でも、ヴァージニアは、何とか勇気を振り絞れるそうです。
リーフは身動き一つせず、じっと横たわり、
聞こえてくるドクドクという音が自分の心臓の鼓動だと徐々に気づき始めた。
彼は硬い地面にうつ伏せになっていた。
風が吹きつけていた。
熱くも冷たくもない、隙間風が、リーフが以前感じた苦い匂いを運んできていた。
リーフは陰鬱な光の中で瞬きをしながら、慎重に頭を上げた。
ジャスミンがリーフの傍に蹲り、クリーがジャスミンの肩に乗っていた。
バルダはそう遠くないところで這って立ち上がった。
エムリスはマントを纏ったまま、まだ地面に小さなボールのように丸まっていた。
ヴァージニアとワソの顔は、また青くなっていた。
リーフは身震いしながら、自分達が開けた場所にいる事に気づいた。
風に吹かれ、ぽっかりと口を開けたクレーターが点在する平原の上だった。
乾いた川床のように乾き、ひび割れた不毛の白い粘土が、見渡す限り広がっていた。
厚い灰色の雲が頭上低く沸騰し、太陽を隠していた。
大地は死に絶えていた。
漂白された白い骨のように死んでいた。
『ピラの笛の物語』の言葉が思わず頭に浮かび、リーフの目が燃えるように熱くなった。
遥か昔、山脈の向こうに、ピラと呼ばれる緑の地があった。
そよ風が魔法の息吹を吹き込んでいた。
ピラはかつて、美と太陽と花々に彩られた地だった。
ケラス族、プリューム族、そしてオーロン族の古の故郷。
今は……この荒れ地。
そして、これがデルトラの原点だったかもしれない。
今もそうかもしれない。
(もしリーフ、君が間違っていたら、もし君が間違っていたら……)
リーフは頭を振り、心の声、自らの良心の呵責に耐えかねた声を消そうとした。
しかし、それは止まらなかった。
(ジャスミンを手放すべきだった。デルトラに残るべきだった。
それが君の義務だった。君の義務……)
「リーフ! 早く隠れなきゃ」
ジャスミンはリーフの腕を引っ張っていた。
「あそこに……何かがいる。近づいてきているわ」
リーフは不毛な地平線から視線を離し、ジャスミンを見た。
ジャスミンの目は驚き、見開かれ、ほとんど黒くなっていた。
「人? 獣? オル?」
「わ、分からないわ。物よ」
ジャスミンは身震いした。
フィリはジャケットの下に隠れていた場所ですすり泣いた。
バルダはエムリスを地面から引き上げ、彼らに向かって急いでいた。
ヴァージニアとワソは後ろについてきていた。
「そこに突っ立ってるんじゃない! アクババに見られたら、終わりだ!」
バルダはリーフの腕を掴み、振り回した。
その時になって初めて、リーフは自分が混乱して考えていたように、
広大な平原の真ん中に取り残されているのではない事に気づいた。
ヴァージニア達の背後には、巨大なギザギザの柵のようにそびえ立つ山々があった。
その残酷な峰々は雲を突き破り、麓は平原の端を縁取っていた。
恐怖の山の巨大な塊が背後にそびえ立ち、西へと広がっていた。
(もちろん!)
リーフはそう考えながら、ヴァージニア達がすぐ後ろで足音を立てながら、
荒涼とした険しい丘陵地帯へと駆け出した。
(ケラス族は僕達を影の王国の境界のすぐ内側で地上へと導いてくれた。
山があるのは当然だ! 一体何を考えていたんだ?)
