ヴァージニア達がピラの笛の胴体を取り戻すためにオーロン島に向かうと、
そこにはたくさんのウジ虫が待ち受けていた。
当然ヴァージニアは不快になり、さらにヴァージニア達は島の住民に捕らえられてしまう。
しかし、クリーの活躍でヴァージニア達は何とか助かった。
一方、命からがらグラナスから逃げ出したジンクスはデル城に戻り、
シャーンにバレないようにデル城の宝を探して逃げ出そうとしたが、
誤ってマリリンの部屋にあった毒入りケーキを食べてしまう。
マリリンの命を狙っていた犯人はアマランツだったが、
アマランツはかつてのワソのように影の大王に洗脳されており、毒入りケーキを食べて自害する。
一方、デル城の事件を知らないヴァージニア達は歴史記録係のペンの導きで、
怪物アラクが支配する幻想の島にこっそり乗り込んでいた。
笛吹きのオーリスの犠牲で辛くも幻想の島の魔法を解き、ピラの笛の胴体を取り戻すのだった。
第18話 地獄絵図
岩を貫く狭い水路は、打ち寄せる水の音を響かせながら、深い闇の中に消えていった。
入り口には、鮮やかなピンクと黄色の海藻が幅広に帯状に浮かんでいた。
リーフは手にした小さな地図を見なくても、この陰鬱なトンネルが
禁断の道――ケラス島への唯一の道であり、ピラの笛の三つ目の欠片――
である事は分かっていた。
しかし、リーフはそれでも地図と、オーロン族の笛吹きが引いた矢印を見下ろしていた。
地図はびしょ濡れになり、傷ついたが、あらゆる困難を乗り越えて生き延びていた。
(きっと、僕達と同じだね)
リーフはヴァージニア、ワソ、バルダ、ジャスミンを見上げながら思った。
四人はじっと座り、岩の暗い割れ目を見つめていた。
もう、刺すような水しぶきに目を細める必要はなかった。
船を曳航していたオーロン族の衛兵達は、巨大ウナギ達に速度を落とすよう命じていた。
オーロン族の船は狭いため、バルダは中央の席に一人で座り、片方の櫂を握っていた。
ジャスミンは船の前方に座り、傷ついた翼がまだ弱いクリーを肩に乗せ、
フィリはジャスミンの襟の下でお喋りしていた。
ヴァージニア、ワソ、リーフは後方にいた。
「トンネルに入ったら、もう後戻りはできない。油断はできないわ」
リーフは頷いた。
確かに、デルトラの地下世界を初めて探検した
竜好きのドランが禁じられた道を通った事はあった。
だが、それは数百年前の事だった。
それ以来、多くの事が変わっているかもしれない。
船首が最初の鮮やかな藻の束を軽く触ると、オーロン族の衛兵達は手を離し、立ち去った。
オーロン族の歴史記録係であるペンだけが船のすぐ傍に留まり、
首に乗った巨大なウナギに優しく話しかけていた。
衛兵達は獣皮の服と恐ろしい骨の槍を身に着け、荒々しく恐ろしい姿だった。
しかし、彼らは指導者である笛吹きの男の命令がない限り、あの鮮やかな藻の障壁、
つまり古代オーロン族が危険を警告する障壁を越えようとはしなかった。
そして、そのような命令は下されていなかった。
「船を用意し、領土の端まで案内しますが、それ以上の手助けはできません」
ペンの小さな小屋で最後の食事をしていた
ヴァージニア、ワソ、リーフ、バルダ、ジャスミンに笛吹きの男は言った。
「オーロン族は禁断の道に入ってはならぬ」
「これは我々の最も古い掟です」
ペンは笛吹きの男の無愛想な態度を和らげようと付け加えた。
「オーロン族が彼らの海に入れば、ケラス族が襲いかかるでしょう」
