なんでこんな怪物なんだ! と私は思っていました。
ゆっくりと両手を前に動かし、指先を触れ合わせながら、
ウォロンは奇妙で高く、言葉のない歌を歌い始めた。
他のゴブリン族もゆっくりとそれに加わった。
音は高くなり、膨れ上がり、奇妙なほど力強く、そして命懸けだった。
「最年長のゴブリン達がくじ引きをして、誰が生贄になるかを決めるんだ。
今年はあそこにいる年老いた女のゴブリンだ」
グロックは、クレフの腕にしがみつき、歌に加わるよう促している、
背中を丸めて皺だらけのゴブリンを指差した。
クレフは眉を潜め、生贄の老婆から離れて檻の方へ歩み寄った。
生贄の老婆はグロックに首を振りながら、後を追った。
「名前はノルズ。グロックと私がここに来た時、彼らはノルズを生贄のために準備していたのよ」
ジャスミンは平坦な声で付け加えた。
「彼らの漁船が、半分溺れかけた私達を水から引き上げてくれたの。
グロックが命懸けで私を支えてくれなかったら、私はずっと前に死んでいたわ」
「命を危険に晒すとでも言うのか?」
「あんな奴に立ち向かえませんわよ」
ヴァージニアは、ダークの絵の触手を見た事で戦意を失ってしまったようだ。
「お前ら20人くらいなら守れただろう、弱虫め! 俺のお守りは溺死から守ってくれるんだぞ」
「だったら、ダークからも守ってくれるの?」
グロックは舌を唇に走らせ、黙り込んだ。
「彼らは私達を見て歓声を上げたわ。私達は歓迎されていると思っていたの。
でも、彼らが喜んでいたのは、ノルズが多くの人に愛されていて、
彼女の代わりとなる見知らぬ人を見つけたからに過ぎないのよ」
「つまり、わたくし達を生贄にするため? 冗談キツいですわよ!」
ジャスミンは群衆を見渡しながら続けた。
「私達は一人じゃないって言って、彼らを脅して解放させようとしたのよ。
まさかそれが本当だなんて! どうして私達についてきたの?」
「他に何ができたっていうんだ? 君の性格からして、グロックも巻き込もうとしてただろ!」
リーフは心の痛みを隠すように鋭く言った。
「グロックが無理矢理連れて来たのよ! やめたら止めるって脅されたのよ」
「お前は自分が何をしているか分かっていると思っていたのに。あれは俺のミスだった。
水に落ちた。金貨五枚で買った戦蜘蛛が逃げ出した。そして今、俺達はあいつの生贄だ」
「どうしてこんな危険を冒しましたの、ジャスミン?」
「『金髪の少女』は地下にゴブリンがいると語り、彼らが恐ろしい存在だと明言していたのに」
ジャスミンは頑固に首を横に振った。
「竜好きのドランという男がここに来たわ。
少なくとも二度訪れ、ドランにとってここは平和で美しい場所だったわ」
「どうしてそんなことが分かるんだ?」
「デルトラ名鑑で読んだのよ。最初の訪問の後、ドランはこの人々について詩を書いた。
二度目の訪問の後、ドランは詩の意味を隠すために詩を変えたのよ」
「どうしてだ?」
「分からないの? ドランは秘密を守りたかったの。
ドランは私達がゴブリンにとって脅威だと思っていたのよ」
「それならドランは馬鹿だな」
「そんな事を言っちゃダメ!」
ヴァージニア達は、檻の格子越しにノルズがヴァージニア達を睨みつけているのを見た。
「こんなところでドランの悪口を言ってはいけません。
ドランは遠い昔、私達の友人だったのです。ダークが成長するずっと前から」
「ババァ、あっちへ行けよ」
「彼らはドランの悪口を言ったから、放っておけなかったのです」
「ドランは伝説の人物に過ぎない。奴らが何を言おうと構わない」
「いいえ、ドランは伝説なんかじゃありません!