エムリスが目を覚まし、抗議し、降ろしてくれと要求する声が聞こえた。
「大丈夫だよね」
少なくともバルダは両手が自由に登れるだろう。
リーフは平原の端に横たわる最初の灰色の岩を迂回し、
さらに先に見える大きな岩陰を目指して、急ぎ足で登り始めた。
ヴァージニアは震えながら辺りを見渡す。
その時、突然、何かが衝撃的な力で額に叩きつけられた瞬間、目の奥で白い痛みが走った。
リーフはよろめきながら後ずさりし、腕を振り回し、バランスを保とうと必死に抵抗した。
耳鳴りの合間、くぐもった叫び声が聞こえ、そして安堵と共に、
背中にしっかりとした手が触れた。
バルダがリーフを支え、立ち上がらせてくれたのだ。
「リーフ、どうしたの?」
震えながら、リーフは膝をついた。
ヴァージニア、ワソ、バルダ、ジャスミン、エムリスはリーフの傍らにしゃがみ込み、
巨大な岩が平原から自分達を隠すように体を寄せ合っていた。
「見えなかったのか? 何かにぶつかったんだ」
痛む頭に両手を当てながら、リーフは呟いた。
「違うわ! 何もなかったのよ。ただ、理由もなく、突然、後ろに飛び退いただけ。
さっきまで走っていたのに、次の瞬間には……」
バルダは息を呑んだ。
小石を拾い上げ、目の前の何もない空に向かって投げつけた。
リーフは驚いた。
小石が空中で急に止まり、僅かに跳ね返ってから地面に落ちるのを見た。
「見えない壁よ!」
「そうみたいだな。山々を守ってないのがおかしいと思った」
どうやら、影の大王は、影の大王なりのやり方で境界を封印したようだ。
バルダが投げた小石の一つが落ちた場所の近くで何かが動くのが見えた。
小さな茶色の縞模様の、輝く目をしたトカゲが、ひょいと姿を現したのだ。
「え……」
「丘の上から来たのよ! 魔法の壁の向こうからよ。見たのよ!
封印の呪文で動きが止まるのは人間だけなの?」
リーフは気分が悪くなった。
別の説明を思いついたし、バルダの険しい顔つきから、
バルダも同じように考えていた事が分かった。
一方、ヴァージニアはトカゲに釘付けになっていた。
トカゲの小さな二股の舌が、数秒間、チラチラと見え隠れした。
それから突然、向きを変えて坂を駆け上がった。
見えない壁に辿り着くと、ぴたりと止まり、後ろに倒れた。
「そうだ、それが俺が恐れていた事だ。
呪文は人や生き物が入ってくるのを防げない。外に出るのを阻止するだけだ」
「……そういう事だったんだね」
「でも、ヴァージニアはどうして……」
「分かりませんわ、でも飛ばされた先に影の憲兵団がいて、奴らから逃げたのは確かですわ」
ヴァージニア、ワソ、リーフ、バルダ、ジャスミンは顔を見合わせた。
彼らの間には言葉が重くのしかかっていた。
するとリーフが立ち上がろうともがき始めた。
「じっとしていなさい」
ジャスミンは息を詰まらせ、リーフの腕を掴んで押さえつけた。
「休まなくちゃ。頭を打って……」
「駄目だ!」
リーフは歯を食いしばり、抑えようとするジャスミンの手を振り払った。
ジャスミンの握りが強くなり、リーフは呻き声を上げて後ろに倒れ、頭がくらくらした。
「何かが来るって言ったでしょ!」
「僕達は……」
「リーフ、今度こそ言われた通りにしろ!」
バルダは厳しい表情で言い、剣を抜いた。
「そうだよ! ちゃんと隠れなきゃダメ!」
「今のところ、この岩の陰ならどこよりも安全だ。
ジャスミンがどんな音を聞いているとしても、俺にはまだ何も見えない」
小さなトカゲは今、見えない壁を必死に掻きむしり、
少し走っては向きを変えて反対方向に走り出した。
時折、体を起こして前脚で虚空を突き、尻尾を激しく振り回した。
「でも……でも、どうして影の大王は国境を守らないんだ?」
エムリスは甲高く震える声で尋ねた。
「君の民はたくさんいるじゃないか! 山を越えて領土に侵入してくる事を怖がらないの?」
