片割れの呪術師   作:Haruyama

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第28話 血は切れない

―里桜高校 校舎内―

 

 葉月は校舎に入り、虎杖の気配を辿る。

 

「(……さて、まずは合流――)」

 

 次の瞬間、葉月は短刀を抜いた。

 ガキィン、と乾いた音。

 視界の端から飛んできた一撃を、刃で弾く。

 

「……ほう。流石だね、アキ」

「……」

 

 その名で呼ばれた瞬間、葉月の空気が冷えた。

 視線の先に立っていたのは、

 全身を赤いスーツで包んだ男――創世。

 

「6年ぶりかな? 元気してた?」

「……何の用」

「久しぶりに会ったのに、相変わらず冷たいなぁ」

 

 笑顔のまま、殺気だけが漏れている。

 

「なんでそっち側にいるの?アキは生まれた時から、こっち側の人間でしょ」

「……」

「そんなに“陽の当たる場所”が居心地いい?」

「……何が言いたい」

 

 葉月の声が低くなる。

 

「アキを連れ戻すのが、僕の仕事」

「……なら」

 

 葉月は双刀を同時に抜いた。

 

「力づくで通してもらおうか。呪詛師――創世」

「まさかアキと戦えるなんて、光栄だねぇ!」

 

 創世の周囲に、無数のコウモリが現れる。

 

「式神使いか」

「ご名答」

 

 コウモリが廊下を埋め尽くす。

 

「噛みついた相手の呪力を吸う。この数、相手にできるかな?」

 

 創世は笑う。

 葉月は鼻で笑った。

 

「……なら、やってみな」

 

 彼女は腕を差し出す。

 

「この距離で、噛めるならね」

「……その余裕、へし折ってやる!!」

 

 コウモリが一斉に襲いかかる。

 

 

――だが。

 葉月に届く前に、20羽ほどが“砕けた”。

 

「……!?」

 

 何が起きたのか、創世には分からない。

 

「……こんなもん?」

 

 葉月は一歩も動いていない。

 術式を使った様子もない。

 

「……なにを――」

 

 次の瞬間、視界が反転した。

 創世は壁に叩きつけられる。

 

「……その程度で私に楯突く気?」

 

 葉月の声は淡々としている。

 

「随分、弱くなったね」

「……くそが!!」

 

 再びコウモリが放たれるが、同じ結果だった。

 

「呪力を吸う前に消える。君の呪力が減るだけだよ」

 

 葉月は窓の外へ視線を投げる。

 

 

「……暇だな」

 

 

________________________________________

 

―体育館側―

 

「ナナミン!!」

「説教は後で。状況を」

 

 七海は真人の攻撃を防ぐ。

 

「二人……助けられなかった」

「まずは自分の身体を」

「平気。穴は空いてるけど」

「平気の基準がおかしい。……葉月さんは?」

「葉月先生? 見てねぇ」

「……私より先に来ているはずですが」

「ああ……葉月?」

 

 真人が笑う。

 

「今頃、呪詛師と遊んでるよ」

「呪詛師!?」

「葉月はね、生まれながらにして“こちら側”なんだ」

 

 虎杖が言葉を失い、七海は真人を睨む。

 

「久禮田家の最高傑作。人を殺せる、殺戮者(サイコキラー)

 

 真人は楽しげだ。

 

「呪霊を内包し、僕らにとっても貴重な存在。それなのに陽の当たる場所にいるなんて、おかしいでしょ?」

 

 七海は、真人の鼻血に気づく。

 

「……虎杖君」

「ん?」

「彼に触れましたか」

「最初に殴った」

「……なるほど」

 

 七海は息を整える。

 

「私の攻撃は効きません」

「は!?」

「理由は後で。動きは止められる。連携で畳みかけましょう」

 

 七海はサングラスを直す。

 

「ここで祓います」

「おう!!」

 

 

________________________________________

 

 

 創世は、呪力切れを起こし動けなかった。

 