長髪の生き物や上から来る生き物に気をつけろと言ったのもドランではないのでしょうか?
彼らの中に、影の大王のしもべがいると言ったのもドランではないのでしょうか?
そうでなければ、どうして私達が知る事ができたのでしょう?」
「ドランは確かに実在した。そして、あなたに警告したのは正しかった」
「でも、今の私達は影の大王を本当に倒すために冒険しているんだ。
私を操った責任を取ってもらうためにね」
老若男女の二人の顔が、驚いてワソの方を向いた。
「そうよ。私達は影の王国への秘密の道を見つけるためにここに来たのよ。
私達の仲間、愛する人の多くが影の大王に捕らわれている。私達は絶対に助けるわ!
手遅れになる前に」
最後の言葉を言う時、ジャスミンの声は震えていた。
ヴァージニア、ワソ、リーフ、バルダはジャスミンの声に込められた絶望に驚き、
ちらりとジャスミンを見た。
ジャスミンは奴隷達を解放すると常に決意していた。
しかし、この強い思いは、もっと個人的なもののように思えた。
「どうして手遅れになる前に、と言ったんですの?」
ノルズの皺だらけの顔の表情は、怒りから憐れみのようなものへと変わっていた。
「もしそれが本当なら、あなたの旅はいつも無駄だったのですね。
あの洞窟は遥かな海への唯一の入り口。そしてそれはダークが封じたのです」
ジャスミンは唇を噛みながら頭を下げた。
彼女がそうすると同時に、背後の歌声が最高潮に達し、そして消え去った。
「クレフ! ノルズ! 下がれ! 生贄が始まるぞ」
ウォロンが厳しい声で叫んだ。
クレフはノルズの腕を取り、そっと引き離した。
同時に、檻の背後の彫刻を施したパネルが静かに滑り始めた。
隙間からヴァージニア達は、狭い岸辺と深紅の水面を見る事ができた。
水の向こう側では、洞窟は高く切り立った岩の自然の壁で終わり、赤く輝いていた。
そして、檻の真向かいの岩には、洞窟への入り口がぽっかりと開いていた。
檻の上部に張られたロープが水面を渡り、洞窟へと直接繋がっていた。
ヴァージニアとリーフは恐怖に襲われた。
群衆の何人かが縄の一本を掴んでいるのが見えたのだ。
檻はガタガタと揺れ、水面へと向かって動き始めた。
「やめろ! 僕達はダークに生贄を捧げるためじゃなくて、倒すために来たんだ!」
「リ、リーフ……!」
リーフの言葉に、縄を引いていたゴブリン達は躊躇った。
「あいつの言う事を聞くな! 儀式を続けるんだ!」
檻は揺れ、再び滑り始めた。
「違う! 僕達はみんなの幾多の怪物を倒してきた。その中には影の大王のしもべもいる。
早く武器を返してくれ。僕達はダークを倒す!」
再び檻の動きが止まった。
縄を引いていたゴブリン達は低い声で言い争いを始めた。
「やらせてやろう! 奴らは長髪族で、背が高く、屈強で、戦闘に長けている。武器は鋼鉄製だ。
もし奴らがダークを倒せたとしたら――我々にとってどれほどの意味があるのか考えろ!」
群衆の真ん中からアザンが叫んだ。
「駄目だ! 正気か? 長髪族を解放すれば、奴らは我々に襲いかかる。
だが、我々の力では奴ら全員を封じ込めるには足りない」
ウォロンの顔は怒りで歪んだ。
「お前たちを傷つけないと誓う!」
バルダが叫ぶと、リーフを指差した。
「これがデルトラの国王だ。リーフが身に着けている魔法のベルトがその証拠だ。
ドランからその力について何も聞かなかったのか?」
リーフがマントをめくり腰のベルトを見せると、群衆の多くは好奇心を持って前に押し寄せた。
明らかに彼らはデルトラのベルトについて聞いた事があった。
ウォロンもまた檻の格子越しに覗き込み、疑念に目を細めた。
「物語に出てくるベルトに似ている。だが、魔法の力は見当たらない」
「お前の弱々しい目は役に立たないのかもしれないな、ゴブリンめ!」
グロックはバルダが静めようとするのを無視して怒鳴った。
ウォロンの顔が硬直し、背を向けていくのを見て、リーフの心は沈んだ。
「分かったか?」
ウォロンは叫び、群衆の方を向いた。
「長髪の奴らは息をするのと同じくらい簡単に嘘をつき、騙す。
あいつが俺を何て呼んだか聞いたか?
