そして、新キャラも登場します。
ジャスミンは、城のやり方は絶対に理解できないとよく言っていた。
ジョセフを迎えた様子を見て、その確信は一層深まった。
箱の中身を見たシャーンは、驚きと喜びで叫び声を上げた。
そして、叫んだのはシャーンだけではなかった。
たちまち、大きな玄関ホールは歓声で溢れかえった。
ジャスミンは戸惑いながら首を振り、静かに立ち尽くし、逃げ出す機会を伺っていた。
「助けてくれてありがとう」
ジャスミンの耳元で声がした。
今やラネッシュと名乗る男が、ジャスミンの隣にいた。
「何でもないわ」
ジャスミンは肩を竦めて言った。
「年鑑の重要性に気づいていなかったんだろう?
ジョセフが箱を開けた時、君の顔を見れば分かったよ」
「確かに、古書は宝物とは思ないわ」
ジャスミンが素っ気なく答えると、ラネッシュは笑った。
「何年も前にジョセフに会った時は、私も君の意見に賛成だっただろう。
当時はただのぼろぼろの孤児で、デルの街で盗みを働いて暮らしていた。
数冊の古書のために宮殿での生活を捨てるなんて、ジョセフは愚か者だと思っていた。
でも今は、違う気がする」
ラネッシュの鋭いヘーゼル色の目は、
周囲に群がる民に頭を下げるジョセフを見つめると、優しくなった。
「ジョセフが当然の栄誉を受けているのを見るのは嬉しい事だ。彼にはたくさんの恩義がある。
読み書きを教えてくれた。家をくれた。
盗まずに生きる術も教えてくれた――いや、ほとんどね!」
ラネッシュの白い歯がまた微笑んだ。
「陶器工場を影の憲兵団が襲って、
私達に食事を与えてくれた親切な人達が連れ去られた後、私達はよく相当な空腹になった。
時々、正直に言うと、ジョセフが知らない事は彼を傷つけないだろうと自分に言い聞かせ、
昔ながらのやり方で私達二人に食事を与えた事もあった」
「あなた達自身、襲撃を生き延びて幸運だったわね」
ジャスミンは言うと、ラネッシュの笑顔が消えた。
「影の憲兵団は地下室を見つけなかったし、火もそこを焼かなかった。でも、暖かくなった。
しばらくの間、ジョセフと私はオーブンで
アヒルのように焼かれるんじゃないかと思った――デルトラ名鑑も一緒に」
「本当にどうでもよくなったのかしら?」
ジャスミンは溜息をついた。
ジョセフが眉を上げたので、ラネッシュは慌てて付け加えた。
「そう思うよ。単なる味気ない歴史じゃないんだ、知ってるだろ、王国で何世紀にも渡って起こった出来事を日々記録しているんだ。
どの巻にも物語やスケッチ、地図がぎっしり詰まっているんだ……」
「地図?」
ジャスミンは急に警戒して尋ねた。
「もちろん。地図に興味はあるかい?」
ラネッシュは好奇心を持ってジャスミンをちらりと見て言った。
「行きたい場所への行き方が分かるならね。そして、もし私が地図を理解できるならね」
ラネッシュはニヤリと笑った。
「じゃあ、第五巻にある私のお気に入りを見てくれ。
まだ描いたばかりだけど、命懸けで頼めるよ。竜好きのドランが作ったんだ」
ラネッシュはジャスミンに、その名前に何か意味があるか確かめようとしたが、
意味がないと分かると、続けた。
「ドランはデルトラの海岸から影の王国まで探検した有名な旅人だった。
ドランは常に名鑑に手書きしていた。
図書館員が手書きするのは信用できないとドランは言っていた。
図書館員はドランの言葉を丁寧に書きすぎたり、
地図の線を綺麗に書きすぎたりして、間違いを招いてしまうからだ。
ドランは多芸で偉大な人物だった……」
ジャスミンはもう聞いていなかった。
彼女は年鑑と二人きりになる時間を稼ぐ最良の方法を急いで考え始めた。
影の王国への最速かつ最も秘密の道を見つけるには、
ドランの地図こそがまさに必要なものだった。
「ジャスミン?」
そこに、シャーンの声が聞こえ、ジャスミンは顔を上げた。
「ジャスミン、年鑑を図書館に持って行って、しばらく一緒にいてくれない?
