ハリー・ポッターと嵐の舞う丘   作:奪われ泣き叫ぶヒンドリー

1 / 3
1 プロローグ

 遥か遠く、とある鏡の世界にて――

 

 もう1988年だというのに、彼らはヨークシャーの屋敷に住んでいた。

嵐が丘(ワザリング・ハイツ)」と呼ばれたその屋敷は、名前の割に年がら年中嵐に見舞われているわけではなかった。

 しかし、やはりヨークシャーというのもあってか、夏は控えめに涼しく、冬はしっかり寒く――そして一年中雨がちで、天気が急変することも少なくなかった。

 

 彼らというのは、アーンショウという魔法貴族の一家である。

 家長のエドワードはアーンショウの家を継ぎ、いつも出張やらなんやらでロンドンに飛んでいたが、帰りには必ずおみやげを買い、ロンドンの様子について面白おかしく子どもたちに聞かせた。

 妻サマンサはそんな忙しい夫を支え、自身は家事と子どもたちの世話に精を出していた。それを本人はさも当たり前のようにやるもんだから、近所に住む住人たちは感心したものだった。

 

「このお菓子買っちゃったから、子どもたちに分けてね」

「ありがとうございます、こんなにたくさん……」

 

 そんな彼らに周りの村人が手を差し伸べるのは当然のことで、子どもたちのためにお菓子やおもちゃを差し入れたり、育児のアドバイスをしたりした。

 

 彼らの娘であるキャサリン・アーンショウは、貴族教育が功を奏したのか、それとも生まれつきそんな顔立ちをしていたからか、7歳の女の子にしては落ちついた雰囲気の少女だった。

 しかし家の中では奔放で、両親はいつも彼女の謎掛けに食らいついては、頭を抱えた末降参するのが常だった。

 そしてやはり年相応の子供なのか、暗闇を何よりも怖がっており、彼女の部屋は寝ている間ですら明かりがついていた。

 

 彼女の2歳上の兄であるヒンドリーは、彼女の性格が全て悪い方面に出たようなガキ大将だった。

 聡明さは抜け落ち、代わりに図々しさと自己主張だけが育ったような少年である。

 性格は未熟そのもので、いつも近所の子供たちを脅しては、自分の思い通りになるようにし向けていた。

 

 そんな一家も、「あの日」まではなんだかんだ幸せだった。

 ――そう、あの日までは。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 あの日、もう回数を数える気にもならないロンドンへの出張から帰ってきたエドワードは、黒髪の男の子を背中に背負っていた。

 その子はキャサリンと同い年ぐらいの少年で、すやすやと眠っていた。しかし服装はボロボロで、周りには腐った魔法薬のような悪臭が漂っていた。

 

「あら、あなた?」

 

 出迎えたサマンサが、その子を見て変な声を上げた。

 しかしすぐに気を取り直し、エドワードを問い詰めた。

 

「そのこ……だれ?」

 

 サマンサが尋ねると、エドワードは――夕飯の内容を思いつくぐらいの気軽さで――軽やかに答えた。

 

「ああ、この子? ダイアゴン横丁で拾ったんだ――ここで育てるつもりさ」

 

 サマンサは彼の発言に、文字通り空いた口が塞がらなかった。

 しかしすぐに気を取り直し、エドワードを怒鳴りつけた。

 

「何やってるのよ!? こっちにはキャサリンもヒンドリーもいるのよ――三人目なんて、不可能だわ!」

 

 その怒鳴り声で、背負われていた少年は目を覚ました。

 エドワードの服にしがみつき、小声で囁く。

 

「アーンショウさん、怖いよ……」

 

 その声で、サマンサははっとなった。

 彼女はエドワードよりは常識人だったが、それでも二児の母親なのだ。

 娘と同い年ぐらいの子供を怖がらせるなど、母親失格だと思ってしまったのだ。

 

 サマンサはその思いを引きずったまま、エドワードとその子を家に入れた――

 

 ▽ ▽ ▽

 

 とりあえず少年の体を洗い、ヒンドリーのお古を着させた夫妻は、子どもたちの前にその子を出した。

 もう追い出す気などとうに消え、数日ぐらいは家にいさせようと考えたのだ。

 

 あとで孤児院とかにつれていけばいい――サマンサの計画は、そんなものだった。

 

 キャサリンとヒンドリーの前に出されたその子は、かなり萎縮しているように見えた。

 

 そして、突如リビングに集められた二人の子供はというと――キャサリンは興味と不安の入り混じった顔で彼を見つめ、ヒンドリーは明らかに軽蔑の視線を送っていた。

 

「そういえば、名前を聞いてなかったな」

 

 エドワードがそういい、少年の肩をポンポンと叩いた。

 少年は、音にもならないような声で答えた。

 

「……サミュエル」

 

 エドワードは少々、違和感を覚えた。

 こういう時、普通は苗字までいうのが普通だと思ったからだ。

 

「……ほんとに、それだけかい?」

 

 少年は、こくりと頷いた。

 

「……そうか。なら、私がつけてみせよう」

 

 エドワードはそういうと、少し目を閉じ唸った。

 いくつか苗字を呟いては、「――だめだ」とといい取り下げる。

 

 30秒ほどたってから、エドワードはひらめいたように目を開けた。

 

「ヒースクリフ。それでどうだ?」

 

 少年は頷いた。

 

「というわけで、今日からここで暮らすことになった――サミュエル・ヒースクリフだ。よろしく頼む」

 

 こうして、少年――ヒースクリフはアーンショウ家の一員となった。




 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 名前について:
 エドワードとサマンサはオリジナルのファーストネームです。ブロンテ版嵐が丘にも出てきませんし、サマンサの方なんかリンバスでは言及すらされませんからね……(「奥様」は確定じゃないので除きます)

 サミュエルについては完全なオリジナルネームです。ブロンテ版嵐が丘のヒースクリフは「名前が一語だけの人物」であり、プロムン世界は苗字・名前を重視しない世界観なので問題なかったのですが、流石にハリポタ世界じゃ困りますからね……

「面白い!」「続きを読みたい!」と思ったなら、お気に入り登録と高得点の評価をお願いします! エタる確率が(おそらく大幅に)下がります!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。