その理由が、ついに明らかになります。
洞窟の住人達は散り散りになり、塚に穴を掘り、ついに姿を消した。
長年の隠れ生活で、彼らは危険に晒されたらすぐに地下に逃げる事を学んでいた。
しかし、ヴァージニア、ワソ、バルダ、エムリス、
リーフ、ジャスミンはそう素早く行動できなかった。
そして今、すぐ後ろでブラールが滑って這い回る音が聞こえてきた。
ジャスミンを先頭に、ヴァージニア達は薄暗い中をよろめきながら進んだ。
「服が汚れますわ!」
「ヴァージニア、文句は言わないの」
汚物と滲み出る排泄物に膝まで浸かりながら、
立ち止まって隠れる前にできるだけ獣との距離を置こうとした。
しかし、ブラールの音は次第に大きくなっていた。
遅れるどころか、ブラールは近づいてきていた。
そして突然、丘の斜面を進んでいくと、窓のない陰鬱な工場が目の前に現れた。
「まさか、ジャスミンが道を間違えたんですの?」
ヴァージニアはそう呟いた。
ジャスミンはいつも暗闇の中でも道を見つける事ができ、一瞬たりとも躊躇わなかった。
まるで工場の近くまで来てほしいと思っているようだ。
「……どうした?」
その時、エムリスも工場を見つけた。
キーキーと音を立て、足を滑らせてバルダに激突した。
バルダはよろめき、足が丘の斜面に深く食い込んだ。
緩んだ地面が滑り始め、そして丘全体が崩れ落ちた。
ヴァージニア達は転がるゴミの山になす術もなく流され、
衝撃と息切れに襲われながら、道路のすぐ脇の低い土手に倒れ込んだ。
「いたたた……」
「私達、もう死ぬのかな……?」
半分覆われ、悪臭に圧倒されそうになり、
ヴァージニア達は身動きも取れず、恐怖に怯えながら動けなかった。
リーフは最早ブラールの音を聞けなかった。
彼は慎重に顔についた汚れを拭い、横目で見上げ、見上げた。
そして、それを見た。
それは崩れ落ちた塚のすぐ先にある丘の頂上まで登っていた。
薄暗い空を背景に、恐ろしい影のように微動だにせず立ち、
下を覗き込み、動きの兆候を探していた。
「ダニの臭いがする!」
リーフの心臓は止まったようだった。
呂律が回らない声は耳のすぐ傍から聞こえてきた。
リーフは無理やり頭を回した。
恐ろしい顔がリーフの顔のすぐ傍に横たわっていた。
白目の顔は溶けかけているように見え、顔立ちはぼやけて歪んでいた。
リーフが恐怖に後ずさりすると、歪んだ口元が醜く笑みを浮かべ、再び言葉を紡ぎ出した。
「デルトラのダニだ! 聞こえるか、1号?」
リーフはジャスミンの鋭い息遣いと、
エムリスの甲高い、パニックに陥ったようなすすり泣きを聞いた。
恐らくバルダが掻き消したのだろう。
ヴァージニアはそれがウネウネしていなかったので、黙っていた。
「じっとしてろ! 俺達を傷つけるわけにはいかない。見えないのか?」
「ダニだ、そうだ、2号」
すぐ近くで、別の声がかすれた。
「パーンズが引き取ってくれる!」
今度はリーフの肩甲骨の下から声がした。
「パーンズがダニを駆除して、影の大王様を喜ばせる。
そうすれば、これから何年も大丈夫だと分かるだろう」
リーフの胸の上で何かが動いた。
それが手だと気づき、胃がむかむかした。
汚れた灰色の制服の袖から、膨らんだ指が溢れ出ている、手探りの手だった。
その時、突然、リーフの足元と周囲が動き、まるで目が覚めたかのように、
リーフは初めて自分の周囲、リーフの下に重なり合うものを見た。
その山は、灰色の制服を着た死体の山で、重なり合っていた。
たるんだ、不格好な頭が上方に突き上げられた。
裂けた靴からこぼれた足が、力なく痙攣した。
大の字になった、たるんだ手足が痙攣した。
溶けゆく手がバタバタと動き、不明瞭な声が、
ぞっとするような、ぶつぶつとした合唱となって響いた。
「ダニを殺せ! 奴らを捕まえて、影の大王様を喜ばせろ!
