デルトラ第2部ももうすぐクライマックスですが、ね。
「……誰かいますの……?」
最初、リーフは籠のガタガタという音しか聞こえなかったが、
しばらくすると下の方から声が聞こえ始めた。
「もっと敬意を払うべきだろう。警報を鳴らしたのは俺達だ!
外でブラールと戦っていたのは俺達だ。山の残骸が呼ぶ声を聞いたのも俺達だ」
リーフは頭皮がチクチクするのを感じたが、耳を澄ませた。
「3号、オルは俺達自身もスクラップ山にいるべきだって言ったんだ」
「オルは馬鹿だ! 他の奴みたいに失敗日なんてないのは分かってるだろう、9号。
最初からそう言われてたし、他の奴らに自慢するなって警告されてた。忘れたのか?」
「いや、でもオルは……」
「何て言ったか忘れたのか! 影の大王様は絶対に俺達を処分しないぞ!」
(もしかして、影の大王はジャスミンを待っていましたの?)
ヴァージニアの心臓は激しく鼓動した。
影の大王はジャスミンを待ち望んでいたのだ。
ジャスミンの知らせが、この急ぎの原因だった。
まだ逃げられる可能性があるのに、ジャスミンは逃げようとしなかった。
「ちょっとジャスミ……」
「駄目だ」
ヴァージニアが説明しようとすると、リーフが止めた。
ほんの僅かな音や動きでも、バレてしまうかもしれないからだ。
布の隙間から、工場から見えていた丘を、檻が回っているのが見えた。
影の憲兵団は息を切らしながら、軋む車輪をカーブに引き寄せていた。
すると、突然、道は再びまっすぐになった。
今や山々のすぐ傍を走っていた。
前方には、明るく照らされた広大な影の王国の闘技場があった。
大勢の群衆がざわめく音が聞こえた。
「もっと速く!」
ティラが後ろから興奮で鋭い声で叫んだ。
「トンネルで止まれ、3-19!
計画はまず影の王国の闘技場に入る事になっている。聞こえるか?」
「私は耳が聞こえないんじゃない! もっと速く!」
「俺達も耳が聞こえないんじゃないぞ、オル」
檻は動きを速め始めた。
群衆の騒めきはますます大きくなった。
そして突然、光が薄れ、檻は軋み音を立てて止まった。
リーフは黒い石を見て、ここが影の王国の闘技場の壁を抜ける入口のトンネルだと推測した。
「うっ……」
リーフは吐き気を覚え、重い車輪の音を聞いた。
そして、金属製の箱が檻の前を通り過ぎ、
影の王国の闘技場に先に入るように動かされている事に気づいた。
「3-19、呼ばれるまでここで待機していろ!」
ティラの声がどこか前方から響いた。
「あの赤い服を着た女性は奴隷のフェイスか?」
3-19は不思議そうに尋ねた。
リーフはジャスミンが緊張しているのを感じた。
「違う。あいつは私と同じように未来への道筋だ。奴隷は下に鎖で繋がれている。
パーンズ! 前進しろ!」
太鼓が鳴り始めた。
まるで大きな鼓動のような深く脈打つ音。
群衆は静まり返った。
リーフは何が起こっているのか見届けなければならなかった。
慎重に、リーフは覆いを少しずらした。
ティラが前を歩く金属製の箱は、そう遠くない先の巨大なアーチをくぐり抜けていった。
暗闇から燃えるような光へと移り変わっていった。
影の王国の闘技場の光だ。
リーフは影の王国の闘技場を囲むように何層もの座席がある事は知っていたが、
自分の横たわる場所からは見えなかった。
大きな太鼓の音に混じって唸り声を上げるブラール達も見えなかった。
しかし、地面ははっきりと見えた。
アーチの枠の中にあるものは全て、まるで昼のように鮮明だった。
まるで巨大な動く絵を見ているようだった。
金属製の箱が通る道には、点火棒を持った影の憲兵団が並んでいた。
道は白い柱で囲まれた巨大な舞台へと続いていた。
そこには長い赤いローブを着た誰かが立っていたが、
リーフには遠く離れていてはっきりと見えなかった。
影の憲兵団の後ろには、ぼろぼろの服を着た人々がぎっしりと並んでいた。
人々は肩を落とし、その目は怯え、絶望に満ちていた。
ほとんどの者は額か頬に影の大王の印を押されていた。
彼らはティラと金属製の箱が通り過ぎるのをぼんやりと見つめていた。
(……なんて外道な……!)