「そう願っているんだろうな。結局、道は開けているんだ」
「どうして?」
エムリスは声を張り上げて尋ねた。
トカゲは力尽きて後ろに倒れた。
その瞬間、すぐ後ろの土の割れ目から、
オレンジ色のとげとげした甲虫のような生き物が飛び出した。
瞬く間に、オレンジ色の生き物はトカゲを捕らえ、頭を噛みちぎり、
まだ痙攣している死骸を土の中に引きずり込んだ。
ヴァージニアはそれを見て、不快な表情になった。
「それで質問の答えになったか?」
バルダは冷ややかに尋ねた。
エムリスは口を開けてバルダを見つめた。
リーフは岩に顔を向け、胃がむかむかした。
そして、リーフはそれを見た。
岩の硬い表面に、苦労して刻んだ、レジスタンスの跡があった。
リーフは自分の目が信じられず、じっと見つめた。
「レジスタンスの印だ!」
リーフは息を吐き、指でその跡をなぞった。
心臓が激しく鼓動していた。
ここにはもう一人のデルトラの民が隠れていた。
捕らわれの身から何とか逃げ出し、山へ向かったものの、
自由への道は閉ざされていたデルトラの民。
最後の力を振り絞って、涙を流し運命を呪うのではなく、
岩に反抗のメッセージを刻み込んだデルトラの民。
この恐ろしい場所に来て以来、リーフの心を曇らせていた絶望的な混乱が、
突然晴れたように思えた。
リーフは再び考える事ができるようになった。
バルダは今、看板に触れていた。
「新しいものではないが、それほど古いわけでもない。せいぜい1、2年だろう」
リーフは、岩に刻まれた別のレジスタンスの印を思い出していた。
それは、ドレッドマウンテンの洞窟の壁に血で書かれたメッセージの最後にあった。
そのメッセージはジョーカーが書いたものだった。
ジョーカーは、影の王国から脱出した捕虜で、そのジョーカーは……。
クリーが低く警告するように鳴き声を上げた。
「光が変わりつつあるわ」
ジャスミンは短剣に手を伸ばしながら囁いた。
ヴァージニア、ワソ、リーフ、バルダは急いで空を見上げた。
低く渦巻く雲はかすかに陰鬱な緋色に染まり、平原の白さは薄れつつあった。
「トカゲみたいな小さなものが国境の警報を鳴らすはずがない。
こんな事はしょっちゅう起こるものだ」
「沈む夕日だ。夜が明ける」
リーフは西の雲がより深く輝く方角を見ながら言った。
彼らは一瞬沈黙した。
洞窟に長くいたため、地上の昼は太陽の運行が支配している事をほとんど忘れていた。
「ドランが夕焼けは素晴らしいと言っていたよ」
エムリスはがっかりした様子で雲を見つめながら言った。
「ドランが言うには、空に燃え盛る赤とオレンジ色の炎のようだって」
「どうやらここは違うようだな」
バルダが唸り声を上げた。
ヴァージニアとワソは頷く。
ジャスミンは空ではなく、平原を見つめていた。
「見て」
ジャスミンは息を切らしながら指差した。
平原が活気づいていた。
土の割れ目から、脚が這いずり、長い触角が揺れ、
とげとげしたオレンジ色の甲虫が何千匹も現れていた。
「虫! でも、ウネウネしてないだけまだマシですわ」
リーフは下を見下ろした。
足元の地面の亀裂は激しく動いていたが、今のところ何も地表に出てきていない。
「これは嫌だ。先に進まねば。あの虫は小さいが、数が多く、肉食だ。もし腹が減ったら――」
バルダは言葉を最後まで言い残したが、皆を慌てて立ち上がらせるには十分な言葉だった。
「どっち?」
「西だ」
ジャスミンは必死に左右を見回した。
リーフは即座に答え、沈みゆく太陽の暗赤色の輝きに顔を向けた。
「どうして西なの? もし間に合うように影の大王の本拠地を見つけるためには――」
「何だって?」
バルダは信じられないという顔でジャスミンを見つめ、言葉を遮った。
「これは一体何の冗談だ? 影の大王の本拠地だって?