長髪の奴らが、太古の昔、太陽を求めて旅立った裏切り者達を殺し、
その言い訳として『ゴブリン』と呼んだ事を思い出さないか?」
「ゴブリンじゃないなら、一体何なんだ?」
「わたくし達は嘘などついていませんわ、ウォロン!」
ヴァージニアは、グロックが引き起こした損害を帳消しにしようと必死に叫んだ。
「約束は守るわ! 守るだけの理由がある。洞窟を抜けて、向こう側へ行かなきゃいけないわ。
そのためには、いずれにせよダークに立ち向かわなければならないわ」
「あの二人は真実を語っていると信じています」
ノルズは震える声で言った。
皆がノルズの方を向くと、ノルズは顎を上げてさらに大きな声で続けた。
「ウォロン、あなたが何を言おうともダークから解放されるチャンスを逃すわけにはいきません。
こんなチャンスは二度と来ないかもしれないのですよ」
「もし長髪族が裏切ったら? もし逃げて、船を盗んで、海へ出て行ったら?
生贄はどうする? 最後の警告はもう受けているだろう」
「異邦人がここに来る前から、私は選ばれた生贄でした。
もし彼らが私達を裏切ったら、檻の中で彼らの代わりを務めます」
「ノルズが彼らを信頼するなら、私もそうする!」
群衆の中から甲高い声が上がった。
他にも多くの声が同調した。
しかしウォロンは眉を潜め、首を横に振った。
「ダークは絶対に倒せない。生贄は厳しいが、仕方ない事だ。苦しみは世界の在り方だ。
洞窟を封印すれば、なおさらだ。向こう側に住む者達を知る気などない」
「さあ、本題だ! 百回死んでも一人死んでも同じだ、ウォロン。何も変わらない限りは!」
クレフは檻へと駆け寄り、鍵を開け始めた。
「止めろ!」
ウォロンは怒りに震えながら叫び、手を上げた。
閃光が走り、光が暗くなり、クレフは身動きが取れなくなった。
一瞬の緊張した沈黙が訪れた。
それからノルズは孫の傍らへゆっくりと歩み寄った。
「ウォロン、クレフを解放してください。さもないと、あなたに与えた力を取り上げます」
「お前にはできない……」
「できます。そして、必ずやります」
怒りに言葉を失い、ウォロンは群衆を睨みつけた。
ウォロンはそこに支持の兆しは見えなかった。
代わりにウォロンが見たのは、怒りと決意、そして……希望だった。
ウォロンは不機嫌そうに再び手を上げた。
光は元に戻った。
クレフは軽くよろめき、身震いし、何も言わずに再び檻の扉の鍵をいじり始めた。
瞬く間に扉は開いた。
ヴァージニア、ワソ、リーフ、バルダ、ジャスミン、グロックは一人ずつ、
足を引きずりながら自由の身となった。
クレフとアザンが縛りを切ると、ヴァージニア達は安堵のため手足を伸ばした。
群衆の中にいた他の者達も武器を手にした。
「さて、どうなる事やら」
ウォロンは遠く離れて冷笑した。
「行く前に、こいつに剣を当てて温めておこう」
グロックは呟き、痙攣した手を伸ばした。
「剣はダークのために温存して!」
ジャスミンは鋭く言い、彼女は洞窟までの距離を目で測った。
「どうやって辿り着くのが一番いいんですの?」
「計画がある。檻は……」
リーフは小声で計画を話した。
「君の考えは分かっているし、俺も同感だ。だが、リーフ、君は関係ない。
高台へ行って待たなければならない」
「そんな事はできない。絶対にしない」
家で不安そうに待つマリリンの姿が頭をよぎったが、リーフはそれを振り払った。
「他に選択肢はないわ。バルダの言う通りにしなさい」
「高台へ行くか、運ばれるかだ」
「あなたを守らなきゃいけませんの」
「もう遅すぎる! 今、ここにいる誰も安全じゃない。ダークを倒さなきゃ村は滅びる。
