第24話 有用であれ
「今回、僕と葉月は引率できなくてね。でも安心して。信用できる後輩、呼んだから」
五条に連れられ、虎杖と葉月は廊下を進む。
扉を開けた先に立っていたのは、七海だった。
「“脱サラ呪術師”の七海建人くんで~す!」
「その言い方、やめてください」
即座に切り返す七海に、虎杖は目を瞬かせる。
「呪術師って変な人多いけどさ、コイツは会社勤めしてただけあって、ちゃんとしてるんだよねぇ。葉月と同じ“一級呪術師”だし」
「他の方も、アナタには言われたくないでしょう」
「(相変わらず、この2人……コント見てるみたいだな)」
息の合った応酬。
長い付き合いゆえか、それとも――と、葉月は内心で首をかしげる。
「(グラサンとか目隠しとか、やたら多いな……葉月先生は別として)
あ、えっと……脱サラって、なんで最初から呪術師にならなかったんスか?」
「まずは挨拶でしょう。初めまして、虎杖君」
「あ、はい。ハジメマシテ」
几帳面な対応に、葉月は素直に感心する。
「私が高専で学び気づいたこと――“呪術師はクソ”ということです」
「(同感)」と、葉月が即座に相槌を打つ。
「え?」
「そして一般企業で働き気づいたこと――“労働はクソ”ということです」
「そうなのー!?」
「同じクソなら、より適性のある方を。出戻った理由なんて、そんなものです」
「暗いねぇ~」
「ねぇ~」
五条と虎杖が同時に肩を落とす。
「虎杖君。私と五条さん、葉月さんが同じ思想だと思わないでください」
七海は一度区切り、静かに言葉を選ぶ。
「私はこの二人を“信用”しています」
「フフン」
得意げな五条。
「……」
葉月は特に反応しない。
「でも五条さんに至っては、尊敬していません」
「ああん?」と露骨に不機嫌になる五条。
「へぇ」
葉月は面白そうに眺めている。
「上のやり口は嫌いですが、私はあくまで規定側です。要するに――私はあなたを、まだ呪術師として認めていない」
七海の視線が、虎杖を射抜く。
「宿儺という爆弾を抱えながらも、“有用である”と示し続けてください」
「……」
虎杖は一瞬黙り込み、それから笑った。
「弱くて使えねぇってことは、最近イヤってほど思い知らされている。でも、強くならなきゃ――死に方すら選べねぇだろ」
「……」
「言われなくても、認めさせてやっからさ。もうちょい、待っててよ!」
「いえ、私ではなく、上に言ってください」
「あ、はい……」
「ぶっちゃけ、私はどうでもいい」
「はいはい!」
その場の空気が、ふっと緩む。
「……見てる分には面白いんだけどね。七海君と虎杖君、真逆だから」
「葉月先生、面白がらないでください……」
こうして、七海と虎杖の合同任務は始まった。
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虎杖を七海に託し、五条と葉月は来た道を戻る。
「ねぇ、葉月。また当分、任務続き?」
「上の連中、12年分まとめて投げてくるからね」
追放しておいて、使えると分かれば躊躇なく酷使する。
葉月の言葉に、五条は言い返せなくなる。
「……まぁ、この機会に解呪するのもアリかな」
「解呪?」
「高専時代は呪力不足で扱えなかった呪具。反動も酷かったけど……。使いこなせれば、町一つ消せると思うよ」
「……!」
五条は足を止めた。
葉月の異常性に触れる瞬間は、いつも唐突だ。
それが昔からだったのか、12年で歪んだのか――五条には分からない。
「……葉月」
「ん?」
「どうして、12年も姿を消してたの?」
何度も聞いてきた問い。
だが、この時の葉月は、こちらを見ずに答えた。
「信念を貫くため」
「傑みたいに、“非術師を淘汰する”とか言い出さないよね?」
「そんな単純じゃない」
葉月は背を向けたまま歩き出す。
「呪術師を特別扱いする気もないし、非術師を守るつもりもない」
「……」
「この狂った世界を変える。そのために、信念を貫くだけ」
振り返ったその目は、迷いがなかった。
「それは――高専に入る前から、何も変わらない」
五条は息を呑む。
「……それを聞きたかったの?」
首をかしげる葉月に、五条は歩み寄り、強く抱きしめた。
「自己犠牲も厭わない、ってこと?」
「ある程度はね。仕方ないよ」
「僕のこと、信用してないでしょ」
「どうして?」
「悩みも相談も、頼ってくれたことない」
「……頼ってほしかったのか」
どこか淡々とした声。
「〔人〕との関わり方、昔からよく分からないんだよ」
「……」
「機会があれば話すよ。君が知りたいこと」
背中を軽く叩かれ、五条はようやく離す。
「本当? 包み隠さず?」
「悟が受け止められるならね」
「もちろん。だって――」
額に軽く口づける。
「葉月を手放したくない。誰にも奪われたくない」
明るさを取り戻した五条とは対照的に、
葉月の表情はどこか冷めていた。
記録
2018年9月
神奈川県川崎市・キネマシネマ
上映終了後、男子高校生3名の変死体を従業員が発見。
死因:頭部変形による脳圧上昇、呼吸麻痺。