「プリューム族もあなたについて同じ事を言っていたわ」
「あなた達は私達を見たらすぐに殺すと言ったみたいだね」
「プリューム族は嘘つきのケダモノじゃ!」
笛吹きの男は言い放った。
皺だらけの顔に青白い炎の火花が散っていた。
リーフとバルダは悲しげに顔を見合わせた。
プリューム族を守る事に何の意味もない事は分かっていた。
ピラの民の古くからの憎しみは、五人の議論で揺るがすほどには強固なものだった。
しかしジャスミンは、新しい大きな檻の中で一緒に静かに眠る戦う二匹の蜘蛛を見つめていた。
共通の敵への恐怖で結ばれたキラメキとイラダチは、激しいライバル関係を脇に置き、
今はただ遊びとしてレスリングをしていた。
結果的に、彼らはペンの元に留まることになった。
ペンは、恐ろしい外見にもかかわらず、彼らにすっかり懐いていたのだ。
「キラメキとイラダチでさえ、自分達には思っていた以上に共通点があると認めたわ」
「でも、プリューム族、オーロン族、ケラス族は今でも恨んでいる」
「みんながピラの民だったなんて、信じられないね」
「それはずっと昔の事じゃ。ピラは今や影の王国。プリュームとケラスの責任じゃ。
もし彼らがオーロン族の女を笛吹きの男として受け入れていたら、
ピラの笛は決して分かれず、影の大王もわしらの土地を奪う事はできなかっただろう」
ペンは眉を潜めた。
少なくともペンは、オーロン族の信奉者達が、
オーロン族のライバルであるプリューム族とケラス族の信奉者達と同じくらい
頑固だった事を認めるだけの洞察力を持っていた。
ピラの笛を分けるという軽率な決断には、三つの氏族が等しく加担していたのだ。
大きなウナギが渦を巻く事で生じた波に船がゆっくりと揺れる中、
リーフはペンの不安げな顔を見上げた。
歴史の記録係は、禁断の道までヴァージニア達に同行する事を主張し、
ヴァージニア達の松明に灯る火を運んでいた。
虹色の海を旅する間は陽気だったが、今やその目には不安がはっきりと浮かんでいた。
ペンは照明弾を高く掲げ、ウナギを船の前へと促し、ジャスミンの松明に火を灯した。
そして、静かにリーフのもとに戻った。
「さようなら、ペン。僕達のためにしてくれた事、全てに感謝します」
「私は何もしていません」
ペンは答え、照明弾をリーフが差し出す松明に軽く触れた。
「でも、あなたが私達のためにしてくれた事は、決して忘れません。どうか……」
ペンは言葉を続けることができず、頭を下げた。
「心配するな。またモリスクの肉を君と分かち合える日が来るよ、ペン」
「そうなればいいですね。オーロン族が君を守ってくれますように」
ペンはウナギに囁くと、ウナギは素直に船の後ろに回り、船を前に押し出した。
船は海草の帯を滑り抜け、トンネルの入り口へと入った。
すぐにリーフの心はピラの笛の甘く、鋭い音色で満たされた。
音はあまりにも大きく、圧倒的で、
ヴァージニア、ワソ、バルダ、ジャスミンにもきっと聞こえているように思えた。
しかし、四人の表情を見れば、聞こえていない事が分かった。
リーフは目の前の暗闇を、釘付けになったように見つめていた。
口の中は乾き、頭の中は音で鳴り響いていた。
ぼんやりと、シャツの下に首から下げた布袋を握りしめている事に気づいた。
笛の吹き口と胴体がそこに隠されていた。
笛の最後の一片が、暗闇の中からヴァージニア達を呼んでいた。
(呼んでいる……)
―気を付けて!
