ヴァージニアとデルトラクエスト2   作:アヤ・ノア

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デルトラクエスト二次創作の第二部はこれにて終了です。
影の王国の人質を助け、再びデルトラ王国に帰還したリーフ達。
そして、ヴぁーじにあトわそハ……。


第27話 影の王国からの帰還

 デルトラの光にヴァージニア達は目を開けた。

 夜明けを過ぎたばかりだった。

 ヴァージニア達が横たわる草はまだ露で濡れていた。

 空は淡い青色に、かすかにピンクの筋が走っていた。

 微風が木々を揺らし、ヴァージニア達の顔を優しく撫でた。

 リーフは、これほどの美しさは見た事がないと感じた。

 彼らは城の庭園、大玄関ホールに続く階段の近くにいた。

 二人の衛兵が扉のところに立っていた。

 衛兵達は一瞬、宮殿の芝生に突然現れた群衆を驚いて見つめた。

 それから衛兵達は踵を返し、大声で知らせを叫びながら城の中へ駆け込んだ。

 ジャスミンは太陽に向かって顔を上げた。

 クリーは傷ついた翼を広げ、喜びの叫び声を上げながら飛び立った。

 ヴァージニアとバルダは大きな溜息をついた。

 周りの人々は皆、目を開け、起き上がり、信じられないほどの喜びに目を輝かせていた。

 一瞬のうちに、ヴァージニア達は影の王国の闘技場から、

 故郷のような見た目と匂いのするこの美しい場所へと連れて行かれたように思えた。

 ほとんどの者は夢を見ているのだと思い込んでいた。

 しかし、ゆっくりと立ち上がったのは、

 影の王国の闘技場の舞台に立っていた三人の見知らぬ人物だった。

 一人は、奇妙な笛を吹いていた少年だった。

 腰には、きらきらと輝く何かを身に着けていた。

 七つの大きな宝石が散りばめられた鋼鉄のベルトだ。

 最早奴隷ではなくなった奴隷達は、驚嘆の眼差しで見つめ、徐々に真実を受け入れていった。

 デルトラは彼らを見捨てなかった。

 彼らは決して忘れられていなかった。

 そして、彼らを故郷に連れ帰ったのは、彼らの王だったのだ。

 

 城の扉が勢いよく開いた。

 人々が階段を下り始めた。

 多くはまだ眠気で目が重いが、皆が叫び声を上げ、腕を広げていた。

 芝生にいた人々は立ち上がり、よろめきながらヴァージニア達に会った。

 二つの群衆が出会い、混ざり合い、愛する人も見知らぬ人も共に抱き合い、

 喜びの涙を流し、笑い合った。

 宮殿の鐘が鳴り始め、下の街の人々を呼び起こした。

 ジャスミンはリーフの腕に触れた。

 リーフは胸がいっぱいになり、ジャスミンを見下ろした。

 ジャスミンは何か呟いたが、鐘の音で聞こえなかった。

「リーフ、あなたを疑った事が恥ずかしいの、と言ったわ。

 でも、フェイスは本当に本物に見えたわ。そしてフェイスは言ったの……」

「僕のせいだ。水晶の事を話さず、ないふりをしたのはバカだった。

 一度、君とバルダに話した事がある。

 いましめの谷で夢で見た後だ。覚えていてくれると思ったんだ」

 ジャスミンは困惑した様子だった。

「最初は覚えていたと思うわ。

 でも、水晶を覗き込んで、そこにあった嘘以外、何もかも忘れてしまったの。

 あなたが私を騙すはずがないって、分かっていたはずよ」

 リーフはバルダを一瞥した。

 バルダは無表情で聞いていないふりをしていた。

「ジャスミン、君を騙していたんだ。君も、バルダも、ジニーも、ワソも。何かが……」

 リーフは言葉を切った。

 ジャスミンの手がリーフの腕から滑り落ち、ジャスミンは城の方を見ていた。

 小さな集団が扉のところに現れ、熱心に群衆を見ていた。

 シャーンとジョーカーはジョセフを挟んで脇に立っていた。

 反対側には行商人のルーカスが、

 剃髪した頭に渦巻き模様を描いた背の高い奇妙な女性と腕を組んで満面の笑みを浮かべていた。

 しかし中央には、トーラ族のゼアン、ラネッシュ、マリリンが、

 長い外套を纏った優美な姿で立っていた。

 

「やっと仲直りしましたのね」

「ふふ……影の大王の罠はずる賢いけど、だからこそ、乗り越えた時が快感ですわ」

 

