ヴァージニアも頑張りたいそうです。
あっという間に、リーフはクレーターの傍でうねる甲虫の群れに辿り着き、
その真ん中に両腕を突っ込んだ。
そして、息を切らし、身震いしながらぐったりと血を流すエムリスの体を地面から引き上げた。
恐怖に叫びながら、ワソ、バルダ、ジャスミンはエムリスの引き裂かれた服にしがみついている虫を叩き落とし、その下の生々しく血まみれの肉から引き剥がし始めた。
足元では、何千匹もの甲虫がパニックに陥り、
粘土の割れ目に押し込まれながら、互いに場所を奪い合っていた。
「あ……ヴァー……ジニア……」
エムリスは弱々しく呻き声を上げ、何とか言葉を発しようとしていた。
「喋っちゃ駄目ですわ! わたくしが治しましてよ!
慈悲深き神よ、どうかこの者の傷を癒してください!」
ヴァージニアは奇跡の力を使い、重傷を負ったエムリスを癒した。
エムリスに生き残ってほしいと、ヴァージニアは心から思って癒しているのだ。
バルダが剣を振り上げると、ワソ、リーフ、ジャスミンは振り返った。
クレーターから何かが浮かび上がってきた。
ぼろぼろの姿でよろめきながら、歯をむき出しにし、目を光らせている。
爪の生えた手がそれらに伸びた。
低い唸り声と鋭い遠吠えが、困惑した怒りの恐ろしい合唱となって響き渡った。
「ジニー! エムリスは安全な場所で治そう!」
「え、ええ!」
エムリスを半ば抱き、半ば引きずりながら、リーフは踵を返し、よろめきながら丘へと戻った。
目の前には甲虫が散らばっていた。
ワソ、バルダ、ジャスミン、そしてヴァージニアもリーフの後を追った。
武器を前に構え、クレーターからますます多く這い出てくる恐ろしい怪物を防いだ。
怪物は人間のようだったが、酷く奇妙だった。
中には毛に覆われ、大きく口を開けた口から牙を突き出している者もいた。
縮んだ手足、長い尾、鱗状の皮膚を持つものもいれば、輝く甲羅に覆われたこぶのある背中、
虫のような捻れた脚、そして腕の代わりに棘のあるヒレを持つものもいた。
咆哮と遠吠えを上げながら、怪物は散開し始め、
獲物に迫る獣の群れのように、逃げる仲間を取り囲んだ。
ヴァージニア、ワソ、リーフ、バルダ、ジャスミンは
レジスタンスの印が刻まれた岩に辿り着き、恐怖に言葉を失い、戦いに身を投じた。
四方八方から怪物が迫り来る。
逃げ場はなかった。
「もう、無理ですの……!?」
その時、突然、獰猛な群れに戦慄が走り、動きが止まった。
遠く雷鳴のような長く低い轟音が響き、同時に薄暗い光が明るくなった。
リーフは本能的に顔を上げ、背筋に冷たい震えが走った。
彼が期待していた昇る月ではなく、空には別の形が浮かび上がっていた。
巨大で恐ろしいそれは、灰色の雲を背景に、冷たい白い炎のように輝いていた。
「影の大王……!」
呻き声とすすり泣きをあげながら、怪物達は目を覆いながら地面に倒れ込んでいた。
「さあ! 逃げろ!」
バルダは癒したばかりのエムリスを肩に担ぎ上げ、息を切らして言った。
四人は岩陰を抜け出し、地面に蹲る怪物の輪を突き破り西へと向かって丘陵地帯を走り始めた。
ほんの数瞬後、背後から足音が響き、吠え声、唸り声、遠吠えの恐ろしい合唱が聞こえてきた。
怪物達は影の大王の印が浮かび上がった事で恐怖から立ち直り、猛烈に追いかけていた。
ヴァージニア達は振り返る勇気もなく、岩をよろめきながら走り続け、
荒れた地面をよろめきながら、平原を吹き抜ける容赦ない風に翻弄された。
そして、そう遠くない前方に、行く手を阻む何かが見えた。
長く伸びた岩の露頭が平原に突き出ており、空からの恐ろしい光に輝いていた。
「頂上を越えろ!」
バルダは息を切らして言った。
「迂回するなんて、危険を冒すわけにはいかない。奴らに先を越されてはならない!」
ヴァージニア達は障壁に辿り着くと、上へと飛び上がり、
頂上までよじ登ると反対側へ滑り降りた。
ワソは軽く飛び上がり、ヴァージニアも後を追っていく。
リーフは硬い地面に転げ落ち、肩を痛々しく揺さぶられた。
ジャスミンが隣に着地すると、リーフは飛び上がり、
バルダに手を伸ばしてエムリスの体重を支えようとした。