ジョセフとラネッシュに少し休憩を取ってもらいたいけど、
ジョセフは信頼できる誰かの監視下で本が安全になるまで休まないでしょうから」
願いがこんなに早く叶った事に少し驚きながらも、ジャスミンは喜んで同意した。
あっという間にジャスミンは走り出した。
階段を上る間、城の衛兵が本棚を担いで後を追った。
シャーンはジョセフとラネッシュを台所に連れて行き、そこでは食事が用意してあった。
彼女は朝、始めた時よりもずっと軽い気持ちで仕事に戻った。
リーフは、デルトラ名鑑が思いがけず戻ってきたと聞いて、どれほど喜ぶだろうか。
ジャスミンが幸せそうにしているのを見るのも嬉しかった。
彼女は、少なくともしばらくの間は、
影の王国の囚人達の運命を案じていた悲しみから解放されたようだった。
そしてそれは、少なくともしばらくの間は、
ジャスミンが何か愚かな事をするのではないかという不安から解放されるという事だと、
シャーンは感謝の気持ちで思った。
城の衛兵が箱を置いて図書館を出て行くとすぐに、
ジャスミンはデルトラ名鑑を素早く探し、「5」と記したものを見つけた。
手に取ると、罫線がなく、乱雑な印刷で覆われたページが開いた。
ジャスミンは、この場所で何度も開かれたのだろうと推測した。
そのページには「ドラン」という署名があった。
竜好きのドランは多芸な人物だったかもしれないが、
明らかに整頓を重んじていなかった、とジャスミンは思った。
報告書と詩を走り書きし、後日、別のペンと濃いインクを使って訂正したのだ。
ジャスミンは詩の最後の言葉を読みながら、
影の王国で亡くなった母の事を思い、涙がこみ上げてきた。
しかし、この韻文には、どこか真実味を感じない気がした。
眉をひそめ、ページ全体をもう一度読み返した。
ドランの慌ただしい訂正や書き足しを見れば見るほど、
何か隠蔽の意図があるという確信が深まった。
好奇心が、まるで鬱陶しい虫のようにジャスミンの心の中でブンブンと鳴り響いた。
ジャスミンは図書館のテーブルに下ろした本を素早く整理し、第一巻を探した。
一時間後、ジョセフはラネッシュの腕に寄りかかりながら、よろよろと書斎に入ってきた。
かつての仕事場が再び訪れた喜びに、ジョセフは歓喜の声を上げた。
ジャスミンがテーブルに座っているのを見て、ジョセフは喜びに浸った。
テーブルにはデルトラ名鑑が何冊か散らばっていた。
一冊はジャスミンの前に開いており、ジャスミンは明らかにそこにメモを取っていた。
「何か探しているのか?」
ジョセフは急いで前に進みながら尋ねた。
「ありがとう。でも、その必要はないわ」
ジャスミンは急いで本を閉じ、メモを取っていた紙をポケットに押し込んだ。
彼女は椅子を後ろに押しやり、立ち上がった。
「もう行かなきゃ。やらなければならない事があるのよ」
「もちろん!」
ジョセフはジャスミンの腕を軽く叩きながら叫んだ。
「お主は先に行ってくれ。ラネッシュと私には、やらなければならない事が山ほどある。
デルトラ名鑑とその他の書物の管理のために、城に残るように言われている」
「本当にそうね」
ジャスミンは温かく言った。
ジョセフの献身が報われた事を、ジャスミンは心から喜んだ。
それに、ジョセフには多くの恩義があった。
ジャケットのポケットに入っていた紙の事を考えると、ジャスミンは興奮を抑えきれなかった。
ジャスミンは急いでドアまで行き、それから振り返った。
自分が推論した内容はほぼ正しかったが、念のため確かめておいた方がよかった。
「ジョセフ、デルトラ名鑑の執筆者が内容を変更したらそのページを切り取っても構わないの?」
「ああ、もちろんじゃ! ちょっとした訂正は許す。だが、それだけじゃ。何故聞いた?」
「特に理由はないわ」
ジャスミンは気楽に答えたが、図書館を出る頃には心臓がドキドキしていた。
今朝こっそり通り過ぎた警備員と交代した警備員に明るく頷き、
ジャスミンは寝室へと階段を駆け下りた。
荷物をまとめるのはあっという間だった。
窓の外の壁に生えている蔓は頑丈で、体を揺らして降り始めると、楽々と支えてくれた。
地面に着く寸前、クリーが警告の鳴き声を上げた。