リーフとヴァージニアの目は燃えるように熱くなった。
彼らの中に、黒衣を纏ったチュルナイの人々、何百人ものジャリス族の巨体、城の衛兵がいた。
中には見覚えのない者もいた。
しかし、リーフは彼らが誰なのかを知っていた。
北東部、西部、そして平原から来た農民、リスメアの剣闘士、
海岸の漁師、レジスタンスの戦士、デルトラの住民……。
デルトラの人々、全員が、殴られ、働かされ、絶望の風にさらわれ、心も希望も失った。
彼らは死ぬためにここに連れてこられたと信じていた。
多くの者にとって、死は奴隷の苦しみからの解放に思えるかもしれない。
(でも、大丈夫かもしれない)
しかし、彼らは死なないと、リーフは厳粛に思った。
リーフは落ち着かない様子でシャツの下からピラの笛を触った。
笛の試練の時が迫っていた。
その魔法は人々を結集させる時間をくれるだろうか。
何千人もの人々を影の王国の闘技場から脱出させるだろうか。
山々を閉ざす魔法を解けるだろうか。
箱は土台にほぼ到着していた。
影の王国の闘技場の明かりは鈍く、怒りに満ちた赤色に変わりつつあった。
「夜明けですわ」
リーフの目に動きが映った。
影の憲兵団がアーチに近づいてきていた。
3-19はティラを恨めしそうに見ていた。
誰も檻を見張っていなかった。
「今が降りるチャンスだ!」
「駄目! じっとしてて。そうじゃなかったら、どうやって安全に土台に辿り着けるというの?」
「どうして?」
リーフは、ジャスミンが土台に行きたいのには、
ジャスミンなりの理由があるはずだと確信していた。
だがリーフもまた、闘技場の中心こそが自分達が居るべき場所だと信じていた。
「笛は影の大王がはっきりと聞こえる場所で演奏しなければならない。
そして、民に僕達の姿が見えなければならない。
エムリス、舞台に着いたらすぐに笛を渡す。準備して!」
エムリスは怯えた声で同意したが、バルダは首を横に振った。
「リーフ、いくらなんでも無茶じゃないか? あいつらは知らないと思うぞ」
「シーッ!」
ジャスミンは息を吐いた。
ヴァージニア、ワソ、リーフは凍りついた。
そして、ジャスミンが先に聞いたのと同じ音が聞こえた。
檻の奥からかすかな音が聞こえた。
誰かが檻の鍵を開けるカチャカチャという音。
苦労して開けようとするうめき声と、呟くような呪いの言葉。
そして、何かがリーフの足を軽く叩いた。
「伏せろ、愚か者ども! ピ・バンを解放する事はできないが、少なくともお前は救える」
「鉤爪!」
「いや。檻の傍にいる」
「正気か、坊主、小娘?」
「説明する時間はない。助けたいなら、影の王国の闘技場に入ってくれ。
できるだけ多くの人に、脱出の準備をするように伝えてくれ。
その時が来れば、奴らは気づくだろう」
「全員を救おうとすれば、皆殺しだ。そして俺達も一緒に。数人は……」
「闘技場の裏の峠へ向かうように伝えろ! お願いだから、鉤爪、帰ってくれ。
影の憲兵団に見つかるだろ!」
「峠は魔法で封じられている」
「任せろ。ただ伝えろ!」
「正気か!」
リーフの足に引っかかっていた爪が、一瞬締め付けられ、そして滑り去った。
また囁き声が聞こえ、静寂が訪れた。
クロー、ブリアンヌ、そしてグルスは影の中へと消え去った。
「やるのかしら?」
「誰にも分からないと思う」
「それに、奴の言う通り、俺達は狂っているのかもしれないな。ピラの笛は、ぶんぶん飛ぶハエほどの影の大王を悩ませるだけだろう」
「見て!」
ジャスミンが囁いた。
赤いローブを着た女性が壇上を歩いてきた。
女性の逞しい顔と滑らかな銀髪が、今やはっきりと見えていた。
「ヘレナ!」
絶望と信じられない叫び声は、ピ・バンの下から聞こえてきた。
「持ち場に戻れ!」
3-19は激怒して影の憲兵団に唾を吐きかけ、影の王国の闘技場へと引き返した。
赤いローブを着たヘレナもピ・バンの叫び声を聞いていた。
ヘレナの唇は冷たく歪んだ笑みを浮かべた。
(また、私と同じ目に遭っているの……? 私と同じ、転換計画の被害者……?)