その時、ジャスミンが自分の名前を叫ぶ声が聞こえた。
リーフは振り返り、エムリスを抱きしめ、血も凍るような光景を目にした。
ヴァージニア達のすぐ前方に、今登った岩よりも高い別の露頭があった。
そしてその影から何かが現れようとしていた。
巨大なドーム型の何かが、岩と同じ鈍い光沢を放っていた。
その巨大な体は動くたびに恐ろしく波立ち、膨れ上がった。
まるで分厚く滑らかな皮膚が、震えるゼリー状の肉を覆っているかのようだった。
光の中へと這い進むにつれ、リーフとヴァージニアは息を詰まらせた。
フィリが恐怖に叫び、クリーが悲鳴を上げ、バルダが呟くような呪いの声が聞こえた。
醜悪なネックレスの膨らんだビーズのように、怪物の体を取り囲むように、
数十もの頭が並んでいた。
それぞれの頭は、ガラスのようにぎょろっとした目と、
唇のない口から長く細い舌が垂れ下がっていた。
五人は岩に体を押し付けた。
遠吠えと足音は次第に大きくなっていた。
追っ手が迫っていた。
引き返して来た道を登り返せば、群れの手に落ちてしまうだろう。
しかし、怪物はヴァージニア達に向かって進んでいた。
何百本もの小さな脚は、ぼろぼろのスカートのように体から垂れ下がった皮膚の縁に
ほとんど隠れており、その脚は荒れた地面を楽々と滑るように進んでいた。
無数の目は侵入者を捉えようと旋回していた。
舌は不吉に伸び、曲がり、震えていた。
「手分けして、迂回しよう」
バルダはヴァージニア、ワソ、リーフ、ジャスミンに呟いた。
「リーフ、ジャスミン、ワソは右へ。俺はヴァージニアとエムリスと一緒に左へ行く」
「バルダ……分かりましたわ」
しかし、三人が一歩踏み出した瞬間、シューという音が響き、
舌が両方向から蛇のように突き出され、ヴァージニア、ワソ、バルダ、ジャスミンを掠めた。
四人は岩に縮こまった。
明らかに、動けない状態だった。
怪物の体は波立ち、虚ろな目を輝かせながら滑るように近づいてきた。
ヴァージニア、ワソ、バルダ、ジャスミンと肩を並べ、リーフは怪物と対峙した。
怪物は彼らの目の前でうねり、舌をひらひらとさせ、
体を平らにしたり広げたりしながら、岩に面した側で僅かに隆起した。
(きっと僕達を食べようとしているんだ)
足が弱くなった。
心臓が激しく鼓動した。
剣を持つ手は汗で滑りやすく、汗は眉間にも流れ落ち、
そっと手を上げて拭おうとした時、シャツの下に隠していたピラの笛に触れた。
ティラルとの約束が脳裏によぎった。
(笛は失くさない。必ず洞窟に返す、誓う!)
リーフは乾いた唇を舐めた。
あの誓いは、まるで無意味だったかのようだった。
プリューム族、オーロン族、マリリンとの約束と同じように、無意味だったのだ。
(マリリン、待つだけでいい)
風が岩の周りで呻き声を上げた。
それはまるで、リーフ自身の絶望が響く幽霊のような声のようだった。
「笛だ! 使え!」
リーフは躊躇った。
笛は確かに怪物を止めるかもしれない。
逃げるチャンスを与えてくれるかもしれない。
しかし、吹いた瞬間に、影の大王は笛と自分達の存在に気付くだろう。
奇襲の優位性を失うだろう。
容赦なく追い詰められ、囚人を見つける事はおろか、解放する事さえできないだろう。
「わたくしが奇跡を使える事をお忘れ? 光の壁よ、わたくし達を守りなさい!」
その時、ヴァージニアはリーフの前に出る。
ヴァージニアは奇跡の呪文を使い、リーフ達の目の前に光を張った。
次の瞬間、野蛮な人影が岩の端から盲目的に、無頓着に身を投げ出した。
勝利の叫びは恐怖の叫びへと変わり、攻撃者達は手遅れに自分達の過ちに気づいた。
彼らは身をよじり、吠えながら、うねる獣の体にドスンと落ち、
爪と牙で皮膚に穴を開け、粘土の上に転がり落ちていった。
「すっかり忘れてたよ、ジニー」
「どういたしましてですわ」
エムリスを引きずりながら、ヴァージニア達は岩肌に沿って平原へとゆっくりと進み始めた。
ヴァージニア達はゆっくりと慎重に、獣から目を離さずに進んだ。
しかし、獣は最早彼らには興味を示さなかった。
腫れ上がり、回転し、皮膚の傷口から透明な液体が泡立ちながら、