 心臓が口から飛び出しそうになりながら、リーフは一歩前に出た。

 マリリンはリーフを見た。

 ラネッシュに最後の一瞥を送った後、マリリンはマントを拾い上げ、

 頭を高く上げてゆっくりと階段を降りていった。

 リーフはヴァージニア、ワソ、バルダ、ジャスミンが近づくにつれて後ずさりするのを感じた。

 周囲では祝賀ムードに沸き立つ群衆が沸き立っていたが、

 五人と近づいてくる少女は、互いに目と耳を澄ませていた。

 まるで時空を超えた孤島にいるかのようだった。

 マリリンは安堵と歓迎の表情で両手を差し出した。

 リーフはそれを握った。

「ああ、リーフ、あなたの帰りをどれほど待ち望んでいた事か!

 伝えたかったのに……リーフ、大丈夫よ! 大丈夫よ。私達は安全よ」

 リーフは感謝の気持ちで頭を下げた。

 マリリンの手がリーフの手から離れるのを感じた。

 リーフは後ろを振り返る。

 バルダはまっすぐ前を見ていたが、ジャスミンは決意に満ちた笑みでリーフの目を見つめた。

 ヴァージニアとワソの表情は晴れやかだった。

 リーフは一瞬戸惑った。

 もしかしたら、仲間たちはリーフが長い間、隠していた秘密を既に知っているのだろうか。

 しかし、もう考える時間はない。

 マリリンが待っていた。

 その時が来たのだ。

 リーフは腰に手を当て、煌びやかなベルトを外し、それを落とした。

 ヴァージニア、ワソ、バルダ、ジャスミンが息を呑むのが聞こえた。

 マリリンはマントをはだけた。

 煌めく色が一瞬見えた。

 それからマリリンは腰から何かを取り出し、リーフに手渡した。

 安堵の笑みを浮かべ、マリリンは素早く身を引いて少し離れた場所に立った。

 デルトラのベルトの大きな宝石は、朝空の下、星のように輝いていた。

 精巧な鋼鉄の輪がリーフの手の中で温かく輝いていた。

 リーフはベルトを締め、馴染みのある重みを感じ、

 肩を竦めてヴァージニア、ワソ、バルダ、ジャスミンの方を向いた。

 二人は口を大きく開けて見つめていた。

「本物のベルトはずっとデル城の中にあったのか! 君はずっと偽物を身に着けていたんだ!