ジャスミンは下を見て呻き声を上げた。
グロックが下に立ち、ジャスミンを睨みつけていた。
「何をしているつもりだ、お嬢ちゃん?」
グロックは唸り声を上げた。
ヴァージニア、ワソ、リーフ、ジョーカーがマリリンと共にデルに戻ったのは、
真夜中の事だった。
五人は忍者のように、台所のドアから静まり返った城へと忍び込んだ。
シャーンはテーブルに座って、ヴァージニア達を待っていた。
彼女は飛び上がり、安堵の笑みを浮かべた。
「ただいま」
「本当に来たのね! こんなに早く戻ってくると連絡があったなんて」
シャーンは急いでマリリンをストーブの傍に座らせ、熱いスープの入ったマグカップを渡した。
それから、リーフを脇に引き寄せ、ヴァージニアとワソをその前に座らせた。
「お話したい事がたくさんあるの! 素晴らしい知らせも、残念な知らせもあるけど」
「グロックを起こす。すぐに話そう」
「どうしてグロックなの? 彼と一体何の関係が……?」
「後で話す」
ジョーカーが部屋を出て行くと、リーフは低い声で言った。
「知らせを聞かせて。聞かれないように、まず悪い知らせを」
シャーンは、ストーブに寄りかかり、冷えた手を温めているマリリンに頷いた。
マリリンは弱々しく、無防備で、酷く疲れているように見えた。
城での最初の夜に恐怖を感じたら、トーラのところへ戻りたいと懇願するかもしれない。
そのような願いは断る事はできないので、絶対にさせないようにしなければならない。
「今日の午後、三階の任務についた衛兵が、
交代するはずの二人の男が眠っていて、起きようとしないのを発見したの。
何かのエールに強力な睡眠薬を混ぜたのではないかと思うわ」
リーフは、三階の事を思い出すといつも襲ってくる寒気を感じた。
「密室殺人ですって……?」
「ミステリーには、よくある事なんだけど」
ヴァージニアとワソは、密室での事件を聞いて、身震いした。
「あの密閉された部屋! 壁は……?」
シャーンはリーフの顔に心配の皺が深く刻まれるのを見て、渋々頷いた。
「レンガの間のモルタルが崩れ落ち、レンガがいくつか落ちていたわ。
でも、穴は小さく、その先の扉はしっかり閉まっていたわ。
もしかしたら、侵入者は入る前に邪魔されたのかもしれないわ」
「侵入者はいない、と願うしかない。ちゃんと直したのか?」
「もちろん」
ヴァージニアは、シャーンの言葉を反芻するように顎に手を当てた。
「犯人が部屋に入ろうとしたのは確かですけど、本当に隙間から入る必要があったのかしら?」
「どういう事なの、ヴァージニア?」
ワソがヴァージニアの言葉に身を乗り出す。
「わたくしが思うに、この事件の鍵は時間差ですわ。
衛兵達が眠らされたのは、必ずしも侵入者が壁を壊している最中とは限りませんわ。
先にエールに睡眠薬を混ぜて無力化しておけば、後はゆっくり作業ができるはずですわ」
「そうだよ。それに、レンガが崩れていたのは、中から誰かが出ようとした跡かもしれない」
ワソの声が一段と低くなる。
「もし侵入者が、わたくし達がデルに戻るよりずっと前から、
あの閉ざされた空間に潜んでいたとしたら?
密室は、外からの侵入を防ぐためじゃなく、
中にいる何かを閉じ込めるためのものだったのかもしれませんわ」
「……だとすれば、壁の穴が小さかったのは幸運だったね」
ワソは腕を組み、冷や汗を拭った。
「犯人は、無理にこじ開けて大きな音を立てるのを嫌ったんだ。
あるいは、薬で眠った衛兵が目を覚ます前に、別のもっと簡単な出口を見つけたのか。
例えば、私達がまだ気づいていない隠し通路のようなものをね」
シャーンは肘掛け椅子に座るマリリンの、項垂れている姿に目をやった。
「可哀想に。なんて酷い場所に来てしまったの! それに、こんなに幼いのに……」
「マリリンは僕達よりずっと年上なんだよ」
「あら! そういえば、いい知らせよ! デルトラ名鑑をジャスミンが返してくれたのよ」
シャーンはリーフが喜ぶだろうと思っていた。
しかし、リーフの顔に浮かんだ突然の、信じられないような喜びには、シャーンでさえ驚いた。
説明を求める前に、ジョーカーは雷のような顔でキッチンに戻っていった。
「グロックがベッドにいない!