新たな侵入者、自分を傷つけようとした攻撃者達に襲いかかっていた。
シューという音を立てながら、十数本の舌が飛び出し、地面の上で悶える人影に巻き付いた。
他の舌は上方へと伸び、岩肌の端でまだよろめいている怪物達に手を伸ばした。
舌は最も近いものを足から引きずり落とし、叫び声を上げながら破滅へと引きずり込んだ。
ヴァージニア達は岩肌の端にほぼ到達していた。
今こそ決断の時だった。
平原へ飛び出し、そこに潜む新たな恐怖に挑むべきか。
それとも、獣がまだ回転し、シューシューと音を立てている危険な空間を横切って、
二つ目の岩場を目指すべきか。
リーフは振り返り、胃がひっくり返るような思いがした。
獣の体――引き裂かれ、波打つ体――がバラバラに崩れ落ちようとしていた。
側面の頭が、うねる塊から引き剥がされ、大きな肉片を巻き込んでいた。
リーフは目を丸くして見つめ、バルダが息を詰まらせるような叫び声を聞き、
ジャスミンは理解に息を呑んだ。
ヴァージニアとワソは言葉を失っていた。
そして突然、リーフもまた真実を悟った。
怪物の体を取り囲む余分な頭は、怪物のものではない。
それは子の頭だった。
巨大な体の周りに袋を張り、自らの小さな姿で運んでいたのだ。
子達は今、傷ついた親から這い去り、大きな空洞を残していった。
背丈は人間ほど、体幅は人間の4倍もあった。
それぞれが、巻き舌で捕らえた獲物をひきずり込み、貪り食おうと躍起になっていた。
怪物に飲み込まれる捕虜たちの遠吠えと叫び声が耳をつんざく中、
ヴァージニア達は裂け目を駆け抜けた。
ヴァージニア達は二つ目の岩場に辿り着き、
それを迂回して、平原の端を示す散らばった岩に向かって突進した。
息を切らし、震えながら、ヴァージニア達は見える限りの一番大きな岩の陰に身を隠した。
エムリスは苦痛に呻いていた。
バルダはエムリスを床に下ろし、リーフ達はケラス族が与えた軟膏と包帯を使って、
できる限りの手当てと洗浄を施した。
長い間、誰も今しがた逃れてきた事について語ろうとしなかった。
あまりにも生々しい記憶だったからだ。
しかし、ついにエムリスが静かに横たわると、バルダは声を取り戻した。
「すまない。もう終わりだと思ったんだ。何も考えられなかった。
絶望する事しかできなかった。今でも心が痛む。何が起こったのか、分からない」
「エムリス……また、守れないんですの……!?」
ヴァージニアは顔を両手で覆う。
リーフはジャスミンを一瞥した。
ジャスミンの顔は青白く、影に覆われていた。
フィリはジャケットの下に隠れ、鼻だけが見える。
クリーは羽を逆立て、ジャスミンの肩に寄りかかっていた。
「ジャスミン、君も感じているだろう」
「ずっと戦おうとしてきたけど、無理なの。まるで……」
ジャスミンは苦しそうに唾を飲み込んだ。
「息をするたびに恐怖を吸い込んでいるみたい。
まるでこの場所の空気そのものが毒されているみたい」
「……私達も、だよ」
リーフはハッとして、影の王国に初めて到着した時、
風に漂っていた奇妙で苦い匂いを思い出した。
すっかり慣れてしまい、長い間、考えていなかった。
しかし今、ジャスミンが真実を突き止めた事に気づいた。
風は、影の大王が自らの領域に足を踏み入れた者の意志を奪うための手段だった。
その苦い匂いは、絶望の悪臭だった。
「君の言う通りだ! でも、戦える」
リーフは赤い布袋を取り出した。
笛を慎重にケースから取り出し、バルダとジャスミンに差し出した。
二人がそれを握りしめると、二人の表情が変わるのが分かった。
奇妙で絶望的な表情は消え、目は輝き、口元は引き締まった。
次にヴァージニアとワソに渡すと、二人の顔色も良くなった。
「奇跡だ!」
「エムリスにも効くかどうか試してみて!」
バルダとジャスミンはパイプをエムリスの青白い指の間に置いた。
そしてほんの数瞬後、エムリスの目が瞬きした。
エムリスは困惑した様子でバルダとジャスミンを見上げ、はっと身を起こした。
笛は地面に滑り落ち始めた。
リーフは落ちる前にそれを掴み、赤い布袋に戻した。
「ここはどこ? 何が起こったの?