 ずっと――そして、俺達は知らなかった!」

 バルダは落ちたベルトを拾い上げ、リーフの顔に突きつけた。

「これは……これは本当に宝石をちりばめたつまらないものだ!」

 リーフは恥ずかしそうに頷いた。

「君達が怒るのは当然だ。でも、分かってくれ。

 ジョーカーと僕は鍛冶場で秘密裏にベルトの偽物を作った。会う約束は暗号で交わした」

「つまり、あの暗号はジョーカーの事を言ってたのね」

 ジャスミンは、見つけたメモを思い出しながら言った。

 リーフは不思議そうにジャスミンをちらりと見た。

「本物に一番近い城の宝石を使ったんだ。

 偉大な宝石には必ずと言っていいほど、それらにも少しは力がある。

 でも、本物のベルトに比べれば、取るに足らないものだ」

「ティラルがベルトに魔力を感じなかったのには、ちゃんと理由がある。

 魔法なんてなかったんですのね!」

「あなたは――本物のベルトを安全のために置いてきたのね」

 ジャスミンはどもりながら言った。

「あなたの――あなたの友人が――それを身に着けていたのは――

 あの人があなたが最も信頼していたから?」

「あの人が身に着けなければならなかったからだ! 僕に何かあった時のために」

 リーフはマリリンに手招きすると、マリリンはヴァージニア達のところに戻ってきた。

「マリリンは僕の父さんの、一番近い親戚なんだ」

 リーフは少し誇らしげに言った。

 ヴァージニア、ワソ、バルダ、ジャスミンが礼儀正しく困惑した表情を浮かべる中、

 リーフは笑った。

「分からないのか? マリリンは僕の後継者だ。デルトラのベルトの次の継承者だ」

「何ですって?」

「でも……」

 ジャスミンは声に詰まり、唾を飲み込み、もう一度言った。

「でも、私は国王か女王の子供だけが後継者になれると思っていたのに」

 リーフは頷き、無意識にジャスミンの手を取った。

「城の首席顧問達は、影の大王のスパイだったから、そう信じさせていたんだ。

 でも、よく考えてみると、それは真実ではないと分かった。

 デルトラにとって、それはあまりにも危険すぎる。

 国王になった瞬間から、僕はいつも命を狙われていた。僕の世継ぎはいないからね」

 ようやく話をする事ができて、本当に安堵した。

 長い間、抑え込んでいた言葉が、流れのようにこぼれ落ちた。

「デルトラのベルトには、アディンの真の世継ぎが着用しなければならないとだけ記されている。

 つまり、国王か女王が子供を残さずに亡くなった場合、

 ベルトは……例えば、兄弟姉妹が受け継ぐんだ」

「でも、あなたには兄弟も姉妹もいないはずですわ」

 ヴァージニアは唇を噛みながら言った。

 最後の言葉に嫌な記憶が蘇ってきたからだ。

 リーフは首を横に振り、ジャスミンの手をさらに強く握った。

「叔父や叔母もいない。王室の習慣は子供を一人しか持たない事だったんだ。

 たまたまアディンの世継ぎの子供が一人しかいなくて、それが伝統になったんだ。

 首席顧問達が固執したんだ」

「デルトラの運命が各世代の弱々しい命にかかっているというのは、

 奴らにとって間違いなく都合がよかった」

「そうだ! そして奴らは非常に上手く仕事をこなしていたから

 、最初は世継ぎを探す試みは絶望的に思えたほどだった。

 でも、その時……アディンにも子供が何人かいた事を思い出したんだ」

「みんなトーラ族と結婚したの。ジンクスがそう言ってたの」

「その通り」

 リーフはジンクスの名前に顔をしかめた。

 マリリンも別の理由で顔をしかめた。

「だから、じっくり探せば、どんなに遠い親戚でも、

 トーラ族の中に世継ぎが見つかるって分かっていたんだ。

 『血は血だ、どんなに薄く、何世紀にも渡って流れていようとも』って最近誰かが言ってたよ」

「それで、図書館の本や羊皮紙で手がかりを探したのね。

 家系図、結婚記録、生まれた子供達……あれだけの時間、苦労したのね!」

「何よりもまず、デルトラの未来を守らなければならなかったんだ。しかも、秘密裏に。

 ジョーカーと母さんにだけ話した。二人はそれがどれほど重大な事かを知っていた。

 デルトラの安全が、二度と一人の命に左右される事があってはならないと、

 二人は知っていたんだ。

 マリリンはアディンの次男の子孫だ。

 マリリンを見つけた時、ついに世継ぎができたと確信した。

 子供ができたら、その子がマリリンの跡を継ぐのは本当なんだ――』

「私も、その日が早く来てほしいわ!」

 マリリンが熱っぽく口を挟んだ。

「トーラ族でリーフが、母方の親戚を通して私が世継ぎだと教えてくれた時、

 その知らせは祝福というより呪いのように聞こえたのよ」

 リーフは愛情を込めてマリリンに微笑んだ。

「それでもリーフは、故郷、家族、友人を捨ててデルトラに来る事に同意したんだ――」

「危険に陥った時に本物のデルトラのベルトを身に着けるって事。

 そうすれば、何か災難に見舞われた時、彼女のためにすぐに光が差すのよ!」

 ジャスミンがリーフの言葉を代弁して、とっさに言った。

「そして、ずっと私達は――みんなが――考えていたのよ……」

 ジャスミンはリーフの手から手を離し、燃えるような顔に当てた。

 頭がくらくらした。

 真実ではないと思っていた事が、あまりにも多くあった。

 これまで一つの見方で見ていた多くの事が、今は別の見方で見ていた。

 リーフは書斎に閉じこもっていた。