影の大王様に、我々が……ではない事を示せ……」
ブラールの頭が、音と動きの方へ歪んだ。
燃えるような目が光ったように見えた。
口は、白い歯がちりばめられた、赤くぽっかりと開いた傷のように裂けていた。
ブラールが飛びかかると、ヴァージニア、ワソ、リーフ、バルダ、ジャスミン、
エムリスは飛び上がり、力なく掴もうとする手から逃れた。
クリーが急降下し、ジャスミンの足首に盲目的に手を伸ばしている衛兵を、
力強い嘴で突き刺した。
「黒い鳥だ! 見つけたぞ――黒い鳥と少女だ!」
「し、しまった!」
影の憲兵団は嗄れた声で叫んだ。
その叫び声は隣人達にも伝わり、
塚を越えて囁かれ、何百もの乾いた喉から恐ろしい声が聞こえた。
息が荒くなり、恐怖と戦慄に苛まれながら、
ヴァージニア達はよろめきながら道へと降り立ち、走り始めた。
肩越しに振り返ると、リーフはブラールが塚に辿り着いたのを見た。
塚はまだ、瀕死の影の憲兵団達の足音でうねっていた。
ブラールは頂上に立ち、尾を振り回し、爪を伸ばしていた。
リーフは、あの獣がこの瞬間を心待ちにしている事を知っていた。
追跡、仕留め、そして確実な勝利を心待ちにしていた。
数秒後には、その時が来る。
「リーフ!」
ジャスミンは悲鳴を上げた。
リーフは前を見た。
ジャスミンは工場の壁にある金属製の扉の前に立っていた。
彼女は扉を開けたままにしていた。
バルダとエムリスは既に中へ急いで入っていた。
「えいっ!」
咆哮と共にブラールが飛び出すと、ワソはブラールに突進し、突き飛ばした。
リーフは扉に向かって勢いよく進んだ。
ヴァージニアは大急ぎで走り出し、ワソもブラールが怯んだ隙に急いで走り出した。
リーフは扉に辿り着き、ジャスミンを押し込み、ジャスミンの後を追って扉を勢いよく閉めた。
ブラールが金属に体当たりし、シューシューと咆哮を上げている間、
ヴァージニア達は扉に背を向け、息を切らして立っていた。
ヴァージニア達は四方八方に扉が閉められた四角い部屋にいた。
彼らの右側の扉の一つには、大きな黒い印が描かれていた。
ジャスミンはドアに駆け寄り、耳をドアに押し当てて耳を澄ませた。
リーフは辺りを見回した。
隠れる場所などどこにもなかった。
部屋は完全に空っぽだった。
壁は硬く、滑らかで、白く輝いていた。
天井は、光源などないような冷たい光で輝いていた。
「なんだか、ファローの部屋みたいだな……」
リーフがそう呟いた途端、リーフは自分を呪い、意識を遮断しようとした。
手遅れだった。
もう既に、あの白く輝く部屋の記憶が脳裏をよぎり、脱力感と恐怖が襲ってきた。
額に冷や汗が噴き出すのを感じた。
リーフは記憶と戦ったが、無駄だった。
脳内は映像と音で渦巻いていた。
たった一人で、秘密裏に、デルトラのベルトの守護を頼りに、
リーフはファローの部屋に閉じ込められた危険で邪悪なものを破壊しようと、全力を尽くした。
それは絶望的で、苦痛に満ちた戦いだった。
リーフはそうしなければならないと分かっていた通り、一人で戦い、負けた。
疲れ果て、弱り果て、吐き気を催し、結局、部屋をレンガで塞ぎ、
廊下への立ち入りを禁じる警備員を配置するしかなかった。
それから、その事を心から消し去り、存在を忘れようとした。
しかし、忘れる事はできなかった。
城の奥深くに隠された闇の核心に関する知識は、リーフを苦しめ続けた。
リーフはその事を決して口にしなかった。
あの密室でリーフが経験した事を知るのはただ一人、マリリンだけだった。
二人の間には秘密などあってはならないからだ。
リーフの脳裏に、最後に見た少女の姿が浮かんだ。
震えながら、しっかりとマントにくるまり、