リーフとワソは恐怖に震えながら、ヘレナを見つめた。
ヘレナはかつてピ・バンの仲間だった。
だが今、パーン達が金属製の箱を傾斜路を登り、
台座へと運ぶと、ヘレナの目は勝利の輝きを放っていた。
「今日はブラールを解放しません」
ヘレナは甲高い声で叫んだ。
観客から失望の叫び声が上がった――雷鳴が轟き、
恐ろしい寒気が影の王国の闘技場を席巻すると、叫び声は突然泣き声へと変わった。
影の憲兵団は檻の傍で縮こまった。
「影の大王様が、ここにいる」
「今日から、新たな時代が始まります!
今日を境に、影の大王様の前に立ちはだかるものは何もありません。
影の大王様が手を置けば、皆が影の大王様の前にひれ伏し、影の大王様の意志に従うでしょう。
見ての通りです。フェイスを連れて行きなさい!」
二人の影の憲兵団が壇上に上がり、小さな黒髪の少女を引きずりながら立ち上がった。
少女の緑色の瞳には怒りが宿っていた。
ジャスミンは息を呑んだ。
リーフの心臓は止まりそうだった。
バルダは小さく呪いの言葉を吐いた。
ヴァージニアとワソは、鋭い目で様子を見た。
壇上の少女は、ジャスミンにそっくりな小さな顔で、姉妹としか思えないほどだった。
群衆を見渡し、その瞳には恐怖と希望が宿っていた。
「こいつは、影の大王様の最も凶悪な敵の妹です!
ですが、これから彼女に加わるグノメ族のように――私が知る限り最悪の裏切り者――
彼女もすぐに影の大王様の前に進んでひれ伏すでしょう」
聴衆は大声で叫んだ。
「もうすぐだぞ。影の大王様は俺達が命令に背いたと思うだろう。
夜が明け、檻の覆いが剥がれている」
9号は怯えながら早口で言った。
リーフは緊張した。
幼いフェイスの事など、突然頭から消え失せた。
こんなに近くにいるのに、まさか今さら災難が降りかかるとは思わなかった。
他の影の憲兵団は不安そうに足を引きずった。
「オルが言った……」
「オルを呪え!」
9号は唸り声を上げた。
そして、それ以上の警告もなく、八人は檻の側面に飛び上がり、覆いを引き剥がした。
突然姿を現したエムリスは、恐怖のあまり転げ落ちた。
エムリスは地面に叩きつけられ、動かなくなった。
ヴァージニア、ワソ、リーフ、バルダ、ジャスミンは立ち上がろうと、
武器を抜こうとしたが、どうする事もできなかった。
影の憲兵団は一瞬でショックから立ち直った。
火花の棒が激しく打ち下ろされ、落ちていった。
リーフはジャスミンが崩れ落ち、クリーも一緒に倒れるのを見た。
バルダが一度、二度撃たれるのも見えた。
ヴァージニアとワソも抵抗虚しく倒されているくを見た。
そしてリーフ自身も首の後ろに燃えるような衝撃を感じ、苦痛がリーフを駆け巡った。
そして、全てが暗闇に包まれた。
リーフはゆっくりと我に返った。
何かがドクドクと鳴り響き、その轟くような鼓動が頭に激痛を走らせた。
硬く揺れる地面に横たわり、痛む骨が震えていた。
「リーフ、武器は!?」
「……」
リーフの頭は冷たい格子に押し付けられていた。
格子の外側は厚い布で覆われているため、向こうは何も見えなかった。
何が起こったのか思い出すのに少し時間がかかり、
そして冷たい恐怖と共に自分がどこにいるのかを悟った。
リーフは檻の中にいて、それが影の王国の闘技場の中を動いていた。
聞こえてくるのは大きな太鼓の音だった。
ヴァージニア、ワソ、バルダ、ジャスミンがリーフの隣で身動きしていた。
ピ・バンはバルダの頭の傍に蹲り、絶望の表情を浮かべていた。
リーフは剣を探したが、もちろんそれはなかった。
恐怖に震えながら首筋に手を当てると、紐が切れておらず、
ピラの笛がシャツの下にまだぶら下がっているのを感じ、安堵感が胸を駆け巡った。
どこか近くで荒々しい声がぶつぶつと呟いていた。
リーフは、それが檻を自分の側に押しやっていた衛兵たちの声だと気づいた。
「オルが手柄を主張するだろう」
「やらせてみろ! カバーが外れたら、驚いた顔になるだろう。
影の大王様は、五人を連れてきたのは影の憲兵団でオルは何も知らなかったと理解するだろう」
「奴らと一緒にいた、あの痩せこけた改造人間は……」
(エムリス!?)
