片割れの呪術師   作:Haruyama

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第33話 選別の帳

 外へ出ると、区画を囲うように帳が降りかかっていた。

 瓦屋根へと飛び乗り、五条が先行する。

 その後ろを、二階堂、葉月、庵、そして楽巖寺が追った。

 

「五条! 帳が降りきる前に、アンタだけ先に行け!」

「いや、無理」

「はぁ?」

「もう実質完成してる。視覚効果より、術式効果を優先してる帳だね」

「なるほどなぁ、上手いわ」

 

 感心する二階堂に、五条も頷く。

 

「ま、降りたところで破りゃいい話でしょ」

 

 五条が帳に手を伸ばした瞬間――

 パンッ、と弾かれた。

 

「……?」

 

 葉月も同様に触れてみるが、同じく弾かれる。

 

「ちょっと! 何でアンタたち2人だけ弾かれて、私と弥生は入れるのよ」

 

 庵の言葉通り、彼女と二階堂、楽巖寺は帳の中へ手を差し入れていた。

 

「……ふーん」

 

 葉月は何かを察したように、仮面へと手をかける。

 

「悟の場合は知らないけど。私の場合は――形を変えればいいってことだよね?」

「!! やめろ、葉月!!」

 

 二階堂が制止するより早く、葉月は右手を帳へ向けた。

 空気が歪む。

 異質な気配が場を支配し、彼女の右腕が異形へと変貌する。

 

「……葉月?」

 

 その腕で帳に触れると、今度は抵抗なく中へ滑り込めた。

 

「……入れた」

 

 帳の内側に入ると同時に、腕は元の形へ戻る。

 

「葉月……今、何を?」

「何も。それより、何で悟は入れないの?」

「確かに。お前だけハブじゃん」

 

 五条は答えず、代わりに状況を整理する。

 

「この帳はね。“五条悟”と“久禮田葉月”の侵入を拒む代わりに、その他すべての者の出入りを許可する結界だ」

「……なるほど」

 

 葉月は納得する。

 

「特定個人を条件に組み込む結界なんて、相当だね」

「余程腕の立つ呪詛師がいる」

「しかも、こっちの情報を把握してる」

「はいはい、考察は後。目的は知らないけど、死者ゼロで終わらせないと負けだからね」

 

 五条が促す。

 

「……私は、先行く」

「葉月は待機だ」

「気になる気配がある」

「あー、俺もついてく」

 

 制止を振り切り、葉月は二階堂を伴って走り去った。

 

________________________________________

 

「――領域展――」

 

 

パァンッ!!

 

 花御の領域が発動される直前、帳が持ち上がる。

 

「……帳が……!」

 

 それを破ったのは、目隠しを外し、“六眼”を全開にした五条だった。

 

「さて……どこから行こうか。葉月は別行動だし(虎杖のレベルが上がってる。……東堂か。相性抜群だな)」

 

 

 五条は即座に判断を下す。

 

「優先は、呪詛師だ」

 

 組屋鞣造の元へと転移する。

 

「!?」

「お前だな」

「ラック! ラック! ラック!」

 

 襲いかかる組屋の手足を、引力で収束させ、捻り潰す。

 

「ぐっ……!」

「殺すなよ。コイツは情報源だ。手当てして」

「……」

 

 

________________________________________

 

「……?」

 

 五条は、別の帳の存在に気付く。

 先ほど破壊したものとは別。

 

 しかも、距離は近い。

 

「……だったら、そっちも壊すか」

 

 術式を展開し、攻撃を放つ。

 

________________________________________

 

 一方その頃。

 葉月は、8名の呪詛師と対峙していた。

 

「……厄介な帳だね」

 

 この帳は逆だ。

 

【久禮田葉月の侵入を許可し、それ以外すべてを拒む】

 

 帳の外には、二階堂の姿。

 

「まぁいい。情報源であることに変わりはない」

 

 次の瞬間、一人の首が宙を舞った。

 

「……っ!」

「使えそうなのだけ、生かす」

 

 それ以外は不要だ。

 葉月は使役呪霊を召喚せず、双刀のみで呪詛師を斬り伏せていく。

 

「……何で……お前が……!」

「それなりに強くないと、やりがいがない」

 

 止めを刺そうとした、その瞬間。

 

 

パァンッ!!

帳が破られ、同時に――

 

 

「……っ!」

 

 右肩を貫かれる。

 呪術だと理解するが、今はどうでもいい。

 血が溢れ、葉月は傷口を押さえた。

 残った呪詛師を気絶させ、壁にもたれる。

 

 

 そこへ――

 

「葉月!?」

 

 駆けつけた二階堂が、即座に止血を始める。

 

「……何があった」

「……少し、負傷した」

「帳を破ったのは?」

 

 葉月は静かに目を閉じた。

 誰の攻撃か――理解している。

 

「……骨は無事だ。でも出血が多い」

「ギリ、かな」

「……高専敷地内だと、私は一級以上の呪霊を呼べない」

「……!」

 

――天元の結界が、彼女の力を縛っている。

 

「呪術で殺される方が、楽だよ」

「……」

「人を殺すのでも、血肉を裂く感触だけが残る」

 

 葉月は血を拭い、刀を納める。

 

「……それは、呪霊を祓うより、ずっと残酷だ」

 

 二階堂は理解した。

――ここにある死体は、すべて“斬殺”だ。

 

 葉月は気絶した呪詛師を掴み上げる。

 黒い箱が出現し、放り込むと――

 箱は小さく縮み、地面に転がった。

 

「持ち運び便利な箱、完成」

「……じゃ、治療がてら戻るか」

 

 その時、二階堂の携帯が鳴る。

 表示は【五条悟】。

 

 

「そういえば、葉月ってスマホ持ってないの?」

「居場所を特定されたくないから」

 

 半笑いで電話に出る。すると電話に出るや否や、五条は葉月と代われという。

 

「…だってさ」

〈葉月!? 今どこ!?〉

「……どこだろう、ここ」

「敷地の端じゃね?」

〈弥生は分かるのに、葉月だけ掴めないんだけど〉

 

 五条の戸惑いを他所に、葉月は要件だけを伝える。

 

「呪詛師と交戦した」

〈こっちは一人確保した〉

「……そう」

 

 葉月は興味を失い、スマホを二階堂へ返す。

 

「俺たちも戻るわ」

〈何でお前が答えるんだよ!〉

「葉月、機嫌悪いから。そっとしとくのが吉」

〈……は? 何かあった!?〉

「帰ってからのお楽しみ~」

 

 通話を切り、二階堂は葉月を追った。

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