片割れの呪術師   作:Haruyama

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第13話 過去編_記録される"前"の彼女

――…

 

 

 ひとつ上の学年に、不思議な雰囲気を纏った先輩がいた。

 

 2年生には、憧れの夏油さんと、自他ともに認める“最強”の五条さんがいる。

 けれど、その2年生4人の中で、僕が一番親近感を覚えていたのは―― 三級呪術師の久禮田さんだった。

 

 非術師の家系出身。

 身体能力が高く、問題児揃いの2年生の中で「一番の常識人」とまで言われている人。

 

 僕は、毎日のように鍛錬をする久禮田さんを見かけていた。

 任務がない日でも欠かさず身体を動かし、努力を惜しまない。その背中が、いつの間にか僕の憧れになっていた。

 

〈久禮田さんって、日々努力されてますよね! 憧れます!〉

 

 ある日、鍛錬を終えて休憩している彼女を見かけ、思わず声をかけた。

 

〈どうしたの? 灰原君〉

〈あの……どうして、呪術師になろうと?〉

 

 不躾な質問だったのに、久禮田さんは少しも怪訝そうにせず、すぐに答えてくれた。

 

〈大切な人を救うため、かな〉

〈……大切な人?〉

〈うん。その人を救えるなら、この命を捧げたっていい〉

 

 その言葉を聞いた時、はっきりと分かった。

 久禮田さんは、強い信念を持って呪術師をしている人なんだ、と。

 

〈君にも、大切な人がいるでしょ?〉

 

 僕は、呪いが見える妹の顔を思い浮かべた。

 

〈もし、その人が呪霊に襲われそうになったら……戦うよね〉

 

 想像しただけで、身体が熱くなる。

 守らなきゃ、と思う。

 

〈だから私は強くならなきゃいけないの。大切な人を救うために〉

 

 

 

――そんな人が。

 人を殺しただなんて、どうしても信じられなかった。

 

 

 

 あんなに他人思いで、優しい人が。

 そんなことをするはずがない、と。

 

 

 

 

 

――――――

 

 葉月が任務に出て、2日が経っていた。

 

 遠方での任務。

 俺と傑の任務が重なり、単独で向かったと夜蛾先生は言っていた。

 

 

 

――どうして俺がいない時に。

 どうして俺が傍にいない時に。

 どうして、守ってやれない時に。

 

 

 任務を終えて戻った俺と、昨日帰ってきていた傑、硝子。

 その3人を前に、夜蛾先生は重く口を開いた。

 

 

「……少し、話さないといけないことがある」

「俺たちに?」

 

 先生は一度、深く息を吐いた。

 

「……落ち着いて聞け。――葉月が、任務先で一般人を皆殺しにした」

「は?」

 

 思わず零れた声は、自分でも驚くほど冷たかった。

 

「……え、葉月が……?」

 

 硝子も、傑も、理解が追いついていない顔をしている。

 

「繰り返す。葉月は地区住民を殺害し、合流予定だった一級呪術師も殺した。その後、行方をくらませた」

 

 一言一言が、重い。

 冗談じゃないことが、嫌というほど伝わってくる。

 

 

――認めたくない。

 葉月が一般人を皆殺し? ふざけんな。

 

 

「……んな訳ねぇだろ!!」

「悟」

 

 今度は、覇気を帯びた声だった。

 

「葉月が人を……あんなに他人思いで、優しい奴が……!人を殺せるわけねぇだろ!!」

 

 

 気づけば、夜蛾先生に掴みかかっていた。

 傑が必死に止めに入る。けれど、その手も震えている。

 

 

「俺も……何が何だかわからん」

 

 先生の声が、苦しそうだった。

 

 わかってる。

 先生だって信じたくない。

 

 それでも、事実は突きつけられる。

 魂が、全力で拒絶しているだけだ。

 

 堪えきれず、俺は寮へ走った。

 

 

 

 

 

 

 葉月の部屋のドアを開ける。

 

 綺麗だ。

 いつも通り、きちんと整えられている。

 

 

 

――いや、違う。

 

 

 まるで、最初から戻らないつもりだったみたいに。

 何度も来ているからわかる。

 

 

 

 この部屋には――彼女の私物が、一切なかった。

 

 

 

 

「……葉月、どこ行ったんだよ……!!」

 

 壁を殴る。

 遅れて、硝子と傑も入ってきた。

 

「……悟」

「……これは……」

 

 2人も、すぐに異変に気づいた。

 

「信じたくないけど……葉月、最初から覚悟してたのかもね」

「お前……葉月が人を殺したって、信じてんのかよ!!」

「私だって信じたくないわよ……!でも、これはおかしいでしょ」

 

 硝子は、ここ数ヶ月の葉月の様子を挙げていく。

 

 

 単独任務。怪我の増加。

 ――俺たちも、気づいてた。

 だからこそ、1人にしないようにしてたのに。

 

 

「……なんでだよ……何も言わずに、いなくなるなよ……」

 

 そこへ夜蛾先生が来て、部屋を見て言葉を失う。

 

「なぁ先生……頼む……葉月の居場所、教えてくれ!!」

 

 肩を掴み、揺さぶろうとした――その時。

 

 

 

 

 プルルルル……

 

 

 傑の携帯が鳴った。

 ディスプレイに表示された名前に、傑の目が見開かれる。

 

 【葉月】

 

 通話を取った傑は、やがて言葉を失った。

 静かに聞き入り、気づけば涙を流している。

 

 

 通話が切れる。

 

 

「傑……? 何か言ってたか?」

「……音声メモだ。3日前の」

「3日前……?」

 

 それ以上、傑は何も言わなかった。

 

 

 

――嫌な予感が、胸を締めつける。

 

「…先生。葉月が行ったやつは、どんな任務だったんだ」

「…大変な任務じゃない。合流予定の一級もいた」

 

 なのに、結果はこれだ。

 

「…先生。明日、俺たちで任務先に行く」

「……俺も行く」

「先生?」

「葉月が悩んでいて、気づけなかったなら……それも俺の責任だ」

 

 

 

 こうして、翌日。

 俺たちは、葉月の任務先へ向かうことになった。

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