リーフは檻の周りをうろつきながら思った。
エムリスを最後に見たのは、小さなケラス族がトンネルの檻から落ちた時だった。
別の影の憲兵団が話している。
リーフは目を閉じ、耳を澄ませた。
耳を澄ませていると、胸が沈んだ。
「改造人間は傷ついた。死ぬために這っていった。忘れろ。主人が求めているのは五人だ。
少年。男。黒い鳥を連れた少女。そして異世界から来た、修道女と鬼」
「幸運だったよ、3号」
「そして、オルはなんて馬鹿みたいに見えるんだろう!」
低く、ずる賢そうな笑い声。
頭痛に顔をしかめながら、リーフは檻の前まで這い上がった。
角のところで、蓋の垂れ幕がぽっかりと開いていた。
リーフはその隙間から目を細めた。
前方では、3-19が、雷のような表情で待つティラが待つ土台へと背筋を伸ばして歩いていた。
ティラの隣ではヘレナが立っていて、
片手にはフェイスの鎖を、もう片手には金属製の箱の蓋を置いていた。
通路に並ぶ影の憲兵団の後ろには、ぼろぼろの服を着た、鈍い目をした群衆が押し寄せていた。
そしてその向こう、視界から消えるほど高くそびえ立つように、
観客で埋め尽くされた座席が幾重にも並んでいた。
あらゆる形、色、大きさの観客が。
観客は煌めき、移り変わり、揺らめいているようだった……リーフは目をこすった。
その時、リーフは自分の目に問題があるわけではない事に気づいた。
ベンチには数人のネズヌク、影の憲兵団、そして改造人間の群衆がいた。
しかし、観客のほとんどはオル――CオルとBオル――で、
リーフが見ている間、観客の姿は変化し続け、溶け、そして再び形を成していた。
もちろん、ここでは騙す必要はない。
下級のオルは、望まない限り一つの姿を保つ必要はない。
彼らは自らの娯楽や用途のために、自由に姿を変える事ができるのだ。
それは一組の角のあるヤギのような頭が口を開けた魚の顔に溶け、
手はヒレになり、色は茶色から銀緑色に変わり、体は膨らんでいった。
その様子は、彼らの隣にいた赤いボンネットを被った二人の女性にまで迫っていた。
女性達は怒りのシューという音を立て、一瞬、彼女達の真の姿を見せた――白く形がなく、
歯のない口が大きく開き、炭のような目をしていた。
次の瞬間、白い影は縮み、狭まり、人間の顔をした蛇のうねりに変わった。
吐き気を催し、リーフは再び下を見下ろした。
じっと動かず、沈黙したままの奴隷達。
そして――その時、リーフは奇妙な光景を目にした。
誰も動いていないように見えたが、まるで群衆の間を波紋が広がっているかのようだった。
リーフは鉄格子に顔を押し付けた。
同じ小さな動作が、次々と人々が繰り返していたいた。
リーフは頭を僅かに動かし、唇が僅かに動く。
遠くからでは言葉が発せられているのが分からないほどに。
リーフは、伝言がどこから始まったのか確信していた。
鉤爪、ブリアンヌ、そしてグルスが影の王国の闘技場の端で群衆に紛れ込み、
同じ言葉を何度も囁いているのだ。
「土台に注意しろ」
「戦闘態勢を取れ」
「闘技場の裏の道へ」
「伝言が広まっている。止めるぞ!」
リーフとヴァージニアは振り返った。
バルダとワソは背後にいて、リーフの頭越しに影の王国の闘技場を見ていた。
バルダの目は深く曇っていた。
額には火花の棒が刺さった跡があり、大きな赤い火傷を負っていた。
ワソも身体がボロボロになっていた。
「今更止めるには遅すぎる」
「だが、全ては変わってしまった。そして、鉤爪、ブリアンヌ、
そしてグルスは明らかにそれを知らない!
