《傑。
こんな形で伝えることになって、ごめんね。
私、傑のこと――ずっと好きだったよ。
高専に入学して、これから先どうなるかわからなかったけど、初めて人を好きになることが出来た。
もちろん、気づいてくれなくてもいい。
片思いで終わってもいい。
そう思ってた。
傑のことを好きになったところを、はね。
傑はよく褒めてくれて、頭を撫でてくれた。
私ね、両親を早くに亡くしていて……大人の人に頭を撫でられたこと、なかったから。
すごく嬉しかったんだ。
目が合うたび、あなたは笑ってくれた。
沢山面倒も見てくれたし、呪術のことも教えてくれた。
――……
傑。
1年半という短い時間だったけど、本当に楽しかった。
ごめんね。
卒業まで、傍にいることが出来なくて。
3日前に、傑と話したこと、覚えてるかな。
私は――信念を貫くことにする。
その人を助けに行ってくる。
そして……もし、生きて帰って来られたら。
その時は、返事、聞かせてね。
今までありがとう。
さようなら――傑。
君のことが、大好きでした》
そこで、音声メッセージは終わっていた。
表示された時間は、3日前。
――つまり、任務に出発してすぐ、このメッセージを残したのだろう。
「……葉月、まさか……」
私には、この音声が――遺書のように聞こえた。
前半は、ほとんど私への告白。
後半は――覚悟の言葉だ。
彼女は、何か強い信念を抱き、それを全うするために、全てを捨てて行動した。
それが―― 一般人を皆殺しにすることだなんて。
あまりにも、葉月の性格からかけ離れている。
「……だけど、もしあの話が事実なら……葉月は……本当に?」
翌日。
悟たちと、夜蛾先生と共に、葉月の任務先へ向かうことになった。
真実を確かめるために。
葉月が――何をしたのかを、この目で見るために。
「……葉月。死んだら、告白の返事も出来ないじゃないか」
ずるいな、君は。
私の気持ちも知らないまま、先に告白して。
君は、こうなることを予想していたのだろうか。
ねぇ、葉月。
教えてくれ。
君の声を、もう一度――。
---
―翌日―
夜蛾先生の運転する車で、俺たちは任務先の地区に到着した。
そして、目に入った光景に、言葉を失う。
地面は抉られ、建物は全壊、もしくは半壊。
遠目からでも分かるほどの破壊痕。
「立ち入り禁止」と書かれた黄色いテープだけが、無機質に風に揺れていた。
現場検証を終え、誰もいなくなった静寂の中。
不気味な風が、瓦礫の間を吹き抜ける。
俺たちは柵沿いに歩き、歪んだ隙間から地区の中へと足を踏み入れた。
「……な……」
「これ……本当に……葉月が……?」
血に染まった外壁。
無造作に転がる、小さな子供の靴。
家屋は、まるで呪霊の大群に蹂躙されたかのように崩れ、
地面は人の血と砂が混ざり、血黒く変色している。
それも、最初からその色だったかのように。
「……ねぇ、これ……」
硝子が、何かを拾い上げた。
それを見た瞬間、呼吸が止まった。
――高専の制服のボタン。
「……認めざるを得ない、か」
「先生!!」
認めたくなかった。
だが、証拠は揃っている。
この場に残る残穢も――間違いなく、葉月のものだった。
「葉月が一般人を殺す理由は何だ!!脅されて、やらされたんじゃないのか!?」
必死に考える。
彼女なら、きっと何か理由があったはずだと。
「悟」
傑が、俺を制した。
「……葉月は、もう戻ってこない」
「……」
「制服のボタンが、何よりの証拠だ。それに……悟だって、もう分かっているだろう?」
「……だけど!!」
認めたくなかった。
でも、夜蛾先生も、硝子も、傑も――事実を受け入れようとしていた。
証拠は、あまりにも十分すぎた。
「葉月は呪詛師だ。呪詛師は、殺さなければならない。
どんな理由があろうとも……一般人を殺した以上、規定通りだ」
「――」
「……もう、葉月が無実だと信じるのは、難しいんだな」
俺は、何も出来なかった。
ただ、叫ぶことしか――出来なかった。