ヴァージニアとデルトラクエスト2   作:アヤ・ノア

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4月最後ですが結局凍結は解除されませんでした。
あの運営は早く、電撃を浴びて制裁を受ければいいのに。


第12話 オーロン島に向かう冒険者

 ジンクスが横たわる城の寝室の窓からは、

 全く異なる、晴れ渡った、忘れな草のように青い空が見えていた。

 しかし、ジンクスは景色には興味がなかった。

 ジンクスが興味を持っていたのは、シャーンが口に運んでくれる美味しいスープと、

 リーフを死から救おうと奮闘した、しかし空しく終わった物語だけだった。

「もちろん、奴が死ぬのを見ていなかったら、俺は決して逃げなかっただろう。

 国王のためなら喜んで命を捧げただろう!

 そして、国王の友である、哀れで勇敢なバルダのためにも。バルダは俺にしばしば無思慮に残酷な仕打ちをしたが、バルダの魂は安らかに眠っている」

 ジンクスは、体を洗ったばかりの両手で、運ばれてきた柔らかなベッドのシーツを握りしめた。

 シャーンが差し出したスープのスプーンを受け取ろうと口を開けると、

 まぶたがぴくぴくと震えた。

 ジンクスはスープを飲み込み、溜息をつき、再び口を開けた。

 シャーンは目の奥で燃えるような涙を堪えた。

 ブルーム村の大女、リンダルと共に骸骨山へ出発する直前、

 ジョーカーが自分に残した最後の言葉を思い出そうとした。

 

「シャーン、ジンクスの事をよく知っているな?」

 ジョーカーはシャーンの手を握りながら言った。

「奴は自分の目的のためなら何でも言うし、何でもする。

 奴の話の一部は確かに真実だが、全てではない。

 リーフは危険に晒されているかもしれないが、まだ生きている。俺はそう確信している。

 必ず奴を見つける。恐れる事はない」

 シャーンはジンクスに最後の一口のスープを与え、軽く首を振った。

 ジョーカーの確信を共有できたらよかったのにと思った。

 影の大王がデルトラに侵攻していないという事は、

 ジョーカーはリーフが生きていると信じているに違いない、とシャーンは思った。

 しかし、影の大王でさえ全てを知っているわけではない。

 影の大王のスパイはリーフとベルトがトーラで安全だと伝えており、

 ジョーカーもそれを信じている。

(今のところは大丈夫だけど、いつ影の大王が目をつけるか……)

 シャーンは空になったボウルを脇に置いた。

 ベッドの方を振り返ると、患者は目を閉じており、ゆっくりと規則的に呼吸している。

 ジンクスは眠ってしまったようだ。

 シャーンは目を閉じた。

 頭がズキズキと痛んだ。

 起き上がって階下へ降りなければならないと分かっていた。

 やるべき事が山ほどあった。

 玄関ホールにはまだ人だかりができていた。

 それに、今頃マリリンは部屋で昼食を待っているだろう。

 マリリンのトレーをキッチンから持ってこなければならない。

 それから、可哀想なマリリンに、ジンクスが持ってきた知らせを、

 できるだけ優しく伝えなければならない。

 シャーンはそれを考えるだけで気が滅入った。

(少しの間だけ、ここにいて休もう)

 シャーンは心の中で言った。

 ジンクスはかすかに目を開けた。

 まつげの間から覗くと、シャーンがまだ静かに隣に座り、頭を下げているのが見えた。

 ジンクスは苛立ちのあまり、思わず声に出して悪態をつきそうになった。

(あいつは一体何をしているんだ? 何もする事がないのか?

 俺が寝たと思ったらすぐに部屋からこっそり抜け出すと思っていた。

 まさか、自分で寝るなんて!)

