ヴァージニアとデルトラクエスト2   作:アヤ・ノア

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ジャスミンを追いかけるため、新たな地に向かいます。
実は第一部にも名前だけ出てきた場所ですが。


第5話 骸骨山の怪物

 話を聞いたジョーカーは、テーブルから後退した。

「つまり――影の大王はデルトラと同じ策略をピラにも仕掛けた。

 人々を分裂させ、土地の守りを無力化してから侵略したのだ」

「帰れる手段など、どこにもないんですのね……」

「ピラは奴にそうさせたんだ。デルトラにいた僕達もそうだったように。

 奴は彼らの怒り、頑固さ、野心、そして弱さを利用した……」

「陛下!」

 図書館の奥から、白い人影――ジョセフがゆっくりとこちらに向かってきた。

「陛下、お許しください。しかし、忘れておりました……」

 リーフは慌てて立ち上がり、手を差し出した。

「許してくれ、ジョセフ。ピラの笛の話をしようとしたかったけど、僕は聞かなかった」

 差し出された手を握り、ジョセフの顔は熱烈な笑みで輝いた。

「では、物語を読んだのか? そこにほんの少しでも真実が含まれていると信じているのか?」

 リーフが頷くと、リーフは急ぎ足で言った。

「ピラの各部族は、笛のそれぞれの部分を大切にし、大切に保管していたに違いない。

 じゃから、もしピラが今も存在するなら、ピラの笛の三つの部分も存在するはずじゃ」

「僕もあなたと同じように確信している」

「笛がわたくし達を助けてくれる事も知っていますわ」

「要するに影の大王は、笛を恐れたからこういう風にしたんだろうね」

 ジョセフは畏敬の念に打たれ、リーフを見つめた。

「陛下、ご理解いただきたいのですが。

 敵は影の王国を今や完全に掌握しており、ピラの笛をもってしても追い出す事はできません。

 笛にできる事は、敵を弱らせる事くらいでしょう」

「分かった。恐れる事はない、ジョセフ。僕達が望むのは時間だけだ。みんなを助ける時間だ!

 でも、まずはピラの島を見つけなきゃ」

「ああ! それは、お主に言い忘れていた事じゃ!」

 ジョセフは素早くデルトラ名鑑の第5巻を手に取り、巧みに裏表紙をめくった。

 あっという間に、探していたもの、つまり一連の地図を見つけた。

 ジョセフは西の海の、遥かに大きな地図の上にある小さなスケッチを指差した。

「署名はないが、このスケッチは我らが偉大な探検家、ドランが描いたに違いない。

 下の大きな地図は確かにドランの筆跡だと分かる」

「ありがとう、ジョセフ」

 リーフの心は満たされていて、それ以上何も言えなかった。

 ヴァージニアとワソも、三つの地図を確認する。

 地図はあまりにも簡素で、ほとんど役に立たないほどだった。

 しかし、リーフにとっては少なくとも一つの事を証明していた。

 ピラの島は単なる伝説ではなく、実在するのだ。

 そして、それはヴァージニア達が発見できるという事を意味していた。

 ジョセフは満面の笑みを浮かべた。

「お役に立てて光栄じゃ」

 ジョセフは頭を下げ、振り返り、よろよろと自分の部屋へと戻った。

 

「それじゃあ、この地図を写そう。

 もしかしたら、比較できる他の地図が見つかるかもしれないからね」

 リーフは紙と鉛筆に手を伸ばし、目の前の紙束を見下ろした。

 明るい光が照らしたおかげで、

 一番上のページにジャスミンが上の紙に力強く書き込んだ跡がくぼんでいるのが見えた。

 リーフは鉛筆の先の側面を白い表面に軽くこすった。

 期待通り、表面の溝が白い線として現れ始めた。

「これはどういう意味だろう?」

「ジャスミンに聞いてみろ」

 ジョーカーはページをほとんど見ずに言った。

「バルダとジャスミンも起こす。もしこの旅に同行してくれるなら……」

「つまり、僕達に同行するのか」

 リーフは慌てて顔を上げた。

「ピラはデルトラの国王以外の者に最大の財宝を譲るとでも思っているのか?」

「その通りだ。頼み事をするのは国王だ。だが、リーフ、君も同意しなければならない。

 ジャスミンとバルダと異世界の女二人と俺の責任も取ってくれ」

 リーフは渋々頷いた。

 ジョーカーは軽くリーフの肩に触れ、リーフのもとを去った。

 

