいた制服に着替える。
このキヴォトスの治安を維持する組織……いや学園。"ヴァルキューレ"で業務を行う生徒が着るものである。
ただ、彼の制服は普通の生徒とは異なる。
「おい!……早くしろ!」
「うげッもうこんな時間か、急がないと!」
食パンを呑み込み、靴を履き、玄関近くのハンガーに掛けていた《トレンチコート》を羽織ると、扉を開けて一気に駆け出す。
「やべ~」
彼と彼を急かす女の服装は通常の制服である黒い長ズボンにワイシャツその上に《トレンチコート》を羽織った姿だ。
今の彼の姿を喩えるのなら、ドラマなどに出てくる《刑事》が喩えとして最適だろう。
遅ればせながら、ヴァルキューレ警察学校にたどり着いた。
いつも通りの位置にある、自分の机に着く。
幸い今日は間に合った。
「まったく、遅刻するところだったぞ。」
そう、言葉を漏らしたのは、俺の上司の
「まあまあ、セーフって事でヨシ。」
「今日は一段と起きるのが遅かったな。」
「あはは……ちょっと懐かしい夢見てて。」
「そうか……」
もう、呆れて何か言う気も起きていないようだ。
腕時計をチラリと見てみると長針は30を、短針は11と12の間をそれぞれ差していた。
だいたい、今は11時30分ぐらいかな?
今は調査資料を渡してくれるってんでツクミ警部に呼ばれたんだが……
【ゴソゴソ】と物音がして音源を見ると、ツクミ警部が彼女の机の引き出しを漁っていた。野良犬かな?
漁っていたのは、机の一番下の深い引き出しだった、引き出しの中は資料が散乱しており大体の資料が斜めに立てかかっていた。刑事達に渡される資料は確かに多いため、書類整理は面倒臭い……が……もう少しファイルに入れるとか、工夫をしてほしいものである。
「ああ、あったこれだな」
大量の紙の中から、ホッチキスで止められた捜査資料を手渡される。
ツクミ警部の机から引き出されたにしては、やけに綺麗な状態だ。その証拠にしわ一つ無いし、ホッチキスで止められている。
「何だこれ?」
渡された捜査書類を手に取りパラパラとめくる。
書かれている内容に少し目をギョッとさせる。
まず、4日前に2人組の生徒が行方不明になったらしい。
このぐらいは、まあ良いのだが……読み進めていくと、まあ衝撃的な事が書かれていた。
「2人組の生徒って両方刑事!?」
「ああ、バディで
うちの同僚が行方不明って訳かい。
名前は【元浦 サトミ】と【端島 フミコ】らしい。
どっちも巡査だな、刑事としては一番下っ端の役職だな。
そしてどっちもピカピカの1年生……1年生は1年生でも【高校】が付くけど。
1年生って事は俺の後輩だ、顔は見た事ねぇけど。
「バディで仲良く揃って行方不明か………………
「分からんが、もしそうだとしたら警察にケンカ売りに来てるんだ、こっちとしてはタダで済ますわけにはいかないな。」
机の上に置かれた缶コーヒーを口に含みながら、ツクミ警部は目を鋭く細め手に持った資料を射殺さんばかりに見つめる。
「で、こいつが、容疑者のリストだ。」
数枚のA4サイズの紙には沢山の容疑者が載っている。
……がやっぱり本命は二人が追っていた事件の犯人だろう。
「お二人が追ってた事件の資料ってあります?」
「そういうと思ったよ」
ほいと差し出された捜査資料……そこに載っているのは
「【2週間前の深夜に起こった中規模な放火事件。
事件が起こったのはDUの外れの倉庫 午前2時15分に臭いを不審に思った周辺住民からの通報により発覚した。
半日の消防による格闘の末に鎮火させたらしい。】
まあ、これだけなら最近なんか治安悪いなぁで済む感じですね。」
「実際、ここ最近の治安は悪化の一途を辿っているな。」
「"噂"がマジならかなりヤバいよなあ。」
っと、少し話が逸れちゃったな。
それにしても、この事件ってやっぱり……
「それは、置いといて……なんていうか……」
「"普通"だろう?」
そうツクミ警部の言う通り普通なのだ。この事件つながりで行方不明者が出るとはは思えない。
放火は確かに一歩間違えれば多くの怪我人が出るため重罪なのだが、この放火場所はDUの外れにある倉庫なのだから、正直まあ重い罪には問われないだろう。
あの辺りは、人も住んでいないし燃えた倉庫も今はもう使われていないボロ倉庫らしい。
「つーか、ここだけ見たら【放火事件】には見えないよな。」
「まあ、そう焦るな……ほら捲ってみろ」
「む……………………出火原因は使っていなかった昔のバッテリーが発火し倉庫の中に大量にあった段ボールに引火してああなったと…………ここだけ見るとただの事故だけど、現場からは燃え残った数本の髪の毛が検出された。その髪の毛はいずれも倉庫の所有者のものとは不一致だった。…………成程なぁ」
「そして、倉庫には鍵も掛かっていて半年は誰も入っていない。つまり、それが見つかったからこそ、【事故】ではなく第三者が起こした【事件】として扱っているのさ。」
……?、なーんか違和感あるんだよなぁ。
「なんつーか、人為的にバッテリーを発火させたり、ややこしく根回ししたにしては詰めが甘いな」
態々、偽装工作までするような奴が、そんなバカみたいな理由で尻尾を出すのだろうか?