 呻き声を上げてシャーンを起こそうかとも思ったが、

 すぐにそうするのは賢明ではないと判断した。

 さっきまで安らかに眠ったふりをしていたのだから。

 

(我慢しろ、ジンクス。シャーンに疑われたくないのだ。

 必要なら後で起こしてもいいが、今は目を閉じ、口を閉じておけ。

 その間に、その強力な頭脳を使って計画を完璧に練り上げろ)

 ジンクスは心の中で言い聞かせた。

 

 リーフの全身の神経が、デルの状況が万全ではない事を告げていた。

 薄暗い光の中、ジャスミンを傍らに、

 蜘蛛達は慈悲深く船底の檻の中で眠り、バルダは船尾で休んでいる。

「あんなにウネウネがいっぱいいたら、ヴァージニアの気も休まらないよね」

 ヴァージニアはまだ震えており、ワソはヴァージニアを元気づけようとしている。

 リーフはリラックスしようと努めたが、この1時間、恐怖感は募るばかりだった。

 無視する事は不可能だった。

 小さな船が進む暗闇のせいだと自分に言い聞かせようとした。

 かつては煌めく虹がかかっていた場所に、今は陰鬱な鈍さだけが広がっている。

 しかし、リーフはそれが唯一の解決策ではない事を知っていた。

 「危険」と「デル」という言葉が、リーフの心に次々と忍び寄り、リーフを苦しめた。

「こんなの嫌だ」

 バルダが長い沈黙を破って呟いた。

「オーロン族が俺達の存在を察知し、不意を突いて俺達を襲おうと、

 光を弱めているのではないかと心配だ」

 リーフは何も答えなかった。

 ジャスミンはバルダの方を振り返った。

「リーフ、あなたは明らかに私達の仲間ではないわね」

「一度くらい、心にある事を話してみたら?」

 ジャスミンとワソの言葉に、リーフは溜息をついた。

「デルに何か問題があるような気がするんだ」

 リーフは自分の考えを口に出したい誘惑に負けて言った。

「母さんとジョーカー、そして城で心配しているかもしれない他のみんなに、

 僕達の居場所が伝わったらどんなに嬉しいだろう」

「今更そんな事を考えるのも遅いわ」

 ジャスミンは言い放った。

 リーフが「他のみんな」という言葉で誰の事を指しているのかジャスミンはよく分かっていた。

「まさか、将来のお嫁さん……とか?」

 リーフが指していたのは、これから結婚する娘の事だった。

 ジンクスの言葉を借りれば、「トーラの名家の一つ」から、王妃として選んだ娘だ。

(どうして私が知らないなんて思うのかしら?)

 ジンクスによると、結婚の計画は皆が噂しているらしい。

 その時、リーフが「城にいる他のみんな」と言った事に、ジャスミンはハッと気づいた。

 すなわち、リーフの妻となる女性は既にデルトラにいたのだ。

 リーフはトーラから戻った時、彼女を連れてきていたのだ。

 それからリーフはすぐに彼女を置き去りにし自分を追いかけてきたのだとジャスミンは思った。

 ジャスミンは初めて、骸骨山への性急な行動が、

 祖国に破滅をもたらすかもしれないという事実に直面した。

(私のせいでリーフが危険に晒されているかも。そして、デルトラも……。

 でも、私には影の王国に捕まっている妹がいる。けれど……)

 罪悪感がジャスミンの心を突き刺し、ジャスミンを怒らせた。

「リーフ、バルダ、ヴァージニア、ワソに私を追って来いと頼むなんて、あり得ないわ!

 もしあなたがそうしてくれなかったら、私は間違いなく死んでいたわ。

 でも、デルトラは安全だったはず。そして、あなたの仲間達は、恐れる必要もなかったはずよ」

 リーフとヴァージニアは眉をひそめた。

 ジャスミンの怒りは、リーフにとって全く理不尽に思えた。

「故郷に伝言を送りたいと言っているだけなのに、どうして怒らなきゃいけないんですの?」

「ジャスミン、何度も言っただろう? 君を責めるどころか、感謝しているよ!

 もし君を追いかけていなかったら、ピラの島は見つからなかった」

「……」

 しかし、返事がないので、リーフはますます苛立った。

「影の王国の囚人が危険にさらされているとあなたが言った時、

 私はすぐに立ち去る事に同意したでしょう? デルトラに戻って助けを求める事もせずに?