そして、この洞窟から抜け出す道はない」
クレフ、ノルズ、アザンは不安そうにヴァージニア達を見守っていた。
今、ヴァージニア達は近づいてきた。
「これ以上遅らせるな。ダークはすぐに待ち飽きるだろう」
ヴァージニア達はまだ躊躇いがちで、リーフはヴァージニア達を挑発的に睨みつけていた。
クリーは甲高い声をあげ、羽ばたいた。
ジャスミンは警戒して顔を上げた。
「洞窟の中のものが動いているわ」
ジャスミンが警告するが、ゴブリン達は既に気づいていた。
皆、身震いして後ずさりしていた。
子供達の中には泣き始めている者もいた。
リーフはバルダを飛び越え、檻の上に飛び乗った。
「急げ!」
リーフが彼らの手を離れたのを見て、
グロック、ジャスミン、バルダ、ヴァージニア、ワソもリーフの後を追った。
「クレフ、アザン、縄を取れ! 洞窟まで引っ張ってくれ!」
リーフの叫び声を聞いたクレフとアザンが走り出すと、不快な声が水面に響いた。
低く、威嚇的な響きだった。
泡を纏った波が洞窟から押し寄せ始めた。
水が壁に跳ね上がり、開いたパネルから檻の中へと流れ込み、さらにその先へと流れ込んだ。
「分かったか? お前の反抗と、お前の祖母の愚かさが、俺達の死を招く!」
クレフは何も答えなかった。
アザンと肩を並べ、ロープを引っ張っていた。
檻は岸辺を滑り落ち、水面に到達した。
群衆の中から数人が歓声を上げた。
「松明は消えたし、洞窟は暗い。火をつけられるか?」
「ウォロンならできる。ウォロンがそうするなら。でも、ウォロンは俺達の力を全て握っている」
クレフはウォロンが怒りに震えながら立っている方へ顔を向けた。
「ウォロン、洞窟に火をつけてくれるか? もしそれが人々が望む事なら?」
「いや、つけない!」
ウォロンは怒り狂い、叫び声を上げた。
「よくもそんな事を俺に頼んだな! お前達は俺の命令に逆らったな。
お前達が愚かだったからここでみんな死ぬんだ。
そして俺はお前達を助けるために手を挙げたりしない!」
洞窟から再び恐ろしい叫び声が響き渡った。
群衆はパニックに陥り、退散した。
クレフとアザンでさえよろめきながら後ずさりし、縄は緩んでたるんだ。
しかし、ノルズは踏みとどまった。
「引き続けなさい!」
クレフとアザンは縄を掴み、再び引っ張った。
激しく揺れる檻と、その屋根にしがみついているヴァージニア達は波から引き上げられ、
岸から離れ始めた。
リーフは振り返った。
ノルズの足首に泡が渦巻き、ノルズは軽蔑に満ちた表情でウォロンを見つめていた。
彼女の声は水面にはっきりと響いた。
「ウォロン、あなたが選ばれて以来、私は疑念を抱きながらも、忠実にあなたに従ってきました。ですが今、あなたは本性を現しました。
あなた……いや、お前は暴君であり、臆病者だ! お前は……」
「老婆の舌はお前と同じくらい鋭いな、弱虫め」
「黙ってて、グロック。さもないと根こそぎ引き抜くわ!」
グロックはジャスミンにくすくす笑った。
を怒らせたことに満足したグロックは、鼻で笑って動かなくなった。
こうして、ノルズの最後の言葉がヴァージニア達の耳にはっきりと届いた。
リーフとバルダに雷のような衝撃が走った。
「ウォロン、お前への信頼は取り消しよ。
お前はプリューム族を率いる資格はない。笛吹きになる資格もない」
リーフは呆然と岸辺とそこに集まった群衆を見つめ返した。
突然、リーフはその陸地の正体を目の当たりにした――島だった。
「秘密の海だ! 見つけたのに、知らなかった! そしてあの島、あの人々は――」
「ゴブリンだ!」
「まさか! ピラの民だ!
