―東京・京都姉妹交流会―
――団体戦――
「許さんぞ乙骨憂太!会ったことねぇけどよぉ!!」
「逆恨みだな」
「しゃけ」
「……おい、来たぜ」
東京校の前に姿を現したのは――
「あら、東京校の皆さんお揃いで。わざわざお出迎え?気色悪い」
京都校二年――禪院真依。
「乙骨いねぇじゃん」
京都校三年――東堂葵。
「うるせぇ。早く菓子折り出せコラ。八つ橋、葛切り、蕎麦ぼうろ」
「しゃけ」
「腹減ってんのか?」
「……何あの一年、怖……」
京都校三年――西宮桃。
「乙骨がいないのは良いとしテ、一年が2人とは……ハンデが過ぎないカ」
京都校二年――究極(アルティメット)メカ丸。
「ロボだ、ロボがいる!?」
「呪術師に、年齢は関係ない」
京都校三年――加茂憲紀。
「特に伏黒君。彼は禪院家の血を引くが、宗家よりよほど出来が良い」
「チッ」
「……何か?」
「別に」
「まぁまぁ、2人とも落ち着いてください……」
京都校二年――三輪霞。
「はーい、内輪揉めはそこまで。全く、この子たちは……」
準一級呪術師――京都校引率、庵歌姫。
「元気がいいのは結構だけどね~」
一級呪術師――京都校引率、二階堂弥生。
「で?あの
「悟と葉月は遅刻だ」
「
葉月は完全に、
「誰も“馬鹿”が五条先生だとは言ってませんよ」
「全く……俺のお気に入りを振り回すな。あの
***
それからしばらくして――
「おっまた~!」
やけにハイテンションな五条が台車を引き、その後ろで葉月が小さく欠伸をしながら歩いてくる。
「やぁやぁ皆さんお揃いで。ワタクシ海外出張帰りでしてねぇ、これからお土産を配りたいと思いまーす!」
「唐突だな」
「時差ボケじゃない?」
「はい、京都のみんなにはとある部族のお守り。歌姫と弥生のはないよ」
「いらねぇよ!!」
「えー、ケチ」
五条はお土産を京都校の生徒たちに配る。
「そして東京のみんなには、こちら!」
「……ハイテンションな大人って、不気味ね」
「……」
「葉月先生が無言なの、相当ですよ」
箱から飛び出したのは――
「はい、オッパッピー!!」
「故人の虎杖悠仁くんでーす!」
「「……」」
一年も二年も、反応がない。
「全然嬉しそうじゃない!!」
「はーい京都のみなさーん。これが宿儺の器、虎杖悠仁くんですよ~」
「「「……」」」
「(京都の人たち……お土産に夢中!?)」
「ねぇ葉月、久しぶりにご飯行こうよ」
「(しかも一人、葉月先生を口説いてるし!!)」
「あー弥生?恋人の前でデートに誘うの禁止。っていうか、堂々としすぎて久々に腹立つわ」
「えー、久しぶりなんだからいいじゃん。葉月も行きたいよね?」
自然に葉月の腕を掴む二階堂。
五条は即座にその手を引き剥がし、彼女を抱き寄せる。
だが葉月は、それどころではなかった。
「……弥生?」
「後で、いっぱい話そうね。葉月」
五条の腕の中にいる彼女の頭を、二階堂は何の遠慮もなく撫でる。
五条の嫉妬など、最初から視界にない。
「宿儺の器……!?どういうことだ……!」
ただ一人、事態に動揺する者がいた。
「楽巖寺学長~! いやぁ良かった良かった。
驚きすぎて死んじゃったらどうしようかと心配しましたよ」
「クソガキがぁ……!」
「(……波乱の幕開けですね)」
人前だったため、葉月はすぐ五条から離れる。
苛立ちを隠そうともしない楽巖寺の様子を見て、
彼女は心の中で静かに笑った。
「おい」
「……ぁ、はい……」
「何か言うことがあるだろ」
「生きてること……黙ってて、すみませんでした……」
虎杖悠仁――合流。
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―中庭―
五条を撒いた葉月は、二階堂の姿を探して校舎裏へと向かう。
人の気配に誘われるように角を曲がると、ちょうど日だまりの中庭で敷物を広げ、弁当を並べている男の姿が目に入った。
「葉月、こっち。よかったら一緒に食べよー」
気の抜けた声。
葉月は一瞬だけ立ち止まり、それから歩み寄る。
「……君が、睦月の言っていた…。二階堂…弥生か」
そう言って、彼の隣に腰を下ろした。二人は小・中学校が同じだった。
もっとも“幼馴染”と呼べる関係だったのは、双子の姉――睦月と彼の方であり、葉月自身にとって二階堂は、今日が事実上の初対面に近い。
「葉月が復帰したって話、楽巖寺学長から聞いたよ。それと同時に――あの契約も、復活したらしい」