リーフは船の横から手を滑らせ、水をすくい上げて顔にかけた。
冷たい水が熱い肌に跳ねかかり、リーフは息を呑んだ。
魔法が解けた。
音楽は消え去り、奇妙で悲しい空虚さを残した。
リーフは目が冴えると、素早く瞬きをした。
光は急速に薄れて、通路の壁が流れていく。
リーフは座席の上で体を捻り、後ろを振り返ると、
通路の入り口が既に遠くの細い光の筋になっているのを見て驚いた。
「何が起こっているの?」
「どうしてこんなに速く進んでいるの?」
「何かの流れに引っ張られているんだ。ほとんど漕いでいないのに……」
「笛だよ。感じる……」
すぐに船は暗闇の中を滑るように進み、
通路の壁は松明の揺らめく黄色い光だけで照らされていた。
壁は虹色に輝き、すぐに純粋な緑色に変わった。
しかし、松明の光が届かない上空には、ただ濃い黒が広がっていた。
突然、クリーが甲高い声を上げた。
ジャスミンは座席で身をよじり、首を叩いた。
「何かが落ちてきたわ」
「蛾に違いない。何度か見た事がある」
バルダは、疾走する船の操縦に集中しながら言った。
それからバルダは自分の首を叩いた。
何かがそこに落ちてきて、しがみついていた。
「うわっ、何だ?」
「どうしましたの、リー……」
リーフは手にくすぐったい感覚を覚えた。
ヴァージニアが下を見ると、羽のあるナメクジのような生き物が身をよじっているのが見えた。
リーフは手を振ったが、その生き物は落ちてこなかった。
ハッとした瞬間、リーフはそれが自分を噛んでいる事に気づいた。
頭を肉にめり込ませているのだ。
しかも、それは大きくなっていた。
リーフが見ている間も、その体は膨れ上がり、リーフの血で満たされていく。
「いやぁぁぁぁっ! ヒル! ヒルですわぁぁぁぁぁぁっ!」
ヴァージニアはパニックになりながら、リーフの身体からヒルを放そうとする。
ジャスミンが服の襟を掴み、首からぶら下がっている二匹のヒルを引き抜こうとしている時、
クリーがジャスミンの肩から羽ばたくのが見えた。
クリーは恐怖と共に、さらに多くのヒルが、ジャスミンの手に留まっているのを見た。
「みんな、上を見るんだ!」
バルダが叫んだ。
リーフはそれを見て、胃がむかむかした。
五人の上空高くには、暗闇から渦巻く厚い雲となって流れ落ちるヒルが舞い上がっていた。
ヴァージニアにとっては地獄絵図であった。
「来ないで! 来ないでぇぇぇぇっ!!」
ヴァージニアは脇目も振らずにメイスを振り回す。
バルダはヴァージニアと共に、ヴァージニアが攻撃したヒル目掛けて、
松明を頭上で激しく振り回した。
何十匹ものぬるぬるした羽の生えた体が炎の中でジュウジュウと音を立てた。
しかし、それでもなお、多くのヒルが炎の障壁を迂回してバルダの手や腕に留まり、
血を吸って膨らんでいった。
さらに、ヴァージニアにもヒルが吸い付く。
そして、これらはほんの序章に過ぎなかった。
何千、何万ものヒルが、螺旋状に下へと続いていた。
「ジニー、ワソ、バルダ、ジャスミン! 伏せろ!」
「無理無理無理無理ですわぁぁぁぁぁっ!!」
リーフは叫び、無謀にも松明を水に投げ込み、
マントを脱ぎ捨てて船の向こう側に投げ捨て、テント代わりにした。
パニック状態になっているヴァージニアは、リーフが無理矢理下に降ろした。
たちまち五人はマントの下にうつ伏せになり、ぎこちなくマントを押さえていた。
最初のヒルの群れが五人の隠れ家に降り注ぎ、その下の温かい体を感知して、
パタパタと音が鳴り始めた。
パタパタという音は大きくなり、容赦ない叩きつける音へと変わった。
マントはたるみ始めた。
リーフの腕と手は、マントを押さえるのに苦労して震えていた。
身を隠す前にまとわりついていたヒル、そしてマントの下に潜り込んできた数匹のヒルが、
リーフの手首や手の甲から、まるで膨らんだソーセージのようにぶら下がっていた。
リーフは歯を食いしばり、それらを引き剥がしたいという激しい衝動を抑えようとした。
