片割れの呪術師   作:Haruyama

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第31話 千の罪より、君の隣

―東京・京都姉妹交流会―

 

――団体戦――

 

「許さんぞ乙骨憂太!会ったことねぇけどよぉ!!」

「逆恨みだな」

「しゃけ」

「……おい、来たぜ」

 

 東京校の前に姿を現したのは――

 

「あら、東京校の皆さんお揃いで。わざわざお出迎え?気色悪い」

 

 京都校二年――禪院真依。

 

「乙骨いねぇじゃん」

 

 京都校三年――東堂葵。

 

「うるせぇ。早く菓子折り出せコラ。八つ橋、葛切り、蕎麦ぼうろ」

「しゃけ」

「腹減ってんのか?」

「……何あの一年、怖……」

 

 京都校三年――西宮桃。

 

「乙骨がいないのは良いとしテ、一年が2人とは……ハンデが過ぎないカ」

 

 京都校二年――究極(アルティメット)メカ丸。

 

「ロボだ、ロボがいる!?」

「呪術師に、年齢は関係ない」

 

 京都校三年――加茂憲紀。

 

「特に伏黒君。彼は禪院家の血を引くが、宗家よりよほど出来が良い」

「チッ」

「……何か?」

「別に」

「まぁまぁ、2人とも落ち着いてください……」

 

 京都校二年――三輪霞。

 

 

「はーい、内輪揉めはそこまで。全く、この子たちは……」

 

 準一級呪術師――京都校引率、庵歌姫。

 

「元気がいいのは結構だけどね~」

 

 一級呪術師――京都校引率、二階堂弥生。

 

 

 

「で?あの五条(バカ)と葉月は?」

「悟と葉月は遅刻だ」

(バカ)が時間通り来るわけねぇだろ。

 葉月は完全に、(バカ)の我儘に巻き込まれているだけだろうけどな」

「誰も“馬鹿”が五条先生だとは言ってませんよ」

「全く……俺のお気に入りを振り回すな。あの五条(バカ)

 

 

***

 

 それからしばらくして――

 

「おっまた~!」

 

 やけにハイテンションな五条が台車を引き、その後ろで葉月が小さく欠伸をしながら歩いてくる。

 

「やぁやぁ皆さんお揃いで。ワタクシ海外出張帰りでしてねぇ、これからお土産を配りたいと思いまーす!」

「唐突だな」

「時差ボケじゃない?」

「はい、京都のみんなにはとある部族のお守り。歌姫と弥生のはないよ」

「いらねぇよ!!」

「えー、ケチ」

 

 五条はお土産を京都校の生徒たちに配る。

 

「そして東京のみんなには、こちら!」

「……ハイテンションな大人って、不気味ね」

「……」

「葉月先生が無言なの、相当ですよ」

 

 箱から飛び出したのは――

 

「はい、オッパッピー!!」

「故人の虎杖悠仁くんでーす!」

 

「「……」」

 

 一年も二年も、反応がない。

 

「全然嬉しそうじゃない!!」

「はーい京都のみなさーん。これが宿儺の器、虎杖悠仁くんですよ~」

 

「「「……」」」

 

「(京都の人たち……お土産に夢中!?)」

 

 

「ねぇ葉月、久しぶりにご飯行こうよ」

「(しかも一人、葉月先生を口説いてるし!!)」

「あー弥生?恋人の前でデートに誘うの禁止。っていうか、堂々としすぎて久々に腹立つわ」

「えー、久しぶりなんだからいいじゃん。葉月も行きたいよね?」

 

 自然に葉月の腕を掴む二階堂。

 五条は即座にその手を引き剥がし、彼女を抱き寄せる。

 

 だが葉月は、それどころではなかった。

 

「……弥生?」

「後で、いっぱい話そうね。葉月」

 

 五条の腕の中にいる彼女の頭を、二階堂は何の遠慮もなく撫でる。

 五条の嫉妬など、最初から視界にない。

 

 

「宿儺の器……!?どういうことだ……!」

 

 ただ一人、事態に動揺する者がいた。

 

「楽巖寺学長~! いやぁ良かった良かった。

 驚きすぎて死んじゃったらどうしようかと心配しましたよ」

「クソガキがぁ……!」

「(……波乱の幕開けですね)」

 

 人前だったため、葉月はすぐ五条から離れる。

 苛立ちを隠そうともしない楽巖寺の様子を見て、

 彼女は心の中で静かに笑った。

 

 

 

「おい」

「……ぁ、はい……」

「何か言うことがあるだろ」

「生きてること……黙ってて、すみませんでした……」

 

 

 虎杖悠仁――合流。

 

 

 

________________________________________

 

―中庭―

 

 五条を撒いた葉月は、二階堂の姿を探して校舎裏へと向かう。

 人の気配に誘われるように角を曲がると、ちょうど日だまりの中庭で敷物を広げ、弁当を並べている男の姿が目に入った。

 

「葉月、こっち。よかったら一緒に食べよー」

 

 気の抜けた声。

 葉月は一瞬だけ立ち止まり、それから歩み寄る。

 

「……君が、睦月の言っていた…。二階堂…弥生か」

 

 そう言って、彼の隣に腰を下ろした。二人は小・中学校が同じだった。

 もっとも“幼馴染”と呼べる関係だったのは、双子の姉――睦月と彼の方であり、葉月自身にとって二階堂は、今日が事実上の初対面に近い。

 