「まったく、ジョーカーもついてくると賑やかになりますわね」

「そうだね。いつか」

「いつかじゃありませんわ。絶対に」

「元の世界に返すよ」

 ラネッシュは、ジャスミンが読んでいるのは年代記の第一巻、

 まさに今、リーフが目の前に開いている本だと言っていた。

 リーフはページをめくり始め、テナ・バードソングの話の続きを見つけた。

 三人の騎士の物語、七人のゴブリン族の物語、竜の卵……。

 そして、リーフはまた何かを見つけた。

 二枚の間に小さな黒い羽根が挟まっていた。

「クリー……ですの?」

「ああ」

 リーフは、ジャスミンが読んでいる本の上に大きな黒い鳥が止まっている姿を想像した。

 ジョセフが近づいて、ジャスミンが急いで本を閉じると、

 クリーがひらひらと舞い戻る姿を想像した。

 そして、羽根が落ちて、ページの間に挟まる姿を想像した。

 リーフは開いた見開きページの物語を、次第に増していく恐怖感と共に読んだ。

 ヴァージニアとワソは、リーフを見守っていた。

 

 黄金の髪の少女

 昔々、アリスという少女がいた。

 アリスは太陽のように輝く長い金色の髪を持っていた。

 目は小さく、鼻はとても長く、耳は帽子の羽根のように高かったが、

 金色の髪はあまりにも美しく、多くの崇拝者がいた。

 アリスは皆を魅了していたが、

 一人だけ、アリスと同じように地味なロスナンという若者だけがいた。

 ある日、アリスが髪を梳かしていると、見ていた皆が喜んだ。

 すると、巨大な金色の竜が空から舞い降り、アリスを連れ去った。

 美しい崇拝者達は皆、泣き、アリスを失くしたと諦めたが、

 ロスナンは剣を取り、骸骨山の谷にある竜の洞窟まで後を追った。

 竜はロスナンを見ると、唸り声を上げ、火を吐いたが、ロズナンは毅然とした態度を貫いた。

「偉大なる竜よ、アリスを放せ! 代わりに私を連れて行け!」

 竜は実に恐ろしい声で笑い、上の木々にいたツタ織りのヒナ達さえも黙り込ませた。

「断る! 私の巣に金色の髪を敷き詰めるのか? そんなわけないだろう」

 そう言うと、竜は尻尾を振り回し、ロズナンを倒した。

 剣は役に立たず、地面に落ちた。

「逃げろ、アリス!」

 死を覚悟したロズナンは叫んだ。

 しかしアリスは落ちた剣を拾い上げ、一振りで自分の髪を切り落とした。

「持って行きなさい! でも、生かしてほしいわ」

 アリスは竜に叫び、腕いっぱいになるほど長く太い金色の絹を差し出した。

 竜はロスナンから背を向け、喜びに目を輝かせながら髪を受け取った。

「ありがとう、そうするよ」

 その時、アリスは竜の瞳の鏡に映る自分の姿を見て、

 その醜さに恐怖し、叫び声を上げて逃げ出した。

 

 アリスは竜の洞窟の奥深く、そして地底深く、ゴブリン族が棲む洞窟へと駆け込んだ。

 ロスナンもアリスの後を追ったが、アリスは止まらなかった。

 洞窟の壁には金色の光が輝き、アリスを苦しめ、失ったものを思い出したからだ。

 アリスを先頭に、ロスナンを後ろに従え、彼らは世界の下、

 太陽の見えない世界、忘却の海が這う世界を駆け抜けた。

 彼らはあまりにも遠くまで逃げたため、

 何故逃げているのかさえ忘れてしまったが、何の害も受けなかった。

 あまりにも醜かったため、ゴブリン族はアリスを仲間のゴブリン族と勘違いしたのだ。

 煌めく金色は、夕日のように輝く赤へと変化した。

 そして、煌めく虹が現れ、雨上がりの森の緑が戻ってきた。

 