プリュームを追ったピラの民の末裔だ。ピラの笛の吹き口の持ち主だ!」
「あの島々が外海以外の場所にあるなんて、夢にも思わなかった」
「ゴブリンの正体がピラの民だなんて知りませんでしたわ」
「ああ、誰も知らなかった。ドランは地図の下に西の海の地図を描いて、巧妙に隠蔽した。
だが、もし僕達がその話をよく考えていれば、真実を推測できたかもしれない」
「何を言っているの? どんな真実?」
リーフもバルダもジャスミンの言葉を聞いていないようだった。
「ピラの民には考える暇などなかった。影の大王が迫っていた。
彼らはすぐにでも身を隠さなければならなかった。影の大王から逃げなきゃいけなかったんだ!
だから彼らはただ大地に命じて、自分達を飲み込ませた。
そしてその下には、影の大王さえも知らなかった別の世界があった」
「何だかまるで……」
「地底空洞説みたいだね……」
片手で檻にしがみつき、リーフは地図のコピーを取り出し、それを揺すって開いた。
「あの線は潮汐線じゃない。洞窟の壁だ!」
「そうだとしたら、俺達はここにいる」
バーダはプリューム島と、それを囲む線の隙間の中間を指差した。
「そして、あの隙間がダークが封印してる洞窟だ。夜のように真っ暗だな」
リーフは地図をポケットに押し込んだ。
「もしこれに成功すれば、ピラの笛の一部が僕達のものになる!
プリューム島も僕達を信じて、他の島々への旅路を開くだろう」
「何を言っているのか全く分からないわ」
「でも、失敗したら全滅だよ」
ジャスミンとワソは目の前にぽっかりと口を開けた洞窟の方を向いた。
水は静まり、静かに岩壁に打ち寄せていた。
「ダークは檻が近づいてくる音を聞いたか、感じたかのどちらかよ。静かに生贄を待っているわ」
「それなら、ショックを受けるだろう」
グロックは言い、凶悪な笑みを浮かべ、重剣を抜いた。
「ショックを受けるのは私達の方かもしれないわ」
「この獣は小柄なゴブリンどもを怖がらせるかもしれないが、ジャリスの戦士には敵わない。
俺が一人で倒してやる」
「もし助けが必要になったら、計画を立てておいた方がいいわ。ねぇ、バルダ?」
「ダークは生贄が檻の中にいると予想しているから、恐れる事なく近づく。
そうなったら、不意打ちだ。
グロック、リーフ、ワソ、そして俺は剣を持っているから、触手は捌く。
ヴァージニアは奇跡で援護でもしてくれ。
ダークが気を取られている隙に、ジャスミン、お前が背後から攻撃する。いいか?」
リーフとジャスミンは顔を見合わせ、頷いた。
グロックは苛立ちながら鼻を鳴らした。
ヴァージニアは震えながらも頷いた。
「ダークはグルーみたいに地下に棲むから、
きっと視覚じゃなくて触覚、聴覚、あるいは嗅覚で狩りをするのよ。
でも、見なきゃいけないの。光が必要なの」
リーフは肩越しに岸辺を見た。
ノルズとウォロンはまだ言い争っていた。
群衆は躊躇いがちに洞窟の方を不安そうに見つめていた。
「ノルズが人々を説得して仲間に入らせなければ、光は消えてしまう。頼りにできない」
今、ヴァージニア達の目の前にぽっかりと穴が開いた。
檻が洞窟の口の中に落ちていくと、リーフは顔に風を感じた。
