「ごめんって」
「別に怒ってませんよ」
トリニティの某カフェ。そこは豪華な装飾が施されている。
しかし、そんな高級な雰囲気の漂う場所に似つかわしくない一人の黒髪の男の姿があった。
正確に言えば、ジーンズにワイシャツという、トリニティの高級店には釣り合わない格好だ。
というか、ここじゃなくても妙な組み合わせだ。
その黒の青年と相対するのは白い少女。
「そういえば、最近はキヴォトスの犯罪率が増えています。そちらに関しては……」
「それの真偽は全ッ然知んないぜ。」
白い少女の質問にやや食い気味の回答を返し。
「俺は下っ端だからな。それに”噂”の真偽は上のヤツが漏らさないようにしてるだろうしなぁ」
「やはりそちらでも"噂"は広まっているのですか……」
頼んだコーヒーを啜りながらスズミと情報のすり合わせを行っていた。
「少なくとも俺みたいな末端の人間でも知ってるぐらいにはな。」
噂というのはツクミ警部の耳に入ったものと同じ、なんとキヴォトス中に名を轟かしている、"連邦生徒会長"が"行方不明"になっているというものだ。
学園都市キヴォトスの責任者がいきなり消滅する、という一見眉唾物の噂に聞こえるが……
ものぐさなツクミ警部はこの程度じゃあ動かない。多分ここ最近の、犯罪率の上昇具合を見ると眉唾物とは言い切れない怖さを感じたのだろう。
「そうだ!【パチン】」
「?」
俺がかっこつけて指を鳴らし立ち上がると、俺の唐突な行動にスズミは首を傾げる。
「連邦生徒会に聞きに行けばいいんだよ」
「連邦生徒会に……ですか?」
スズミは呆気にとられたような顔をしている。
「一々考えてても変わらないだろ?」
そういえば、スズミって明日休みだったけか? 丁度いい機会だしツクミ警部のお願いも一緒に叶えられそうだな。
「そうだ!明日は俺は|非番【有給】だからな、丁度いい機会だぜ!」
「明日……ですか?」
「そう! ……あれ?ダメだった?」
スズミが浮かない顔。というか、話についていけていないぽか~んとした表情をしている。
「いいですけど……連邦生徒会の皆さんの迷惑にはならないでしょうか?」
「まあ、そうかもだけどさ、ここで考えるよりはいいんじゃないか?」
机の上に置いてあるミルクティーをグビッと一気に飲むと。
「けど、今はとにかく今日を遊び尽くそうぜ!」
スズミに手を差し出すと、スズミは困った様な顔色を見せると、ニコリと笑って手を受け取った。
それからは、
「お、このバンド新しい曲出したんだ」
「♪~♪~~♪」
「あの子、迷子でしょうか?」
「お兄さんとお姉さんが何とかしてやるからもう大丈夫だぜ」
「ありがとうございます」
「無事に家族の方と会えて良かったですね」
「これで、”一件落着”だな」
「オラオラァ、金だせぇ」
「閃光弾、投擲!」
「いよっしゃあ!行くぜぇ!」
「うわッ」
「お二人とも現行犯逮捕のご協力ありがとうございました!」
みたいなことが在りつつ、遊び尽くしていたら、すっかり夜も深まっていた。
俺は一人暮らしだから門限なんて概念は存在していないが、スズミは寮暮らしなので門限の時間を過ぎないようにやや急いでスズミの寮へ車を飛ばしている。
「チッ。信号があとちょっと長く青だったら、そのまま行けたのになぁ。」
「……今日はありがとうございます。」
助手席に座るスズミから声がかかった。
少し寂しげ、と言えばいいのだろうか? 少しスズミの表情に影が差している。…気がする。
「どうしたんだよ?何かすげぇ浮かない顔してるぜ?」
まさか……俺と離れるのが寂しい…………なんちゃって。
スズミとは、そういう関係じゃないもんな。お互いにちょっと付き合いの長い仲の良い友達ってだけだしな。
「あ...いえ、少し考え事を……」
「何をそんな思い悩むことが在るんだよ?」
「エデン条約の事で少し...」
なるほどな”エデン条約”か……
エデン条約......
長年に亘って、いがみ合ってきたトリニティとゲヘナ。
互いが互いを憎みあってるこのデカい二校も、流石にそろそろ争い合うの止めようぜ?
って感じに連邦生徒会長が持ち掛けた条約だったっけ?
…………成程な、さっきも言った通りこの”仲良くしましょう条約”を進めてるのは
”連邦生徒会長”だつまりこの、”連邦生徒会長”が噂通り消えたのならこの条約も”まとめる奴”
が居なくなったんなら、憎みあってるゲヘナとトリニティのトップがこの条約を引き継ぐ事になるが……
互いが互いにテロみたいなことを、やり合ってる現状だと、引き継いでくれるとは思えない。
まあ、簡単に言うと、条約そのものが白紙になっちゃう。って訳だ。もしも噂が本当なら...な。
「まあ、俺達は政治に直接関われ無いんだし、あんまり気にし過ぎちゃうのも、良くないぜ。」
「……そうですね」
スズミはエデン条約に関しては、かなり肯定派だったからな。
ようやく、"仲の悪い二つの学園が手を取り合うことができる”ってな、顔には出てないながらも本気で喜んでたからなぁ。
結構、期待してたし、その分落胆っていうか、これからの条約に関しての不安も俺よりも大きいんだろうな。
赤色から青色に変わった信号を瞳に写し、俺は
「この信号に引っかかるみたいに一時停止だけならいいんだけどなぁ」
「無事に締結したいですね……」
暗いニュースの続く現状を省みて、これからの事に一抹の不安を抱えずにはいられなかった。