「葉月が復帰したって話、楽巖寺学長から聞いたよ。それと同時に――あの契約も、復活したらしい」

 

 差し出されたおにぎりを受け取りながら、葉月は視線を伏せたまま言う。

 

「……死刑執行人と死刑囚、両方を担うってやつ?」

「そうそう」

 

 それは互いが“殺す側”であり、同時に“殺される側”でもあるという意味だ。

 高専入学当初から結ばれていた契約。規律に反した場合、相手が処刑執行者となる――歪みきった相互監視。

 

「……弥生が現場に戻れたのって、いつ頃?」

「葉月が追放されてから3年後」

 

 二階堂は苦笑する。

 

「表向きには“同時に一級呪術師が殺害された”って処理されてた。その一人が、俺だった」

「……」

「ほとぼりが冷めるまで3年間停学。その後、復学してからは京都校に居座ってる」

「……そう」

 

 短い返答。

 沈黙を破るように、二階堂は葉月を抱き寄せた。

 

「間に合わなくて、ごめんな」

 

 その声は、悔恨に満ちていた。

 

「12年間、ずっと探してた。もっと早く上の動きに気づいていれば……2人に、あんな重荷を背負わせずに済んだのに」

「……睦月は、どのみち消される運命だったと思う」

 

 二階堂が息を呑む。

 

「だから――身の回りの物を全部整理して、高専には二度と戻らない覚悟を決めてた」

 

 極秘任務を言い渡された時点で、睦月は自分の行き着く先を理解していたのだろう。

 だからこそ、限られた時間を丁寧に生きていた。

 

「……連中に殺されるとは、思ってなかったんじゃないか?」

「……どうだろう。今となっては、分からない」

 

 一族殲滅は計画の範囲内だった。

 犠牲も覚悟していた。

 だが――睦月が“一族の手”で殺されることだけは、葉月にとって完全に想定外だった。

 

 

「……結果的に、葉月が手を下したんだな」

「そうだね。目障りだったから、抹殺した」

 

 淡々とした声。

 呪術を使ったことで残穢が残り、それが決定打となって葉月は追放された。

 

「……宗家も分家も、全員?」

「あの場にいた奴全員。正直、区別はついてない」

「非術師も含まれてたかもね」

 

 そう付け加えると、二階堂はそっと彼女の頭を撫でた。

 

「まぁ、俺は気にしないけどさ。今でも――呪詛師として活動してるんだろ? 望みを叶えるために」

「まぁね」

「どのくらい、やった?」

「……国内外で、千は超えたかな」

 

 平然と語るその数字に、二階堂は思う。

 

 これは五条たちには、受け止めきれない。

 おそらく葉月は、恋人である五条にすべてを語っていない。

 いや――“12年前の葉月”と、“今ここにいる葉月”が別人であること自体、彼らは知らない。

 

 二階堂は、本人が望まないことはしない。

 だが――嘘によって彼女が削れていく姿も、見たくはなかった。

 

 

「……なぁ、葉月」

「……ん?」

「五条のこと、好きか?」

「……どうだろうね」

 

 少し考えてから、葉月は言葉を選ぶ。

 

「地下牢生活が長すぎて、人との関わりを断たれてた。睦月との《視覚》・《聴覚》共有があったとしても、“誰かを好きになる”って感情自体が欠落してる」

「……」

「五条の隣にいるのは、〔睦月の願い〕を叶えるため。彼女が望まなければ、私は彼らと出会うこともなかった」

「……」

「それに、向こうが好きなのは“12年前の葉月”であって、今の私じゃない」

「それは違う」

 

 即答だった。

 

「少なくともアイツは、“あの頃の葉月”も、“今ここにいる葉月”も、心底惚れてる」

 

 葉月は言葉を失う。

 

「だからさ……もう少し、向き合ってやれよ。最強を豪語する奴に守られるの、嫌かもしれないけど」

 

 そう言って、二階堂は葉月の頬をつねった。

 

「葉月は、もっと幸せを望んでいい。むしろ――睦月だって、そう望んでる。もちろん、俺も」

「……」

「自分だけが不幸になるなよ。お前の悪い癖だ、自己犠牲は」

「……さすが幼馴染。お見通しだね」

「だろ? 今でも五条に嫉妬されるくらいだし」

 

 振り返ると、案の定、不貞腐れた五条が立っていた。

 

「弥生! 僕の彼女に何してるの! てか近い!!」

「葉月が一人で寂しそうにしてたから誘っただけ」

「そうそう、誘われた」

 

 五条は強引に葉月を引き寄せる。

 

「葉月、僕の彼女だって自覚ある?」

「久しぶりの再会だったから、つい」

「……てか、2人って昔から仲良かったっけ?」

「小中一緒の幼馴染」

「威張るなよ」

「ガキだなぁ、五条」

「うるさい!」

「子供なのは事実だと思うけど」

「もう! 葉月はどっちの味方なの!」

「……今回は、弥生かな」

「一本取られた~」

 

 騒ぐ二人を見て、葉月はぎこちなく笑っていた。

 

「……今からでも、ゆっくり築けばいいさ」

「……そう、だね」

 

 葉月は、小さく頷いた。

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