片割れの呪術師   作:Haruyama

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第32話 結界の綻び

―観覧席にて―

 

 五条、二階堂、葉月は連れ立って、教員たちが集まる観覧席の部屋へ入った。

 五条が椅子に腰を下ろすや否や、庵が苛立ちを隠さず声をかける。

 

「それで、話って何?」

「ん? 何でキレてんの」

「別にキレてないけど」

「だよねぇ。僕、何もしてないし」

「……っ、本気で謎なんだけど! 何でこんな奴に恋人がいるのよ!」

「それは僕がグッドルッキングガイだからに決まってるでしょ。ね、葉月」

「それはない」

「ないわ」

「当事者に完全否定されてるぞ、五条」

「……」

 

 五条は一瞬だけ口を噤み、空気を切り替えるように言った。

 

「高専の中にね、呪詛師――もしくは呪霊と通じてる奴がいる」

 

 唐突な本題に、庵の反応が一拍遅れる。

 

「……っ!? ありえないでしょ! 呪詛師ならまだしも、呪霊と!?」

「最近さ、そのレベルの案件がゴロゴロ出てきてるんだよねぇ。本人は“呪詛師とだけ”繋がってるつもりでも、実際はその先がいる」

 

 五条は軽い調子のまま続ける。

 

「京都側の調査、歌姫と弥生に任せたい」

「俺もか」

「……私が内通者だったら、どうするの?」

 

 葉月の問いに、五条は即答した。

 

「ないない。歌姫弱いし、そんな度胸もないでしょ」

 

 次の瞬間、庵の手元から湯呑が飛んだ。

 だが無下限に弾かれ、床に落ちる。

 

「怖っ。ヒスはモテないよ? 葉月を見習いな?」

「私の方が先輩なのよ!!」

「俺もね~」

「学年上でも、弥生は後輩でしょ」

 

 3年の停学――その事実が、卒業年次を狂わせていた。

 

「うっせぇ、停学なめんなよ」

 

 

(……何これ。コント?)

 

 どうやら呪術師という生き物は、異様にコントが得意らしい。

 葉月はそのやり取りを眺めながら、どこか遠い目をしていた。

 

 

________________________________________

 

 交流会が始まり、生徒たちは各所で火花を散らしている。

 戦況は、冥冥の使役する動物との視覚共有により、モニターに映し出されていた。

 

「フフ……面白い子じゃないか。さっさと二級にでも上げてやればいいものを」

「僕もそう思ってるんだけどさ。禪院家が邪魔してる臭いんだよねぇ」

「金以外のしがらみは理解できないな」

「相変わらず守銭奴ねぇ」

「……それよりさ、さっきから虎杖君の映像、よく途切れるよね」

「ねぇ~」

「動物は気まぐれだからね。視覚共有は疲れるし」

「へぇ。本当かなぁ。冥さん、ぶっちゃけどっち側?」

 

 冥冥は微笑みながら答える。

 

「どっち? 私は金の味方よ。金に換えられないものに価値はないでしょう?」

「……いくら積んだんだか」

 

 五条は楽巖寺に視線を向ける。

 

「それよりさ。ここに“元・呪詛師”がいるの、正直不愉快だよね」

 

 冥冥の視線が葉月に向く。

 だが葉月は気にも留めず、手元の本に視線を落としていた。

 

「復職且つ一級術師とはね……しかも高専は途中退学だろう?」

「その件は、大方片がついている」

 

 楽巖寺の言葉に、葉月は鼻で笑った。

 

「無実の罪で追放しといて。17の人生奪っておいて、よく言う」

「……っ」

「無実の罪? どういうことだい、五条」

「あー。多分それが真実だよ。葉月は12年前、上の連中に嵌められて追放された」

 

 場に沈黙が落ちる。

 当時の関係者が揃っていたからこそ、誰もが疑念を抱いていた事件。

 

「……一般人を殺していないと?」

「今更感すごいけどね。まぁ地位は手に入ったし、呪術師に狙われにくくなっただけマシかな」

 

 皮肉に、楽巖寺は舌打ちし、夜蛾は静かに息を吐いた。

 

 

________________________________________

 

 その時、壁の呪符が一斉に赤く燃え上がる。

 

 赤――東京校。

 

 

「ようやく動いたね~」

「一対一? みんなゲームに興味なさすぎじゃない?」

「そういや、再会したのも交流戦だったな」

「確かに」

「一年の葉月が、俺の後ろにずっと隠れててさ」

「……え、葉月? 弥生とそんなことしてたの?」

 

 五条の嫉妬をよそに、二階堂は懐かしそうに笑う。

 

「はぐれて置いてきぼりだったから、一緒に回ってたんだよ」

 

 葉月は興味なさげに窓の外を見る。

 

「暇だから、お茶してたのが懐かしい」

「交流会中に何してんのよ」

 

「……何で仲良くできないのかしら」

「歌姫に似たんでしょ」

「私はアンタだけよ!!」

「俺は葉月大好きだよ。幼馴染的に」

「……その精神力、ほんと憎い」

「おう、ありがとな!」

「褒めてない」

 

 五条は黙って二階堂を睨んでいた。

 

 

________________________________________

 

 不意に、すべての呪符が同時に赤く燃え上がる。

 

「……え? 全部?」

「妙だな。カラスが何も見ていない」

「未登録の呪力でも札は反応するよな」

「侵入者……?」

 

 葉月は右の顔面を押さえていた。

 今まで感じたことのない、鈍く深い痛み。

 

「……天元様の結界が、機能してない?」

「……」

 

 仮面の下。

 刻まれた呪いが、蠢いている。

 

 

――パン、パン……

 

「ほらお爺ちゃん。散歩の時間ですよ。昼ご飯、もう食べたでしょ?」

「……急ぎましょう」

「行けるか、葉月」

 

 葉月は答えず、静かに頷いた。

 こうして彼らは、それぞれの役割へと散っていった。

 

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