恐怖に満ちた顔をリーフに向け、別れを告げるマリリンの姿。
リーフはその姿にしがみついた。
命綱のようにしがみつき、リーフを飲み込もうとする恐怖と記憶の渦から、
自分を引き上げようとした。
「ちょっと、リーフ! 隠れなきゃダメでしょ!」
ワソが腕を引っ張っている事に気づいた。
大きな音が鳴り響き、ブラールが再びドアにぶつかり、金属の扉が内側に膨らんだ。
「リーフ! 影の憲兵団が来るわ!」
ジャスミンは息を切らし、フィリが肩の上で必死にキーキーと鳴いた。
彼女はリーフを黒い印のついた扉へと引きずった。
扉は開いており、ヴァージニア、ワソ、バルダ、
エムリスは既にその奥の部屋へと忍び込んでいた。
「誰もいないわ。それに、あの標識は影の憲兵団立ち入り禁止って意味だと思う。
そうすれば時間を稼げるかもしれないわ。急ぎなさい!」
今、リーフも建物の奥深くから、ドスンと響く足音と叫び声が聞こえてきた。
ジャスミンをすぐ後ろに従え、リーフは開いた扉を勢いよく通り抜けた。
「ふぅ、何とか間に合いましたわ」
ジャスミンがドアを押して閉めると、リーフはヴァージニア、ワソ、バルダ、
エムリスと共に、入った広大なホールを驚きのあまり見つめていた。
ホールは先程出てきた部屋と同じくらい白く、明るく照らされていたが、遥かに広大だった。
低い唸り音と、お粥を炊く音のような、ゆっくりとした、
重厚な、泡立ち、弾けるような音が響いていた。
空気はかすかに蒸気を帯び、とても暖かく、
リーフに少しだけ熱い鉄の匂いを思い出させる奇妙な匂いが漂っていた。
部屋には短い脚の付いた長い金属製の容器がぎっしりと並んでいた。
容器は整然と並べられ、前後に並び、部屋のほぼ端まで伸びていた。
ドアからは、リーフは中身が見えなかった。
リーフは一番近い容器に向かって一歩踏み出したが、そこで凍りついた。
ドアの向こう側で、重いブーツが部屋に踏み込まれ、荒々しい声が叫んでいた。
「おい、ドアが曲がってるぞ。改造人間に違いない。見ろよ、3号」
金属製のドアの掛け金が外れる音がした。
そして叫び声と轟音が響き、ドアが再びバタンと閉まった。
「ブラールだ!」
怪物が再びドアを襲撃する、震えるような音と衝撃音の中、複数の声が叫んだ。
驚くべき事に、影の憲兵団はまだヴァージニア達の匂いを嗅ぎつけておらず、
ブラールが侵入者を追っている事にも気づいていなかった。
リーフはジャスミンが腕に触れるのを感じた。
「しー」
ジャスミンは指を唇に当て、手招きした。
そしてゆっくりと、とても静かに、部屋の奥へと進み始めた。
「逃げないぞ! パーンズを呼べ!」
「駄目だ! 俺達だけで何とかできる! 新しい点火棒があるだろ? 今こそ使うチャンスだ!」
影の憲兵団達はまだブラールに集中していた。
「今のうちに隠れるわよ、リーフ」
「ああ」
リーフはジャスミンの後をつま先立ちで追いかけ、
エムリスを半分抱えたバルダもすぐ後ろをついていった。
ヴァージニアとワソも三人の後を追った。
しかし、最初の金属製の容器に着くと、ヴァージニア達は皆、立ち止まった。
容器は10個の独立した区画に仕切られており、それぞれの区画の中には、
とろみのある、ゆっくりと泡立つスープのようなものが入っていた。
その中身は灰白色で、奇妙な形の塊でいっぱいだった。
「これは何だ?」
バルダは鼻に皺を寄せながら呟いた。
「ちょっと調べてみる?」
「ううん、止まっちゃダメよ」
ジャスミンは口に手をやり、むせ返るような音を立てた。
リーフは、ヴァージニア、ワソ、バルダ、エムリスと共に急いでジャスミンの元へ向かった。
ジャスミンが見たものを見たリーフの胃がひっくり返った。