荷物を詰めたマントが船の縁から引き剥がされ始めた。
ヴァージニア同様パニックに陥ったリーフは、布地を引っ張り、元の位置に戻そうとした。
しかし、既にヒルが小さな隙間から流れ込み、リーフの手に絡みつき袖の中に滑り込んでいた。
マントは再び膨らみ、またずれ落ちた。
船の側面の隙間はさらに広がり、ヒルがヒューンという音を立てながら流れ込んできた。
(もう終わりだ。僕達はヒルに血を吸い尽くされて死ぬんだ……)
両手が隙間を埋めようと必死に奮闘する間も、リーフの心はデルへと飛んでいった。
リーフは二度と戻らないだろう。
マリリンの最悪の恐怖が現実のものとなったのだ。
それでも、何も後悔していないと、リーフは思った。
やるべき事をやったのだ。
奇妙な安らぎがリーフの体を駆け巡った。
そして、その安らぎと共にピラの笛の音楽が流れ込み、その極上の甘美さがリーフを貫いた。
ついに、リーフはその音に身を委ねた。
音の波に身を任せ、目を閉じた。
そのため、頭上の布地から突然エメラルド色の光が差し込んできた事にも気づかなかった。
太鼓のような音が止んだ事にも気づかなかった。
波打つ緑の海を船が軽やかに滑るように進み、安全かつ確実に陸へと引き寄せられていく時、
柔らかな水しぶきの音も聞こえなかった。
リーフが我に返った時、笛の音は消え、大きな重みが彼を圧迫していた。
彼は激しく船を漕ぎ、ついに眩いエメラルド色の光の中へと這い出た。
その時、ワソ、バルダ、ジャスミンがリーフの隣で身を起こした。
ヴァージニアは失神していた。
三人が起き上がり、ワソがヴァージニアを起こすと、無数の死んだヒルの重みで船は傾いた。
船は浅く、薄緑色の水が砂浜に打ち寄せ、ゆっくりと揺れていた。
岸の向こうには、柔らかな緑と茶色のキノコの木々が生い茂っていた。
「ケラス島だ! 禁断の道の終わりに着いたに違いない。光の中に出た途端、ヒルは皆死んだ」
突然、身震いしながら、バルダは荷物を積んだ船から飛び降りた。
ワソ、リーフ、ジャスミンもすぐ後ろについていた。
ヴァージニアはワソに引っ張られていた。
四人は輝く緑色の水に何度も何度も腕と顔を突っ込んだ。
まるでヒルの記憶さえも洗い流そうとするかのように。
「……はっ! わたくしは何を……」
(ヒルが襲ったなんて言わないでおこうっと)
身が清くなったと感じたヴァージニア達は、船を後ろに押し上げながら岸まで歩いて行った。
船を緩やかな傾斜の砂浜に引き上げ、ひっくり返して汚らしい積み荷を空にした。
リーフはマントを纏い、森の緑の陰へと進んでいった。
木々の間を縫うように砂の道が続いていた。
五人はそれを辿り始めた。
時折、砂の上を何かが走り回る音が聞こえたが、他に生命の気配はなかった。
静寂は不気味だった。
「どうやらここはエメラルドの領土らしい」
バルダはさりげなく、しかし非常に大きな声で言った。
「頭上には恐怖の山がある。そこには我が友、グノメ族が住んでいる」
リーフは、バルダが目に見えない監視者達に、
自分達を攻撃しないよう警戒するように言っている事に気づいた。
バルダも、森は見た目ほど人影がないと感じていた。
五人は木々に囲まれた空き地に着いた。
ここでは静寂がより深く感じられた。
リーフの首筋がぞっとした。
慌てて辺りを見回したが、何も動かなかった。
ジャスミンの視線は、リーフの腰のベルトにちりばめられた大きな宝石へと落ちていった。
ルビーとエメラルドは曇っていなかった。
「この地では、宝石に警告など期待できない」
「そうかな?」
「でも、どうしてそうなの? 宝石は元々デルトラの奥深くから来たもの。
きっと、ここは弱まるどころかもっと強くなるはずよ」
―お前は誰だ? 何故ここにいる?
五人は武器を抜き、飛び退いた。
囁く声はヴァージニア達の周囲から聞こえてきたようだった。
しかし、空き地には誰もいなかった。
―答えろ!
