ハリー・ポッターと嵐の舞う丘   作:奪われ泣き叫ぶヒンドリー

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3 ダイアゴン横丁

 ホグワーツへの入学を決めたヒースクリフは、ネリーにつれられて外に出た。

 

「さっ、お坊ちゃん、早速行きましょっか」

「行くって、どこに?」

 

 彼は尋ねた。

 学用品を買うというのは聞いていたが、具体的にどの街で買うのかは聞いてなかったのだ。

 こんな田舎に杖の店とかがあるとも思えないし。

 

「ロンドン――正確には、ダイアゴン横丁」

「えっ?」

 

 その言葉を聞いて、ヒースクリフは変な声を出した。

 なにせここからロンドンまで、だいたい300キロメートルは離れているのだ。

 今は午前9時――車を飛ばしたとて、日帰りはだいぶきついだろう。

 

「……そんなの、とおすぎるだろ」

 

 当たり前のことを彼がいうと、ネリーは表情を変えず続けた。

 

「大丈夫――私には()()()()があるからね」

 

 ネリーはそういうと、ヒースクリフに自分の腕を掴めと指示した。

 

「何をしたいのかわからんが……まっ、秘密兵器っていうなら」

 

 ネリーの腕の半ばを掴むと、足が空中に持ち上げられ、景色も残像を残しながら移り変わっていった。

 

 体感時間では数秒だろう。

 気づけば二人は屋敷の前ではなく、どこかの裏路地に立っていた。

 

 彼は察した。

(――移動用の魔法だ)

 

 ネリーはいつもどこからともなく現れては、用を済ませると姿をくらますのが常だった。

 キャサリンはよく「神出鬼没のネリー」と語っていたが、おそらくこの魔法を使っていたからだろう。

 

 ヒースクリフはネリーといっしょに歩きだすと、先程のことを尋ねた。

 

「なぁ……さっきのって、なんだ?」

 

 彼が尋ねると、ネリーは淡々と答えた。

 

「ああ――あれは”姿現し”の応用、”付き添い姿現し”ね」

 

 正式名称をここで覚える気にはならなかったが、とりあえず「長年の謎」がとけたということはわかった。

 

 数分ほどロンドンの街を歩き、「漏れ鍋」というパブの前でネリーは立ち止まった。

 

「ここがダイアゴン横丁の入口ね」

「こんなところにあっていいのか!?」

 

 ヒースクリフだって、魔法界の最大の掟――「魔法をマグルに知られてはならない」ぐらいは知っていた。

 

「大丈夫――マグルにバレないよう、魔法がかかってるから」

 

 言われてみればそうだ。

 道を歩く人々はパブには目もくれず、左右の本屋やレコード屋に気を取られている。

 よくよく見ると不自然な光景だが、魔法がかかっているなら納得だ。

 

 それから、二人で店の中に入った。

 平日の朝9時ということもあってか、店の中は静かだった。

 客はおじいさんのグループがひとかたまりあるだけで、バーテンダーらしき男が来たるべき稼ぎ時に備えようと、カウンターでグラスを拭いている。

 

 ネリーはバーテンダーとも話さず、店の奥へと向かっていく。

 たどり着いたのは、壁に囲まれた小さな中庭だった。

 中庭にはゴミ箱と、数本の雑草が生えているだけで、何をするのか見当もつかなかった。

 

「ここにダイアゴン横丁の入口があるわよ」

 

 ネリーがそう言っても、ヒースクリフはピンとこなかった。

 なにせそこは四方がレンガの壁に囲まれているのだ。

 入ってきたところ以外に扉は見当たらないし、この先に広がっているであろう魔法の商店街も見えない。

 

「いや、そんなの見えねえぞ」

 

 ヒースクリフの発言に、ネリーは「今から見ててね。手順を踏まないと入れないの」といった。

 

 彼女はまっすぐな木の枝のようなものを取り出した。魔法の杖だ。

 ブツブツ言いながら、レンガの角を叩いている。

 

「――下がって」

 

 ネリーがいうと、次の瞬間――レンガの壁がひとりでに蠢き、あっという間にアーチ形の入り口へと変わっていく。

 その先には石畳の道と喧騒があり、魔法使いの街――ダイアゴン横丁が広がっていた。

 

「ダイアゴン横丁へようこそ」

 

 ▽ ▽ ▽

 

 ヒースクリフにとって、初めてのダイアゴン横丁だった。

 いや、エドワードが「ダイアゴン横丁でお前を拾った」というから、正確には初めてではない。

 まあ、その時の記憶は曖昧なので、実質今回が初めてだろう。

 

 しばらくダイアゴン横丁を歩いていると、ネリーが言った。

 

「まずは制服ね――あそこの店よ」

 

 ネリーは、遠くに見える看板を目で指す。

 そこには「マダム・マルキンの洋装店」と書かれた店があった。

 

「採寸の間、私はグリンゴッツでお金を落としてくるけど――一人で大丈夫かしら?」

「ああ、問題ないぜ」

 

 ヒースクリフがそう返すと、ネリーは足早にどっかへむかってしまった。

 

 ▽ ▽ ▽

 

「じゃあ、いくか」

 

 彼はそう行って、店の扉を押し開けた。

 中にはずんぐりとした魔女がおり、中を覗くなり彼女と目があった。

 

「あら、お客さんね。あなたたちもハルフォード?」

 

 おそらく、彼女こそが店主のマダム・マルキンなのだろう。

 ヒースクリフが頷くと、彼女は笑みを崩さず言った。

 

「それなら、ここで全部そろいますよ――どうです? 早速採寸しませんか?」

 

 再び頷くと、彼女は店の奥へと案内してくれた。

 店の奥では既に採寸を行っている少年が一人おり、その横にヒースクリフが並ぶ。

 マルキンは彼の頭から長いローブを被せると、丈に合わせてピンを挿し始めた。

 

「喋ってもいいけど、動かないでね」

 

 マルキンにそう言われたので、目だけを動かしてあたりを観察した。

 

「……ぱっとみは、普通の洋服店だな」

 

 少しばかり、がっかりした。

 もっと、こう――時間経過で色が変わる布とか、中に浮かぶマントとかがあっても良かったのに……

 

 しばらく採寸を受けていると、先に採寸をしていた少年が、しどろもどろになりながら声をかけてきた。

 

「ね、ねぇ……君も今日からホグワーツ?」

 

 その少年はヒースクリフと同じような黒髪をした、同い年ぐらいの眼鏡の少年だった。

 捨て子である彼も大概だが、彼はもっとみすぼらしい――具体的には、サイズが大きすぎる――服を着ていた。

 

「まっ、そうだな」

「じゃあ、君もお買い物ってこと?」

「まあな」

 

 何気ない会話、無意味なやりとり。

 それが――ホグワーツの同級生との、最初の出会いだった。




 ここまでお読みいただきありがとうございます。
 ネリーは姿現し常用者という設定です。

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