片割れの呪術師   作:Haruyama

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2018年9月
第24話 有用であれ


「今回、僕と葉月は引率できなくてね。でも安心して。信用できる後輩、呼んだから」

 

 五条に連れられ、虎杖と葉月は廊下を進む。

 扉を開けた先に立っていたのは、七海だった。

 

「“脱サラ呪術師”の七海建人くんで~す!」

「その言い方、やめてください」

 

 即座に切り返す七海に、虎杖は目を瞬かせる。

 

「呪術師って変な人多いけどさ、コイツは会社勤めしてただけあって、ちゃんとしてるんだよねぇ。葉月と同じ“一級呪術師”だし」

「他の方も、アナタには言われたくないでしょう」

「(相変わらず、この2人……コント見てるみたいだな)」

 

 息の合った応酬。

 長い付き合いゆえか、それとも――と、葉月は内心で首をかしげる。

 

「(グラサンとか目隠しとか、やたら多いな……葉月先生は別として)

 あ、えっと……脱サラって、なんで最初から呪術師にならなかったんスか?」

「まずは挨拶でしょう。初めまして、虎杖君」

「あ、はい。ハジメマシテ」

 

 几帳面な対応に、葉月は素直に感心する。

 

「私が高専で学び気づいたこと――“呪術師はクソ”ということです」

「(同感)」と、葉月が即座に相槌を打つ。

「え?」

「そして一般企業で働き気づいたこと――“労働はクソ”ということです」

「そうなのー!?」

「同じクソなら、より適性のある方を。出戻った理由なんて、そんなものです」

「暗いねぇ~」

「ねぇ~」

 

 五条と虎杖が同時に肩を落とす。

 

「虎杖君。私と五条さん、葉月さんが同じ思想だと思わないでください」

 

 七海は一度区切り、静かに言葉を選ぶ。

 

「私はこの二人を“信用”しています」

「フフン」

 

 得意げな五条。

 

「……」

 

 葉月は特に反応しない。

 

「でも五条さんに至っては、尊敬していません」

「ああん?」と露骨に不機嫌になる五条。

「へぇ」

 

 葉月は面白そうに眺めている。

 

「上のやり口は嫌いですが、私はあくまで規定側です。要するに――私はあなたを、まだ呪術師として認めていない」

 

 七海の視線が、虎杖を射抜く。

 

「宿儺という爆弾を抱えながらも、“有用である”と示し続けてください」

「……」

 

 虎杖は一瞬黙り込み、それから笑った。

 

「弱くて使えねぇってことは、最近イヤってほど思い知らされている。でも、強くならなきゃ――死に方すら選べねぇだろ」

「……」

「言われなくても、認めさせてやっからさ。もうちょい、待っててよ!」

「いえ、私ではなく、上に言ってください」

「あ、はい……」

「ぶっちゃけ、私はどうでもいい」

「はいはい!」

 

 その場の空気が、ふっと緩む。

 

 

「……見てる分には面白いんだけどね。七海君と虎杖君、真逆だから」

「葉月先生、面白がらないでください……」

 

 こうして、七海と虎杖の合同任務は始まった。

 

 

 

 

________________________________________

 

 

 虎杖を七海に託し、五条と葉月は来た道を戻る。

 

「ねぇ、葉月。また当分、任務続き?」

「上の連中、12年分まとめて投げてくるからね」

 

 追放しておいて、使えると分かれば躊躇なく酷使する。

 葉月の言葉に、五条は言い返せなくなる。

 

「……まぁ、この機会に解呪するのもアリかな」

「解呪?」

「高専時代は呪力不足で扱えなかった呪具。反動も酷かったけど……。使いこなせれば、町一つ消せると思うよ」

「……!」

 

 五条は足を止めた。

 

 葉月の異常性に触れる瞬間は、いつも唐突だ。

 それが昔からだったのか、12年で歪んだのか――五条には分からない。

 

 

「……葉月」

「ん?」

「どうして、12年も姿を消してたの?」

 

 何度も聞いてきた問い。

 だが、この時の葉月は、こちらを見ずに答えた。

 

「信念を貫くため」

「傑みたいに、“非術師を淘汰する”とか言い出さないよね?」

「そんな単純じゃない」

 

 葉月は背を向けたまま歩き出す。

 

「呪術師を特別扱いする気もないし、非術師を守るつもりもない」

「……」

「この狂った世界を変える。そのために、信念を貫くだけ」

 

 振り返ったその目は、迷いがなかった。

 

「それは――高専に入る前から、何も変わらない」

 

 五条は息を呑む。

 

「……それを聞きたかったの?」

 

 首をかしげる葉月に、五条は歩み寄り、強く抱きしめた。

 

「自己犠牲も厭わない、ってこと?」

「ある程度はね。仕方ないよ」

「僕のこと、信用してないでしょ」

「どうして?」

「悩みも相談も、頼ってくれたことない」

「……頼ってほしかったのか」

 

 どこか淡々とした声。

 

「〔人〕との関わり方、昔からよく分からないんだよ」

「……」

「機会があれば話すよ。君が知りたいこと」

 

 背中を軽く叩かれ、五条はようやく離す。

 

「本当? 包み隠さず?」

「悟が受け止められるならね」

「もちろん。だって――」

 

 額に軽く口づける。

 

「葉月を手放したくない。誰にも奪われたくない」

 

 明るさを取り戻した五条とは対照的に、

 葉月の表情はどこか冷めていた。

 

 

 

 

 

記録

2018年9月

神奈川県川崎市・キネマシネマ

上映終了後、男子高校生3名の変死体を従業員が発見。

死因:頭部変形による脳圧上昇、呼吸麻痺。

 

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