俺達が捕まった時、彼らはトンネルの外に隠れていて、何も見なかったに違いない。
檻が今、覆われているのが見えたら、きっと計画通りだと思うに違いない!」
リーフはピラの笛を触り、箱から抜き取った。
指先からうずくような温かさが伝わり、不思議な安らぎがリーフを包み込んだ。
「何も変わっていないじゃないか、バルダ」
「音を閉じ込める事はできない。舞台に着いたら、計画通りに笛を吹く。
エムリスがやったようにではないが、できる限りの事をする」
「どういう意味ですの?」
「笛が何をしようと、鉄格子を溶かす事はできない、リーフ。
他の連中は逃げられるかもしれない。だが、俺達は閉じ込められる」
「やるしかないんですの……?」
「ああ」
鉤爪、ブリアンヌ、そしてグルスなら、人々を自由へと導くことができる。
しかし、リーフは何も言わなかった。
ジャスミンを探してみると、ジャスミンも目を覚まし、檻の前まで這ってきていた。
しかし、ジャスミンはヴァージニア達のもとに来なかった。
ジャスミンは反対側の隅にしゃがみ込み、毛布の隙間から覗いていた。
リーフはフェイスを一目見ようとした。
ずっと探し求めていた妹を。
リーフはジャスミンの傍に行き、ジャスミンの手に触れた。
「ジャスミン、どうしてフェイスの事を教えてくれなかったの?」
「教えてくれた? どうしてそんな事を聞くの?」
ジャスミンは悲しみで暗い目でリーフを見つめた。
リーフは愕然としてジャスミンを見つめた。
「何だって? どういう意味だ?」
リーフはどもりながら言った。
ジャスミンは拳を握りしめた。
「リーフ、今でも私を騙そうとしているの? 分からないの? 分かってる。
あなたが何をしたのか、分かってるわ!」
「何だって?」
リーフがその言葉を口にした途端、籠の前輪がスロープの土台にドスンとぶつかった。
ヴァージニア、ワソ、リーフ、バルダ、ジャスミンは激しく後方に投げ飛ばされた。
ピラの笛はリーフの手から飛び出し、檻の奥へと転がり始めた。
リーフは必死にそれを掴み、影の憲兵団が唸り声を上げながら檻を傾け、
持ち上げ始めたまさにその時、何とかそれを取り戻した。
あと一瞬遅ければ、笛は格子の間から滑り落ち、失われていただろう。
あわや大惨事かと心臓が高鳴る中、リーフは檻の前へと這い戻った。
全てを忘れろ、と自分に言い聞かせた。
やらなければならない事以外、全てを。
リーフは馴染みのある恐ろしい寒気を感じ、檻が金属の箱に近づいているのを感じた。
「……僕がやらなくちゃ」
リーフはピラの笛を強く握りしめた。
「奴隷達よ、気をつけなさい! 大事な話があります! よく聞きなさい!」
リーフは檻の隅に辿り着き、隙間から覗き込んだ。
ティラが3-19を連れて檻のすぐ傍に立っていた。
「何故、檻に蓋がしてある?」
ティラは不安そうに上を見上げながら、3-19に激怒して呟いた。
「影の憲兵団がやったんだ。
奴らが従わない事に気づいた時には、召喚状が届いていて、布団を脱ぐには遅すぎた」
「お前は無能な愚か者だ!