 それ以上の事を私に求める事ができるの?」

 ジャスミンは鼻をすすった。

「互いに狙いを定め終わったら、前を見ろ」

 バルダが船尾から唸り声を上げた。

 リーフが言う通りにすると、胃が締め付けられた。

 薄暗い中、低く伸びた大きな影がゆっくりと見えてきた。

 すぐ近くにあった。

 四人は何も知らずにそこに辿り着いてしまったのだ。

「陸だ!」

「ああ。今回はオーロン島かもしれない。

 この薄暗さでは、洞窟の壁を迂回して見えなかったかもしれない。備えておいた方がいい」

「分かりましたわ……」

 

 ちょうどその時、デルでシャーンはジンクスの呻き声に目を覚ました。

 うとうとしてからどれくらい時間が経ったのか、シャーンは分からなかったが、

 その呻き声がシャーンの注意を引こうとしている事はよく分かっていた。

 シャーンはジンクスを見下ろした。

「痛みはありますか?」

 シャーンは少し苛立ちながら尋ねた。

「私の薬草療法をもう一度受けた方がいいでしょうか? 味は良くないのは承知していますが?」

「いやいや、奥様!」

 ジンクスは慌てて叫んだ。

「あなたのおかげで痛みはすっかり消えました。

 でも、まだ赤ん坊のように弱っていて、思い出が自分を苦しめているんです!」

 シャーンは心配そうに言った。

 ジンクスは瞬きしながら、溜息をついた。

「どうか、自分と一緒にいなければならないと思わないでください。

 ぐっすりと、長く眠るだけでいいんです。今晩は、エールを少し飲んでもいいかもしれません。

 一杯か二杯持ってきてもらえれば。落ち着くかもしれません」

「では、もう行かせていただきます。ぐっすりお休みください」

 シャーンは立ち上がりながら言った。

 彼女は馬鹿ではない。

 ジンクスは、柔らかいベッド、たっぷりの食事、

 そして優しい看護を期待して、実際よりもずっと具合が悪いふりをしているに違いない。

 彼には切り傷や痣がいくつかあり、足には水ぶくれができていた。それだけだ。

 しかし、今はあの曲芸師をそのままにしておくのがシャーンには都合がよかった。

 ジンクスが城に持ち込んだ情報が広まって、

 影の大王の耳に届かないようにする事が不可欠だった。

 

(大丈夫ですよね)

 ジンクスが到着した時に厨房にいた他の者達は問題ないだろう。

 リンダルはジョーカーと一緒にいた。

 ジョセフとラネッシュは秘密を守るよう誓いを立て、書斎に戻った。

 ジョーカーが戻るまで、彼らは再び階下へ降りる事を許されない。

 耳が全く聞こえないアマランツは、ジンクスの言葉は一言も聞いていなかった。

 アマランツは料理が上手で、仕事も厭わず、シャーンにとって良き友でもある。

 彼女を二階に隠さなければならないのは申し訳ない。

 シャーンは寝室のドアノブに手をかけた。

 しかし、ノブが回り、ドアが開き、マリリンが急いで部屋に入ってきた。

「シャーン、あなたの声が聞こえたわ。ずっとあなたを探していたのよ!」

「マリリン? どうしてここにいるの?」

 シャーンはベッドからマリリンを守ろうと叫んだ。

「お願いだから、部屋に戻って。

 お腹が空いているのは分かっているけど、できるだけ早くお盆を持ってくるわ」

「ジョーカーが帰る前に食事を持ってきてくれたのよ。シャーン、悪いけど、話があるの」

 ジンクスがマリリンをよく見ようと、苦労して座ったのを見て、マリリンは言葉を切った。

「ジョーカーから聞いたんだけど、ジンクスが『リーフが死んだ』って言ってるの」

「その通りです、奥様、大変残念ですが」

 ジンクスはすすり泣いた。

 小さく呻き声をあげ、額に手を当てて枕に倒れ込んだ。

 好奇心に燃えた彼の目は、指の間からジンクスを見つめながら輝いていた。

「嘘つき! どうしてこんな悪戯をするの?」

 マリリンは背筋をぴんと伸ばしていた。

 声には軽蔑がこもっており、美しい顔は険しかった。

 ここ数週間でマリリンは急激に成長した、とシャーンは驚きながら思った。

(どうして気づかなかったのかしら。

 どうしてジョーカーはマリリンに言わなきゃいけなかったのかしら)

「シャーン、この男は城に来てから一度も一人になった事がないの?」

「一瞬でも? お願いだから、マリリン、私達から離れてください」

 彼女は低い声で言った。

「今すぐ階下に降りなければなりませんが、できるだけ早く伺います」

 マリレンは少し躊躇い、それから頷いた。

「急いでください。図書室にいます」

 シャーンは言った。

 ジンクスをもう一度軽蔑するような視線を向けると、振り返って部屋を出て行った。

 