差し出されたおにぎりを受け取りながら、葉月は視線を伏せたまま言う。
「……死刑執行人と死刑囚、両方を担うってやつ?」
「そうそう」
それは互いが“殺す側”であり、同時に“殺される側”でもあるという意味だ。
高専入学当初から結ばれていた契約。規律に反した場合、相手が処刑執行者となる――歪みきった相互監視。
「……弥生が現場に戻れたのって、いつ頃?」
「葉月が追放されてから3年後」
二階堂は苦笑する。
「表向きには“同時に一級呪術師が殺害された”って処理されてた。その一人が、俺だった」
「……」
「ほとぼりが冷めるまで3年間停学。その後、復学してからは京都校に居座ってる」
「……そう」
短い返答。
沈黙を破るように、二階堂は葉月を抱き寄せた。
「間に合わなくて、ごめんな」
その声は、悔恨に満ちていた。
「12年間、ずっと探してた。もっと早く上の動きに気づいていれば……2人に、あんな重荷を背負わせずに済んだのに」
「……睦月は、どのみち消される運命だったと思う」
二階堂が息を呑む。
「だから――身の回りの物を全部整理して、高専には二度と戻らない覚悟を決めてた」
極秘任務を言い渡された時点で、睦月は自分の行き着く先を理解していたのだろう。
だからこそ、限られた時間を丁寧に生きていた。
「……連中に殺されるとは、思ってなかったんじゃないか?」
「……どうだろう。今となっては、分からない」
一族殲滅は計画の範囲内だった。
犠牲も覚悟していた。
だが――睦月が“一族の手”で殺されることだけは、葉月にとって完全に想定外だった。
「……結果的に、葉月が手を下したんだな」
「そうだね。目障りだったから、抹殺した」
淡々とした声。
呪術を使ったことで残穢が残り、それが決定打となって葉月は追放された。
「……宗家も分家も、全員?」
「あの場にいた奴全員。正直、区別はついてない」
「非術師も含まれてたかもね」
そう付け加えると、二階堂はそっと彼女の頭を撫でた。
「まぁ、俺は気にしないけどさ。今でも――呪詛師として活動してるんだろ? 望みを叶えるために」
「まぁね」
「どのくらい、やった?」
「……国内外で、千は超えたかな」
平然と語るその数字に、二階堂は思う。
これは五条たちには、受け止めきれない。
おそらく葉月は、恋人である五条にすべてを語っていない。
いや――“12年前の葉月”と、“今ここにいる葉月”が別人であること自体、彼らは知らない。
二階堂は、本人が望まないことはしない。
だが――嘘によって彼女が削れていく姿も、見たくはなかった。
「……なぁ、葉月」
「……ん?」
「五条のこと、好きか?」
「……どうだろうね」
少し考えてから、葉月は言葉を選ぶ。
「地下牢生活が長すぎて、人との関わりを断たれてた。睦月との《視覚》・《聴覚》共有があったとしても、“誰かを好きになる”って感情自体が欠落してる」
「……」
「五条の隣にいるのは、〔睦月の願い〕を叶えるため。彼女が望まなければ、私は彼らと出会うこともなかった」
「……」
「それに、向こうが好きなのは“12年前の葉月”であって、今の私じゃない」
「それは違う」
即答だった。
「少なくともアイツは、“あの頃の葉月”も、“今ここにいる葉月”も、心底惚れてる」
葉月は言葉を失う。
「だからさ……もう少し、向き合ってやれよ。最強を豪語する奴に守られるの、嫌かもしれないけど」
そう言って、二階堂は葉月の頬をつねった。
「葉月は、もっと幸せを望んでいい。むしろ――睦月だって、そう望んでる。もちろん、俺も」
「……」
「自分だけが不幸になるなよ。お前の悪い癖だ、自己犠牲は」
「……さすが幼馴染。お見通しだね」
「だろ? 今でも五条に嫉妬されるくらいだし」
振り返ると、案の定、不貞腐れた五条が立っていた。
「弥生! 僕の彼女に何してるの! てか近い!!」
「葉月が一人で寂しそうにしてたから誘っただけ」
「そうそう、誘われた」
五条は強引に葉月を引き寄せる。
「葉月、僕の彼女だって自覚ある?」
「久しぶりの再会だったから、つい」
「……てか、2人って昔から仲良かったっけ?」
「小中一緒の幼馴染」
「威張るなよ」
「ガキだなぁ、五条」
「うるさい!」
「子供なのは事実だと思うけど」
「もう! 葉月はどっちの味方なの!」
「……今回は、弥生かな」
「一本取られた~」
騒ぐ二人を見て、葉月はぎこちなく笑っていた。
「……今からでも、ゆっくり築けばいいさ」
「……そう、だね」
葉月は、小さく頷いた。