ジャスミンは鋭く息を吸い込み、リーフを軽く突いた。
彼女の視線を追うように、リーフは顔を上げた。
炎の剣が頭上に、先端を下に向けてぶら下がっていた。
さらに四本の剣がヴァージニア、ワソ、バルダ、ジャスミンの上にもぶら下がっていた。
リーフの額に汗がにじんだ。
明らかに、この質問には迅速かつ慎重に答えなければならない。
「僕はリーフ、デルトラの国王です。ジャスミン、バルダ、ヴァージニア、ワソは僕の仲間です。
僕達は影の王国の奴隷を助けるために、ピラの笛を直そうとしています。
プリューム族とオーロン族はそれぞれ笛の一部を貸してくれました。
ケラス族にも同じように貸してくれるよう頼むために来ました」
一瞬、深い静寂が訪れた。
そして突然、剣は消え、大勢の人々がどこからともなく現れた。
プリューム族とオーロン族のように、
人々は小柄で、青白い目、長い鼻、そして大きく尖った耳を持っていた。
彼らの衣服は煌めく緑色で、奇妙なことに、頭に黄色い髪をしていた者もいた。
そのうちの一人、笛吹きの高い頭飾りを被った人物が、訪問者たちの方へと歩み寄った。
煌めく羽根を持つ緑色の蛾が、まるで動く王冠のように頭飾りの周りをひらひらと舞っていた。
骨ばった、しかし熱心な顔立ちで、尖った金髪を振り撒く人物が、
彼女のすぐ後ろに群がっていた。
「ごきげんよう、いとこ達。私はケラス族の笛吹き、ティラルです。武器を置いてください」
その人物は低く、どこか楽しげな声で言った。
リーフが躊躇っていると、かすかな突進音が聞こえた。
次の瞬間、リーフの剣、バルダの剣、ジャスミンの短剣、ヴァージニアのメイス、
ワソの刀と銃が、ティラルの足元に転がっていた。
「ちょっと、返しなさい!」
「待ってくれ!」
ヴァージニア、ワソ、バルダ、ジャスミンは突進したがリーフは腕を伸ばして四人を制止した。
リーフは四人が見ていないものを見ていたのだ。
五人が動いた瞬間、ティラルの頭の周りを舞っていた緑色の蛾は、
煌めく矢に変わり、五人の心臓を狙っていた。
全く動かずにいたティラルは微笑んだ。
「ご心配をお許しください。
ピラの笛の部品はもらったとおっしゃっていますが、
無理矢理奪った可能性の方が遥かに高いのです」
「その可能性の方が高いかもしれませんが、真実ではありません」
リーフはゆっくりと腕を下ろしながら言った。
「とはいえ、武器はそのままにしておいてください。そうすれば安心できるでしょう」
ヴァージニア、ワソ、バルダ、ジャスミンは、宙を舞う矢に目を留めながら、渋々後ずさった。
矢は縮み、再び蛾へと姿を変えた。
「ありがとうございます。友を傷つけるのは気が進まないんです。
特に、正しい行いをして、立派な贈り物を持ってきてくれた友には」
「贈り物?」
バルダは疑わしげに唸った。
「岸辺に山積みの餌、こんなにたくさん!」
張り切った顔をした少年は叫んだ。
「ああ、君のおかげでこれから何週間も獲れたてのシーウィングが食べられるぞ!
シーウィングは絶品だ! それに、ケラス海の入り口で採れるヒル以上に
シーウィングが好むものはない。もし僕達が……」
「ヒルを集めるのは危険な仕事で、滅多にやらないのですよ」
ティラルは少年の言葉を遮って説明した。
「ほんの少しの間だけでも、トンネルを照らす事ができれば」
「トンネルを照らす事はできませんよ、エムリス」
ティラルは疲れた様子で言った。
まるで何度もこの議論をした事があるかのように。
「暗闇とヒルが、オーロン族から僕達を守ってくれるんだ。
ちょっとした餌のために、敵に攻撃を挑む危険を冒すべきなの?」
「笛吹きさん、あなたの魔法はそんなに強力なのに、釣りに餌が必要ななんて驚きよ」
ジャスミンは生意気に言うと、ティラルは微笑んだ。
「魚を釣る方法はたくさんあるわ。
そして、あなたが欲しい魚が簡単な餌に食いつくなら、なおさら良いわ。ついてきてください」
ティラルは踵を返して立ち去り、エムリスをしっかりと前に導いた。
「今回の場合、俺達が魚でない事を願う」
ヴァージニア、ワソ、リーフ、ジャスミンと共に、
他のケラス族のすぐ後ろをついてきたバルダが呟いた。
「わたくし達を歓迎したのかそうでないのか」
「もうすぐ着くよ、いとこ達!」
エムリスは肩越しに彼らを見て、首を伸ばして叫んだ。
「どうして私達をいとこ達って呼ぶの?」
「わたくし達はともかく、リーフ達はあなたと血縁関係はございませんわよ」
「でも、あなたはそうです!」
ティラルはそう言い、小道が深い木立で途切れるところで立ち止まった。
「自分の過去を思い出せないのですか?」
ティラルはヴァージニア達の方を向き、頭に被った髪の束に触れた。
「金髪の少女! アリスとロスナン! まさか……?」
「もちろん。ケラスに定住した後、アリスとロスナンはたくさんの子供を設けました。
その子供達は成長してケラス族と結婚し、また子供を設けました。
そして、それは何世代にも渡って続いてきました」
「僕達のほとんどは、地上人の血が流れているんです。
僕のように金髪の印を受けていない者でさえもです」
エムリスは明らかに誇らしげに、硬い髪に指を通した。
ティラルは溜息をついた。
「それで、遠い昔、私達の祖先が竜好きのドランに挨拶したように、
私達はあなた達を遠い親戚として迎えるのです。ドランは驚きませんでした。
そもそもドランをこの洞窟に導いたのは、アリスとロスナンの物語だったのです」
「僕達も同じ物語に導かれてここに来たのです」
「そしてもちろん、アリスとロスナンはケラスに立ち寄ったのよ!