 そして追跡は続いた。

 しかし、辺りが夕闇の灰色へと変わり、真夜中の闇が迫ってきた。

 アリスはこれ以上進むのが怖くなり、立ち止まった。

 するとロスナンが追いつき、抱きしめながら、世界で一番美しい娘だと言った。

 それは紛れもない真実だった。

 ロスナンは心からアリスを愛していたのだ。

 アリスはロスナンを見て、正直で勇敢で誠実な魂を見た。

 そして、アリスの心は溶けていった。

 ゴブリン族は二人の愛を見て、その力に驚嘆した。

 数人は同じ幸せを求めて地上へと旅立ったが、決して見つける事はなかった。

 しかし、二人を太陽の下で見かける事は二度となかった。

 そして、鳥だけが、地上の奥深くで、二人がその後ずっと幸せに暮らした事を知っている。

 

 リーフはしばらく考え込んで座っていた。

 その時、ドアから音が聞こえた。

 ジョーカーとバルダが険しい顔でリーフに向かって大股で歩いてきた。

 リーフは彼らが口を開く前に、何を言いに来たのか分かっていた。

「ジャスミンはいなくなったんだな?」

 彼らは驚いた様子だったが、リーフが何故それを知ったのかは尋ねなかった。

「ジャスミンのベッドはまだ寝ていないんだ。

 きっと昨日、俺が寝ている間にこっそりと出て行ったんだ。こうなる事は予想できた!

 今頃は森にいるだろう。しかも一人ぼっちで!」

 ヴァージニアは首を横に振った。

「一人ぼっちじゃないと思いますわ」

「もし僕が正しかったら、グロックもジャスミンと一緒にいる。

 そして二人は森じゃなくて、嘆きの湖でバルダが言ってた丘陵……骸骨山に行った。

 ジャスミンは影の王国への秘密の道を見つけたと思っているはずだ。地下に」

 

 マリリンは身震いして、マントをきつく体に巻き付けた。

 まだ夜明け前だったが、リーフはマリリンが震えているのは寒さではなく、

 必死に隠そうとしている不安からだと知っていた。

「怖がらなくていいよ、マリリン。待つだけでいい」

「ジョーカーは旅の準備のためにここにいる。ジョーカーが君を見守ってくれるだろう。

 そしてバルダと僕はすぐに戻ってくる」

 リーフはマリリンがどこへ行くのか尋ねない事を望んだ。

 トーラでも、骸骨山の邪悪な話を聞いた事があるかもしれない。

 マリリンが黙って頷くと、リーフは安堵の溜息を堪えた。

 ヴァージニアとワソは、ぐっと拳を握りしめた。

「こんなに早く君から離れるつもりはなかったんだ。

 でも、ジャスミンは僕以外の誰かのために戻ってくるとは思えない。

 ジャスミンを怒らせたのは僕だから」

「リーフ、分かってるわ」

 マリリンは低い声で言った。

「そして、あなたがジャスミンの視界から消えるとすぐにパニックに陥ってしまうの」

 ジャスミンの頑固さへの怒りと、ジャスミンの身の安全を案じる強い不安の間で揺れ動き、

 リーフは早く立ち去りたくてたまらなかった。

 ヴァージニアとワソも、一刻も早く元の世界に帰りたいと思った。

 しかし、リーフは一つだけ聞きたい事があった。

「マリリン、昨夜、ジョーカーと一緒に戻ってきた事を知っている人はほとんどいない。

 ほとんどの人は、まだトーラにいると思っている。

 今のところは、その考えをそのままにしておいた方が安全だ。

 僕がいない間、姿を見せないでいてくれるか? 食事は母が用意する」

 マリリンは目を上げて、リーフの不安げな視線を受け止めた。

「リーフ、私の事は心配しないで。図書室で過ごすわ」

「ああ」

 リーフは疑念を隠して微笑んだ。

 図書室の事を覚えていなかった。

 しかし、マリリンにそれを禁じる気にはなれなかった。

 

 リーフが本に挟まっていた黒い羽根を手に取り、

 ジャスミンとクリーの姿を思い浮かべていると、ヴァージニアがそっとその羽根に触れた。

 

「リーフ、その羽根……ジャスさんは、この物語を読んで、何かを決意したんですのね?」

 ヴァージニアの言葉に、リーフは沈痛な面持ちで頷きました。

「そうだと思う。この物語に出てくるアリスとロスナンは、

 地底深くへ逃げ込み、そこで幸せに暮らしたと書いてある。

 ジャスミンはきっと、骸骨山に、ピラの笛に繋がる道があると確信したんだ。

 僕に何も言わずに……」

「彼女らしいと言えば、らしいけれど……」

 ワソが肩を竦めて、リーフの顔を覗き込んだ。

「でも、あなたがさっき言った『いつか元の世界に返す』って言葉。それ、本気なんだよね?

