片割れの呪術師   作:Haruyama

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第23話 殺し合えなかった双子

 目を覚ましたとき、そこに葉月の姿はなかった。

 

「……あれ? 葉月?」

 

 相変わらず、ふらりと一人でどこかへ行ってしまう。

 それが彼女の癖だと分かっていても、毎度のことながら心臓に悪い。

 

「まだ寝ていらしたんですか、五条さん」

 

 頭上から、落ち着いた七海の声が降ってくる。

 

「ねえ、葉月は? どこ行ったの?」

「散歩ですよ。どうしても“見たい場所”があると言って」

「……なんで起こしてくれないのさ」

 

 葉月のことだ。

 寝ている人間を無理に起こすのは悪い、などと考えて、そのまま放置したに違いない。

 

「何度も声はかけていましたよ。ですが、あなたが起きる気配を一切見せなかったので、諦めたようです」

 

 七海も誘われたらしい。

 だが、僕が目を覚ましたときに一人きりになっていたら、何をしでかすか分からない――そう判断して残ったのだという。

 

「……で、どこ?」

「近くの河原です」

 

 河原に何があるというのか。

 首を傾げつつ、僕は布団を抜け出し、朝食の準備をしてくれていた神主の元へ向かった。

 そこで聞かされたのは、奇妙な新興宗教団体の話だった。

 

 

「……60年周期で、“教祖となる資格”を持つ双子が生まれるそうです。その双子は4歳の時、光と闇に引き裂かれ――17歳を迎える日に、互いに殺し合う。生き残った方が教祖となり、組織を統治すると」

「……その教祖様は、今も?」

「いえ。12年前、相打ちになって死に絶えたと聞いています」

 

 正体の見えない話だ。

 だが、胸の奥に、嫌な既視感が芽生える。

 そこへ戻ってきた葉月が、あっさりと爆弾を落とした。

 

「その宗教団体ね。要するに“神の使徒”を作るために、非術師を呪霊に作り替えてたんだよ」

「……は?」

「殺すより、よっぽど効率的でしょ?」

 

 一瞬で血の気が引いた。

 同時に、ある家系の存在が脳裏をよぎる。

 

「……もしかして」

「うん。勘づいてると思った」

 

 葉月は、まっすぐこちらを見る。

 

「新興宗教団体の正体は――久禮田家。そのもの」

 

 言葉を失う僕をよそに、彼女は淡々と語る。

 

「200年前、久禮田家は呪術界を追放された。その後、新興宗教を名乗って布教を始めた。呪霊を“神の使徒”と崇め、非術師を抹殺し、呪霊が支配する世界を作る。それが最終目的」

 

信者として集めた非術師たちの肉体を使い、強制的に呪霊を宿らせる――

聞いているだけで、吐き気がする。

 

「……12年前、相打ちになった教祖様って」

「知ってるよ」

 

 葉月は懐から一枚の写真を取り出した。

 そこには、まだ幼い2人の子どもが写っている。

――葉月と髪色が同じで、どこか彼女の面影を残している双子の兄妹。

 

「……葉月が?」

「まさか」

 

 即答だった。

 

「大人たちに殺された。規則通り、殺し合えなかったから」

 

 従えない者は、一族ではない。

 そう言われ、めった刺しにされたのだという。

 

 葉月は写真を一瞥し、すぐに懐へ戻した。

 

「……そうだったんだ」

「もう過去の話。気にしてないよ」

 

 そう言って、彼女はパン、と軽く手を叩く。

 その音を合図に、重苦しかった空気が、不自然なほど和らいだ。

 

 

 だが僕は知っている。

 それが“気にしていない”者の仕草ではないことを。

 

 

 

「……でさ、葉月」

 

 僕は、いつもの調子で口を開く。

 説教というより、確認作業に近い。

 

「どうして何も言わずに出かけるの? すげー心配したんだけど」

「え? 起こしたよ。何度も」

 

 そう言って、葉月は七海の腕を掴む。

 

「証人は七海君です」

 

 その瞬間、反射的に僕は彼女の手を叩き落とし、代わりに自分の手で掴み直した。

 

「あのね。僕の前で、他の男の手を掴むとか――しちゃダメ」

「朝から独占欲が強すぎて疲れる」

「僕の独占欲、甘く見ないほうがいいよ?」

「……朝から何を言っているんですか」

「ほんと、それ」

 

 七海と葉月の呼吸が、やけに合っている。

 その様子が、どうにも気に食わない。

 

 高専時代、そこまで接点があった記憶はない。

 なのに――久しぶりに再会したと思ったら、この距離感だ。

 

「葉月、いつから七海の味方なの?」

「私、しつこい人好きじゃないからさ」

 

 肩をすくめるように、葉月は言う。

 

「悟のこと嫌いになったら、七海君に鞍替えしようかな」

 

 冗談なのか、本気なのか。

 相変わらず、判断がつかない。

 

「……もう!! 本当に“縛り”つけるよ!!」

 

 半ば本気で言っても、葉月は困ったように笑うだけだった。

 そのやり取りを挟まれている七海は、実に言葉にしづらい表情をしている。

 

「“縛り”つけたら、本当に悟のこと嫌いになるから」

 

 その一言で、僕は口を噤んだ。

 こうして、騒がしくも任務は終了し、

 3人は帰路についた。

 

 

 

________________________________________

 

――帰路

 帰りの新幹線は三列シートだった。

 窓側に僕、通路側に七海、そして葉月がその真ん中。

 

 案の定、僕は隣で爆睡している。

 にもかかわらず、葉月の腕に自分の腕を絡め、しっかり固定したまま。

 

「……これじゃ、席も立てない」

「逃げないように、がっちりですね……」

 

 隣で本を読んでいた七海が、苦笑混じりに呟く。

 

「困るなぁ……東京までこの状態は辛いよ」

 

 そう言いながらも、葉月は左手だけで器用にページをめくっている。

 そのとき、空いていた右手に、そっと触れるものがあった。

 

「……ん?」

 

 指先に絡む感触。

 気づいた瞬間、それが七海の手だと分かる。

 葉月が見上げると、七海は耳まで赤くして、視線を逸らした。

 それを見て、葉月は小さく笑い、彼の肩にそっと頭を預ける。

 

「やっぱり、君は温かいね」

 

 そう呟きながら、その手を軽く握り返した。

 

 

 

 

――眠ったままの僕だけが、

 その微妙な距離の変化に、気づかずにいた。

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