きっと街のどこかの酒場のテーブルの下でいびきをかいてるんだろうな」
「いびきをかかせておけばいいじゃないか! もう、グロックは必要ないんだ!」
「な、何ですって!?」
その後、間もなく、ヴァージニア、ワソ、リーフ、ジョーカーを興奮気味にジョセフが迎えた。
白い髪をくしゃくしゃにし、借り物のパジャマの襞が細い脚の周りでひらひらと揺れながら、ジョセフはテーブルの上に置いてある本の一冊を掴んだ。
「陛下がこんなに早くお戻りになるとは思ってもみませんでした!」
ジョセフは叫び、ページを素早くめくった。
「お見せしなければならないものがあります! とても重要なものです」
「ジョセフ、順番に全てを見せていただきたいのですが」
「でも、今は自分の研究があって……」
背後からかすかな音が聞こえ、振り返ると、
鋭いヘーゼル色の瞳をした、ユーモラスな口元をした浅黒い男がいた。
リーフは、この男がジョセフの弟子、ラネッシュに違いないと悟った。
ジョセフとは違い、ラネッシュは図書館の奥の部屋を出る前に着替える時間を取ったのだ。
恐らく、それは二人の性格の違いを物語っていたのだろう。
ラネッシュは誰かの命令に急ぐような男ではなかった。
慎重に決断する男だった。
真の性格を知るのは難しいだろう。
まるでジョーカーのような男だ、とリーフはラネッシュを一瞥しながら思った。
ジョーカーは新入りをじっと見つめていた。
リーフは、ジョーカーがラネッシュを信用できるかどうかを見極めようとしている事を悟った。
ヴァージニアとワソは、どうやったら元の世界に帰れるのか、知りたがっていた。
「寝る前にテーブルを片付けるべきだったのは分かっている」
ジョセフは、まだ本を探しながら、お喋りしていた。
「でも、デルトラ名鑑を整理する前に棚を掃除したかったのじゃ。
図書館が酷く放置されているんじゃないかと心配じゃった。
それから、とても疲れてしまって……」
「もちろん!」
リーフは、貴重な本と二人きりになる時間を持ちたくてたまらなくなり、そう言った。
「ジョセフ、起こしてしまって申し訳ない。ラネッシュもだ。
どうかお休みください。僕達はもう……」
「ああ、これじゃ!」
ジョセフは叫んだ。
開いた本をテーブルに置き、椅子を引き出した。
「陛下、読んでください! それから……」
ジョセフは紙と鉛筆を前に出した。
「もしよければ、これでメモを取ってください。今日の午後、ジャスミンがそうしたように」
「ジャスミン?」
「あの子が読んでましたの?」
「ああ、そうじゃ! ジャスミンはデルトラ名鑑からメモを取っていたのじゃ」
「第一巻からだよ。ジャスミンがが本を閉じる前に、たまたま気づいたんだ」
(ラネッシュ、あなたなら気づくだろうね)
(あの鋭い目は、そんなに見逃さないでしょう)
リーフはジョーカーの無表情な顔を一瞥した。
ジョーカーも自分と同じように、
ジャスミンもピラの笛の事を何かで聞いた事があるのではないかと
考えているのだと分かっていた。
「さあ、陛下、読んでいただけますか――?」
開いた本を振りながらジョセフは促した。
「もちろんです、ジョセフ。ただし、あなたとラネッシュが僕達から離れてくれるならですが。
あなたを眠らせていると分かっていたら、集中できませんから」
ジョセフは躊躇い、開いた本からリーフの顔へと視線を移した。
「またすぐにお話しましょう」
リーフは付け加え、無理矢理笑顔を作った。
ついにジョセフは頷いた。
ラネッシュの袖を掴んで、弟子が自分の指示に従うように促し、一礼して立ち去った。
やがてヴァージニア、ワソ、リーフ、ジョーカーは、二人がささやく「お休み」の音と、
図書館の奥の扉が閉まる音を聞いた。
「やっと!」
リーフは息を切らして言った。
「さあ、この物語を見つけよう」
リーフはテーブルの方へと振り返った。