 だったら、今は仲間割れしてる場合じゃないんじゃない?」

「分かっているよ。ジャスミンを一人にはさせない。バルダと一緒に、必ず追いかける」

 ヴァージニアは力強く頷き、服の裾をぎゅっと握りしめた。

「わたくし達も行きますわ!

 異世界の女二人、とジョーカーは言ってましたけれど、

 わたくし達はただの足手まといではありませんもの。

 ジャスミンを連れ戻して、みんなでピラの島へ向かう……

 それが、わたくし達が元の世界に帰るための、一番の近道のはずですわ!」

 リーフはその言葉に救われたように、僅かに口角を上げた。

「ありがとう、二人とも。君たちがいてくれて助かるよ」

 

 マリリンと別れながら、リーフはきっと大丈夫だと自分に言い聞かせた。

 警備員達はマリリンが禁じられた廊下に迷い込む事を許さないだろう。

 それに、ジョセフならマリリンの存在を秘密にしてくれるに違いない。

「でも、ラネッシュって人はどうなるんだろうね」

「気にしなくていい」

 ヴァージニア達は階段を駆け下りた。

 バルダと待ち合わせていた台所に近づいたとき、くぐもった叫び声が聞こえた。

 ヴァージニア達は足を速め、ドアを開けると、衝撃の光景が目に飛び込んできた。

 バルダはジンクスの襟首を掴み、揺さぶっていた。

 赤いパジャマを着て、口にはジャムを塗りたくったジンクスは、

 吠えながらバルダの足を蹴ろうとしていた。

「奴らがいなくなった事を知っていたのか、この哀れな虫め!」

 バルダは怒鳴り散らした。

「なのに何も言わないのか!」

「俺がグロックの番人か?」

 ジンクスは金切り声を上げた。

「奴はもう歳だし、醜いから、自分の事は自分でできる。

 それに、あの緑色の目のお転婆娘は……」

 バルダがジンクスを上に引っ張り上げ、

 ほとんど絞め殺そうとした時、ジンクスの声は甲高い悲鳴に途切れた。

「おやめなさい! 城が騒がしくなりますわよ!」

 バルダはくるりと振り返り、ジンクスも連れていった。

 ジンクスは目を大きく見開いた。

「陛下、お帰りになったとは知りませんでした!

 お願いですから、止めてください。暴走しました!」

「俺はまだ暴走できるぞ、ジンクス。誘惑するな。

 俺達が皆、ベルトを締めて、自分の分だけ食べているのに、

 何故食べ物を盗んでいたのか、説明してくれるか?」

「うぅ……俺は体が弱っているんですだ。

 心身を保つために、こまめに、少しずつ、美味いものを口にしないと」

「本当ですの?」

「あいつがジャムをがぶ飲みしているのを見た」

 バルダはジンクスを軽蔑の眼差しで見つめながら言った。

「窮地を逃れるために、グロックとジャスミンを裏切り者呼ばわりしたんだ」

「陛下が禁じているのに、影の王国へ向かうなんて、とんでもない間違いでした。

 彼らへの忠誠心と陛下への忠誠心の間で揺れ動いていた私が、

 眩暈がして甘いものが欲しくなったのも無理はありません」

 ジンクスはリーフに泣き言を言った。

 バルダは鼻で笑った。

 リーフはジンクスに近づいた。

「グロックとジャスミンはどこへでも自由に行けるよ」

「私達はただ、二人の安全を心配しているだけだよ。二人がどうやって行ったか知ってる?」

「教えてくれなかったんだ」

 ジンクスは、自分が病気だという事を忘れて、きっぱりと言った。

 彼の顔は怒りに満ちたしかめっ面になった。

「あの獣のようなグロックは、他人の安楽など気にしない!

 この前の試合で俺の闘蜘蛛が奴に負けて、復讐に燃えているんだ。

 一晩中、檻を叩いて眠れなかったんだ。だから俺は……」

「ジンクス!」

 リーフは苛立ちを露わにしたが興奮で声を張り上げたバルダの声がリーフの言葉を掻き消した。

「じゃあ、グロックは蜘蛛を連れて行ったのか?」

「ああ。もし何週間も留守にしたらどうする?