 羊皮紙には『トーラの偉大な一族』と記してあった。

 鍛冶場への秘密の訪問、王家の宝石の奪取、トーラへの訪問そのもの。

「リーフがあなたとバルダ、

 そして異世界の民に私の事を話したかったのは分かっているわ、ジャスミン」

 マリリンはジャスミンの苦悩を察して、優しく言った。

「でも、父はジョーカー以外ではシャーンだけが私の正体を知っていると誓ったのよ」

「マリリンが次の世継ぎだと知っている人が多ければ多いほど、マリリンにとっての危険は増す。

 もしも影の大王に気づかれたら……」

 ジャスミンは唾を飲み込み、頷いた。

「じゃあ、どうして今、話すの?」

「もう大丈夫よ! リーフはアディンの次男の家系を辿る時間しかなかったの。

 でも、アディンと妻のザラには全部で五人の子供がいたのよ。

 ゼアンと父はリーフがトーラに持ってきた羊皮紙を調べたのよ。

 アディンの子孫が、トーラだけでなくデルトラにも、

 そして王国中に、もっとたくさん見つかったわ!」

 マリリンは両手を握りしめ、目を輝かせた。

「リーフにとっての脅威は、最早デルトラ全体にとっての脅威ではないと、

 すぐに皆が知る事になるでしょう。少なくとも、そのためには、リーフを殺す意味はないわ」

「だから、もう城に囚人のように閉じ込められて暮らす必要はないんだ!」

「私もね」

 リーフは大満足そうに叫んだ。

 マリリンも同様に嬉しそうに言った。

「もしリーフが子供を残さずに死んだら、私が彼の代わりをするわ。

 もし私が死んだら、私の代わりは必ず現れるわ。

 そしてまた、また、また、また、また、また!

 ベルトには必ず世継ぎが現れる。デルトラは安全よ」

「一体全体、死ぬなんて話は何なんだ?」

 バルダはリーフの肩を叩き、満面の笑みを浮かべながら叫んだ。

「リーフとあのベルトの事を心配して、どれほどの恐怖を味わったかを考えると、

 正直言って自分でリーフを絞め殺したいくらいだ!」

「本当に、本当に、この全てが幸せに終わったのよ」

 ヴァージニアとジャスミンは頷いたが、マリリンの事を別の視点で考えるのはまだ難しかった。

「今回は大変だったでしょうね」

「確かに、大変だったわ。でも、あなたに比べれば、私は本当の危険には遭遇しなかったわ。

 デルトラのベルトを持っていたから、リーフが生きていると確信していたの。

 だって、私のベルトは私のために輝いていなかったから。それに宝石も私を助けてくれた。

 一度、私の食べ物に毒が盛られて、アメジストが曇ってしまった事もあったのよ。

 それを見て、何かがおかしいと分かったわ。

 それに……ここに来ていなかったら、ラネッシュに会う事もなかったわ!」

 マリリンはラネッシュがまだ一人で階段に立ち、

 寂しそうにマリリンの後ろを見つめているのを見回した。

「ラネッシュのところに行かなきゃ。

 説明しなければならない事がたくさんあるのよ。ラネッシュにも、可哀想なジョセフにも」

 マリリンは再び微笑んで、ヴァージニア達のもとを去った。

 リーフは眉を上げた。

「それで、マリリンとラネッシュ」

 リーフはジャスミンを一瞥した。

 ジャスミンがラネッシュをどう思っているのか、リーフは時々不安に思っていた。

 しかし、リーフと目を合わせたジャスミンの微笑みは、紛れもなく本物だった。

 リーフの心に大きな安らぎが訪れた。

 その時、マリリンが振り返った。

「ところで、リーフ。

 どうやら皆、私がデルにあなたの花嫁になるために来たと信じているようね。知ってた?」

 リーフは驚いた表情で答えた。

 マリリンは笑い、そのまま立ち去った。

 リーフはヴァージニア、ワソ、バルダ、ジャスミンの方を振り返った。

「この話を聞いた?」

 ヴァージニアとワソは、よく分からないといった表情だった。

 バルダは無表情のまま、賢明な沈黙を保っていた。

 ジャスミンの頬は再び赤くなったが、ジャスミンは肩を竦めた。

「城の噂話よ。でも、あなたは結婚するには若すぎるわ。いつもそう言っていたのよ」

 リーフは言葉を失った。

 バルダは、ティラが階段に向かって迷っているのを見つけた。

 彼は何かを呟きバルダに向かって大股で歩き出した。

 ヴァージニアとワソは、脱出のための計画を練っていた。

 

「もちろんよ」

 ジャスミンは続けて、リーフと共にリーフの後をゆっくりと歩きながら、微笑み始めた。

「マリリンは国王の花嫁として理想的な人だったでしょう。

 教養があり、美しく、礼儀正しく、優雅で、城にも似合う……」

「時が来たら」

 リーフはジャスミンの言葉をかき消そうと、決意を込めて言った。

「アディンの例に倣って、愛のために結婚する。

 もちろん、愛する女性が僕を受け入れてくれるならね」

「きっと受け入れてくれるわ。時が来たらね」

 

 ジャスミンはリーフの手に自分の手を滑り込ませた。

 背後で叫び声と歓声が響き始めた。

 街から大勢の人々が道を駆け上がり、既に芝生に群がっている群衆に加わろうとしていた。

 階段の上の人々は笑いながら手招きしていた。

 鐘はまだ鳴り響いていた。

 リーフの心は喜びで高鳴った。

 

「……いい加減に、脱出できるのかしらね」




次回は三ヶ月後に連載します、とだけ言っておきます。
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