二つ目のお盆の仕切りは、とろとろと煮えたぎる灰白色のスープが半分ほど入っていた。
しかし、液体の中に浮かんでいるのは、滑らかで灰色の、特徴のない物体で、
頭や体、腕、脚のようなものが浮かんでいた……。
「予想通りだったな」
バルダは小声で悪態をつき、ヴァージニアとエムリスは両手で顔を覆った。
ワソとジャスミンの顔は恐怖で歪んでいた。
「溶けていく死体だわ!」
「駄目だ!」
リーフはトレイの上を歩きながら、ヴァージニア達が見なかったものを見ていた。
金属の側面に刻まれた二つの言葉――カーン、ポッド。
「奴らは溶けてなんかいない」
リーフは嗄れた声で言い、ヴァージニア達のところに戻った。
「影の憲兵団は、この工場で作られていたんだ!」
リーフは震える指を、刻まれた文字へと突き出した。
「影の憲兵団は常に10人一組で行動する事が分かっている。
同じ名前を持つ10体の影の憲兵団が共に働き、共に戦う。
分からないのか? このお盆の一つ一つが影の憲兵団を作る器なんだ! これがカーンの器だ」
「そういう事だったんですのね」
ヴァージニアとバルダは歯を食いしばった。
「カーンはゴミ捨て場にいるぞ、リーフ! どうしてここにもいるんだ?」
「だって……」
リーフが言い始めたその時、突然、部屋の奥の扉が開き始めた。
閃光のように、ヴァージニア達はコンテナの後ろにしゃがみ込んだ。
「……どうやらただの野生のブラールみたいだな。この影の憲兵団が何とかしてくれる」
「今の影の憲兵団はもう10日も賞味期限を過ぎている。
それに、そうでなくても、この影の憲兵団のモデルは私の考えでは基準を満たしていなかった」
硬い床に足音が響いた。
コンテナの脚の間から覗くと、リーフは白いブーツを履いた二組の足が
部屋の奥をゆっくりと歩き、最後の列の区画を調べているのが見えた。
扉は閉まっておらず、半開きのままだった。
「新しい影の憲兵団はもうすぐ完成する」
女は少し間を置いて優しく言った。
リーフは彼女の声に聞き覚えがあったが、まさかそんな事はあり得ないと思っていた。
彼女は明らかに、影の大王のしもべだからだ。
「遅きに失したな。言っただろう! 憲兵団の物資が危険なほど不足している。
ここに来れば、状況がどれだけ酷いか分かるだろう。
数週間前に古い影の憲兵団を処分しなければならなかったのに、
新しい影の憲兵団はまだ形が整っていなかったんだ!」
リーフはヴァージニア、ワソ、バルダ、ジャスミンの視線を感じ、
ヴァージニア達がようやく理解してくれた事を悟った。
奉仕のためだけに、冷酷で、無条件に従順で、
温かさや憐れみの欠片もないように作られた影の憲兵団の寿命は限られている。
摩耗し始めると、ただ捨てられ、同じ型のものに置き換えられるのだ。
この部屋が影の憲兵団立ち入り禁止なのも無理はない、とリーフは思った。
影の憲兵団は盲目的に従順かもしれないが、
ここで代わりの影の憲兵団が着実に成長していくのを見たら、
彼らでさえも反発するかもしれない。
白いブーツは向きを変え、再び部屋を横切り始めた。
新参者達は、新しく現れた影の憲兵団達の別の列を調べていた。
ヴァージニア、ワソ、リーフ、バルダ、ジャスミン、エムリスは慎重に、
コンテナに近づきながら這い進み始めた。
移動にはリスクが伴うが、ヴァージニア達はそれを負わなければならない。
そのままそこに留まれば、発見は確実だった。
幸いにも、検査官達は仕事と会話に夢中で、
部屋の反対側から聞こえる小さな足音には気づかなかった。
「こいつは、予想以上に成長が遅いな」
足が最後から2番目の列の端に着いた時、女は言った。
「私のせいじゃない! 昨日は停電が2回もあったんだぞ。全て、転換計画のせいだ!