 あるいは二度と戻ってこなかったら? 俺は一体……?」

 ジンクスは不機嫌そうに言った。

 バルダがジンクスをドアの方へ引っ張り始めた時、バルダは甲高い声で言った。

「どこへ行くんだ? まさか、地下牢じゃないだろうな?」

「ほんの数杯のジャムです! 陛下! 彼を止めてください! 慈悲をお与えください!」

「黙れ! 地下牢に連れて行くつもりはない、この愚か者め。

 服を着て、蜘蛛に鎖をつけて。それから、俺達と一緒に来い」

 

 骸骨山への旅は、リーフにとってこれまでで最も奇妙な旅だった。

 ヴァージニア達は、リーフの後ろをついてきていた。

 バルダは、くすくす泣くジンクスを鞍の上に乗せた。

 ジンクスは長く細い鎖の端を握っていた。

 そして鎖のもう一方の端には、馬の前を走り回っていた、

 イラダチという名の、斑点のある巨大な茶色の蜘蛛を縛ってあった。

「戦う蜘蛛は負けを認めない」

 バルダは馬に乗りながらリーフに説明した。

「負けた蜘蛛は、勝者を追跡し、再び戦わせるまで休まない。

 イラダチは、機会さえあれば、グロックの蜘蛛の匂いを追って地の果てまで行くだろう。

 イラダチは、グロックとジャスミンを早く見つけられる最大の希望だ」

 リーフがジャスミンが骸骨山を目指していると信じていたのは、すぐに明らかになった。

 イラダチは躊躇う事なく、人々が畏怖の念を抱く、あの険しい峰々へと、一行を先導していた。

 その蜘蛛の足取りはあまりにも速く、荒れた地面を慎重に進む馬達は、

 イラダチについていくのがやっとだった。

 止まらざるを得なくなった時も、イラダチは猛烈に抵抗して進もうとした。

 

「うーっ! 五月蠅いですわ!」

 夜になると、ジンクスが寝ている間、

 イラダチを入れていた檻の側面を、イラダチはひっきりなしに叩き続けた。

 ジンクスも、ヴァージニア達も眠れないほどだった。

 どんなに大きな蜘蛛でも一匹であんなに騒がしい音を立てられるとは、実に驚くべき事だった。

 

 二日目、ヴァージニア達は骸骨山の最初の低く岩だらけの尾根に差し掛かった。

 馬にとって道はますます険しくなり、

 ヴァージニア達の歩調が鈍るにつれ、イラダチは鎖に力を入れた。

「歩いた方がましだ」

 馬は一時間に三度も躓いた。

「駄目だ!」

 ジンクスは悲鳴を上げた。

 彼は鞍の上で身をよじり、顔には恐怖が浮かんでいた。

「ここはグラナスが支配する場所だ! 噂は聞いていないのか?」

「もちろんだ。だが、皆も知っている。だからこの荒野には道がないのだ。

 少なくとも徒歩なら、イラダチを追う方が安全だ」

 ジンクスは反論しようと口を開いたが、言葉は出てこなかった。

 突然、目の前の茂みから灰色の影が飛び出し、鋭く黄色い歯をカチカチと鳴らした。

 馬は痛みと恐怖に叫び声を上げて後ろ足で立ち上がり、驚いた乗り手を地面に転がした。

「こいつ、誰!?」

「ウネウネしてはいないみたいですけど……」

 ヴァージニアとワソはそれを見て驚いた。

 同時に、リーフや自分に迫る危機に気づかなかった。

 