あの怪物達が……僕を捕まえて、連れて行って、そして……」
記憶が次々と蘇り、恐怖で目を見開いた。
「じっとしてろ、エムリス」
リーフは赤い袋を再び服の中に押し込みながら、急いで言った。
「急がなきゃ」
「そうだな」
バルダは呟き、肩越しに岩の露頭をちらりと見た。
まだ近すぎて安心できなかった。
岩の向こうは静まり返っていた。
リーフは身震いを抑えた。
そこで何が起こっているのか、考えたくなかった。
ジャスミンも振り返っていたが、理由は違っていた。
「東への道は閉ざされてしまった。もう一度あの獣の縄張りを越える危険を冒さないとね」
「リーフ、どうしてそんなに西へ行こうとしたんですの?」
ヴァージニアの質問に、リーフは身を乗り出し、説明しようとした。
「ジョーカーの事を思い出したからさ。ジョーカーは影の王国の闘技場から逃げ出したんだ。
そこから丘を抜けてデルトラへ直行し、影の憲兵団から逃げて恐怖の山を登った。それで……」
「という事は、闘技場は国境のすぐ近く、
しかも恐怖の山の西斜面のすぐ近くにあるということか!」
「ええ! どうして思いつかなかったの? 西へ進み続ければ、すぐに見つかるはずよ」
「それに、影の王国の闘技場はきっと、囚人の多くがいる場所だ」
「そうですの……?」
リーフはジャスミンとヴァージニアの方を向いて言った。
「鳥が言ったように、囚人達が処刑されるなら……」
リーフは言葉を止め、ジャスミンは不安そうに頷いた。
囚人達が危険にさらされていると告げたのは鳥ではなく、フェイスだった。
誰が言ったとしても、真実は真実だ、とジャスミンは自分に言い聞かせた。
バルダは立ち上がった。
「じゃあ、西だ。他に選択肢はないが。俺は、あの怪物の道を二度と横切りたくない」
「わたくしもですわ」
「私も」
バルダはジャスミンを睨みつけ、反論する勇気を見せた。
ウネウネしていないだけまだマシだが、もう怪物は懲り懲りだという表情だった。
しかし、ジャスミンは急いで考えていた。
リーフの言う通りだった。
影の王国の闘技場は国境近くにあり、恐怖の山にも近いはずだ。
そして、彼女はもう一つ思い出した。
火ぶくれ弾は、恐怖の山から影の王国へと続く峠を通って運ばれたのだ。
誰も致死性の毒の入ったガラス瓶を必要以上に遠くまで運ぶ事はないだろう。
だから、火ぶくれ弾を製造した工場は、影の王国側の峠の近くだった事はほぼ間違いない。
影の王国の闘技場と工場は、どちらも非常に重要な場所だ。
どちらも恐怖の山に近い。
少なくとも、影の大王の主要基地の一つが同じ場所にあるのは理にかなっている。
そして、フェイスも、恐らくすぐ近くにあるだろう。
ジャスミンは、バルダにジャスミンの目に希望の光が宿っているのを
悟られないように、頭を下げた。
「分かったわ。あなたが正しいと思うなら、西に進みましょう」
バルダは疑わしげに眉をひそめた。
ジャスミンは普段はそれほど協調性がない。
しかし、バルダはジャスミンに質問する時間を無駄にしなかった。
バルダはもうエムリスを助け起こし、早く立ち去りたくてたまらない様子だった。
リーフはヴァージニア達の傍らに立ち、平原を覗き込んだ。
辺りは光に満ち溢れていたが、厚い雲の向こうには月も星も見えなかった。
影の大王の印が冷たく白い炎を燃やし、空を支配していた。
「慎重に進まなきゃ。身を隠す場所はほとんどない。もし見つかれば……」
リーフは西に点在する不規則な岩の列に目を向けた。
「もう見つかっているぞ、この馬鹿!」
「リーフ!!」
足元から荒々しい声がかすれた。
リーフが動く事も話すこともできないうちに、リーフが彼の足首を掴み、引きずり下ろした。
次回は、影の王国で「誰か」と出会います。