最近、材料が多すぎるし、影の大王様の手もかかりすぎだと思う」
「転換計画……まさか!」
リーフは息を詰めて耳を澄ませ、言葉を止めた。
検査官達は次の列に移動し、ヴァージニア達のいる部屋の方へとゆっくりと戻り始めていた。
待つのは危険だったが、リーフはこの話を聞かなければならなかった。
「3-19、色々と意見があるようだな。もし私がお前だったら、気を付けるのだが」
「どういう意味だ?」
女は柔らかな声を強ばらせながら言い、男は不機嫌そうに尋ねた。
「何故、影の大王様にとって転換計画が最優先事項になったと思うんだ、この愚か者め」
女はついに我慢の限界を迎え、言い放った。
「そ、それは……」
「デルトラでデインが敗れてから、影の大王様はオルを信頼できなくなってしまったんだ!」
リーフの心臓がドキドキと音を立てた。
3-19と呼ばれた存在は、デインと同じくAオルだった。
影の大王が作った邪悪な変身怪物オルの中でも、最も完璧で、最も危険な存在だった。
完璧な変身で、誰にも気づかれずに人間に紛れ込めるほどだった。
リーフは二人の顔がどんなものか見たくてたまらなかったが、顔を上げる勇気はなかった。
「影の大王様は、オルを作ったのは間違いだったと考え始めている。
特に、Aオルはあまりにも人間に似すぎているからな」
そう言うと、彼女は連れの前を足早に歩いた。
リーフは前に滑り出し、見つかるのを間一髪で避けて、脇の通路から慌てて身を隠した。
数列先には、ヴァージニア、ワソ、バルダ、ジャスミン、エムリスが蹲っている姿が見えた。
部屋の奥には、女の白い服の脚も見えた。
リーフは恐怖に震えながら、
エムリスの緑のマントの端が通路に垂れ下がっているのに気づいた。
女が前を見たら、下を見たら……。
しかし、彼女は周囲に気を配る気配は全くないようだった。
片方の足を苛立たしげに踏み鳴らし、3-19は彼女に駆け寄り、謝罪と説明を呟いた。
「……別に悪気はなかった。影の大王様の言う事は絶対だからな」
「まさにお前がそうしていると思っていた!」
女は言い放ち、次に現れた影の憲兵団達の列へと歩み寄った。
「転換計画こそが未来への道だ、3-19。すぐに分かるだろう」
「もうすぐ? でも、私は……」
3-19は息を呑み、すっかり怯えた。
「全ての誤りは修正済みだ。私に何か欠点があると考えているのか?」
一瞬の沈黙が訪れた。
「……あなたが彼らの一人だとは知りませんでした」
3-19はついに言葉を詰まらせた。
「ああ、そうだ! さあ! 何故、こいつらが実際よりも細く見えるのか、説明するがいい」
ヴァージニア達は再び部屋の反対側へと移動していた。
リーフ、バルダ、ジャスミン、エムリス、ヴァージニア、ワソは隠れ場所から滑り出し、
全速力で這い進み始めた。
間もなく、ヴァージニア達は二人の検査官とほぼ並んだ。
二人は既に、影の憲兵団を作る器の端に近づいていた。
今こそ最も危険な時だった。
ヴァージニア達は一人ずつ、コンテナの隙間を横切った。
どちらかが振り返れば、端に立っている二人ははっきりと見えるはずだった。
しかし、二人とも振り返らなかった。
シェルターからこっそりと動き出すリーフは、白い服を着た二人の人影をちらりと見た。
一人は背が高く、もう一人は背が低くて細身の、二人がコンテナの端に寄り添って立っていた。
背の低い方は海図を調べていた。
背の高い方は、コンテナの輝く金属に取り付けられたノブの一つを回すために屈んでいた。
それからリーフがヴァージニア達を追って最後の数個のポッドを通り過ぎ、
後ろの壁を越えて開いたドアまで急いで進むと、人影は再び見えなくなった。
ジャスミンは身を低くして、用心深く戸口を覗き込んだ。
彼女は振り返り、他の者達に頷き、それから開口部を這って入った。
ヴァージニア、ワソ、バルダ、エムリスもジャスミンの後を追った。
リーフがドアの向こうの部屋が作業室のような場所に気付き、
後を追うと、再びオルが恐る恐る口を開くのが聞こえた。
「影の大王様の計画は……」
「いや、影の大王様にはたくさんの計画がある! そして、お前には何も関係ない」
ジャスミンは部屋の反対側から急いで手招きしていたが、
リーフは最早好奇心を抑える事ができなかった。
リーフはできるだけ早く立ち上がり、
半開きのドアの隙間からポッドの部屋を注意深く覗き込んだ。
二人の人影は、隣の列にいた影の憲兵団達の様子を窺い始めていた。
背の低い女性の方はカルテを見ていた。
背の高い方は、彼女の後ろを睨みつけながら歩いていた。
その人物の痩せて不機嫌そうな顔は、ファローの顔だった。