本は、老司書がリーフに見せたがっていた場所に開かれていた。
リーフは黄ばんだページを、小さく、精巧に整えられた活字で、苛立ちながら眺めた。
ある名前が目に留まった。
リーフは息を呑み、見つめた。
「ジョーカー、ジニー、ワソ、見ろ! 元の世界に帰れるかもしれない!」
ピラの笛の物語
遥か昔、山々の向こうに緑豊かな場所があった。
ピラと呼ばれる地。
そよ風が魔法を吹き込むその地には、嫉妬深い影が潜んでいた。
ピラの国境にあったがその地は神秘的な笛が守っていた。
その美しい音色は、その音の届く範囲でどんな悪も根を張る事ができなかった。
その笛は、その地で最も優れた演奏家であった人々の長、笛吹きによって、
朝昼晩と演奏してあった。
ある暗い冬の夜、当時の笛吹きは眠りに落ちた。
翌日、三人の偉大な音楽家が彼女の代わりを務めると申し出た。
彼らは勇敢なプリューム、美しいオーロン、そして謎めいたケラスと呼ばれていた。
三人は慣例に従い、人々の前で順番に演奏した。
プリュームの演奏は感動的で、群衆は歓声を上げた。
オーロンの音楽はあまりにも美しく、聴衆は涙を流した。
ケラスの奏でる音は、聞く者全てを驚嘆の渦に巻き込んだ。
人々が代表を選ぶ投票では、全員、同数の票を獲得した。
三人は何度も何度も対戦したが、結果は毎回同じだった。
夜が更けたが、テストは続いた。
代表に応じて三つの部族に分かれていた人々は、疲れと怒りでストレスが溜まった。
しかし、誰もが自分が笛吹きになるという選択を望み、他の部族に投票しようとはしなかった。
ついに、真夜中を過ぎて13回目で同票となった時、
三つの部族は激怒し、魔法を使って互いに侮辱し、傷つけ合った。
フード付きのマントを羽織った男が前に出た。
男は背が高かったが、力なく体を曲げていた。
まるで、音楽に明け暮れた長い昼夜に耐えかねたかのようだった。
群衆のそれぞれの部族は、彼が自分達の仲間だと考えていた。
何故なら、彼は三人全員に、自分達の仲間であるよう何度も説得してきたからだ。
「解決策がある! 出場者達に笛吹きになる栄誉を分かち合おうではないか。
笛は三つの部品でできている。プリューム、オーロン、ケラスはそれぞれ全体の一部を取ろう」
人々は疲れ果て、怒り狂っていたため、ついに同意した。
彼らはプリュームに笛の吹き口を、オーロンに中間の茎を、ケラスに端の部分を渡した。
しかし、まだ互いへの恨みが残っていたため、
三つの部族はそれぞれ自分のお気に入りのものを追いかけながら、別々の道を進んだ。
フードを被った男は満足そうに両手をこすり、日の出前の影のように姿を消した。
音楽の音もなく夜明けが訪れ、長い一日は静寂の中で過ぎていった。
三つの部族は互いに遠く離れており、
ピラの笛のどの部分も単独で演奏する事ができなかったからだ。
影がピラに忍び寄った。
木々は影に覆われ、花は萎れた。
影は少しずつ緑の野原や美しい村々を飲み込み、
刻一刻と、その内部に潜む恐ろしい力が強まっていった。
三つの部族は危険に気づいたが、手遅れだった。
影は今や彼らの間に暗い影を巻き込み、互いに近づく事はできなかった。
魔法の笛を元通りにするため。
そしてついに、自分達の土地を失った事を悟った彼らは、
最後の魔法を振り絞って脱出し、自らを救う事を余儀なくされた。
こうして、緑豊かなピラの地は影の王国となり、
人々は今もなお、太古の喪失を互いに責め合いながら、
奇妙で深い海に浮かぶ三つの島に分かれて暮らしている。
そして、永遠に分断されたピラの笛は、最早その音を聞く事はない。
「これが、ピラの笛の真相か……」
リーフはそう呟いた。
同時に、プリューム、オーロン、ケラスをバラバラにしたのは、
後の影の大王だろうとリーフは確信した。
第二部は推理要素が多くなっていますね。
ヴァージニアとワソも、そんな感じにしています。