「ああ、そこまで用意周到に計画したのなら髪の毛なんて処分するのが普通だ。
処分の仕方も無数にあるハズ。
それに、髪の毛を落とさないような被り物を被ればいい話だ。」
【奇妙な事件だなぁ】と思いつつもあり得なくはない気もする。
偶々、犯人の髪の毛が燃えにくいモノの影に落ちた。とかあり得る気がする。
「これから現場に行ったりする感じ?」
現場に行ったらなんかわかったりして。と期待してツクミ警部に聞いてみるが……期待は出来なさそうだ。
「いいや、あそこから取れる証拠なんてもうないだろうから今日は書類仕事だ。」
「うわッ、めんどくせ~」
俺は書類仕事が大の苦手なのだ。たとえるのなら、から揚げに無断でレモンをかける奴ぐらい苦手だ。
つまり、書類仕事なんてやりたくないのだ。
「いいからやれ」
鬼のような形相で睨んでくるツクミ警部にそんな言い訳は通じるはずもなく、机の上の書類を捌くことになった。
昼休み
自身のテーブルでパンを頬張りながら、貰った資料を粗を探すように、よくよく目を凝らして見る。
あのお二人の刑事の最後の目撃情報は4日前の午後11時のDUの繁華街、のコンビニの防犯カメラで確認されたのが最後だった。
おおかた、若者らしく夜遊びに勤しんでいた所なのだろう。刑事としてはどうかと思うがな。
それにしても、あの辺りは治安が悪い。
訪れる人が多く、金回りが多くなれば、悪い人間に目を付けられるのは当然っちゃ当然ではある。
特にあの辺りはブラックマーケット程じゃないけど、最近起こった治安の大規模な低下を大きく受けている。
人が消えるのはあり得ない話じゃないかな?
「まあ、犯人は直ぐ出てきそうな感じかな」
犯人の身元特定につながる髪の毛っていう鍵を持ってるので、犯人は数日後に
そういえば、ツクミ警部は『明日の仕事も書類仕事中心だろうからな。』なんて言ってたか。
書類仕事は大の苦手だ。まあ、刑事なんて書類仕事ばっかなのだが……最近は治安が悪くなったから休みが少ない。
めんどいな……有給休暇使おうかな。結構ためてたはずだし。
けど、有給休暇を使うなら書類仕事を家に持ち帰りたくないな。休みの日ぐらい仕事の事を忘れていたいのが人間だろう。
近くの自販機で買ってきた牛乳パックのカフェオレをストローで吸いながら物思いにふける。
それにしても、休みの日の予定を考えると口元を思わず緩めてしまうな。休みを楽しむそのためにも仕事は今日のうちに終わらせないとな。
「ちょっといいか?」
嫌いな書類仕事にも取り組もうと内心で気合を入れていると、ツクミ警部に声をかけられた。
「?……警部どうしたんですか?」
「少し話そう……」
やや疲れた様子のツクミ警部が俺の隣の座席から椅子を引いて俺の前にどっこいしょと座った。
「……お前に少し私からの【お願い】を頼みたい。」
「?」
【お願い】というと、さっきの事件絡みの話だろうか?