エメラルドの洞窟はあの人達が恐れて行く事を拒んだあの大地の手前にある最後の洞窟なのよ」
「でも、こんなに長い年月を経て、
まだあいつらの痕跡がここに残っているなんて、誰が想像しただろう」
バルダの言葉にティラルは肩を竦めた。
「どんなに薄く広がったとしても、血は血です」
ティラルが手を挙げると、道を塞いでいた木々が消え、
驚いた様子で罪悪感に苛まれた子供達の大群が現れた。
「悪い子魚!」
「果物屋に隠れろって言ったじゃない。
もし私達が凶暴なオーロン族で、あなたを生きたまま食べに来たらどうするの?」
ティラルは非常に厳しい口調だったが、子供達が散り散りになると、かすかな笑みを浮かべた。
今やヴァージニア達は、木立の陰に村が隠れている事に気づいた。
ティラルは何も言わず、広く整然とした通りを先導した。
村は大きく、明るく、心地よかった。
家々は緑の菌類の木で作られ、乾燥した海藻で葺かれていた。
ほとんど全ての庭の池には魚がゆったりと泳ぎ、
村の入り口から追い払われた子供達が庭の壁の後ろから顔を覗かせていた。
ついに五人は広い広場に着いた。
その中央には、深い石の揺りかごの中で火が明るく燃えていた。
火の周りには、編んだマットが敷かれていた。
「ここが私達の集合場所です」
ティラルはマットの一つに腰を下ろし、
ヴァージニア、ワソ、リーフ、バルダ、ジャスミンに合図して合図した。
「ここでアリスとロスナンが先祖に物語を語りました」
「ドランもここに座っていたんだ」
エムリスはぎこちなくティラルの隣に腰を下ろしながら言った。
「今もここで燃えている火をもたらしたのもドランなんだよ」
火の傍に集まっていた他のケラス族は皆、小声で語り合いながら、
興味深そうに訪問者達を見ていた。
しかし、エムリスほど熱心な者はいなかった。
興奮で震えるエムリスは、訪問者達の姿を隅々まで観察し、その姿をじっくりと観察した。
「あれはデルトラのベルトじゃない? ドランがその力について多くを語っていたんだ」
リーフに寄り添いながら、エムリスは息を切らして言った。
ティラルは愛情と苛立ちを込めてエムリスを一瞥した。
「こちらは私の息子、エムリスです。
エムリスは私達のほとんどよりも地上人の血を引いていると思います。
旅に憧れているし、ドランの物語を暗記しているし、あなた達が来た事を喜んでいますよ」
エムリスは顔を赤らめ、頭を下げてぎこちなく呟いた。
「あなた達は我々の親族であり、ケラス族の信仰によれば、
できる限りあなた達を助けるのが私達の義務です。
ピラの笛の持ち分は私達にとって貴重なものですが、
いざとなればなくても生きていけます。私達の魔法で事足ります」
火を囲む人々は厳粛な同意の言葉を呟いた。
リーフの心臓は興奮で高鳴り始めた。
その時、ティラルの顔色が硬くなるのが、かすかな落胆と共に見えた。
ケラス族の信仰について何を言おうと、
ティラルは宝を手放したくないのだろう、とリーフは思った。
ティラルはヴァージニア達を拒否する方法を見つけたのだ。
「笛は失われない。洞窟に返すと誓う!」
ティラルは何も言わなかったかのように続けた。
「でも、私達の信条によれば、もしあなたが私達から何かを借りて、返すと誓うなら、
誓いの証として、あなたに何かを要求するかもしれません。
私達の宝が私達の宝物であるように、あなたの心にも大切なものを」
ティラルは白く尖った歯を全部見せながら、大きく笑った。
大量のヒルが来た時は「あぁ~、ヴァージニアはこうなるな~」と思っていました。