「可哀想なお嬢さんだな」

「影の大王を恐れる者は皆、深く心を痛めているに違いありません、ジンクス」

 シャーンは声を平静に保つのに苦労しながら言った。

 彼女は部屋を出て行き、背後でドアが静かにカチッと閉まった。

 一人になった途端、ジンクスは毛布を跳ね返し、ベッドから飛び出した。

 包帯を巻いた足でドアまで歩み寄り、ノブを捻った。

 ドアは鍵がかかっていた。

 ジンクスは眉を潜めた。

 これは予想外の事だった。

 シャーンは、どんなに優しい言葉をかけても、ジンクスを信用していなかった。

 これはジンクスの計画に全くそぐわなかった。

「奥様、自分をお望みの場所に導いたとお考えですか。

 しかし、ジンクスはそう簡単には出し抜けませんよ」

 ジンクスは素早く部屋の中を探し始めた。

 

「もうすぐですの?」

「ええ」

 遥か遠く、秘密の海で、ジャスミンは身を乗り出し、前方の陸地を見つめていた。

 ジャスミンはクリーに囁きかけると、クリーは翼を広げて空高く舞い上がった。

 ヴァージニア達は、クリーが暗く謎めいた塊に向かって低空飛行するのを見守った。

「きゃ!?」

 突然、何かが水面から飛び上がった。

 クリーは空中で立ち止まったように見えた。

 次の瞬間、船は激しく揺れ、ジャスミンは悲鳴を上げて飛び上がった。

 クリーは翼をばたつかせながら、海へと落ちていくのだった。

「ジャスミン!」

「何とかしますわ!」

 前方の暗闇に光が灯った。

 叫び声と水しぶきの音が聞こえた。

 ジャスミンは身を投げ出し、櫂を掴んで水に沈めた。

「神様、助けて! 急いで! クリーが溺れてしまう!」

「駄目だ! 船を回せ! 逃げろ!」

 しかしリーフはどちらにも耳を貸さなかった。

 リーフは櫂を落とし、剣に手を伸ばしていた。

 ヴァージニアはジャスミンに手を伸ばす。

 何十もの長く青白い姿のものが、泡に覆われた巨大な槍のように、

 水面を駆け抜けてヴァージニア達に向かっていた。

「気をつけろ!」

 数秒後、襲撃者達は水しぶきを上げながら水面から押し寄せヴァージニア達に迫ってきたのだ。

 リーフは剣を握りしめた。

 使えば命取りになると分かっていたからだ。

 船は、鋭い牙を持つ巨大な銀色のウナギの輪に囲まれていた。

 彼らの邪悪な口は大きく開き、水が流れ出ていた。

 そして、それぞれのウナギの首には、灰色の動物の皮を纏った、

 狂気じみた目をした犬のような顔をした存在がうずくまっていた。

 手首から指先まで刺青が彫られたその手には、

 鋭利な骨でできた細長い槍が握られ、今にも襲い掛かろうとしていた。

「うぅ、ウネウネしてますわ……!」

 何とかヴァージニアは目を背け、見ないようにする。

 滴る黒い包みが、無造作に船に投げ込まれた。

 それはクリーだった。

 クリーはジャスミンの足元で、片方の翼を引きずりながら、哀れにもがき苦しんでいた。

 ジャスミンは叫び声をあげ、クリーに屈み込んだ。

 槍の柄が引き下がった。

 リーフにはその言葉がどこから来たのか分からなかった。

 純粋な本能が、それを口に出したのだ。

 

「僕達は竜を愛するドランの一族だ。オーロン族よ、僕達に危害を加えないでくれ」

 リーフは息を切らして言った。

 ウナギ達は理解できずに、ぼんやりと見つめていた。

 しかし、背中の奇妙な生き物達が身動きした。

 リーフは、自分を測る青白い、細長い目を意識していた。

「ドランが天からあなたを遣わしたのですか?」

 ついにオーロン族の一人が尋ねた。

 オーロン族の一人の声は歌のようで、石に波打つ水のようだった。

 しかし、そこには警告の響きがあった。

(嘘をつかないでください)

 リーフは息を呑んだ。

 今にも槍が心臓に突き刺さるかもしれないと悟ったからだ。

「ご存知の通り、ドランはとっくに死んでいる。

 古い書物に記されたドランの言葉が、僕達をあなたのもとへと導いたんだ」

「何を探しているのですか?」

 別のオーロン族が尋ねた。

 声は再びメロディーに満ち、底流には脅迫の響きがあった。

(真実を話してください)