冷たく酸っぱい息が、首筋の毛を逆立たせた。
一瞬、外からの光は鈍い光に変わり、光は完全に消えた。
檻は軋み音を立てて、どろどろとした酸っぱい匂いのする暗闇の中に沈んでいった。
浅い水が底を優しく撫でていた。
辺りは静まり返り、静寂に包まれ、そして真っ暗だった。
そして暗闇の中で、何かが動き出した。
「準備完了」
リーフは息を呑んだ。
剣を持つ手は汗で滑りやすかった。
ヴァージニアとワソも何とか身構える。
ずるずるという音がした。
まるで大蛇が岩にとぐろを巻くような音だ。
そして、巨大なウナギが水中をのたうち回るかのような、繊細な波紋が聞こえた。
しかし、その音はヴァージニア達の周囲から聞こえてくるようだった。
洞窟の壁や天井に反響し、あらゆる方向から反響していたため、
どこから始まったのか見分ける事は不可能だった。
暗闇は、ずるずるという音と水しぶきで満ちていた。
ヴァージニア達は混乱の中で互いに押し合いながら、左右に顔を向けた。
「あれはどこだ? この暗闇は呪いだ!」
何かが片側の格子を突くと、檻が揺れた。
「そこだ!」
バルダが言うとほぼ同時に二度目の衝撃が襲ってきた。
今度は反対側からだった。
「動きが速い。別れるしかない。俺は――」
「駄目!」
ジャスミンの声は静かだった。
しかし、その平坦で落ち着いた口調の何かが、リーフの背筋に冷たい恐怖の筋を走らせた。
リーフが深呼吸する音が聞こえた。
「多分――」
しかし、ジャスミンは言いかけていた事を最後まで言い終えることができなかった。
ちょうどその時、洞窟の壁から赤い光が輝き始めたのだ。
光がさらに明るくなるにつれ、ヴァージニア達はダークの姿を見た。
リーフはグロックが小声で悪態をつくのを聞き、ジャスミンの目が暗くなるのを見て、
バルダの身体が硬直するのを感じ、自らの恐怖と戦った。
ダークは檻の片側でも反対側でも、ヴァージニア達の上にも下にもいなかった。
どこにでもいた。
巨大な触手が、大樹のねじれた幹のように、
壁から壁、床から天井まで、洞窟を埋め尽くしていた。
檻は突然小さく見えた。
上と周囲を巻きつく、巨大なまだら模様の渦巻に比べて、矮小化していた。
それぞれの触手の先端には、鋭い鉤の先を持つ、ぬるぬるした白い糸の束が蠢いていた。
そのうちのいくつかは、既に檻の格子の間を優雅に滑り抜けていた。
他の怪物は、水滴が滴る洞窟の壁を、まるでミミズのように這いずり、
そこから生えた触手がもがきながら所定の位置に着いていた。
そして洞窟の奥の壁、触手が動くたびにちらりと見えるのが、恐怖の核心だった。
ぬるぬるした肉塊が膨れ上がり、うねり、巨大な塊となってそこにあった。
それは、岩そのものの一部のようにも見える、古びて厚く、殻で覆われた殻から溢れ出ていた。
その怪物の小さな目は見えなかった。
醜悪な鉤状の嘴は、触手で領域を探りながら貪欲に口を開けていた。
もしかしたら、檻が空っぽである事に既に気づいていたのかもしれない。
しかし、獲物が近くにいる事は感じていた。
急いではいなかった。
逃げ場がない事を知っていたのだ。
次回、ついにダークとの対決です。
ヴァージニアとワソは、これからどうなるのでしょうか?