ああ、そこは絶対に避けなければならない場所だ!」
「でも……でも、捕まった人達は!」
ジャスミンはどもりながら、顔を赤らめて言った。
彼女は自分の考えを裏切ってしまった。
ヴァージニア達が自分の計画を何も知らない事を忘れていた。
フェイスが影の大王の本拠地かその近くにいるのは間違いない。
あの少女は密かに「クリスタル」と呼んでいるものを使って助けを求めていた。
そんな魔法の物体が、影の大王の本拠地以外にどこにあるというのだろう。
ジャスミンは何とかしてヴァージニア達を説得し、それを探しに行かせなければならなかった。
(フェイスの事を話すべきかしら?)
ジャスミンはすぐに、危険を冒す事はできないと悟った。
この風吹き荒れる平原、一陣の風が危険を匂わせる場所では。
秘密を長く守り続けてきたのだから、そんな危険は冒せない。
ここは議論の余地も、信頼を失う場所も、
尋問されればすぐに怒りの言葉を吐き出すであろう場所でもない。
駄目だ、とジャスミンは思った。
ここまでは孤独に手を打ってきた。
時が来るまで、そうし続けなければならない。
「奴隷達はこの呪われた地中に散らばっているに違いない!」
「どうしてそう思うんですの?」
「待て!」
リーフは突然、左右に素早く視線を走らせた。
「エムリスはどこだ?」
驚いて、ヴァージニア、ワソ、バルダ、ジャスミンは振り返った。
エムリスはもう後ろにおらず、姿を消していた。
「でも……でも、ここにいたんだ! 岩の傍に立っていたのに!」
バルダは言葉を詰まらせた。
「もうここにはいないんだ。僕達が言い争っている間に、どこかへ行ってしまったに違いない」
辺りは刻一刻と暗くなっていった。
四人はすぐに別れ、低い声で呼びかけながら周囲を捜索した。
しかし、エムリスはどこにも見当たらなかった。
四人は再び大きな岩のところに集まった。
皆、恐怖と怒りに満ちていた。
「信じられない!」
バルダは怒りに歯を食いしばった。
「あの馬鹿な子供は一体何を考えているんだ?」
「じゃあ、エムリスとはもうお別れなの?」
ワソは焦燥感に駆られて言い放った。
「ええ。無駄にする時間はないわ。それに、あの虫達は何百万匹も群がっているのよ!」
「な、何百万匹!?」
ワソは驚き、リーフは目を細めて平原を見渡した。
夕日に黒ずんだ粘土は、今や甲虫達と同じ色になっていた。
虫達は、数が多すぎなければ完璧に擬態できたはずだった。
地面は虫達で沸き立ち、潮に押し流された水のように波打っていた。
波紋は、一番近いクレーターの傍の一点、特に大きく見えた。
まるでそこに横たわる大きな岩に波が打ち寄せているようだった。
心はまだ半分、秘密の海の中にいる、とリーフは思った。
そして突然、リーフは身を乗り出し、薄暗い中をじっと見つめた。
(どうして、あの虫達は、あの場所にこんなに密集しているのだろう? まるで……)
恐ろしい理解が雷のようにリーフを襲った。
リーフは叫び、飛び出した。
ヴァージニア、ワソ、バルダ、ジャスミンが追いかけてくる音が聞こえた。
リーフは平原に飛び出し、飛び上がる足音ごとに何十匹もの甲虫を踏み潰していた。
しかし、止まる暇も、説明する暇もなかった。
何故胃がむかむかし、心臓がドキドキするのか、ヴァージニア達に説明する暇もなかった。
次回、リーフ達はフェイスを探しに行きますが……。