「ドラン族の多くは影の大王に捕らえられている。彼らを救うには、ピラの笛が必要なんだ」

 水面をかすめる風のような、かすかな溜息が聞こえた。

 オーロン族は槍を少し下れた。

「笛は三つの部分から成っています」

 最初に口を開いたオーロン族が言った。

(嘘をつくな)

「もう一部は手に入れた。もう一部をお願いしに来たんだ。君はくれないって言われたのに」

 オーロン族はヴァージニア達を一瞥した後、リーフの方を振り返った。

 刺青の入った両手で槍を握りしめ、ゆっくりと槍先を下に向けた。

「本当だったわね。一緒に来なさい」

 船を岸に曳き寄せるにつれ、ヴァージニア達は驚いた事に、その「島」が実際には島ではなく、

 筏の群れを一つに束ね、巨大な台地を形成し、

 日干しレンガ造りの住居がひしめき合っているのを目にした。

 台地の端は人々でごった返していた。

 多くの人が煙を上げて揺らめき、油っぽく魚臭い匂いを漂わせる松明を手にしていた。

 小さな子供達は欠伸をしたり目をこすったりしながら、大人の足元に隠れていた。

 年長の子供達は、背筋を伸ばして厳かな様子で、短い骨の槍を構えて、集団で立っていた。

 群衆の後ろには、四方八方に開いた低い塔がそびえ立っていた。

 塔の頂上には、二人の人影が立っていた。

 そのうちの一人は長いローブと高い頭飾りを身に着けていた。

 オーロンの笛吹き、ピラの笛の胴体の番人だ。

 笛吹きが振り返って口を開くのを見た。

 仲間が躊躇い、そしてついに頭を下げたのが見えた。

 どうやら、何かの指示があったようだ。

 与えられ、受け入れられた。

 

「もしかして、ここがオーロン島ですの?」

 ヴァージニアは船から降りながら呟いた。

 リーフは辺りを見回した。

 至るところに、侵入者の痕跡があった。

 灯されたばかりの松明。

 目を曇らせた子供達。

 住人達が驚いて外へ飛び出したかのように、開いたままの住居の扉。

「確かにオーロン族の住処だ」

「だがオーロン島そのものではない。地図を見れば、オーロン島は本当の島だとわかる」

「じゃあ、ここはどこなの?」

 ジャスミンが問いただした。

 彼女はヴァージニア達の傍らに登り、クリーを腕に抱きながら、用心深く辺りを見回していた。

「この場所は、地図の点線の輪郭だと思う。

 ドランは、位置が固定されていない事を示すために破線を使ったんだ」

 今は錨泊しているが、人々の望む時にはきっと移動するのだろう。

「どうしてあの人達は島に住まないの?」

 ジャスミンは声を低くしようともせず、激しく問いただした。

「そんなに野蛮で不注意だから、島を生命維持に適さないものにしてしまったの?」

「ジャスミン、失礼な事を言わないで!」

 ワソはジャスミンを注意したが、手遅れだった。

 群衆の多くはジャスミンの声を聞いており、眉をひそめ、ぶつぶつと言い合っていた。

 ジャスミンの目が緑色の炎のように輝いた。

「あの人達がどう思おうと構わないわ!

 あの人達はクリーを理由もなく殺したわ。クリーは私の友達なのに!」

「あれはわざとではありません」

 リーフの隣で静かな声がした。

「人生で一度も鳥を見た事がなくて、苦い経験を通して、

 知らない事は命取りになる事もあると学んだ者です」

 リーフが振り返ると、鋭い視線がリーフと合った。

 本能的に、リーフはそれが塔で見た人物の一人だと悟った。

 笛吹きの仲間だ。

「私の名はペン。筏の歴史記録係です。笛吹きが私をあなたの接待役に任命しました」

「もしかして、私達を連れてきた人なのね!」

 ジャスミンは目を輝かせた。

 ペンは欠けた尖った二列の歯を見せて微笑んだ。

「私が何者であろうと、あなたには私が全てです。

 今すぐ私についてきて安全な場所へ行くのが賢明でしょう。

 群衆の雰囲気が険悪になってきています」




次回は、デル城に大きな危機が訪れ……?
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