俺からしたら、昼休みも仕事の話をされるのはあまり好きではないというのが本音だが。
そんな俺の内心をも見透かしていたのかツクミ警部はやや面倒そうなものぐさな表情を浮かべ、話始めた。
「……これは仕事の話じゃない。」
「じゃあ、その【お願い】ってのは何なんですか?」
「明日、連邦生徒会に直談判しに行ってくれ」
「?そりゃ何で」
連邦生徒会、キヴォトスの行政を担っている言わずそ知れた中心組織だが、最近はその組織の長の連邦生徒会長の露出が減り、何故か犯罪率が上がったり武器の不法流通が以前より活発になっている。
……ので、一部界隈では【連邦生徒会長は死んだだったり、失踪しただったり】言われている。
その噂がツクミ部長の耳に入ったのだろう。
「ああ、あの噂ですか?」
「……まあな」
「たかが噂ですし俺達みたいな警察組織が簡単に動くわけにはいきませんよ?」
噂は噂なのだから、気にする必要は無いし噂で警察が動くわけにはいかないと言っても……聞く気はなさそうだ。
「お前の言いたいことも分かる…………だが、これは私のお願いだ。
多分、お前明日休むんだろ。ついでやってくれ」
「何で当たり前かの様に見透かしてんですか……」
なんで【明日休もう】って思ってんのが見透かされてんだよ。
内心、面食らいながらも…………(まあ引き受けるか。)
「…………分かりましたけど、連邦生徒会の奴らに門前払いされて、聞けなくても文句言わないでくださいよ。」
「……ああ後は今日は早めに上らせてもらいますかね。」
引き受けると言ってもタダでは引き受けねぇけどな。
「…………分かった。お前の書類は私がやるから……癪だがお前は定時でアガれ。」
不服な表情でそう言ったツクミ警部、よっしゃ!でも、言わせた者勝ちだぜ。
ヒュー最高だぜ。今から予定組もうかな。
このクソ忙しい時期に仲間を残して残業無しで定時で帰宅……素晴らしきかなこの背徳感!
「久々に遊ぶぞ~」
「定時まではちゃんと働けよ」
しっかりとジト目の警部に釘を刺された。
あの後に仕事を片付けて帰宅してくつろいでいた所に友達からモモトークで遊びの誘いが来たので、丁度暇してた俺は二つ返事で誘いに乗って、今は合流予定の公園に車を飛ばしている所だ。
「楽しみだな」
大体、1週間ぶりぐらいかな。あっちはどうしてるかな。この格好で良かったかな。
そんな、これからの事で頭がいっぱいだ!
現在はトリニティ自治区へ向かっている所だ。
トリニティ総合学園
キヴォトスのマンモス校の一つで、所謂お嬢様学校だ。
同じマンモス校のゲヘナ学園とはすこぶる仲が悪い。
あと、実は陰湿ないじめ問題もあり、この学園の生徒達の笑顔の裏にはドス黒い感情が隠されているとかいないとか。
そんな、所に俺は向かっている。
なにを隠そう今日会う友人はそのトリニティの生徒なのだ。
「いつも通りのトリニティだな」
そう、いつも通りのトリニティだ。
建物は傷一つ無い状態で、その建物も荘厳な雰囲気を出している。豪華でそれでいて派手過ぎない良い塩梅だ。
「ここはやっぱり平和な所だな」
トリニティでは他の学園の自治区の比べて明らかに犯罪や銃撃戦の起こる数は少ない。
そんな、平和な時間を噛み締めながら目的地へ向けて車を走らせる。
駐車場に車を停めて、目的地である友達と合流予定の公園のベンチに腰かけている。
スマホをいじりながら、暇をつぶしている。予定より25分ほど早く付いてしまった。
ちょっと張り切り過ぎたみたいだ。と思っていると...
「すみません……ハア…ハア…遅れました」
「俺も、ついさっき来たところだから気にすんなよ!」
まだ集合時間には20分ぐらい時間あったはずだが、あっちもちょっと張り切ってたみたいだ。
現れたのは、モデルの様なすらりと長い手足に、白磁の肌。雪の様に白い髪と赤い瞳を持つ少女。
「そういえば、どこ行くんだっけ”スズミ”。」
今日、会いに来たのは幼馴染の”守月スズミ”だ。
「私は特に決めていませんよ。」
……俺も互いの予定が空いてる時間に会う約束を取り付けただけだから、行き先は特に無い。
とはいえ、このまま公園でずっと話すだけっていうのも退屈だ、適当な喫茶店でも行ってみようかな。
「じゃあさ、こんな所で話すのもなんだし喫茶店行こうぜ!」
「そうですね」
と言うと、彼女は顔をほころばせた。
ハンドガン【オルフェン】
…目立つ改造は施されていないハンドガンM1911。
昔は、その辺に落ちていた初期不良品だったが、烏城マサトに拾われて
今ではちょっとした改造も施されている。
元は誰の目にも留まらないただの拳銃だったが、今は一人の主を見つけた。