 リーフはゆっくりと我に返ると、

 自分が空き地の端の木に縛られて地面に座っている事に気づいた。

 何かが顔のすぐ近くで息を切らしていた。

 熱い息は悪臭を放っていた。

 リーフが目を開けるとニヤリと笑う顎、灰色のもつれた毛、湿って鼻を鳴らす黒い鼻が見えた。

 心が沈み込みながら、これは謎を出す怪物、グラナスに違いないと悟った。

 そして、他にもグラナスがいた。

 背後で聞こえる他の者達の呟きやクスクス笑いから、さらに数匹いた。

 視界を埋め尽くしていた怪物は後ずさりし、地面にしゃがみ込んだ。

 リーフは四体も、その怪物がいる事に気づいた。

 全員が同じ邪悪な笑みを浮かべ、時折、そのうちの一匹が不快そうに黄色い歯を鳴らした。

 リーフは何とか逃れようともがいたが、すぐに無理だと悟った。

 足首は地面に打ち込まれた杭に縛られ、

 手首は両脇に置かれた重い木の丸太に縛り付けられていた。

 剣はまだベルトに付いていたが、届かない。

 頭を回すと、ヴァージニア、ワソ、バルダ、ジンクスが、

 自分と同じように縛られているのが見えた。

 バルダはまだ激怒して叫んでいた。

 ジンクスは顎を大きく開け、恐怖で目を狂ったように見開き、

 手首にはイラダチの鎖の残骸がぶら下がっていた。

「しまった~、ですわ」

「まさか、この世界にこんな怪物がいたとはね」

 ジンクスが倒れた時、イラダチの鎖は切れたに違いない、とリーフは思った。

 イラダチはきっと、ヴァージニア達抜きでジャスミンとグロックに追いつくだろう。

 もしかしたら、もう追いついているのかもしれない。

 リーフは再び縄に抵抗したが、無駄だった。

 それはただの蔓だったが、どんなに太い縄にも劣らないほど強固だった。

 

「グラナス、放せ! さもないと、お前はもっと酷い目に遭うぞ!」

「お前ももっと酷い目に遭うぞ! ああ、怖い!」

「デルトラの王、リーフだ!」

 バルダはリーフに向かって頭を振りながら唸った。

「傷つけてはいけませんわよ!」

「我々は王なんか気にしない」

 リーダーらしき最初のグラナスが冷笑した。

「竜は去った。ここはもう俺達の山だ」

 リーフにニヤリと笑いかけ、嘲るように頭を下げた。

「だが、もしお前が王なら、俺達の20問の謎に答えてくれ。王と知恵比べをした事は一度もない」

「謎?」

「あの巨人と同じ事をおっしゃるんですのね」

 ヴァージニアは縛られながらも、グラナスを睨みつけた。

 毛むくじゃらのグラナスはニヤリと笑い、鼻を鳴らし、顎をカチカチ鳴らした。

 リーフ背筋に悪寒が走った。

 最初のグラナスが手をこすり合わせながら近づいた。

 灰色の毛が手の甲を覆っていた。

 指は針金のように細く、先端には長く黄色い爪が生え、汚れで縁取られていた。

 リーフは茫然とした恐怖に目を凝らした。

 あの手が自分の指を掴み鋭い歯が近づいてくるのを想像すると、自分の指もゾクゾクと痛んだ。

「ルールは簡単だ、国王」

 グラナスは恐ろしい笑みを浮かべながら言った。

「俺達が謎を出し、お前が答える。

 答えが間違っていたらお前から一本、そしてお前の仲間達もそれぞれ一本ずつ取る。いいか?」

 ジンクスは哀れに泣き始めた。

 リーフは平静を保とうと必死に、空き地を囲む木々で囀る鳥達の声に集中した。

 それは間違いなく、子供の頃に習ったオオツグミという鳥だった。

 有名な網状の巣が、多くの木の梢に張り巡らされていた。

 リーフはバルダの視線を感じ、深呼吸をした。

 バルダが望み薄ながらも、デルトラのベルトの宝石が今、

 ヴァージニア達を助けてくれるだろうと願っている事を、リーフは知っていた。

 心を研ぎ澄ますトパーズ、心を静めるアメジスト、力を与えるダイヤモンド……。

 リーフは唾を飲み込んだ。

「もし、答えなかったら?」

「20数える間に答えられなかったら、負けだ。そして、それぞれ指を1本ずつ出す。

 それからまた別の謎を出す。こうやって繰り返す。分かるか?」

「もー、なんて恐ろしいんですの」

「もし正解だったら?」

「その時は指は出さない。そしてまた別の謎を出す。

 20問が終わったら、お前達を解放してやろう。……できるならな。

 指が終わったら、爪先から始めるからな」

 グラナスの顔がまたもや恐ろしい笑みに裂けた。

 ジンクスの泣き声はますます大きくなった。

 

「望むところですわ!」

 巨人のなぞなぞや、いましめの谷のパズルを解いたヴァージニアなら、余裕だろう。

 ヴァージニアの自信たっぷりな表情を見たグラナスは、ヴァージニアの心を折りたいと思った。




次回はなぞなぞ大好き怪物、グラナスと対決します。
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