片割れの呪術師   作:Haruyama

6 / 38
2006年4月
第6話 過去編_歯車が狂い始めた日


過去編(2006年4月~)

 

それは、離反の引き金となった

――12年前の事件の、真相。

 

五条悟、夏油傑、家入硝子。

そして久禮田葉月。

 

かけがえのない日常と、

まだ揺らぐことのなかった決意の物語。

 

 

 

---

 

教室――

 

 

「おーい」

 

 いつもの声。

 聞き慣れすぎて、もはや雑音に近い。

 

「おい」

 

 誰に向けて呼びかけているのか。

 そんなくだらないことに構う気にもなれず、葉月は窓の外へ視線を向けた。

 

「傑、サングラスが呼んでるよ」

「あぁ、私だったのかい?」

「ちげーよ。お前に言ってんだよ」

 

「硝子、白髪(シラガ)が呼んでいるよ」

白髪(シラガ)の知り合いなんていねーな」

白髪(ハクハツ)って言え!!」

 

 そんな、どうでもいいやり取りで盛り上がる四人。

 

「……で? 何だい、白髪(ハクハツ)のサン・グラ男くん」

「ネーミングセンス悪すぎだろ」

「用がないなら声かけないで。君と違って暇じゃないんだ」

「明日の任務終わったら、飯行こーぜ」

「何で悟なんかと……」

 

 五条の誘いを、葉月は即座に切り捨てる。

 それを見て、夏油と家入が肩を揺らして笑った。

 

 

 入学当初から、この関係性は変わらない。

 五条が一方的に付きまとい、葉月が鬱陶しそうに突き放す。

 それでも、不思議と距離が縮まることはなかった。

 

 気づけば4人は1年を共に過ごし、それぞれ確実に成長していた。

 

 

 

 合同任務では、葉月は常に後方支援。

 綿密に計画を立て、確実に遂行するタイプだ。

 戦力としては決して突出していないが、「やるときはやる」――それが、4人共通の認識だった。

 

 

「酷い言われようだな」

「悟が全部倒してくれるなら、それでいいよ」

「おっ! じゃあ頑張るかなー!」

「単純」

 

 

 教室に響く笑い声。

 この時間が、永遠に続くと――

 誰も疑っていなかった。

 

 

――――――

任務当日

 

 五条との合同任務。

 葉月は、いつも通りの足取りで現場へ向かっていた。

 

 彼女は三級呪術師。

 後方支援タイプなので、基本的に前に出ることはしない。

 

 

「葉月ー! そこで待ってていいよ」

「珍しいね。いつもなら私を前に出すのに」

「俺、そんな酷いことしないよ……」

 

 冗談交じりのやり取り。

 五条が拗ねるのも、もはや日常だ。

 

「なんでそんなに張り切ってるの?」

「この任務終わったら、パフェ一緒に行ってくれるんだろ?」

 

 

――そんな約束、したっけ。

 五条の話は、半分くらいしか聞いていない。

 

 

「……悟が全部倒してくれるの?」

「だから言ってるだろ」

「ふーん。サポート要らないなら、ここで待つ」

 

 葉月はベンチに腰を下ろす。

 

「すぐ終わらせるから、帰るなよー!」

「はいはい、早く行ってきて」

 

 ひらひらと手を振る五条を見送りながら、葉月は小さく呟いた。

 

 

「……気をつけてね、悟」

 

 

 

――…

 

 本を片手に待っていると、五条が戻ってくる。

 

「終わった。さっさと行こーぜ」

「早いね。まだ一冊も読み終わってない」

「早く行きたかったからな」

 

 その瞬間――

 

「……っ、悟!!」

 

 葉月が先に気配を察知し、五条を突き飛ばした。

 

「葉月!?」

 

 砂煙が舞い、視界が遮られる。

 やがてそれが晴れた時、葉月は呪霊に捕らえられ、地面に叩きつけられていた。

 

「ミィツケタ……ミィツケタ……!オレノ……女……!!」

「……誰、それ」

「知らない」

 

 葉月の視線は冷たく、苛立ちを帯びていた。

 五条が助けに入ろうとした、その瞬間――

 

 

ドシャッ

 

 

 音もなく、呪霊の身体が弾け飛ぶ。

 木端微塵。

 血飛沫を全身に浴び、葉月は露骨に顔を歪めた。

 

 

「……汚い手で触れるな。雑魚が」

 

 地面に転がった頭部を掴み上げる。

 呪霊は何かを喋っているようだったが、五条には、まったく聞き取れない。

 

 

「失せろ」

 

 握り潰す。

 その表情には、薄い笑み。

 

「……は、葉月……?」

 

 血を振り払い、顔を拭うと、何事もなかったかのように振り返る。

 

「気、抜きすぎ」

 

 軽く笑って。

 

「……お前、何をした?」

「呪霊を祓っただけでしょ?」

 

 あまりにも、いつも通りの口調。

 だが、先ほどの“気配”は、確実に異質だった。

 

(……何だ、今のは……)

 

「ねぇ、タオルない? 気持ち悪いんだけど」

 

 血まみれの制服のまま、五条に近づく。

 

「やめろ、汚い」

「えー。……あ、用事思い出した。先帰るね!」

 

 そう言い残し、葉月は走り去った。

 

「おい、葉月!」

 

 呼び止めても、もう姿はない。

 

 

 

 

 

――この日を境に。

久禮田葉月の運命の歯車は、

 

 

静かに、だが確実に狂い始める。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。