「……で? どうして悟がここに?」
七海との合同任務で目的地へ向かうため、新幹線に乗り込んだ。
葉月は窓側、向かいには七海。
そして――なぜか隣の席に、五条悟がいる。
「ん? 葉月が泊まりで任務に行くって、伊地知が言ってたから付いて来た」
「……あなたにも任務があったでしょうに」
呆れたように七海が言うが、五条は聞く耳を持たず、葉月の腕に絡みついたまま離れようとしない。
一方の葉月は、完全に無関心だった。
イヤホンをつけ、会話を遮断し、窓の外へ視線を向けている。
「だって心配なんだも~ん!」
まだ付き合って半年も経っていないんだから、イチャイチャしたいのは当然だよね、とハートでも飛ばしそうな勢いだ。
七海は早々に相手をするのをやめ、改めて葉月を観察する。
(……相変わらず、五条さんの扱いが軽い)
それは高専時代から変わらない。
12年という歳月を経て、葉月の雰囲気は落ち着き、どこか達観したものになっている。
身長も伸び、今では175は優に超えているだろう。
五条や七海と並んでも、違和感はない。
それでも髪の長さは当時のまま、一本に結われている。
右顔面を覆う仮面と、それを隠すように調整された前髪も変わらない。
高専時代、一度だけ仮面について尋ねたことがあった。
だが、はぐらかされた。
五条の話では、仮面を外すのは戦闘時のみ。
それ以外では決して外さないらしい。
さらにその仮面には、呪力を抑制する効果があるという。
――だから当時は、三級相当の実力に留まっていた。
(……やはり、昔から不思議な方だ)
それでも、同期の灰原は彼女に憧れていた。
そして彼女が「一般人を皆殺しにした」と聞かされた時、誰よりも強く否定した。
そんなことをする人じゃない。
救いたい人がいると言っていた人が、人を殺すはずがない。
「そういえば、今日はどこまで行くん?」
「知らずについて来たんですか」
「葉月が行くところなら、どこへでも~」
相変わらず葉月に密着したままの五条。
サングラス越しでも、笑っているのが分かる。
「鳥取です。だから東海道新幹線に乗ってるんでしょう」
「乗り換えあるじゃん」
面倒くさそうに駄々をこねる五条を横目に、葉月は任務資料に目を通していた。
「……あぁ、あそこか」
小さく漏れた呟きに、七海が反応する。
「久禮田さん、ご存じなんですか?」
「ん? 12年前に、任務で立ち寄ったことがあるよ」
顔を上げないままの返答に、七海と五条は同時に目を見開いた。
「……12年前?」
「あぁ。でも一族殲滅とは無関係だよ。もう事後だったし」
視線を気にすることなく、淡々と資料を読み続ける。
「事後……?」
「現場に着いた時には、何も残ってなかった。完全に無駄足だった記憶がある」
わざわざ鳥取まで来て、観光して用事済ませて帰ったかな、と懐かしそうに言う。
「……そうだったんだね」
「その後は、どうなったんですか?」
七海の問いに、葉月はようやく顔を上げた。
「そのまま帰るわけにもいかなくてさ。別件の呪霊退治をして、任務自体は完了したよ」
「「?」」
話が噛み合わない。
現場に着いた時点で終わっていたはずの任務が、なぜ成立したのか。
「相手は確か……一級呪霊だったかな。結構手強くて、死にかけた」
「……!」
「村の診療所で、数日治療を受けてたよ」
夜蛾先生にめちゃくちゃ心配されたっけ、と軽く笑う。
その口ぶりが、命の危機すら日常だったことを雄弁に物語っていた。
「……葉月、なんか……ごめんね」
「ん?」
隣からの声に、葉月は五条を見る。
「それ、上の連中に差し向けられてたんでしょ。高専に入ってからずっと」
「そうだね。でも単独任務の時だけだし、合同ならまず無いから」
それに、と言葉を続ける。
「高専に入る前から、ずっと狙われる立場だったし。気にしてなかったかな」
「……」
「一時期、数億単位の賞金首になったこともあったし」
「……!!」
今になって明かされる事実に、2人は言葉を失う。
「だから悟たちが気にすることじゃないよ。もう……12年前に全部、終わったんだから」
一族殲滅という形でね――
そう付け加え、葉月は視線を逸らし、窓の外を見た。
その手を、五条がそっと握りしめる。
そしてそのまま、自分の頬に擦り寄せた。
「……葉月の手、気持ちいいねぇ」
「?」
突拍子もない行動に、葉月と七海は同時に固まる。
「……七海くん。めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど」
「我慢してください。視界に入っている私も同じです」
だが、その軽薄な仕草のおかげで、張り詰めていた空気がふっと緩んだ。
(……気、遣ってくれたのかな)
葉月は五条を一瞥し、再び窓の外へ視線を戻す。
新幹線は、何も知らない顔で走り続けていた。