リーフは指の関節が白くなるまでドアの縁を握りしめた。
あれはファローじゃない、と必死に自分に言い聞かせた。
ファローはデルトラのベルトの宝石を取り戻す冒険の時に倒れた。
あの生き物、3-19は、ただ同じ顔をしているだけだ。
それでもリーフは息が荒くなり、胃が嫌悪感でむかついた。
その時、女の姿がカルテから顔を上げて、連れの方へ半分向き直った。
明るい白い光が女の繊細な顔と淡い青い瞳を照らしていた。
リーフはほんの一瞬見つめた後、衝撃で身動きが取れなくなり、ドアの後ろに縮こまった。
ヴァージニア、ワソ、バルダ、ジャスミン、
エムリスは作業室の片隅にある狭いドアの前に集まっていた。
瓶や計量カップ、そして弱火で煮えたぎる緑色の液体の入った鍋が散らばった
長い白いテーブルを横切って、リーフは音もなく彼らのところへ走って行った。
「ここには隠れる場所なんてないわ。もっと先へ行かなきゃ」
リーフの表情に気づき、ジャスミンは言葉を止めた。
「どうしたの?」
「幽霊でも見ましたの?」
「見たよ。あの女の子は、チュルナイにいたティラだ」
「ティラが!?」
バルダとジャスミンは恐怖に震え、リーフを見開いた。
ヴァージニアは驚きを隠せなかった。
「ティラって誰?」
エムリスとワソはヴァージニア達を見ながら尋ねた。
「かつて私達のために命懸けで戦ってくれた女の子よ」
ジャスミンは唾を飲み込みながら言った。
「チュルナイの人々が影の王国に連れ去られた事は知っていた。
ティラを見つけて、救いたいと思っていたのに……」
「でも、ティラはかつてのワソと同じ目に遭ったみたいだ。一体どうしてなんだ?」
「答えはそこに書いてあると思うわ」
ジャスミンはゆっくりと言い、脇に寄って、ドアの張り紙を指差した。
転換計画 立ち入り禁止
そのドアの張り紙を見たヴァージニアとワソの頭に、雷が落ちたような衝撃が走った。
ヴァージニアの膝が笑い、ワソがバルダにしがみつく。
「わ、わたくし達……影の大王に召喚されて、この部屋に連れてこられたんですのよ……!」
「それで、私の中に……あぁぁ、思い出したくもない!」
ワソは恐怖するが、はっきりと彼女は、ヴァージニアと共に召喚された時を思い出した。
「何だって!?」
リーフが驚く中、ヴァージニアとワソは、影の王国に召喚された時の事を思い出した。
―成功したな。この通り、異世界から二人も召喚した。
「あなたは……」
ヴァージニアは赤い雲を睨みつける。
ワソは念のため、無言で武器を取る準備をしていた。
―私は影の大王。影の王国の支配者だ。
「わたくし達をどうするつもりですの?」
「元の世界に返さないなら、あなたを撃つよ」
そう言って、ワソは影の大王に拳銃を向けた。
影の大王に脅しは通じないかもしれないが、それでもとワソは拳銃を向けていた。
―威勢のいい女だな。だが、力で私に敵うと思ったのか?
「ないと思うけど、それでも抵抗は忘れないよ」
「わたくし達は、絶対にあなたに殺されませんわよ!」
ヴァージニアもメイスを構え、影の大王を攻撃しようとした。
しかし、影の大王は二人の女性に敵意を向けられながら、なおも落ち着いていた。
―お前達を殺すつもりはない。捨てるのはもったいないからな。転換計画の実験台にする。
「て、転換計画って……!」
―この影の寄生虫を使うのだ。植え付けたものは、私の忠実なしもべとなる。
「ウ、ウネウネしてますわ……!」
ヴァージニアは影の寄生虫を見て、震えが止まらなくなる。
ワソが勧めた「悪夢の王」というテレビ番組で見た寄生虫と同じような見た目だ。
自分が苦手なウネウネした影の寄生虫に、洗脳という効果もあるため、
ヴァージニアは逃げようとしても足が竦んで動かなかった。
その時、ワソが意を決したかのように、呪文を唱える。
「……ヴァージニアだけでも逃げて」
「え、ワソ……!?」
「他者転移!!」
そう言って、ワソは不思議な力でヴァージニアを逃がした。
「影の大王は私とヴァージニアを影の寄生虫で洗脳しようとしたけど、
私はヴァージニアを上位転移術で逃がして、代わりに実験台になった」
しかし、ワソの上位転移術は不完全だったようで、
ヴァージニアは影の憲兵団が見張っている地域に飛ばされてしまったのだ。
とはいえ、ワソが影の大王の手に落ちてからは、着々と影の寄生虫を作り出したという。
「僕達を助けてくれたティラが影の大王のしもべになっている……という事は……」
「ティラは、私と同じ目に遭ったんだ……!」
ワソはティラが影の大王の転換計画に巻き込まれた事を知り、同調して顔が青ざめた。
別名、第一部のワソの伏線回収回となりました。
影の寄生虫という名前は、私が考えました。