―観覧席にて―
五条、二階堂、葉月は連れ立って、教員たちが集まる観覧席の部屋へ入った。
五条が椅子に腰を下ろすや否や、庵が苛立ちを隠さず声をかける。
「それで、話って何?」
「ん? 何でキレてんの」
「別にキレてないけど」
「だよねぇ。僕、何もしてないし」
「……っ、本気で謎なんだけど! 何でこんな奴に恋人がいるのよ!」
「それは僕がグッドルッキングガイだからに決まってるでしょ。ね、葉月」
「それはない」
「ないわ」
「当事者に完全否定されてるぞ、五条」
「……」
五条は一瞬だけ口を噤み、空気を切り替えるように言った。
「高専の中にね、呪詛師――もしくは呪霊と通じてる奴がいる」
唐突な本題に、庵の反応が一拍遅れる。
「……っ!? ありえないでしょ! 呪詛師ならまだしも、呪霊と!?」
「最近さ、そのレベルの案件がゴロゴロ出てきてるんだよねぇ。本人は“呪詛師とだけ”繋がってるつもりでも、実際はその先がいる」
五条は軽い調子のまま続ける。
「京都側の調査、歌姫と弥生に任せたい」
「俺もか」
「……私が内通者だったら、どうするの?」
葉月の問いに、五条は即答した。
「ないない。歌姫弱いし、そんな度胸もないでしょ」
次の瞬間、庵の手元から湯呑が飛んだ。
だが無下限に弾かれ、床に落ちる。
「怖っ。ヒスはモテないよ? 葉月を見習いな?」
「私の方が先輩なのよ!!」
「俺もね~」
「学年上でも、弥生は後輩でしょ」
3年の停学――その事実が、卒業年次を狂わせていた。
「うっせぇ、停学なめんなよ」
(……何これ。コント?)
どうやら呪術師という生き物は、異様にコントが得意らしい。
葉月はそのやり取りを眺めながら、どこか遠い目をしていた。
________________________________________
交流会が始まり、生徒たちは各所で火花を散らしている。
戦況は、冥冥の使役する動物との視覚共有により、モニターに映し出されていた。
「フフ……面白い子じゃないか。さっさと二級にでも上げてやればいいものを」
「僕もそう思ってるんだけどさ。禪院家が邪魔してる臭いんだよねぇ」
「金以外のしがらみは理解できないな」
「相変わらず守銭奴ねぇ」
「……それよりさ、さっきから虎杖君の映像、よく途切れるよね」
「ねぇ~」
「動物は気まぐれだからね。視覚共有は疲れるし」
「へぇ。本当かなぁ。冥さん、ぶっちゃけどっち側?」
冥冥は微笑みながら答える。
「どっち? 私は金の味方よ。金に換えられないものに価値はないでしょう?」
「……いくら積んだんだか」
五条は楽巖寺に視線を向ける。
「それよりさ。ここに“元・呪詛師”がいるの、正直不愉快だよね」
冥冥の視線が葉月に向く。
だが葉月は気にも留めず、手元の本に視線を落としていた。
「復職且つ一級術師とはね……しかも高専は途中退学だろう?」
「その件は、大方片がついている」
楽巖寺の言葉に、葉月は鼻で笑った。
「無実の罪で追放しといて。17の人生奪っておいて、よく言う」
「……っ」
「無実の罪? どういうことだい、五条」
「あー。多分それが真実だよ。葉月は12年前、上の連中に嵌められて追放された」
場に沈黙が落ちる。
当時の関係者が揃っていたからこそ、誰もが疑念を抱いていた事件。
「……一般人を殺していないと?」
「今更感すごいけどね。まぁ地位は手に入ったし、呪術師に狙われにくくなっただけマシかな」
皮肉に、楽巖寺は舌打ちし、夜蛾は静かに息を吐いた。
________________________________________
その時、壁の呪符が一斉に赤く燃え上がる。
赤――東京校。
「ようやく動いたね~」
「一対一? みんなゲームに興味なさすぎじゃない?」
「そういや、再会したのも交流戦だったな」
「確かに」
「一年の葉月が、俺の後ろにずっと隠れててさ」
「……え、葉月? 弥生とそんなことしてたの?」
五条の嫉妬をよそに、二階堂は懐かしそうに笑う。
「はぐれて置いてきぼりだったから、一緒に回ってたんだよ」
葉月は興味なさげに窓の外を見る。
「暇だから、お茶してたのが懐かしい」
「交流会中に何してんのよ」
「……何で仲良くできないのかしら」
「歌姫に似たんでしょ」
「私はアンタだけよ!!」
「俺は葉月大好きだよ。幼馴染的に」
「……その精神力、ほんと憎い」
「おう、ありがとな!」
「褒めてない」
五条は黙って二階堂を睨んでいた。
________________________________________
不意に、すべての呪符が同時に赤く燃え上がる。
「……え? 全部?」
「妙だな。カラスが何も見ていない」
「未登録の呪力でも札は反応するよな」
「侵入者……?」
葉月は右の顔面を押さえていた。
今まで感じたことのない、鈍く深い痛み。
「……天元様の結界が、機能してない?」
「……」
仮面の下。
刻まれた呪いが、蠢いている。
――パン、パン……
「ほらお爺ちゃん。散歩の時間ですよ。昼ご飯、もう食べたでしょ?」
「……急ぎましょう」
「行けるか、葉月」
葉月は答えず、静かに頷いた。
こうして彼らは、それぞれの役割へと散っていった。