「……アキ……なんで……」

「君、馬鹿だね」

 

 葉月は血だらけの男に近づく。

 

「私が誰か分かった上で、奇襲したんでしょ?」

「……っ」

「生きて帰れると思った?」

 

 双刀が上がる。

 

「じゃあね、創世」

 

 

――斬。

 首が落ちる。

 

 

「柘榴。処理よろしく」

「ウィー」

 

 骨が砕ける音。

 葉月は窓を開け、飛び降りた。

 

 

________________________________________

 

 

「へぇ……終わったんだ、葉月」

 

 血に染まった白装束。

 

「創世、殺したの?」

「それが何?」

 

 真人が笑う。

 

「やっぱり人間、殺せるんだ」

「……誰が“殺戮者(サイコキラー)”だって?」

 

 空気が割れる。

 七海が解放され、真人が傷を負う。

 

「彼は、現実と理想を擦り合わせている最中です」

 

 七海の声は低く、強い。

 

「それと訂正しましょう。葉月さんは、殺戮者(サイコキラー)なんかじゃない」

「……だって事実――」

「事実を歪めるな」

 

 葉月が言う。

 

「私は“選んで”殺している。殺すことを、目的にしたことは一度もない」

 

 真人は一瞬、興味を示すが――

 

「……邪魔だな」

 

 

領域展開――自閉円頓裏

 

 

 七海が閉じ込められる。

 

 

「ナナミン!!」

「虎杖君」

「葉月先生!!」

「うん、知ってる」

 

 葉月は静かに言った。

 

「助け出そう」

 

 

 

―――

「今はただ、君に感謝を」

 

 領域内で、真人は七海にそう告げた。

 

 

――《無為転変》

 

 

「必要ありません。それはもう、大勢の方に頂きました。悔いはありません」

 

 七海は、真人の術式が魂に干渉するものであること、そして領域展開の性質を理解していた。

 だからこそ、自身の死を覚悟していた。

 

 

________________________________________

 

「私が、あの領域に穴を開ける。同時に中に入ろう」

「おう!!」

 

 葉月の指示に、虎杖が即座に頷く。

 

「……よし、行くよ」

 

 葉月は右顔面を覆う仮面に手をかけた。

 

 

 

 

ザシュッ。

 

 真人の領域の一部に、亀裂が走る。

 その隙間から、虎杖と葉月が領域内へ踏み込んだ。

 突然の乱入に、七海と真人は同時に息を呑む。

 

 

(結界術は、内側の耐性を高めるほど、外部からの干渉に弱くなる)

 

「……世の中にはさぁ、触れちゃいけないものってあるよねぇ」

 

 

 

〈言ったはずだぞ。二度はない〉

〈何人たりとも、許さない〉

 

 

ズバッ。

 

 

「「――!!」」

 

 

 

天上天下唯我独尊。

己の快・不快のみを生の指針とする存在――両面宿儺。

七海が死のうと、真人が死のうと、彼にとってはどうでもいい。

ただ一人を除いては。

 

 

 

 

器を守るためなら、何人たりとも許さない。

その器を侮辱する者は、等しく制裁の対象だ。

 

 

 

 

真人の領域は破壊され、左肩を斬られ、肘から先を失った。

 

「……何が起こったんだ?」

 

 

 虎杖には理解できなかった。

 0.1秒の空白。その間に走った思考の残滓。

 

 

――殺す。

 それだけが、明確だった。

 

 

「(絞り出せ……最後の呪力を!!)」

 

 真人の身体が変形し、肥大化する。

 今なら当たる。これが最後の好機。

 限りなく透明な殺意。

 

 

――〈逕庭拳〉

乾いた破裂音。

 

 

「(……何だ、この手応えのなさは……!?)」

 

 困惑する虎杖の背後で、七海が動いた。

 視線の先――排水溝。

 

「バイバぁ~イ」

「待て!!」

「楽しかったよ。またね、葉月」

 

 

バゴッ。

 

 

 七海が排水溝を破壊する勢いで攻撃するが、そこに真人はいなかった。

 

 

 

(呪力を追えば……まだ間に合うか?)

