片割れの呪術師   作:Haruyama

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第19話 終わったことにされた12年

「……で? どうして悟がここに?」

 

 七海との合同任務で目的地へ向かうため、新幹線に乗り込んだ。

 葉月は窓側、向かいには七海。

 そして――なぜか隣の席に、五条悟がいる。

 

「ん? 葉月が泊まりで任務に行くって、伊地知が言ってたから付いて来た」

「……あなたにも任務があったでしょうに」

 

 呆れたように七海が言うが、五条は聞く耳を持たず、葉月の腕に絡みついたまま離れようとしない。

 

 一方の葉月は、完全に無関心だった。

 イヤホンをつけ、会話を遮断し、窓の外へ視線を向けている。

 

「だって心配なんだも~ん!」

 

 まだ付き合って半年も経っていないんだから、イチャイチャしたいのは当然だよね、とハートでも飛ばしそうな勢いだ。

 七海は早々に相手をするのをやめ、改めて葉月を観察する。

 

(……相変わらず、五条さんの扱いが軽い)

 

 それは高専時代から変わらない。

 

 

 12年という歳月を経て、葉月の雰囲気は落ち着き、どこか達観したものになっている。

 身長も伸び、今では175は優に超えているだろう。

 五条や七海と並んでも、違和感はない。

 

 それでも髪の長さは当時のまま、一本に結われている。

 右顔面を覆う仮面と、それを隠すように調整された前髪も変わらない。

 

 

 高専時代、一度だけ仮面について尋ねたことがあった。

 だが、はぐらかされた。

 

 五条の話では、仮面を外すのは戦闘時のみ。

 それ以外では決して外さないらしい。

 さらにその仮面には、呪力を抑制する効果があるという。

 

――だから当時は、三級相当の実力に留まっていた。

 

(……やはり、昔から不思議な方だ)

 

 それでも、同期の灰原は彼女に憧れていた。

 そして彼女が「一般人を皆殺しにした」と聞かされた時、誰よりも強く否定した。

 

 そんなことをする人じゃない。

 救いたい人がいると言っていた人が、人を殺すはずがない。

 

 

「そういえば、今日はどこまで行くん?」

「知らずについて来たんですか」

「葉月が行くところなら、どこへでも~」

 

 相変わらず葉月に密着したままの五条。

 サングラス越しでも、笑っているのが分かる。

 

「鳥取です。だから東海道新幹線に乗ってるんでしょう」

「乗り換えあるじゃん」

 

 面倒くさそうに駄々をこねる五条を横目に、葉月は任務資料に目を通していた。

 

「……あぁ、あそこか」

 

 小さく漏れた呟きに、七海が反応する。

 

「久禮田さん、ご存じなんですか?」

「ん? 12年前に、任務で立ち寄ったことがあるよ」

 

 顔を上げないままの返答に、七海と五条は同時に目を見開いた。

 

「……12年前?」

「あぁ。でも一族殲滅とは無関係だよ。もう事後だったし」

 

 視線を気にすることなく、淡々と資料を読み続ける。

 

「事後……?」

「現場に着いた時には、何も残ってなかった。完全に無駄足だった記憶がある」

 

 わざわざ鳥取まで来て、観光して用事済ませて帰ったかな、と懐かしそうに言う。

 

「……そうだったんだね」

「その後は、どうなったんですか?」

 

 七海の問いに、葉月はようやく顔を上げた。

 

「そのまま帰るわけにもいかなくてさ。別件の呪霊退治をして、任務自体は完了したよ」

「「?」」

 

 話が噛み合わない。

 現場に着いた時点で終わっていたはずの任務が、なぜ成立したのか。

 

「相手は確か……一級呪霊だったかな。結構手強くて、死にかけた」

「……!」

「村の診療所で、数日治療を受けてたよ」

 

 夜蛾先生にめちゃくちゃ心配されたっけ、と軽く笑う。

 その口ぶりが、命の危機すら日常だったことを雄弁に物語っていた。

 

「……葉月、なんか……ごめんね」

「ん?」

 

 隣からの声に、葉月は五条を見る。

 

「それ、上の連中に差し向けられてたんでしょ。高専に入ってからずっと」

「そうだね。でも単独任務の時だけだし、合同ならまず無いから」

 

 それに、と言葉を続ける。

 

「高専に入る前から、ずっと狙われる立場だったし。気にしてなかったかな」

「……」

「一時期、数億単位の賞金首になったこともあったし」

「……!!」

 

 今になって明かされる事実に、2人は言葉を失う。

 

「だから悟たちが気にすることじゃないよ。もう……12年前に全部、終わったんだから」

 

 一族殲滅という形でね――

 そう付け加え、葉月は視線を逸らし、窓の外を見た。

 その手を、五条がそっと握りしめる。

 そしてそのまま、自分の頬に擦り寄せた。

 

「……葉月の手、気持ちいいねぇ」

「?」

 

 突拍子もない行動に、葉月と七海は同時に固まる。

 

「……七海くん。めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど」

「我慢してください。視界に入っている私も同じです」

 

 だが、その軽薄な仕草のおかげで、張り詰めていた空気がふっと緩んだ。

 

(……気、遣ってくれたのかな)

 

 葉月は五条を一瞥し、再び窓の外へ視線を戻す。

 新幹線は、何も知らない顔で走り続けていた。

 

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