影の大王様がお前達とお前の同類を始末してくれたなんて、本当に嬉しいぞ」
ティラは顔を背けた。
3-19はティラを睨みつけ、
長い指をティラの細い首に巻き付けたいかのようにぴくぴくと動かした。
ティラはヘレナの隣に立ち、ヘレナは腕を上げた。
「かつて私は影の大王様の宿敵でした。奴隷を解放し、しもべ達を殺しました。
白状します。そして私の仲間はかつて最も卑劣な反逆者でした。
忍び寄り、欺瞞に満ちたスパイで影の大王様の敵を密かに助けていたのです! 白状します!」
リーフは背後でバルダのかすかな呻き声を聞いたが、振り返らなかった。
ヘレナの冷たく輝く視線が影の王国の闘技場を見渡した。
「今、私達は疑いも、恐れも、邪悪な考えも、最早ありません。
影の大王様が私達に授けてくださった賜物のおかげで、
私達は影の大王様のしもべであるだけでなく、影の大王様の目となり、耳にもなるのです」
ヘレナは愛情を込めて、金属製の箱を手で撫でた。
「私達と同じように、あなた達は死に値する奴隷です。
しかし、影の大王様は慈悲深い。あなた達は皆、影の大王様の賜物を共有するのです。
間もなく、あなた達の苦闘は終わりを迎えます。
私達と同じように、あなた達も影の大王様のものとなるのです」
観客は熱狂的に歓声を上げた。
影の王国の闘技場の床に横たわる奴隷達は、死人のように動かなかった。
ヘレナは冷たく微笑んだ。
「奴隷達よ、どんな噂を耳にしようとも、恐れる必要はありません。
転換計画は安全で、効率的で、そして簡単です。
解放されれば、影の大王様の賜物を宿した者達は、
自らの道を見つけてあなたのもとへ辿り着くでしょう。
彼らは細身で、とても素早い。その過程は一瞬で終わるでしょう。
ほんの一瞬の痛みをここで感じれば、影の大王様は常にあなたと共にいます。
転換計画が終われば故郷に戻り、人々と交わり、影の大王様の御心に喜んで従うでしょう」
リーフの肌はゾクゾクし、脳裏に、恐ろしい光景が浮かんだ。
影の大王が解放した何千人もの囚人がデルトラに帰還し、歓喜と歓迎をもって迎え入れる。
見た目も声も以前と全く同じ何千人もの囚人達。
しかし、彼らの脳裏には敵が宿り、あらゆる思考、あらゆる行動を支配していた。
何千人もの囚人達が安全に捕らえられ、さらに緋色の頭を持つ影の寄生虫が近くにあった。
そのため、夜、家族や隣人が眠っている間に……。
ヘレナは再び話し始めた。
「影の大王様の贈り物からは逃れられられませんが、抵抗しない方が構いません。
奴隷のフェイスと、かつて私と共に戦ったグノメ族の力を借りれば、
どれほど簡単に逃れられるか、お見せしましょう。毛布を外しなさい!」
檻の覆いが剥がされた。
光が差し込み、飛び上がって格子にもたれかかった六人の容赦ない姿を露わにした。
リーフは3-19が怒りに燃えて叫ぶ声と、
影の憲兵団が勝ち誇ったような大声で説明する声を聞いた。
ティラとヘレナが輝く目で、頭上の塔に渦巻く赤い煙と、
その中にある暗い影を見上げているのが見えた。
稲妻が沸き立つ雲を裂いた。
「きゃぁぁっ!」
轟くような突風が吹き荒れ、リーフ達は投げ飛ばされ、地面に押さえつけられた。
檻は震え、車輪は爆風の力で曲がった。
息を切らし、動けず、唸り声を上げる風に押し倒されながら、
リーフは闘技場で無力にもがく奴隷達の叫び声、ティラとヘレナの叫び声を聞いた。
叫び声を上げながら、七羽のアクババが強風に乗り、
鉤爪を伸ばし、鉤状の嘴を大きく開けて急降下した。
壇を取り囲む柱が震え、動き出した。
「オルですわ!」
心臓部に闇を抱え、白い炎をシューシューと音を立てながら、歯のない口を大きく開け、
虚ろな目をして、掴みかかった両手で、オルは立ち上がり、風の力に抗って立った。
そして、軋む音と共に石の扉が閉まり、闘技場は封鎖された。
オルやアクババが現れて大混乱の影の闘技場。
デルトラ第2部も、いよいよクライマックスが近づいてきました。