 

 七海は、他の呪術師へ連絡を取る。

 

「私たちも追いましょう」

 

 

ドサッ。

 

 

「虎杖君!!」

 

 虎杖が倒れた。

 

「……限界だったようですね」

「……」

「一度引きましょう。虎杖君を家入さんに。それに、先ほどの呪霊の呪力……知覚できないほど弱まっています」

「……やむを得ないか」

 

 葉月は背を向け――次の瞬間、石ころを投げた。

 

「!!」

「……で? あんたは見ているだけ?」

 

 視線の先に、特級呪霊が姿を現す。

 既に消耗しきった2人を背に、葉月は庇うように立った。

 

 

「へぇ、まだ戦えるんだァ?まぁ、確かに葉月は真人との戦いで、何もしてないもんねぇ」

「……七海君は虎杖君を連れて下がって。ここは私が」

 

 七海は逡巡したが、虎杖を抱え、その場を離れようとする。

 

「逃がすわけないでしょー。まとめて始末するよ」

 

 術式が放たれる。

 葉月は即座に左手を前へ。

 

 

 

 

爆音

砂煙

 

 

 

________________________________________

 

「……今のは……」

 

 七海は虎杖の無事を確かめ、前方の人影に気づく。

 砂煙が晴れた瞬間、言葉を失った。

 

 葉月が立っている。

 左腕が、なかった。

 

 それでも彼女は、痛みを見せず、ただ相手を見据えている。

 

 

「仲間を庇うために、己の腕を犠牲にしたか」

「……」

「……何で君は、そっち側にいるのかな?葉月。血の繋がりは切れないよねぇ。こっちで、さみしがってるよ……あの子が」

 

 

(……あの子?)

 

 

 七海は葉月の背を見る。反応はない。

 

 

「君はまた、あの子を一人にするのかい?君たちは2人で一人前だというのに」

「……言いたいことは、それだけ?」

 

 葉月は静かに言った。

 

「紅月。君は嫉妬しているんだろう。私と主従関係を結べなかったことに」

 

 紅月の呪力が荒れ、地盤が歪む。

 

「ああそうさ!! 何で僕じゃない!?他の連中より、断然使えるのに!!」

「そういう性格が、気に喰わない」

 

 葉月は仮面に手をかける。

 

「それに……現時点で宿主の肉体を傷つけた。――主従関係どころの話じゃない」

 

 

 その瞬間――鬼の形をした呪霊が顕現する。

 特級呪霊ですらない。

 むしろ、“呪物”に等しい気配。

 

 

「……葉月を傷つけたのは、誰?」

「紅月」

 

 指差した瞬間、紅月の身体が潰れた。

 遅れて、それが鬼の呪霊によるものだと理解する。

 

「……な……」

 

 頭部だけが転がる。

 

「葉月ヲ侮辱スル者ハ、容赦シナイ」

 

 鬼は葉月の肩に手を置く。

 血肉と骨が再生していく。

 

「……まさか、その“気配”……」

 

 と紅月が言いかける間もなく、鬼によって頭部を踏みつぶされた。

 

 

「……後味悪いね」

 

 鬼は虎杖を一瞥する。

 

「後ロノ子供ガ、宿儺ノ器カ」

 

 七海は身構えるが、敵意は感じられない。

 

「大丈夫。私の使役呪霊は、認めた相手には手を出さない」

 

 葉月は七海に諭すように言う。

 

「奴に悟られる前に、戻ろうか」

「久シブリニ出ラレテタノシカッタヨ、葉月」

 

 鬼は彼女の頭を撫で、体内へ戻った。

 

 

静寂。

 

 

「ん。じゃ、戻ろっか。高専に」

 

 葉月は、いつもの調子で言った。

 

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